私を愛することはない?……でしょうね、だってあなた、愛情なんて知らないですものね。
私の婚約者である王子ラウルは今日の戴冠式をへてついに国王となった。
戴冠式ではまだ若い国王に貴族たちは、彼を侮ったような態度で戴冠式の祝辞を述べていた。
しかし、そんな態度をラウルは先王を思い出させるような毅然とした態度で叱責し、緊張感が保たれたまま戴冠式は厳粛に行われたのだった。
……戴冠式が無事につつがなくおえられたのはラウルの力量と言って間違いありませんわ。
私はそう確信を持っていたので、儀式を終えてプライベートで二人で過ごす夜にめいっぱい彼をほめたたえて、これから国王として公務を頑張ってほしいと伝えるつもりでいた。
まだ成人をしていない私は、本当ならば夜を男性の部屋で過ごすなど正気の沙汰ではないのだけれど、私の父であるレーネック公爵からの配慮で今晩だけは彼に寄り添っていてもいいと許しをいただいている。
……ですから、胸を張って彼のそばにいられるのですけれど……。
目の前にいるラウルは憂鬱そうな顔をしてソファーに深く沈み込んで煙草をふかしていた。
……なんだか機嫌が悪そうというか……何と言いますか……。
妙な態度の彼に、私はいつもの調子で話しかけることが出来ずに、無言のまま目の前にある果実のジュースを口に運んで、軽く口紅を直す。
「オルガ、酒を作ってくれ……今日ばかりは俺だって祝い酒を楽しんだって許されるだろ」
「……ええ、構いませんわ」
目の前のローテーブルには、アイスペールに盛られたたくさんの氷とマドラー、それからウィスキーなんかが置いてあった。
彼の部屋にあるのは初めて見たけれど、父の部屋にはよく置いてあったのでやり方は知っている。
それに母からラウルが成人した時に、そういう付き合いもあるかもしれないとお酒についても多少の知識を教え込まれた。
その知識が必要なほど難しい作業でもなかったが、ウィスキーの銘柄と産地を見て、味わいがどうのこうのとうんちくを話すことだってできる。
……でも、そんなうんちくを聞きたいような楽しげな様子ではないですわね。
少し残念に思いながらもソファーに浅く腰かけて手早くロックのウィスキーを入れて丁寧な仕草で彼に差し出した。
「できましたわ。私はジュースだけれど乾杯しましょうか?」
煙草を灰皿において、ラウルはウィスキーを受け取った。
それから憂鬱そうにそのグラスを眺めてちらと私に視線を向ける。しかし、私の言葉を無視するようにそっぽ向いてそのままグラスを傾けた。
ごくりと琥珀色の美しいお酒が嚥下されて、彼はさらに機嫌の悪そうな顔をした。
ラウルがそういう顔をしながら酒を煽っている姿は、正直なところ様になる。
父親譲りの神経質そうな顔立ちは、アンニュイな雰囲気を常に醸し出しているし、常に人をにらんでいるような三白眼は王族らしく威厳があるともいえる。
「……」
だがそれでも、人を無視するなど喜ばれることではない。私はラウルに無視されて、持ち上げてしまったグラスを如才なく下げてコトリとテーブルに戻した。
それから、ラウルを見つめると彼も同じく私を見ていて、薄暗く間接照明の明かりしかないこの雰囲気の中で見るラウルは普段の数倍、美しく見える。
「……こうして正式に王位を継承したからには、君に言っておきたいことがある」
静かな声でラウルは切り出した。それに私は少し身を固くして「なんですの?」とできるだけ平然とした声で返す。
「俺は……君を愛することなど、ない」
突然の言葉に、私はつい呼吸を忘れて呆然としてしまう。
しかし、私の動揺を知ってか知らずかラウルはウィスキーをまた口に運んで丁寧に舌で味わって嚥下してから続けた。
「来年には成人をして、君は俺の妻になる。俺も国王として共に公務をこなす王妃を迎え入れる義務もあるし、レーネック公爵家とのつながりも必要だ」
淡々と話す声は、彼が心底冷たい人間だと主張しているようでどうにも悲しい。
「ただ、君を真に愛することなどない。到底君のような可憐でつつましやかな少女では俺は満足できないし、毎夜、別の女性を閨へと連れ込んで睦言を交わす」
「……」
「けれどももちろん君には子をなす義務もあるし、王位継承者が居ないままでは国民も貴族どもも不安になるだろうからな。きちんとその義務は果たしてもらう、俺たちの婚約は先王が取り決めになった正式なものだ。今更取りやめもできない」
……つまり、これからは私を愛さないし、沢山浮気もするけれど、結婚は決定事項。子供もちゃんと産んでほしいと……そういう事をいいたいんですの?
