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06 銀髪の少女

 学科試験と実技試験が終わった。

 予想としては学科は満点、実技は0点だろう。

 結局、どれだけ簡単な初級魔術も発動することはできなかった。

 以前の模擬戦で少しはマシになったかと思った俺の評価も、再び低下した。


 まあそれについてはいい。問題は次だ。

 これから成績発表までの一週間のうちに依頼を達成した分が加算される。

 既にめぼしいBランク依頼は見つけていた。後はそれを達成するだけだ。

 そう、考えていたのだが……


「依頼が、ない?」

「え、ええ、DランクからBランクまで全て既に受けられていて。こんなこと、これまでなかったのですが……」


 受付所に行くと、職員からそう告げられた。

 どうやら通常ならざる事態が発生しているようだ。


 というのも、例年ならこの制度を使う奴はほとんどいない。

 何もしなくても進級は約束され、成績上位者を目指すような奴は学科と実技だけで十分なのだから、それも当然のことだろう。

 それ故に、数十の依頼が全て受けられるなどありえないと踏んでいたのだが……


「ん?」


 ふと、複数の視線を感じた。

 ヌーイたちが意地の悪い表情でこちらを見ている。


 ――そういうことか。


 ヌーイは俺が成績上位者を目指そうとしていることを知り、それを阻むべく仲間を使い依頼を全て受けてしまったのだ。

 この依頼は失敗したとしても加点される予定だった半分の点数が減点されるだけ。

 そのくらいは全く問題ないと彼らは考えているのだろう。

 それ以上に俺の邪魔をする方が大切だと。


 ……少し評価を改めなければならないかもしれない。

 実力はないが、悪知恵は働くみたいだな。


「……どうしよ」


 隣の受付では、俺と同じ説明を受け困った様子の少女がいた。

 綺麗な銀髪を肩まで伸ばし、青色の瞳をきょろきょろと動かしている。

 落ち着きがないが、大丈夫だろうか。


「どうかしましたか?」


 そう尋ねずにはいられなかった。

 彼女は俺の言葉にはっと顔を上げた後、苦笑いをしながら言う。


「え、えっとね、Bランクの依頼を受けようかなって思ってたんだけど、もう全部受けられちゃってたみたいでね。どうしようかなって、途方にくれちゃってて」

「第一学院狙いですか?」

「うん、そうなの。もう四年生だからこれがラストチャンスで、頑張ろうと思ってたんだけど……これは誤算だったかな、えへへ」


 四年生ということは俺より学年が一つ上か。

 しかし疑問が生じる。


「けど、Bランクを受けるくらいの実力なら、何もしなくても上位者くらいなれるんじゃ」

「えっとね、私、実技が苦手で。いつも点数が低いの。だから自分の得意な依頼があったらそっちの方が可能性があるかなって思ったんだけど、駄目だったみたい。仕方ないよね、みんな頑張ってるんだから、出遅れちゃった私が悪いんだし」


 それは違う。依頼がないのはただの俺に対する嫌がらせのためだ。

 ……そんな理由で、必死に努力する人が不幸になっていい訳がない。


 加点方式の決まりを思い出す。

 依頼は一人ではなく複数人で受けることができるが、その場合は点数が人数で割られそれぞれに加算される。

 ……つまり元の点数が高ければ、二人で割ったとしても問題ない。

 ヌーイは詰めが甘い。この依頼も潰しておけば本当に手はなかったというのに。


「あの、よかったら俺と一緒に依頼を受けませんか?」

「え? でも、もう依頼はないって……」

「残されているものもありますよ。これです」


 ぴらっと、一枚の紙を見せると、彼女は目を大きく見開く。


「グレイド鉱山にあるマタシウト鉱石の採掘……Aランク依頼!?」

「ええ、これなら二人で受けても100点ずつ加算。成績上位者になるには十分です」

「そ、それは十分だけど、Aランクなんて危険なんだよ? そんなの……」


 途中で彼女の言葉が止まる。

 俺の目を見て、何かを感じ取ってくれたのだろう。

 覚悟のできた表情で頷く。


「そう、だよね。もうそれしか方法が残ってないんだったら、私も頑張るよ」


 その決意に応えるべく、俺も全力を尽くすことを心に誓う。


「必ず達成しましょう」

「うん! あっそうだ、名前をまだ言ってなかったね。私はユナ・ミアレルト、よろしくね」

「俺はルーク・アートアルドです。よろしくお願いします」


 こうして、俺とユナは共にAランク依頼を受けることになった。

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― 新着の感想 ―
こうやって足引っ張る方法があるとなると今後制度の改正が必要になって来るなぁ
[気になる点] 制度が穴だらけだなあと思ったけど、今までそこまで露骨なことをしたやつがいなかったのかね…… 人間の性は、悪だ
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