R-024.0608.1232 見よ、夜の海
サイレンの音が、頭の中で木霊する。
ここは東京基地。
しかし、今は無残にも横っ腹を抉られ、周りの家々も原型を留めていない。
耳鳴りから解放され、思考がだんだんクリアになってきた。
破壊痕を視線で辿っていく。のそりのそりと鯨のような鰐のような怪物が、遠く海の方へ向かっていく姿が見えた。まるで特撮を見ているようだ。
手には、刀身が純白に透き通る剣があった。
身体はぼんやりと光を帯びている。
初めてだが、使い方はさっき見て覚えた。
迷いはない。
跳躍し、風を切る。瞬く間に怪物の足元へ。
剣を振り下ろし、大木のような後ろ足を切り落とす。バランスを崩しているところを狙って、もう一太刀入れようとする。不意に怪物の背中が隆起した。
盛り上がった背中に複数の穴が開き、水が放たれる。身をかがめながら走り避けた。
まわりの建物が、鉛玉のように発射された水を受け、崩れていく。
やり過ごすべく距離をとり、しばらくすると攻撃が止んだ。
怪物の背中は萎んで、元の形状に戻っていく。
……いつの間にか、切ったはずの後ろ足が生えている。
やはり、弱点部位となる核を絶たねば終わらない。
次は、もっと深く踏み込まなくては。
一呼吸置き、歩き始める。徐々に前傾姿勢に。加速していく。
怪物の巨体が脈動する、次の水攻撃に備え……
ボン!!
破裂したような音と同時に、巨体の全身から水が放たれた。
先ほどよりも発射までの間隔が早く、攻撃範囲が恐ろしく広い。
既に瓦礫の山と化していた家々が、完全に吹き飛んだ。
Nコードを起動し、攻撃を喰らうギリギリで幽体化、そのまま怪物に近づく。
先ほどの攻撃は一発に注力した技だったようだ。怪物の身体が少し萎み、動きが止まっている。
強く自身をイメージし、肉体と剣を再形成。地面を蹴り、怪物の腹の下へ飛び込む。
胸部のあたり、不自然なへこみの奥から光が漏れている。
核だ。
渾身の力で核に向け、剣を薙いだ。しかし、両断には至らない。
ならばとNコードの出力を上げ、渾身の力を込めた。
体温が上がり、筋肉が隆起していくのが分かる。
「うおおぉぉぉお!!!」
ピシり、と核に亀裂が入った。光を帯びていた怪物の核は輝きを失う。
パシャッ。
直後、水の弾ける音が聞こえたと思えば、
バシャンッ!!!
水風船が割れるように、怪物の全身が液体化した。
一帯が水浸しになり、足首まで水に浸かる。
ずぶ濡れのまま周囲を見回していると、足元の水が引き始めた。急いで跳び上がり、近くの崩れた家屋の上に避難する。
瓦礫や土砂を巻き込む濁流になり、ごおおおと唸るような音と共に水が引いていく。
こうして、俺の二代目刀主としての初陣は幕を下ろした。
次回更新は三日後、十一月十四日を予定しています。
定期連載を心がけて参ります。
よろしくお願いいたします。
都市伝説が好きです。色々な要素が入っているので気づけると楽しいかもしれません。
なお、作品内に登場するNコードは、小説家になろうサイト内で扱われているものとは関係ありません。