ラウルの言葉をかみ砕いて、私は彼の言いたいことを考えた。
しかしそれは、当たり前に対等な夫婦としておかしな関係で私ばかりに我慢を強いるような生活になる。
だからこそわざわざ明言したのか、それとも他に言うべきことがあるのか定かではなかったが、すっと気持ちが冷えていく。
冷えるというよりも冴えるといった方が正しいだろうか。
「だから、俺にかまうな。これからはどれほど俺に媚びたっていいことなど一つもない」
「……」
「君を愛することなんかないんだから、消えてくれ」
それは、これから結婚を控えている相手に対してあまりにも冷たく、酷い言葉で、煙草をつまんで煙を口に含んで吐き出し、酒を煽るさまだけ見ていたら、そんなことを如何にも言いそうな悪い男にみえる。
私自身はまだ、彼が言ったようになんの権力もなくお酒も飲めない年端もいかない子供だ。
できることと言ったら泣く泣く屋敷に帰って今日の事を母に相談して、不安を吐露するぐらいだろう。
現に、体が少し震えていて、悲しくもある。しかし、ふっと息を吐くと気持ちが簡単に冷めて冷静になれる。
子供ではあるが、流されてなすがままにされては、貴族社会でラウルを支えて立派に国母の座につくことは出来ないと叩き込まれてきた。冷静に考えて、常に正しいと思う事を見つけて実践する。
今回の場合にはそれは、割と簡単なことで薄ら笑みを浮かべて私はラウルを見据えた。
そんな彼に私はさらりと落ちてきた髪を耳にかけて姿勢をただした。
「私を愛することはない?……でしょうね、だってあなた、愛情なんて知らないですものね」
口に出してみると、案外酷い言葉を言っていたし、どこか現実味がないガラス一枚隔てた向こう側に私自身がいる様だった。
けれども思考は明瞭でラウルの返す返答によって、どんな風に話を展開させようかといくつもの筋書きを描いている。上手く集中できていて感情もそれほどあらぶっていない、冷静の範疇だ。
「愛さないのではなく、人を愛せないのだと素直に仰ってください」
続けていった言葉に驚いた様子でラウルは私に視線を向ける。長い付き合いだというのに、どうして驚くのだろうと思う。
お互いの事を深く理解できるほど私たちは、そばにいて私はラウルの事を他の誰より知っている、そうできるだけの時間があった。
それなのに、彼が私がただの少女ではないとわからなかったなんておかしな話じゃないか。
「……な、何を言っている……」
「それに、ものすごく不自然ですわ。ラウル様……だって浮気をする男が浮気をすると予め言う利点はどこにもないのですよ」
「……」
「有無を言わせない状況にあるのだとあなたは私に言いましたでしょう? それなら私の了承も何もなく自由に振る舞えばいいのですわ」
「それは、だな。……君とこうして過ごす時間も……苦痛で……」
「では、理由もなく追い出せばよろしい。というか立派な理由があるでしょう。私、まだ嫁入りもしていない未成年の女ですの。そこを突いて帰すことなど造作もない」
私の勢いに押されてしどろもどろになるラウルに、続けて言葉を紡ぐ。
彼はまったく言い返されるとは想像していなかった様子で、今から私を言いくるめるための言葉を考えているらしかった。
彼は頭が悪いわけではないがアドリブに弱い。外見のわりに、割と大人しい性格をしている。
「そ、それでは、レーネック公爵に角が立つだろう……だから俺は……」
「はぁ、何を仰っていらっしゃるの。先ほど私をないがしろにすると宣言したではないですか。そちらは角が立たないと?」
「……」
「……だんまりですのね。構いませんけれど。そもそもあなたが私を言いくるめられるわけがありません」
「……」
