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即位

前回のあらすじ

蜀軍は夷陵の戦いで大敗し、多くの将兵を失った。敗戦後、病に倒れた劉備は諸葛亮と劉徳に国を託し、息を引き取った。劉禅は劉備の死後、皇帝として即位し、内心の野心を抱いたまま新たな時代を迎えた。

「陛下の遺書を読み上げる」

 諸葛亮は威厳を持って大臣たちの前に立ち、劉備直筆の遺書を広げた。

「劉禅を新たなる皇帝とし、国を治めさせよ。これより、我が家臣は劉禅の指示に従うべし。丞相を中心に臣下は若き劉禅を全力で支えよ」

 大臣らは一斉に地に伏し、礼を尽くした。

「承知致しました」

 その時

「陛下のおなり」

 澄んだ声が響き渡った。即位の儀が厳粛に始まる。やや緊張した面持ちの劉禅が、金色の冕服を身にまとって現れる。その姿は一見華やかであったが、歩みには確固たる威厳が欠けていた。玉座へと向かう彼の歩みは、まるで重責に押し潰されそうな者のようであった。

「陛下万歳!」 

 遥か彼方まで続く臣下や官僚の列が、一斉に劉禅の前にひざまずく。その光景はまさしく皇帝の権威の象徴であり、偉大なる蜀漢の未来を約束するものであったが、目の前の皇帝がそれにふさわしいかどうかは疑問の余地があった。

「朕は、先帝の志を継ぎ、蜀漢の第二代皇帝として即位する。蜀漢の情勢はいまだ不安定である。朕は、先帝の志を胸に抱き、漢の復興を目指して政治を行う。大臣たちも若き朕についてきてほしい。蜀漢に栄光あれ!」

 大臣らは一斉に立ち上がり、歓声を上げた。これはまさに新たな時代の幕開けを告げる瞬間であった。この時、弱冠十七歳の皇帝劉禅が誕生したのである。


 劉禅の胸中には、先帝を超えるほどの良い国を築き上げるという強い意志が燃え盛っていた。しかし、その内心には不安と葛藤が渦巻いていた。彼は権力に執着してきたが、それは地位を欲するためではなく、自分が国を良くして、父のように民衆から慕われる皇帝になりたいという純粋な思いからであった。


「諸葛亮、そなただけが頼りだ。どうか朕を支えてくれ」

 まだ朕と言うのも慣れていない劉禅は不安そうな表情を見せた。

「もちろんでございます」

 諸葛亮は深々と礼をした。

(まだ陛下も若い。私が万事と取り仕切ればよい)

「陛下、各県令からの報告と、民衆の声をまとめたものを持ってまいりました」

 諸葛亮は大量の巻物を劉禅に差し出した。

「こんなにも多いのか」

 劉禅は驚きの声をあげた。その後も、米の収穫量や兵の訓練と配置、官僚や将軍の昇格、各地で起こった問題の解決など、やることは山ほどあった。それはまさに若き皇帝にとって試練の始まりであった。


 一方、劉備のもう一人の息子、劉徳は、その場の様子を静かに見守っていた。彼の眼差しは冷静であり、劉禅とは異なる落ち着きが感じられた。周囲の大臣たちの中には、劉徳こそが真の皇帝の器であると内心感じている者も少なくなかった。劉禅の即位は正式なものであったが、真の指導者としての資質を持つのは果たして誰であろうか、決してこのことは口に出さなかったが、その疑問は人々の胸に残ったのであった。


「陛下、ご即位を心よりお祝い申し上げます」

 朝堂に集った蜀の家臣たちが祝辞を述べた。その中には劉徳の姿も見える。

「ありがとう。朕は無事、蜀漢の二代皇帝に即位することができた。皆で力を合わせ、国の試練を乗り越えようぞ」

 劉禅は希望に満ちた言葉を述べながら微笑んだ。

「国のために力を尽くします、陛下」

 臣下たちも劉禅の声掛けに応じた。

「それでは各自職務に戻れ、しかし劉徳は残っていろ」

 大臣たちは一斉に退場し、朝堂は静寂に包まれた。そして、皇帝劉禅と劉徳の二人きりになった。先ほどの雰囲気とは異なり、劉禅は劉徳に対して鋭い視線を向けた。

「ご用件は何でしょう」

 劉徳が尋ねる。

「お前に忠告しておこう。言動にはくれぐれも気を付けることだ。もうお前とはただの兄弟ではない朕は皇帝でお前はそれに従う。立場をわきまえることだな」

 劉禅は苛立ちを隠さずに告げた。

「承知しました、陛下。以後気を付けます」

 劉徳は不機嫌な表情を見せずにその場を去った。きっとこのような嫌味を言われるのは慣れているのだろう。しかし、朝堂を離れた劉徳の心情は一変していた。

「父上を失った今、この国に私の居場所はない」

 劉徳の頬に冷たいものが伝わった。

 劉徳は自室に戻ると、膝を折り、瞑想した。彼の心の中には、兄に対する忠誠心と、自らの道を見つけたいという葛藤が入り混じっていた。家臣たちが劉禅の言葉に従う一方で、劉徳の心には、父の遺志を継ぐべく、別の道が開かれる予感があった。しかし、彼はまだその道を選ぶ覚悟ができていなかった。

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