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魔術学院の最強剣士 〜初級魔術すら使えない無能と蔑まれましたが、剣を使えば世界最強なので問題ありません。というか既に世界を一つ救っています〜  作者: 八又ナガト
第二章 迫りくる脅威編

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33 VSヌーイ

「じゃあ、色々と話してもらおうか」


 四肢を失い、這いつくばるだけのヌーイを見下ろしながら言葉をかける。

 コイツが俺の命を狙っていたことはもう分かった。

 しかし肝心の魔族化した経緯についてはブラックボックスに包まれたままだ。


 ヌーイは怒りに満ちた目で俺を睨む。



「クソッ! 何をしたクズルーク!」

「何って、普通に四肢を斬り落としだけだが……見えなかったのか?」

「ッ!? 黙れ! 黙れ黙れ黙れ! こんなことがあってたまるものか! 俺が何のために魔族にまでなったと思っている!? 全部お前を殺すためだ!」

「俺を殺すためだけにか。割に合ってない条件のようだが、誰に唆された?」

「全ては俺の意思でやったことだ! 誰にも唆されてなどいない!」

「魔族に会ってないって言うのか?」

「当然だ!」

「……ふむ」



 話が通じない。

 だが、今のやりとりから大方の経緯は想像できた。


 というのも、人族が魔族になるためには他の魔族から力を分け与えてもらう必要がある。

 だがヌーイはその存在を覚えていないらしい。

 故意的に記憶を操られていると考えるのが自然だろう。


 これは厄介なことになったな。

 人族を魔族化できるのは優れた魔族だけだ。

 ランクで表せば、どれほど低く見積もってもAランク以上。

 レーニスが言っていたのと同じ魔族かは不明だが、早急に対応する必要がある。

 今すぐ王都に帰還し各所に伝えるべきだ。


 ――しかし、そう結論を出した直後、予想外のことが起きた。



「クズルーク……俺はお前を絶対に殺す!」

「――――ッ」



 ヌーイが決意を表明すると同時に、切り口から新しい四肢が次々と生えてくる。

 その光景を見て、俺は少し衝撃を受けた。


(魔族化したなら欠損箇所の再生くらいできるのは分かってたが、思っていたより早かったな)


 魔族の得意魔法としてよく挙げられる二つ。

 魔力の物質化と、それを利用した身体改造。

 ヌーイは既にそれらの力を使いこなしているみたいだ。


 俺が冷静に分析している間にも、再生を終えたヌーイは立ち上がりこちらを睨みつけていた。

 どうやらまだ戦いを続けたいようだ。


「やる気か?」

「当たり前だ――俺がお前ごときに負けるわけがねぇ!」


 その一言とともに、ヌーイの両腕が歪んだ(・・・)

 身体改造によって鋭い刃と化した二本の腕が、異質な軌道で俺に迫ってくる。


 しかし――


「遅い」

「ッッッ!?」


 ――俺は剣を振るい、簡単にその腕を弾く。

 先ほどは力を使いこなせていると評価したが、やっぱり訂正。

 この程度の刃が俺に届くなどと侮られては困る。


「どうした、もう終わりか?」

「――ッ! 馬鹿にすんじゃねぇ!!!」

 

 再び襲い来る刃の連撃。

 今度は腕だけではなく、体からも十数の刃を生やして襲い掛かってくる。

 俺はそれを一本ずつ剣で防いでいく。


「ははは、どうした! 防戦一方だ! クズルークごときじゃ手も足も出ねえか!?」

「――――」


 ――――遅い。遅すぎる。

 手数は増えたが、それだけだ。

 数を増やすたびに一本一本の速度も落ちているし、どれだけ連撃を続けても、一向に俺の体に届く気配はない。


 先ほどまでは得意げに笑っていたヌーイも、手応えのなさに徐々に表情を歪めていた。

 そんなヌーイの姿を観察しながら、俺は思考を回転させる。


(――さて、この後はどうしたもんか)


 ここまでの攻防ではっきりと分かった。

 ヌーイは本来の実力からはかけ離れた強さになっているが、それでもせいぜいAランク程度。

 俺が倒そうと思えば一瞬で倒せるだろうし、このまま耐えているだけでもじきに魔力切れを起こすだろう。


 とはいえ後者は出来るだけ避けたい。

 魔族の力に慣れていない状態で魔力を使い続ければ、限界を超えたオーバーヒートで死ぬ可能性もある。

 ヌーイのことは心から嫌いだし、これまでにいい思い出もないが……この手で殺したいと思うほど憎んでいるわけでもない。

 ゆえに俺はこの攻防の中で、ヌーイを助けるための方法を探っていた。


 状況証拠と戦闘中の分析から確信したが、ヌーイはまだ魔族になって日が浅い。

 正確にいえば、魔族としての魔力がまだ完全には馴染み切っていない。

 この状態ならば、アレ(・・)が使えるかもしれない。


 俺が方針を決定したのと同じタイミングで、ヌーイが後ろに下がる。


「クソが! ふざけやがって、何で俺の攻撃が届かない!? だったらもういっそのこと――」


 ヌーイは立ち止まると、両手を前に出し赤と黒の魔力を集めていく。

 奴がもともと得意とする炎魔術と、魔族由来の闇魔術を融合させた一撃を放とうとしているみたいだ。

 そしてその矛先は俺だけではなく、後ろにいるティナたちも向けられていた。

 いつかのキマイラ戦を思い出してしまう。


 ティナが張った結界こそあるものの、今はその魔力のほとんどをゴルドの治療に使っているはず。

 その状態でこの一撃を防ぎきれるかは五分五分といったところだろうか。

 まあ、それならそれで構わない。

 あの魔術を結界にまで届かせなければいいだけの話だ。


「くたばれ! ダークネス・フレイム!」


 ヌーイの手から放たれる黒炎が、渦巻きながら俺に迫ってくる。

 俺はそれを真正面から見据え、全力の一振りを返す。


「一の型――天地」


 そうして放たれた斬撃は、いとも容易く黒炎を両断した。


「バカな!?」


 驚愕するヌーイ。

 その隙を見逃すことなく高速で接近すると、俺は剣を右手のみで後ろに引いた。


 そして解き放つ。

 威力を生み出すためではない――どこまでも細く鋭く研ぎ澄まされた、魔力のみを穿つために生み出された究極の一突きを。



「グラディウス・アーツ流・裏伯、肆の型――塵突(ちりつき)



 音を置き去りにした突きが、ヌーイの心臓を貫く。

 ヌーイの体からは剣の切っ先とともに黒色の靄が飛び出し、それを確認した俺は一瞬で剣を抜いた。

 その間、0.001秒にも満たない、まさに神速の剣技。

 直後、靄はパシュッという気の抜けたような音と共に霧散していった。


「……は?」


 そこでようやく、ヌーイは自分の心臓が貫かれたことに気付いたようた。

 慌てて手を胸元に当てるも傷一つないのを確認し、困惑の表情を浮かべている。

 そして――――


「カ、ハッ!」


 突如としてヌーイはその場に崩れ落ちていく。

 同時に奴の額から生えていた角も消滅していき、無事に魔族化が解かれたことを確認する。


「クソッ……俺が、負けた? 違う、俺は……そうだ、俺はあの女に騙されて……」


 消されていた記憶も元に戻ってきたのか、混乱した様子でそれっぽいことをブツブツと呟くヌーイ。

 これでようやく色々と情報を聞き出せそうだ。


「今度こそ終わりだな」


 その光景を見た俺は、確信とともにそう呟くのだった。

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