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A-018.0426.0603 待望の朝


 朝、六時起床。

 カーテンを開け日差しを呼び込み、伸びをする。

 目覚まし時計を使わずとも起きられるのが少し自慢。

 起きたら形見のペンダントを着け、顔を洗い、髪をすいてセーラー服の袖を通す。

 お湯を沸かし、パンを一枚焼いてバターをのせハチミツを垂らす。

 マグカップに紅茶のパックを入れお湯を注ぎ、蓋をした。

 紅茶を待って、朝ごはんだ。


 郵便受けから新聞をとってきて開いてみると、

『安心と安全をお届け!みんなの心を一つに!ゴシキヒワグループ!』との見出しが。

 東京の生活事情を根底から支える四大企業、一鳥ひとり新聞、鳩山はとやま工業、鴪口はやぐち食品、酉井すがいセキュリティが業務提携をし、グループを名乗っている。

 今読んでいるこの一鳥新聞に競合他誌は存在せず、今食べているパンや紅茶だけでなく、ここで流通している全ての食物は、鴪口食品が関与している。

 しかし父はゴシキヒワグループを注視していたらしい。

 常識こそ当てにするな、と何度も言って聞かされた。

 記事は、犯罪率ゼロパーセントを維持しつづけているここ新東京をモデルシティとし、世界に発信していくべきとの意見が国会にて提案されていること、先日発表された新酉井システムの構想についてや、鳩山工業の主導で新しくゴシキヒワグループの高層ビル二棟の建築が始まったことなどが書かれていた。


