04 長い一日
キマイラ討伐後、俺はカイルたちから礼を言われたのち、改めて事情を聴いた。
カイルたちは【蒼き守護者達】というCランクパーティで、ギルドの依頼を受けてハイ・グレイファングを討伐しにきた。
しかし実際に待ち受けていたのはAランク中位指定のキマイラ。
最早 為す術がなく困り切っていたタイミングで、俺の増援が間に合ったとのことらしい。
とまあ、そんな感じで事情を聴くのに数分ほどかかったのだが、それでもまだ彼らの興奮は収まり切らないようで、口々に賞賛の声を上げる。
「それにしても本当にすごかったです、ルークさん! こんな戦い方、今まで見たことありません!」
「まさか本当にキマイラを倒しちゃうなんて……未だに信じられないわ」
「それに飼育魔術……だったか? 今まで聞いたことのない魔術名だが、貴族間でのみ伝わってる秘技なんだろうな。とんでもないものを見させてもらったぜ……」
褒めてくれるのは嬉しいが、テキトーについた嘘まで信じ込まれているのにはちょっとだけ良心が傷つく。
まあ、今さら誤魔化すのも面倒だから訂正する気はないんだけど。
「ってあれ? 俺が貴族だって説明したっけ?」
「ああ、それは彼女がルークさんの服装からそう判断したんです――フィオ」
カイルの視線の先には、フィオと呼ばれた黄緑色のセミロングが特徴的な少女がいた。
カイルと一緒に前衛を務めていた子だ。
フィオは4人の中でも最も興奮した様子だった。
「ルークさん、その、さっきの……本当にすごく……すごくすごかった!」
「あ、ああ。ありがとう」
フィオが頬を紅潮させつつ、手をパタパタさせながら感想を告げる。
語彙力を失ってしまったかのような感想だが、指摘するのも野暮なので礼だけ返しておいた。
っと、いつまでも余韻に浸っている場合ではない。
後処理についても考えなければ。
俺はカイルに向かって言う。
「確かカイルたちはギルドのクエストで攻略に来てたんだよな? 討伐素材は譲るから、今回のことについて報告しといてくれるか?」
「そんな! 素材は倒したルークさんのものですよ!」
「いや、俺はいらないから気にしなくていい」
「そう言われましても……はっ!」
カイルは何かを察したかのように目を見開く。
「なるほど! ルークさんからすれば、この程度の魔物いつでも倒せるってことですね!? 分かりました、報告は任せてください!」
「あ、ありがとう。ただ一つお願いがあって、俺が倒したってことはギルドに伝えないんでほしいんだ」
「どうしてですか?」
カイルがきょとんと首を傾げる。
当然、そうお願いするのには理由がある。
魔術学院の生徒がキマイラを倒したとなれば、ギルド経由で学院に連絡が行くのは確実。
しかしながら、実力の劣る第二学院の生徒が無断でダンジョンに潜ることは認められていない。
今回のことがバレたらお叱りは確実だ。
別に俺が叱られること自体はどうでもいいんだが、そうなってしまえば第一学院に通う妹に迷惑がかかる可能性がある。
できればそれは避けたいところだ。
と、そんな感じの内容を簡潔にまとめてカイルたちに説明した。
「なるほど。ルークさんは僕たちの恩人ですし、もちろんそうします。だけどルークさんの実力で第二学院生だなんて……第一学院の方がどれだけすごいのか想像もつきませんね」
「あー。まあ、な」
実際のところ第一学院にも俺に匹敵する実力者はそうそういないと思うのだが……まあ、わざわざ自分から言うことでもないか。
「あ、でも」
カイルが困ったような表情を浮かべる。
「ルークさんについて秘密にするのは構いませんが、それだと僕たちだけでキマイラを倒したと報告するのは無理がありますね。どうしましょう……」
「だったら、たまたま遭遇した学院生が代わりに倒してくれたけど、名前は聞き忘れた――って感じで報告するのはどうだ?」
「確かに、それなら問題なさそうですね」
そんな感じで、後処理についての話し合いは終わった。
その後、俺たちはキマイラとハイ・グレイファングの死体を担いで(俺が二体とも持ち上げるとカイルたちはまた驚いていた)ダンジョンを抜け、解散となった。
素材を町まで持っていけるかカイルたちは悩んでいたが、まあそれくらいは頑張ってもらおう。
一人になった俺はぐっと体を伸ばし、今日の感想を零す。
「う~ん、なかなか濃い一日だったな」
そうして、異世界から帰還した俺の長い一日が幕を閉じるのだった。