陸遜の知略
前回のあらすじ
劉備は大軍を率いて孫桓の陣へと攻撃を仕掛けた。しかし、彼は陸遜の巧妙な計略にまんまとはまり、蜀軍は崩壊の危機に直面した。なぜ呉の大都督陸遜は劉備を撃破することができたのか、その謎に迫る。
呉軍の本陣にて
陸遜が劉備の陣へ無謀な攻撃を仕掛け、大敗を喫して帰還した。その姿を見るや、呉の将軍たちは嘆息を漏らした。
「いったい大都督は何を考えているのか」
古参の名将たちは陸遜の行動に呆れていた。この時陸遜軍の将軍としては、朱然、宋謙、韓当、徐盛などがいた。
「呉の貴公子とはまったく名ばかりだな」
長身で容姿端麗の陸遜は、呉の貴公子と称されていたが、諸将は不満を隠さなかった。
「大都督がお見えです」
陸遜は、敗戦を喫してなお堂々と歩いてきた。
「大都督、先の戦いで何か成果は得られたのでしょうか」
将軍の徐盛は皮肉を込めて問いかけた。
「蜀軍の弱点を見つけた」
陸遜は鋭い目つきで言い放った。
「というと?」
徐盛は次の言葉を待った。
「劉備軍は大軍で攻めてきているため、陣地が近く密集している。長江は西から東へ流れている。川沿いを進む蜀軍は東征は容易だが、退却は困難だ。この立地を利用し、火攻めが有効である」
「つまり逃げ道がないという事ですね」
諸将が応じた。
「そうだ。おそらく劉備は再び孫桓を攻撃するだろう。その時を狙って火攻めを決行する」
「はっ」
呉の将軍たちは陸遜の戦略に感心した。
二二二年 六月
「劉備が大軍を率いて孫桓の陣に向かっております」
陸遜はついに火攻めを実行する。
「劉備は夷陵に逃げるだろう。韓当は夷陵に先回りし占領せよ。他の将軍は劉備の陣を全て焼き払え」
呉軍は長江の対岸側にある四十以上の蜀軍の陣営に一斉に火をつけた。
「いったい何が起こっている」
密集した蜀軍の陣地には、次々と火が広がり錯乱状態に陥った。
この時を狙っていた陸遜は一斉に攻撃を仕掛け、壊滅した蜀軍を一網打尽にしようとした。
「命が惜しければ、降伏しろ。剣を捨てひざまずくのなら、助けてやろう」
呉軍は混乱する劉備軍を滅多打ちにした。そのため呉へ投降する蜀軍の兵士も少なくなかった。
「だめだ、火で身動きが取れない」
この攻撃により蜀軍の都督馮習や先鋒の指揮官張良は戦死を遂げた。
「ああ、なぜ早く気づかなかったのか。蜀軍の運命は既に呉軍に握られていたのに」
軍師馬良は炎の中で自責の念に駆られ、自害した。
炎は絶え間なく燃え続けている。
「孫桓の陣へ向かう。劉備軍を挟み撃ちにするぞ」
本陣が攻撃されていると聞いた劉備軍は急いで帰還していた。
「自ら来るのか、劉備。ご苦労なことだ」
陸遜軍の襲来により劉備軍は崩壊した。長江は血の川と化し、屍が山のように積まれた。
「劉備は数十人の部下とともに山奥へ逃げたようです」
呉の兵士が報告する。
「そうか、必ず討ち取れ。逃してはならん」
陸遜はそう命じ、山の至る所に伏兵を仕掛けた。
「後は、韓当からの使者を待とうではないか」
孫桓の陣にて
「よくぞ耐えてくださいました、孫桓殿」
陸遜は孫桓の手を握り、勝利を分かち合った。
「陸遜様万歳!」
この夷道の戦いは、呉軍の歴史的勝利として長く語り継がれることとなった。
夜が更けた呉軍の陣営では、将軍たちが焚き火を囲みながら陸遜の戦略について語り合っていた。
「大都督の火計には心から驚かされました。まさかここまで完璧に蜀軍を追い詰めるとは」
将軍の一人が感嘆の声を上げる。
「そうだ。大都督はまさに呉軍のために生まれた戦略家だ」
別の将軍も頷く。
その時、韓当の使者が到着した。
「韓当将軍は夷陵を無事占領しました。これで劉備の逃げ道は完全に封鎖されました」
使者の報告に陸遜は満足げに微笑んだ。
「良くやった。これで劉備を完全に追い詰めた。あとは山の伏兵が効果を発揮するのを待つだけだ」
呉軍の将兵たちは歓声を上げ、勝利を祝うために歌い踊った。
「大都督、見事な戦略でした」
徐盛は陸遜の前にひざまずき、心からの敬意を表した。
「これからも呉のために尽力しよう」
陸遜はにこやかに笑いながら、将軍たちの忠誠を受け入れた。その姿はまさに呉の未来を担う英雄であった。
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