歓迎会
「…ということでセルヴィンを僕の家庭教師として雇ってもらえないでしょうか?」
ロベルトは黙ったまま俯いている。
セルヴィンのことを信じていいのかだめなのか考えているようだ。
「あっ、僕、きちんと住み込みで働きますし家事とか手伝いもします。給料は払わなくていいのでどうかお願いします」
「俺が心配なのはそこじゃない。セルヴィンさん…だっけ?あなたが信用できるに値するのか否かを知りたい。俺の質問にいくつか答えてくれないか?」
「…っ…分かりました」
セルヴィンはロベルトの真剣な眼差しと威圧感に押されたとかゴクリと息を飲んだ。少し怯えているようにも見える。
こんな真剣なロベルトはあの時以来だな…
「まず1つ目。あなたはどうやってレイと会ったんだ?経緯を教えてくれ」
「父様、それは僕から話…」
「レイは黙っていろ」
チッ、いい感じに事を運べると思ったのに。
さては真剣モードだな。
「えっ、と。僕、帰る場所がなくなってしまって、その時にレイくんに会って、話してみて、レイくんは信用できるなと思いました。
それから沢山話して、帰る場所が無いということを話したらレイくんから家に来てはどうかと聞かれここに来ました」
なんだか緊張しているのだろうか。
少しぎこちないが分かりやすくはある。
バカなロベルトでも分かることだろう。
「…次だ。
あなたは家庭教師として雇って欲しいと言ったな?
何か魔術でも使えるのか?」
「あぁ、そうですね、僕は長らく魔術の研究をしていたもので人一倍魔術のことには長けていると思います。それでですね、魔術はとてもとても奥深くてですね!特に…」
「先生。そこまではよろしいかと…
父様軽く引いてます」
「えっ?あ…すいません。つい」
「んん…っ、あ、あなたが魔術を使えることは分かった」
とロベルトは軽く咳払いをして話し始めた。
「とりあえず合格だ。何様かと思うかもしれないがこれでもこの家の大黒柱として不審者をいれるわけにはいかないからな。
こんな真似をさせてもらった。非礼を詫びよう」
珍しくもロベルトが謝っている…!
少し素直さが感じられないがとにかく謝っている事に驚きだ。
それと共に感動さえ覚える。
成長したな…て俺が一番何様だよ。
「じゃ、じゃあ僕はこの家でレイくんの家庭教師として働いていいんですか?」
「もちろんだ。こちらかなもお願いしたいくらいだ」
「……!ありがとうございます!」
「父様、僕はそう言ってくれると思いましたよ」
「何かムカつく言い方だが…とりあえずレイは歓迎会に向けて準備を手伝ってくれ」
「分かりました」
やっぱりロベルトは単純で馬鹿で阿呆だけど情があつくて単純で馬鹿なところが良いところだよなぁ…
いや、ちゃんと褒めてるよ?一応。
さて、歓迎会の準備か。
何か忘れているような…?
…………
……………っ…はっ!!!!!
俺の天使…っ!!!俺の癒しは何処に!?
とりあえず1階だな。
たしかリビングの掃除とか頼まれてたよな。
この部屋にいるはずなんだが見当たらないということはもう終ったのか。
んー母さんのとこに行ってみるか。
「母さーん、ジュリとランを見てないですかー?」
「ジュリとランならさっきまで居たけど…どこに行ったのかしら…?」
それ、やばくね。大丈夫そ?
「探した方がいいですよね、行き先は分かりますか?」
「あの子達の事ならレイが1番知っているでしょう?」
なんか人任せな言い方だな。
あの、天使が!危ない目にあったらどうする!んだ!
全くもう、1人でも探してやる。
「しょうがないですね。じゃあ僕探してきます」
もうっ、知らないもんねっ。
俺が探して俺が見つけて俺が危ないとこ助けて俺だけに懐いても知らないんだからねっ。
いや、最高じゃないか。
…違う違う、とりあえず行っていそうな場所は…
俺の部屋とか…?一応行ってみるか。
「ジュリー?ランー?いるのかー?」
俺の声に反応はない。
つまりもっと違うところ…どこだよ。
「どこにるん__」
「「ばぁ!!」」
「うわぁぁぁ!びっくりした!」
割とマジでびっくりした。怖い。ビビった。
「もうー今までどこにいたんだ」
「ずーっとお兄ちゃんの後ろにいたんだよ!ね?ラン!」
「う、うん」
ま、まぶしい!笑顔がまぶしい!!