「私たちは国を支える夫婦になる。お互いが足りない部分を補うようことが出来るように周りが選んだのですから」
言葉を失って苦々しい顔をするラウルにさらに笑みを深める。このまま言い負かしてしまおうと思ったが、思いつめた様子でラウルは静かに私を呼んだ。
「……オルガ」
「はい」
「無理は承知している。……だが何も言わずに頷いてくれないか」
その声音はどこか懇願するようなニュアンスを含んでいて、先ほどまでの強気にきりりとしていた眉は困りきっていて、睨みつけるような瞳は変わっていいないけれども私を傷つけようとするような雰囲気は感じない。
いつものラウルだ。
彼は王位を継いだことによって人が変わったようになってしまったという事ではなく、単に気張ってああいう人間を演じていただけに過ぎない。
そしてその理由に私は心当たりがある。それはとてもデリケートな問題で他人が触れるのは憚られる事だ。
だからこそ口にすることにした。
ラウルは今日名実ともに、誰よりも強く誰よりもえらい人間になった。そんな人間が問題を抱えたままでは、いつかその綻びを誰かが利用するかもしれない。
その綻びを埋めるのもラウルの妻になるものの役目だろう。
「いいえ。言わせてもらいますわ。ラウル様」
「……頼む、何も……言わないでくれ」
「ふふっ、一国の王がそのように懇願するなんていけませんわ」
「オルガにだけだ」
「もう、そんなことを言っても駄目ですの。ねぇ、ラウル様」
言いながら立ち上がる。そのまま彼の一人かけのソファーの隣に言って肘掛けに手を突いてラウルの頬に口づけた。
「……あなたは、私を愛さない。そんなの知ってますのよ。だって、愛されたことのない人は誰も愛せませんもの」
「……」
「あなたは誰にも愛されていなかった。肉親である先王にも実母にも」
頬に口づけをされてゆっくりとした仕草でラウルは私を見上げた。
その瞳はどこかとろんとしていて、アルコールが回ってきているのだと思う。
普段ラウルは酒を飲まない。そして、タバコも吸わない。女遊びも一切しない。実直だとか真面目という言葉がぴったり似合う誠実な男だ。
ただ、色々と奔放だった彼の父親である先王に顔つきが似ているせいで、多くの人から勘違いされることが多い。
「あなたの母はどこの誰かもわからない。捨て子であったあなたを魔力があるからと貴族が引き取り、その後に王の子だと発覚したという特殊な生い立ちのせいで、あなたは母の愛をしらない」
「……」
「あなたの父は王族だと認めたけれど、決して家族として接しなかった。ただ王位を継承するためだけに王太子にされた。あなたはずっと城で孤独に生きてきた」
確認するように、自覚させるように、丁寧にラウルの生い立ちを口にした。こうして言ってみると不憫な人だと思う。
先王は、政治的なバランス感覚が鋭くとても聡明な王ではあったが、王妃を亡くして以来、色々な遊びに手を出すようになった。賭け事も女遊びも自由奔放に興じて、正式な跡継ぎを育てることは無かった。
女遊びで生まれた自分の子は見つけ次第殺している……そんな噂まであった先王だったが、自分によく似ていたからかラウルだけは王子と認めた。
この国の唯一の王子となった彼は、様々な思惑の中に放り込まれて大変な苦労をしたし、私との婚約もその思惑の一つではある。
しかし、王家の血筋以外に後ろ盾のないラウルには、実力のある家系と縁を結ぶ必要があるのも確かだ。
悪いようにする気はないし、実家からの防波堤の役割も怠らないつもりだ。
政略結婚ではあるが、同じく様々な思惑に振り回される者同士支え合って行くべきだと思う。
「そんなあなたが、どうして今更私にわざわざそんなことを言って、慣れない煙草を吸ったりお酒を飲んだりするのか、簡単に想像がつきますわ」
