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魔術学院の最強剣士 〜初級魔術すら使えない無能と蔑まれましたが、剣を使えば世界最強なので問題ありません。というか既に世界を一つ救っています〜  作者: 八又ナガト
第二章 迫りくる脅威編

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34 ミアレルト領へ

 魔族化が解かれたヌーイは、混乱した様子のまま何かを呟いていたかと思えば、突然何かを思い出したかのようにペタペタと自分の体を触りだす。

 そしてすぐ表情を驚愕のそれへと変える。

 まるで、本来そこにあるはずの傷がないことに驚いているかのようだ。


 ヌーイは地べたに横たわったまま、キッと俺を睨んでくる。


「……おいクズルーク、なんで俺を殺さなかった?」


 やっぱり気になってたのはそこか。

 小さく息を吐いてから、俺は言葉を返す。


「別に、お前のことは嫌いだけど、この手で殺したいと思うほどではなかっただけだ。それに魔族化の影響で暴走してたのは見てとれたしな」

「……クソがっ」


 納得したのかしてないのか、ヌーイは不満げにそう吐き捨てた。

 何はともあれ、今ならちゃんと会話になりそうだな。


「記憶が戻ったんだろ? 誰に唆されたのかは思い出せるのか?」


 素直に答えてくれるだろうか。

 そう心配するも、意外にもヌーイはあっさりと口を開く。


「……魔族の女だ。ソイツが俺に、お前を殺すための力を与えると言ってきた」

「それで?」

「意識が朦朧としたまま頷いたら魔力を与えられて……気が付いた時には魔族になっていた」


 やはり黒幕がいたということか。

 しかし何の目的でヌーイを選んだんだ?

 強い配下が欲しいだけなら、他に選択肢はいくらでもあっただろうに……


 それでもなお、ヌーイを選ぶことに特別な理由があったとすれば。

 ヌーイが魔族化するきっかけになった強い感情(あくい)――俺を殺したいという願望を利用したかったと考えるのが自然。

 そこから流れ的に、魔族の狙いが俺であると推察できる。


(どこかで俺の戦い方を見た魔族が、天敵として俺の排除を試みたのか……?)


 最低限 筋は通っている気がするが、確証は得ない。

 本当に俺を狙っているのなら、ヌーイ一人に任せずその魔族も一緒に襲ってくるだろうしな。

 とするといったい――


 一人で深い思考に沈んでいると、ヌーイは説明を再開する。


「……その女から受けた指示がある」

「指示だと?」

「ああ。分け与えた力は自由に使っていい。ただし殺しきれなかったとしても、最低限時間を稼げと」

「……?」


 どういうことだ?

 何のために? 狙いは俺じゃないのか?

 俺の時間を稼ぎたいということはつまり、本命は俺の近くにいる別の誰かだと言っているのと同義だ。


「だから俺はお前が所属するギルドに潜入して……今回の合同クエストにお前を連れていきたいというギルドマスターたちの話を聞いて【紫霧魔術団】に潜り込んだ。お前の時間を奪うためだけに……もっとも思い出したのはたった今だがな」


 そういってヌーイは、ローブの内側から球体の何かを取り出す。

 これは魔道具か?


「これは魔力遮断の魔道具だ」

「……お前、普通に魔力使ってただろ。それとも俺の魔術を防ぐつもりだったのか?」


 だとしたら、魔術を使わずに戦って申し訳ない。


「違う。これは直径100メートル範囲外から、俺たちの魔力情報を索敵できなくするためのもので、その目的は……」

「ヌーイ?」


 説明の途中だが、まるで事切れたかのようにヌーイは気を失った。

 息はある。魔族化で体力も魔力も尽きかけていただろうに、気力だけで説明をしてくれたようだ。


「魔力遮断の魔道具……これで何かを企んでたのか?」


 ヌーイの話し方から察するに、そこまでは間違いないだろう。

 問題はその目的だ。

 外から俺たちの魔力が見つけられなくなっただけで、大した影響が出るようには思えないが――


「……待てよ」


 ――瞬間、俺はある光景を思い出した。


 遺跡に入る直前、ゴルドは言っていた。

 なぜかフルールから伝達魔術の返事がこないと。

 この魔道具は伝達魔術を妨害するためのものに違いない。

 それが今もなお発動中というのなら――まずい!


「――ッ!」


 嫌な予感が沸き上がり、その魔道具を瞬時に破壊する。

 振り返りティナたちの様子を窺うと、ものの数十秒で二羽の伝達魔術がゴルドとティナのもとに舞い降りてきた。

 一羽はフルールからだろう。

 しかし、だとするならもう一羽は――


「ッ! お兄様!」


 伝達魔術の中身を読んだティナは結界を解くと、血相を変えてこちらに駆け寄ってくる。

 そして手紙部分を俺に向けながら言った。


「ユナ様からです」


 そこにはたった一言。

『助けて』と書かれていた。


「そっちが狙いか」


 確信を得た。

 理由までは分からないが、どうやら魔族の狙いはユナらしい。

 しかもこれだけ手を込んだ方法で援軍を防ぐくらいだ、その執着ぶりは計り知れない。


 覚悟は一瞬で決まった。


「ティナ、俺はミアレルト領に向かう」

「っ、今からですか?」

「そうだ。わざわざ一言しか書かないほどに緊迫した状況だとするなら全く時間がない」


 伝達魔術は、そこに書かれた文字数によって速度が大きく変わる。

 ミアレルト領との距離と、伝達魔術の内容がたった一言だということを考慮すれば、少なくとも20分以上前に発動されたはずだ。

 さらに魔道具の妨害があったことも考慮すれば、倍近い時間が経っていてもおかしくない。

 本当に魔族がいるのかどうかはともかくとして、取り返しのつかない事態になっているかもしれない。



「向かう理由は分かりました。けれど本当にユナ様はミアレルト領にいますか? もしかしたら王都に戻る途中かもしれませんよ」

「いや、もしそうなら内容が増えたとしても記載してあるはずだ。場所が書いていないということは伝える必要がないということ。俺たちはユナが帰郷していることを知っている――まず間違いない」

「なるほど、理解できました。私も同行いたします」

「ティナもか?」

「はい、ユナ様は私の友人でもありますので」

「……分かった。ティナがいれば対応できる幅が広がる。期待してるぞ」

「はい、お兄様!」



 方針は決まった。

 ここにいる皆には自分たちで王都に戻ってもらわなければならないが、ただ事ではない状況であることは理解しているのか快く受け入れてもらえた。


 気絶したヌーイのことはカイルたちに任せた後、俺とティナはすぐさま遺跡の外に出て、ミアレルト領がある方向に視線を向ける。

 ここからなら馬車で三日ほどかかる距離だ。普通に移動しても間に合わない。

 俺はティナをお姫様抱っこの要領で抱える。


「まあ、お兄様!?」

「行くぞ、ティナ」


 そして俺は駆け出した。

 目的地まで、あと三十分。

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