 その隅の方に小さく、求人募集の広告もいくつか載っていた。

 新聞を閉じ、食器を片付け、家を出るため荷物の準備をする。着替えや日用品など、今日は荷物が多い。

 「忘れ物は……なし」


 家を出て駅まで歩き、満員電車に揺られ東京へ向かう。

 東京駅の中央口を出て、たくさんの人が並ぶバス停から東京オフィススクール循環バス、通称OS線に乗り聖ヘレナ女学院前に到着した。

 校門を通ると、友達が二人待っていた。

「ア、アスカちゃんごきげんよう」

「ごきげんよう。待っててくれたの?」


 一人目が、早生藤子わせふじこ

 あどけなさを残した、見るからに純朴そうな雰囲気の容姿に違わぬ、穏やかで優しい子だ。普段は。

 気合の入った時の藤子は鬼気迫るものがあり、皆を引っ張る力がある。

 ユッカ祭のバレーボールにて、窮地に立たされたチームを鼓舞し、逆転したときはとても注目を集めた。それがきっかけで、たまに学外の人が声をかけてくることもある。

 そばかすもチャームポイントだと思うが、本人は恥ずかしいらしい。

「そら子ちゃんがね。もうすぐアスカちゃんが来るから少し待ってようって」

「言った通りでしたね」


 含みのある言い方をする二人目は、礫川つぶてがわそら子。

 濡れ羽色のロングヘアーを三つ編みにし、眼鏡をかけているため地味な印象を受ける。

 大人びた雰囲気を纏い、他の生徒との関わりが薄く孤立気味だったが話してみれば見識の広さが垣間見え、それを鼻にかける様子もなく面白い人だった。

 ただし表情筋が無いのではと思うほど表情の変化が乏しい。周りに誤解されてるのはこの能面癖だろう。少しもったいない。

「ええ?なんでもうすぐだってわかったの?」

「さあ、勘でしょうか」

「また変なところで冴える勘ね」

「占い師になるか悩んでいます」

「勘だけで?!」

「ふふ、ほら二人とも遅れちゃうよ?」

 藤子に促され、それぞれの教室に向かった。


 昼休み。

 学食を利用するために教室を出る。たくさんの生徒が廊下に出ていた。

 その人込みの中に、藤子を見つけた。

「藤子!」

 向こうも気が付き、走りたい気持ちを抑えているのか早歩きで向かってくる。

「アスカちゃん、お昼一緒に食べよう?」

「ええ、いいわよ。そうね、せっかくだからそら子も誘う?」

「うん!」

 そら子の居る三組へ向かう。

 しかし教室を覗いてもそら子は居なかった。

 三組の生徒に尋ねてみたがいつの間にか居なかったとしか聞くことはできず。


「どこ行っちゃったんだろうね」

「まあ……いつも居ないからダメ元だったけれど」

「また今度誘おう?」

「……ええ。でも、今日が良かったわ。残念ね」


 仕方なく、藤子と二人で食堂へ向かった。

 食券を渡し、とんかつ定食のトレーを受け取る。

 人と人の合間を縫い、席で待っていた藤子の元へ行くと、いつの間にかそら子もいた。

「え?いつからいたの?」

「食堂を利用するのは分かっていたので、待っていたんです」

「そういうことは先に言いなさいよ……珍しいじゃない、お昼に姿を現すなんて」

「節目ですから」

「ふふ、みんなで食べれて良かったね」

 それぞれ食べ始める。その中でも目を引くのは、

「藤子は今日もお弁当なのね」

「おばあちゃんがね作ってくれるの」

 中身は、にぼしの佃煮、しそ入りの卵焼き、ほうれん草の胡麻和え、ふきの煮物が並んでおり、ご飯に添えられた梅干しも相まって彩りのあるお弁当だった。

「相変わらずきれいね。流石は豪農」

「農家は無関係かと思いますが」

「お弁当にこんなに手間暇かけれるのがすごいのよ」

「ああ、富裕層という話ですか」

「なんか言いたかったことと違うんだけど……」

「藤子さん、素敵なお弁当ですね」

「それよ!わたしが言いたかったこと!」

「ふふ、ありがとう。でもそら子ちゃんはご飯それだけなの?」

 ニコニコと聞いていた藤子が答える。

「私はこれで十分なので」

 そら子は災害時に食べるような、カロリーとビタミンを効率的に摂れる固形の健康食品だ。あと水。

「そら子あなた……何に備えてるの?」

「午後の授業です」

「そこじゃないわ」

「効率の良い、栄養摂取の方法を優先しているだけです」

「まあ……主義の否定はしないけれど」

「何も問題は無いと思いますが」

「はい、そら子ちゃんあーん」

 横から藤子がそら子に卵焼きを差し出す。

「……?」

 無表情のまま固まっていたが、結局差し出された卵焼きを食べた。

「どう?美味しい?」

「はい。それが最適な表現でしょう」

 変に理屈臭い返答。照れ隠しかもしれない。

「良かった。また一緒に食べようね。お弁当も作ってきてあげる」

「……考えておきます」

 押されるそら子を見るのは珍しい。


「それで、アスカさんは本当に行くのですか?」

 そら子が間を待っていたように訊ねてきた。

「ええ、ずっとこの日を待っていたもの」

「危険じゃないの?」

 不安の滲む顔で、今度は藤子が訊ねてくる。

「藤子、何度も言ったじゃない。危ないことだってあるかもしれない。けれど、わたしは知りたいの。父さんのこと」

「でも」

 藤子はうつむいて口ごもった。

 そら子が口を開く。

「試験内容はどういったものなんですか?」

「さっぱり分からないわ!」

「貴女のその肝の太さには、いつも感心します」

「ありがとう!」

「そのポジティブさも貴女の好かれる理由ですね」

 はあ……とそら子は溜息をつき、眼鏡を拭き始めた。

「分からないなりに、準備はしてきたつもりよ。ゲン担ぎも怠ってないわ!ほら、とんかつ!」

「……そっか」


 藤子は静かに弁当箱を閉じた。


 食後は午前中にあったことや、昨日仕入れたというそら子のオカルト話を聞いた。

 勉強が出来ても、オカルトって好きになるものなのね。

 藤子は恐々聞いていた。純粋。

 昼休みを終え、午後の授業も滞りなく終わった。


 放課後を報せる組み鐘の音が鳴る。



次回更新は通常通り3日後、11月23日に予定しております。


まずは読んでいただいた方、お疲れ様でした。

まーゆっくりと話が進んでいまして、伏線を撒きまくっています。

昨今はテンポよくストーリーを展開させるのが好まれていることは承知しておりますが、我々はこの文しか書けないので、このまま敢行してまいります。


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