後継者選び
前回のあらすじ
弟を虐める劉禅の姿を見た劉備は落胆し、蜀漢の運命を憂いた。
学問を怠り、娯楽にふけっている劉禅。
一方、劉徳は、着実に努力を積み重ねていた。
劉備の後継者は一体誰になる?
蜀漢の政権は後継者問題で波乱に揺れていた。老齢の劉備を考慮し、急ぎ皇太子を選定しなければならない状況にあった。しかし、劉備自ら皇太子を指名することはなかった。その役目は丞相・諸葛亮に委ねられた。
「皇太子は、長子である禅皇子こそがふさわしい」
「いいえ、徳皇子の方が適任だと思います」
「ふっ徳皇子ですか。ありえないですね。徳皇子は幼く、母親があの宿敵孫権の妹という事実があります。当然、皇太子には相応しくないでしょう」
「くっ…しかし、最近の禅皇子の横暴さは目に余ると感じますが」
大臣たちは劉禅派と劉徳派に分かれ、激しい論争が続いた。劉禅派には蔣琬、楊儀、董允といった有力な文官たちが味方についた。一方、劉徳派には馬超、魏延、呉懿、李厳などの武官たちが結集していた。
「禅皇子の教育係として、お話しします。禅皇子は確かに至らない点もありますが、国を治める覚悟と努力は他にもましてあります」
董允が言葉を紡いだ。
「覚悟があっても、資格は足りないのでは?」
魏延が笑いながら言う。
「今日の話し合いはここで終わりにします」
諸葛亮が議長として中断した。
「皇太子選びは焦らずとも良いでしょう。陛下はまだご健在です。皇帝陛下の急死を望んでいるのではありませんね?陛下の臣下として忠誠を誓ったのなら、今は安泰であることを願わねばなりません」
大臣たちは沈黙した。
「この議論は一時保留とする。陛下もそうされることを望んでおられました」
臣下たちは派閥ごとに睨み合いながら会議を解散した。
その夜、劉禅派の文官たちは、劉禅の邸宅へ。劉徳派の武官たちは、劉徳の邸宅へと結集した。
「禅皇子、あなたは、皇帝になるべきお方です。武官からの圧力があっても屈してはなりません」
「ああ、分かっている。そなたらが、味方となってくれて大変頼もしい」
蔣琬、楊儀、董允らに囲まれた劉禅は、自信満々の表情を浮かべていた。
その内密の会話が行われる中、劉徳の親友である関興と張苞の二人は、こっそりと敷地内に忍び込み、会話を盗み聞きしていた。
劉徳派の武将たちは、当然ながら劉禅派の文官を敵対視しており、お互いに情報を得ることが欠かせない状況であった。
関興と張苞の二人は、屋敷の密談が終わると、急いで逃げ出し、暗闇に姿を消した。しかし、その一部始終を陰から見ている者がいたのである。
一方劉徳の屋敷では。
「徳皇子、貴方は禅皇子よりも賢明で、陛下からの期待も大きい。なぜ皇太子になることを望まれないのですか」
「そうですよ。徳皇子からも皇太子の件について、陛下のお考えを探ってみてください」
武官たちが劉徳に提案する。
「兄弟で帝位を争って何になる」
劉徳は興味がなさそうに答えた。
「もう夜も深い。お帰りください」
武官たちはそれぞれの家路についた。
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