弔い合戦
前回のあらすじ
劉徳は、皇太子になることを辞退し、その座を劉禅に譲った。
後継者問題は解決したが、蜀漢には次から次へと試練が訪れる。
「張将軍が部下の張達と范彊によって殺害されました」
派遣した使者が劉備に報告した。
「ああ。羽に続いて飛が死んだ」
劉備は嘆いた。
「同年同月同日に生まれることを得ずとも、同年同月同日に死せん事を願わん」
劉備はかつて桃園で誓った言葉を思い出した。
「残されたのは、朕のみか」
家臣たちも将軍の死を悲しんだ。しかし、蜀漢には、死を悲しんでいる暇などなかった。二人の将軍は、劉備にとって欠かせない存在であった。
「憎たらしき、孫権め」
劉備は、復讐の念に燃えた。関羽を殺した孫権に対する報復として、趙雲の諫言を押し切って親征を行うことを決めた。
「阿斗、お前は、都の留守を任せた。阿義は、朕が指揮を執る親征軍に加われ」
「承知いたしました!」
二人は返事し、準備に取り掛かった。
劉禅は、内心この取り決めを良く思っていなかったが、自分が死ぬのも嫌なので、命令に従い、おとなしく留守番をすることにした。
一方、阿義は関羽の息子関興、張飛の息子張苞、趙雲の息子趙統などと共に、都を出発した。
劉備は、馮習を大将軍とし、張南、廖化、呉班、黄権らの将軍に個々の軍隊を指揮させた。
蜀漢軍は、計三万の兵を従え、大規模な親征を開始した。
劉備は長江を沿って進軍し、ついに荊州に入った。
長江沿いに存在した呉軍側の諸城は、蜀軍の大部隊の前に兵士が逃亡し、次々と陥落していった。
「ここが荊州であるか」
劉徳が問うた。劉徳は荊州出身であったが、一度も成都を離れたことが無かった。
軍の先頭には劉備が馬に乗っており、劉徳はその傍らにいた。劉徳は、不慣れながらも馬に乗り、荊州の景色を眺めていた。隣には身長8尺、緑の戦袍をまとい強靭な体つきの関興と身長9尺、赤い兜を被り鍛え抜かれた筋肉を誇る張苞が立っている。彼らは、初めて戦場に赴くが、鎧を付け、武器を携えていた。
その光景はまるで、かつて黄巾党を討つために挙兵した劉備・関羽・張飛のようだった。
「関興、張苞、よろしく頼むぞ」
劉徳が言うと、二人は頷いた。
「父上の仇を討つ」
「父の無念を晴らす」
彼らは口々に誓った。
「劉皇子」
関興が呼ぶと、劉徳は
「劉皇子など堅苦しい呼び名はいい。阿義と呼んでくれ」と笑った。
「阿義!」
張苞が呼びかけると
「張苞、いくら劉皇子がよいといっても礼儀は忘れるなよ」
関興は注意した。
二人のやり取りに劉徳は苦笑した。
いよいよ戦場となるであろう秭帰に到着する。
「この戦いに勝って、みなの屈辱を晴らすぞ」
劉徳は意気込んだ。
「奪われた青龍偃月刀を必ず取り返す」
「張達・范彊の首を取り、亡き父に見せなければならん」
父親を失った二人は、呉軍を打ち破り、功を立てることを誓った。
「父上のためにも必ず呉を討伐する」
劉徳は心に誓いを立てた。一方、自分の母親が呉の皇族であることに気まずさを感じていたが、張苞らはそのことを気に留めていなかった。
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