思い出
さて、僕たちがいるとこは、ベルクカイザーの応接室。
シン校長夫妻とジョーンズ先生を前に各自、様々な報告をした。
勉強や実技の話はもちろん、学校行事における、活躍や貴族たちのしがらみなど、本当に盛りだくさんの内容だった。
僕が知らない話もあったり、セイラ先生と女子しか話せない内容もあったみたいだ。
小一時間が過ぎた頃、ドアがノックされた。
「どうぞ」
シン先生がドアの方に声をかけると、事務長が入ってきた。
「あ!お久しぶりです!」
僕がそういうと、タニア以外の10人が頭を下げて挨拶をした。
「久しぶりだね。タニアがいつもお世話になってます。」
事務長…タニアの父であるチャイズさんは皆んなに深々と頭を下げた。
「校長。そろそろお時間です。次のご予定がありますので、よろしくお願いします。」
物腰柔らかなチャイズさんはシン先生を呼びにきたようだ。
「そうですか。もうそんな時間か…そうしたら、セイラ、ジョーンズ、後は頼む。みんなも元気そうでなにより!また、遊びに来てくれ!」
そう言い残すと、シン先生はチャイズさんと応接室を後にした。
「ごめんね。最近、学生が増えてきたでしょ?それで、貴族とかも入ってきて、いろいろあるのよ…」
はぁ…とセイラ先生がため息をつく。
隣のジョーンズ先生も首を振り、困った顔をしていた。
「貴族かぁ…フェルナンドもおんなじ感じですよ…貴族が威張って、懲らしめたら親が出てきて、親を懲らしめたら、上司が出てきて…潰してやろうかと思いました…」
そう言うのは鍛冶のエキスパートである、シックス。
僕以外の10人の武器は、全てシックスが作成したものである。
どの武器も、高品質の魔獣の素材を使っており、その性能は王都にある鍛冶屋が作ったものより遥かによく、それが貴族の倅の目にとまり、金に物を言わせて、王都の鍛冶屋に作らせようとしたが、無理だった。
それもそのはず、シックスは最果ての村で、ベルクカイザーに魔獣の素材の加工法を教えてもらい、それを基礎に独自の進化をさせてきた。
だからこそ、10人が持っている武器や防具は、シックスしか作り得ないのだ。
そうすると、次に起こるのは、貴族がシックスに言い寄って武器や防具を造らせようとする。
最初は言いがかり、ダメなら金、金がダメなら親、親がダメなら親の上司というふうに、なんとか、シックスを取り入れようとしてあの手この手を使ってきた。
あの時のことを思い出すと本当に深いため息が出る。
まぁ、逆にいろいろやったおかげで牽制もできたからいいんだけど…
フェルナンドでの嫌な…もとい面倒な思い出である。
「あぁ、その話ね。シンのところにもきてたけど、私が潰しておいたわ。」
と言うセイラさんの迫力ある笑顔に全員がドン引きした。
「まぁ、シックスの腕だと遅かれ早かれそうなることだろうと思っておったけどな。
さて、暗い話はここまでにして、うちの生徒たちを見て行ってもらおうかの。」
ジョーンズ先生がそう言い、手を叩くと、村の大人たちもとい、講師陣が扉を開けて入ってきた。
「では、皆よ、よろしく頼んだぞ。」
『はい!』
僕たちはそれぞれの講師に付いて、見学兼指導をするために、各場所に散って行った。