ずっと支えるべきだと言われてラウルの事を見てきた。見て、接して、寄り添って、ラウルという人間を知った。
「……先王のようになる必要などどこにもありませんわ。ラウル様。あなたはあなた。私の夫になる真面目で立派な方ですの」
彼自身が今日という節目の日をへて、王になるという事に真面目に向き合った結果、先王をまずはまねて倣ってみようと考えた。
それはとても自然な考えで、良い事をそういう風にまねるのは良いが今回の件については話が別だろう。
「私は、あなたに愛されたいとは望みませんわ……ただ愛したいのです。今のままのラウル様をただ愛していたいのです。どうか無理をなさらないで、すでにあなたはとっても立派な人ですのよ」
自分自身を尊重せずに先王のようになる必要などどこにもない。
ラウルはもうすでに素敵な人だ。日々の不摂生がたたって早くにこの世を旅立った先王の代わりを務められる。若いけれど立派な王様だ。
「……私の素敵な旦那様」
にっこり笑みを浮かべて彼の膝の上に座って媚びるように見つめた。
歳の差があるので体格もそれなりに違う。彼の膝の上にすっぽり収まって困った様子で見降ろしてくる彼の手をきゅっと握った。
「オルガ……君には敵わないな」
ラウルはやっと観念したのか、はぁと息を付いてそんな風に言う。
私に本心を言い当てられてもう先王をまねるなどする気がないのだとわかるが、傲慢で偉そうな顔つきは変わらない。
中身とは違って元からだから仕方のない事だけれど、そんな彼の膝に私が乗って楽しそうにしているのも、はたから見れば不思議な光景だろう。
「しかし俺のような男が本当に王になっていいのだろうか。……先王のような先見の明も持たず、勘も鈍い。四角四面な性格をしているし、やはり先王のように柔軟な人間になるには、様々な面で奔放になるべきではないだろうか」
「真面目に考えすぎですわ」
「そうはいっても、そうする以外に俺はどうすれば、人々に好かれる王になれるのか皆目見当がつかない」
私を膝に乗せたままラウルは少し酔っているのか手慰みに私の髪をひと房掬って毛足を揺らして遊ぶようにした。
やっと普段の調子に戻ってきて、話しもしやすくていいけれども、彼の悪いネガティブな部分が出てしまっている。
「まったく、もう。だから言っているではありませんか、ラウル様。悪い面ばかり見ていてもなにも始まりませんわ」
「それに、こんな男では君にいつか飽きられてしまうかもしれない。俺は愛を知らない。こんな愛も情も遊びもないような男では到底君に愛されるに値しない」
「……まったく」
ネガティブが行き過ぎている。
もしかすると酔っているせいもあるかもしれないけれど、少しくらいはさっきまでの強気な姿勢を取り戻してほしいと思ってしまうぐらいだ。
……まぁ、そんなところもあなたらしいと言えばあなたらしいと思えなくもないですけれど。
思いながらもラウルの手を口元にもってきて、手のひらにチュッとキスをする。それから仕方なく思いながらも安心させるように言葉を紡ぐ。
「ラウル様。私はあなたをきちんと愛します。そしたらどうなるかわかるかしら?」
「……さぁ、わからない」
「あなたは愛を知った人になるのですわ。そうしたら、きっと遊びも情もない真面目過ぎるあなたでも、愛だけはある人になれますのよ」
「……」
「そうしたら、きっと私を愛してくださいな。好きな人からの愛情さえあれば私はほかに何もいりませんもの」
慰めるように頬を撫でた。きっと彼からの愛情はとても心地のいい手触りをしているだろう。
だってこうして触れ合っている今だって、とても優しい気持ちになれるのだからそうに違いない。