「そうかそうか」
今までのことがどうでもいいくらいに貰い笑顔をしてしまう。可愛すぎるのだよ。
俺はつい、頭を撫でてしまう。
こうすることでストレスの穏和、リラックス効果、睡眠の質の向上などなど…
というのは冗談で、いや、あながち間違ってはないけど。
何故にこんなに可愛いのかいまだに研究は進んでいない。
もはや未知の領域なのだ。
「よーし!お兄ちゃんはびっくりさせたから次はお母さんだね!」
「も、もう。やりすぎたら怒られちゃうよぉ…」
「大丈夫!あたしがついてるもん!!」
「うぅ…そ、そうだね…?」
会話から可愛いな。勘弁してくれ。
「かくれんぼはいいけど程々にするんだぞー」
「分かってるよおにーちゃーん!それじゃあ行くよ!ラン」
「ま、待ってよぉ〜」
何か嵐が去ったような感じだったな。
にしては可愛い嵐だったけども。
_というか俺に気付かれずにどうやって隠れていたんだ?
俺は常日頃から周りを気にしていた。
もちろん急に起こる身の危険から守るためだ。
少し驚いたふりなどはしたりするが、こうまできづかないことなど1回も無かった。
ジュリとランを探すことに夢中で動揺していたとか?
他にも_
まぁなに、こう考え始めるとキリがないな。
とりあえずそういうことにしておこう。
とりあえず俺は1階に降りることにした。
む?背後から気配が…?
「レイくぅん、準備を手伝うと言ったきりどこに言ってたのかな?」
僅かながらに怒気を孕んだ声でロベルトが言った。
語尾や話し方にはまだいいものの、それに反する圧を感じる。
要は準備をすっぽかした俺への怒り、だな。
うん、俺が悪い。素直に謝るか。下手な言い訳は新たな誤解を生みかねないからな。
俺は地面に膝をつき、正座をし、頭を垂れて勢いよく言葉を放つ。
「すみません!すみません!靴でもなんでも舐めますんで許してください。二度としません!」
勢いで押して許してもらう魂胆だったが、見るからにロベルトは引いている。
客観的に見れば、まぁ無理もないか。
「お、おう。そこまで怒ってたわけじゃなかったが、俺、そんなに怖かったということ、か…
とりあえず頭をあげろレイ。今回は許すからリヒター家が来るまで準備に励むんだぞ。いいな?」
「はい!」
乗り切った。幸にもリア達が来るまでもう少し時間がある。
よし!大したことのない仕事だけど頑張ろう俺!
―――
家族、とセルヴィンとで準備を済ませしばらく待っていると、外からノックの音がした。
リア達が来たようだな。
「レイ、出迎えてやれ」
「分かりました」
ロベルトからの直々のご指名だ。
仕方なく出迎えてやろう。
ほんとはめんどくさいくせに…
仕方なく、ほんとに仕方なくドアを開ける。
「待っていましよ、どうぞ入ってください」
「あぁ、悪いなレイくん」
「お、おじゃまします…」
リアは控えめに入ってきた。そんなに縮こまる程威圧感がある家なのだろうか。それとも人見知りなのか。
母さん達にもある程度挨拶を済ませ、リアは俺のところにやってきた。
「ここがレイの家なんだね…」
「うん、俺の自慢の家なんだよ。
というかこの家に入ってくるときにやたらと怯えるようにしていたけどそれはどうして?」
「怯えて…みえた?」
当たり前だ、というか怯えるというよりも驚いたの方がしっくりくるのか?そういうふうな様子だった。
「私ね、人の家に行くのって初めてで、だからそう見えたのかも。少し怖かったから。
後、こんな大きな家が本当にレイ達の家なの?って思っちゃって。違ったらどうしようって。
私こう見えて臆病だから」
「あぁ!分かる。俺も臆病だから気持ちわかるよ」
「ほんと?なんだかそうには見えないね。ふふ」
なんだかバカにされた気がする…
「まぁとりあえず俺たちは臆病仲間ってことだな」
「はははっ何それ、臆病仲間とかなんかダサいよ」
「え?ええ、え?だ、だだださい?」
割と本気で言っていたのに…ださい…
「でも、臆病仲間はダサいけどなんか良いね!
仲間ってかんじがする」
「そりゃまぁ、ダサくても仲間なんでね」
「たしかに、それもそうだね」
このあとも俺たちはくだらないような話に花を咲かせた。少し、仲良くなれた気がした。