張苞の任務
前回のあらすじ
関興は、夷陵の戦いにおいて、父の仇である潘璋を討つという大活躍を見せた。
その一方で、張苞も勇敢な活躍を果たし、功名を急いで手に入れたいという思いを抱えていた。
「兄上ばかりが得をするなんて、不公平じゃないか」
張苞は不満を漏らした。
「兄の活躍を素直に喜んだらどうだ」
劉徳が張苞に言った。
「朕、自ら軍を率いて夷道を制圧する」
劉備は意気揚々と命令を下した。
「陛下それはなりません。これ以上侵攻すると撤退が困難になります。私が兵の指揮を執りますので、陛下は夷陵にお残り下さい」
黄権が懇願する。
「その必要はない。張苞に五千の兵を与え、夷道手前に陣を張る孫桓の軍を撃破させよう」
劉備が命令する。
(やっと活躍の場を与えてもらった)
張苞は喜びをあらわにした。
「まだ未熟な張苞にこんな大事な戦いで兵を率いさせるのは危険では?」
馬良は劉備に囁いた。馬良は【馬氏五常】と呼ばれる優れた兄弟の四男であり、【白眉】という異名を持つ蜀の名政治家であった。劉備は馬良の人柄と手腕を信頼し、彼を重んじていた。
「安心せよ。張苞には確かな実力がある。そして、初陣というのは大変貴重なものだ。必ずや功を上げるだろう」
「そうですか」
馬良は黙った。
「夷陵に拠点を置きつつ、次は、夷道、その次は江陵を制圧する。準備にかかれ」
「はっ!」
納得できない諸将もいたが、命令に従って準備に取り掛かった。
「行って参ります」
張苞が劉備の告げる
「夷道には陸遜が待ち構えている。深追いしすぎないように」
劉備が忠告する。
「ご心配には及びません」
張苞は五千の兵を率い、険しい山を登り迂回しながら夷道を目指した。
(孫桓といえば、呉の皇室の一員だろう。そんな孫桓を討ち取れば私の実力を証明できるはずだ)
張苞は見晴らしの良い場所に辿り着いた。
(なるほど。あそこが孫桓の陣か。長江を挟んで手前に孫桓。奥に陸遜がいるのだな。やはり孫桓の陣は急いで作ったものだから守備がそれほど固くない。奇襲を仕掛ければ討ち取れるだろう)
張苞は考えた。
「皆聞け。戦いの経験がない俺に対して不満を持つ者もいると思うが、今は私が指揮官だ。命令には従ってもらう」
「はっ」
兵士たちは一斉に応じた。
数日後
「お前らは、ここで待機していろ」
張苞は孫桓の陣の手前の茂みに軍を潜ませた。
「俺が先に状況を把握してくる。戦闘が始まったら出撃せよ」
張苞は100人の精鋭だけを連れて孫桓の陣地に入って行った。
柵を乗り越え、見張りを静かに排除し、本陣へと向かった
「ここは武器庫か」
張苞が建物に侵入する。
「良質な武器が多いな」
張苞は周囲を見渡した。
(この大きさ、この色、この形どこかで見たことがあるな)
(!!!)
「これは父上の丈八蛇矛ではないか。こんなところにあったのか。そうだ、父上を殺した張達や范彊は呉に投降したはずだ。そして、彼らはこの陣内にいるのだ」
張苞は闘志に燃えた。丈八蛇矛を手に取り、大声で叫んだ。
「我が名は張苞。燕人張飛の息子だ。父を殺した張達、范彊はどこにいる。さっさと出てこい!」
この行動に驚いた部下たちは急いで戦闘の態勢を整えた。
張苞の声に孫桓の軍は気づき、笛を鳴らした。
「敵の奇襲だ!戦え!」
一斉に攻撃が始まったが、張苞の武力は驚異的で、さらに丈八蛇矛の力も加わり、周囲の敵を一掃した。
「呉軍の力はこんなものか。大将、出てこい!」
しかし、雑兵が出てくるばかりで一向に大将は現れない。
そんな中、待機していた張苞の五千の軍も到着し、敵と味方が乱れる戦いとなった。
孫桓は緊急の会議を開いた。彼は戦況を把握し、張苞に対抗する策を模索していた。
「張苞には全く歯が立たない。どうするべきか。」
孫桓が問うと、二人の武将が前に進んできた。
「我らが張苞を討つことを約束します」
張苞が一騎打ちを望んでいた張達と范彊であった。
「呉のためにこの任務を果たします」
彼らは強調した。
「その言葉を信じよう。行って参れ」
張達と范彊は、幕舎を出て、戦場へと向かった。
「我らを呼んだか張苞よ」
「来たな、裏切り者め」
張苞が二人を睨む
「裏切りなどとんでもない誤解ですね。あなたの父上がそうさせたのを御存じないのですか」
范彊が挑発する
「さっさと消えてもらおう」
張苞が構える
「私だけで十分だ。この若造が」
張達が張苞に襲い掛かる。
「隙だらけだ」
張苞は丈八蛇矛を使い、一撃で張達の首を切った。
「なに」
范彊は一瞬の出来事に思わず後ずさりする。
「愚か者め。一度戦うと決めたのなら正々堂々戦わんかい」
范彊は必死に逃げた。張苞は雑兵を蹴散らしながら猛然と追い続けた。
五分ほど走った時、范彊は突然振り返り、張苞と剣を交えようとした。
剣を振りきる前に范彊は丈八蛇矛の餌食となっていた。
「かかったな」
范彊は腹を刺されながらにやりと笑った。
「どうして笑う?」
張苞は怒り范彊の腹を引き裂いた。
「しまった」
張苞はようやく気付いた。范彊を追うあまり自身が敵に包囲されていることに気が付かなかったのだ。
(周囲には百人以上いるだろうか。一斉に攻撃されたら手に負えない)
張苞の額には汗が滴っていた。流石の張苞もここまでかと思われたその時、どこからか蹄ひづめの音が響いてきた。
「我が名は黄忠。蜀の五虎将軍の一人である。危機にある若武者を助けん」
黄忠と千人ほどの部隊は、呉の包囲を崩した。
「なぜ黄忠殿がここに」
「そんなことを話している場合ではなかろう」
黄忠が弓をつがえ、敵を射る。
「このご恩は一生忘れぬ」
張苞も再び剣を振った。
老将黄忠のおかげでなんとか危機を脱出した張苞であったが、孫桓の陣営には思いの外兵士がおり、大将に接近することができない。
「しかたねえ。いったん退却だ」
張苞と黄忠の兵は元居た場所まで下がった。
「なぜ黄忠殿がここにいらしたのですか」
張苞が尋ねる。
「馬良に念のため夷道へ行くよう言われたのだ。わしがいなければそなたは、あのまま死んでいたな」
「仇討ちに躍起になり、周りを見ることを失っていました。申し訳ございません」
「幸い、そなたは怪我なく生き残り、負傷兵も少ない」
「黄忠殿のおかげです」
「今回は初陣だから許すが、次はないからな」
黄忠は張苞が二度と同じ過ちを犯さぬように指導した。
「肝に銘じます」
張苞は黄忠の恩義を感じ、次こそはと心に誓った。
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