頬を撫でて彼の腿の上に座ってじゃれついていると、突然強く抱かれて、肩に手がぐるりと回ってきつく抱きしめられた。
「……君が俺に愛情を教えてくれるのか」
「ええ、もちろん」
なんだか泣き出しそうな声をしていたけれども、彼の顔は見えなくて安心させるように背中を摩ってやった。優しい人だと知っているからまったく怖くない。
「あなたが愛を知るまでいくらでも」
丁寧に口にする。今日は彼が王になった特別な日だ。こんな日には彼のそばにいて王という重圧に戸惑っている彼を支えてやるのも婚約者たる私の務め。
そうしてラウルと一夜を共にしたのだった。
王妃となり、忙しく日々を過ごし一人男児を儲けるまでラウルと私は駆け抜けるように日々を過ごしてきた。
しかし、生活がひと段落してもラウルは先王のように様々な遊びに手を出すことは無かった。
即位してすぐのころには、大人の余裕がないだとか、余暇を嗜めない教養のない孤児だと陰口を叩かれたりしたが、次第にラウルの周りには真面目で仕事の良く出来る側近たちが集まった。
そのころから堅実王などという通り名が広まって、母親の分からない王子など王にふさわしくないという声も消えてなくなった。
だからこそ今でもあの戴冠式の夜に引き下がらなくてよかったと思うし、息子のアランがいつか王位を継承するときにも、同じようにラウルの良くない部分も真似しようとしたりしないように、大きくなったら言い含めていこうと思う。
ゆりかごを揺らしながら、ラウルによく似たアランの顔立ちに、声を出して少し笑う。王家の血筋の男の子は、皆似たような顔つきなのだ。私の要素はあまりない。
……でもだからこそ可愛くて仕方がないと思ってしまいますわ。
そんな風に考えていると控えめなノックの音がして私室の扉がゆっくりと開く。
中に入ってきたのは案の定ラウルで国王という忙しい職務があるのに毎日マメに顔を出す彼に可愛いという感情まで覚えた。
「オルガ。まだ起きていたのか?」
それから、毎日会いに来ているくせに、毎回こういうところも面白い。自分はこれ以降も仕事をするというのに、私には早く眠れとばかりにせかしてくる。
「ええ……あなたが顔を出すのを待っていましたの」
「俺の事は気にしないでいい。朝食は共にとれるのだから用件があればその時に話ができる」
言いながら彼はそばに寄ってきて、ゆりかごをのぞき込んでから、気難しそうな顔をうっとりさせて笑みを浮かべる。
それから私のそばへと座った。
「いいえ、あなたに会いたいから起きているだけですわ。朝も夜もあなたに会えるならいつでも待っていますわよ」
そんな彼に視線を移して言うと、アランに向けるよりもさらに嬉しそうな笑みを浮かべて「ありがとう」と言いながら私をぐっと抱き寄せる。
夫婦になる前はこんなに感情を顔に表す人ではなかったのだがここ三、四年で随分と優しげになったものである。
「俺は、君に愛してもらってばかりだな」
それからしみじみと言った。それに私は心のなかだけで、そんなことは無いと思う。
……もうずっと前から私はあなたに愛されていると感じてますわ。
しかし口には出さない。きっといつか自分も人を愛せているのだと自覚できる日が来る。
その時には戴冠式の日のラウルの『愛することはない』という言葉を笑い話にできると思うから、ゆっくりと待つことにしようと思う。
「どうかしらね」
「しばらくこうしていていいか? まだ仕事が立て込んでいてな、少し休憩したい」
「ええ、どうぞ」
抱きしめられながら、ゆりかごをゆする。穏やかで心地のいい手触りの時間だった。
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