梅園の誓い
前回のあらすじ
山々の雪もだんだんと解け始め、春の訪れを実感する頃
蜀漢軍は荊州に入り、秭帰城に駐屯した。劉備は夷陵攻略を目指し、勢いに乗って進軍を続けた。
この時、親友である劉徳、関興、張苞は、この地である誓いを立てたのであった。
章武二年三月
夷陵攻略の軍を編成する際、劉備が問う。
「先鋒は誰に任せようか」
そのとき、張苞と関興が同時に名を挙げた。
「そなたらは、まだ若いから先鋒の将を任すことはできない。しかし、戦いの経験を積むため、どちらかに大将の補佐をしてもらおうと思う」
劉備が二人に伝える
「ならば武芸比べで決めようではないか」
張苞が関興を見ながら大きな声で言う
「望むところだ、張苞」
二人が馬に乗ると、先鋒の将の補佐をかけた勝負が始まった。
両者の刀は、烈々と火花を散らし、十合、二十合、五十合と打ち合っても勝負はつかなかった。その剣術には、周囲の者も見入ってしまった。
(このままでは、片方が死んでしまいそうだ)
心配した劉備は
「そなたらの実力は十分わかった。もうやめい」
関興と張苞は戦うのをやめ、馬から降りた。さすがの二人も疲れたようで、地面に倒れ込んだ。
「結局先鋒はどちらに任せるのですか」
趙統が聞く
「果たして、どちらに任せるべきか」
劉備は悩んだ。
「義兄弟の契りを結べばよいではないか」
劉徳がひらめいたように提案する。
「たしかに劉徳、張苞、関興の三人は、心を通わせるまるで兄弟の仲であるな」
趙統が言う。
「ここの近くに美しい梅園がある。そこで義兄弟の契りを結ぼう」
翌日、三人と劉備は、梅園に向かった。
梅園に到着すると、梅の花が満開で、その甘い香りが漂っていた。三人は一同で梅の木の下に降り立ち、草地に座った。
「歳の順にすると、関、張、私の順番になるな」
劉徳が二人に言う。
「いやいや、徳皇子が長男に決まっているではないか。徳皇子、関興、私の順です」
「そうですよ。徳皇子を差し置いて、私が兄になるなどできません」
関興と張苞は、劉徳を兄として仰ぐことを心から望んでいた。
「そう言うのなら」
劉徳を長男、関興を次男、張苞を三男とした。
梅の木の下で、義兄弟の契りを結んだ。
「我ら三人、生まれし日、時は違えども兄弟の契りを結びしからは、心を同じくして助け合い、困窮する者たちを救わん」
「上は国家に報い、下は民を安んずることを誓う」
「同年同月同日に生まれることを得ずとも、同年同月同日に死せん事を願わん」
三人は、酒を酌み交わした。
決して大規模な宴会ではなかったが、この梅園での誓いは、三人の心に深く刻まれたであろう。
劉備は、三人を静かに見守り、息子の誓いが果たされることを強く願った。
読んでくださりありがとうございます。評価、ブックマークをよろしくお願いします!