30 同行依頼と再会
「くそっ、なんでアイツが第一学院に入れるんだ!」
俺――ヌーイ・フランジェは王都の路地裏で一人、壁を殴りながらそう叫んだ。
そうしなければ自我を抑えきれないほどに鬱憤が溜まりすぎていた。
アイツとはクズルークのことだ。
ほんの少し前までアイツは魔術を使えない落ちこぼれだった。
第二学院ではトップクラスの実力を持つ俺にとって、怒りを発散する対象でしかなかった。
けれどアイツは突如として様々な結果を残し始めた。
Aランク依頼を達成したとか、転入試験でAランクパーティを圧倒したとか。
それで第一学院に入れることになったなど、とても納得できるわけがない。
アイツは雑魚だったはずだ!
俺より弱かったはずだ!
絶対に不正をしているはずだ!
だというのに兄のミカオーも、学院長も、アイツの実力は本物だとほざく!
冷静な判断ができないクズばかりだ!
「本当は俺の方が何倍も、クズルークより――」
「あら、いい憎しみの色ね」
「――ッ」
突然聞こえた女性の声に驚きそちらに視線を向ける。
さらなる衝撃の光景がそこにはあった。
その美しい女性の頭には角が二本伸びており、さらに背中から黒色の羽が生えている。
――魔族。文献でしか見たことのないその単語が頭を過った。
「お、お前は……」
「そんなことはどうでもいいでしょう? 大切なのは貴方が復讐したいと考えているかどうかよ」
「……復讐?」
「そうよ。憎らしい相手がいるのでしょう? クズルークくんだったかしら? その者を殺したいとは思わない? 私ならそのための力を与えられるわ」
「ち、から……」
頭がぼんやりとし、女性の言葉が内部まで浸透していくかのようだった。
疑うこともできないまま、俺は手を伸ばす。
「ああ、アイツを、殺すための力が、ほしい」
「ふふふ、契約は成立ね」
瞬間、俺の足元に魔法陣が現れる。
そこから溢れ出る魔力の奔流が俺に力を与えてくれる。
ああ、これならアイツを殺すことができる。
そう確信できるだけの力だった。
「これで最低限の働きはしてくれるといいのだけれど……グレイド鉱山で一目見た時から、彼は厄介になりそうだと感じていたのよね」
あまりの力に興奮していたからか、その言葉を俺は聞き逃すのだった。
◇◆◇
俺とティナが冒険者ギルドに登録してから早十数日。
既に幾つものAランク依頼を達成している俺たちにフルールから呼び出しがあり、その場で一つのお願いをされた。
「他の冒険者のクエストに同行してほしい?」
「うん、その通り。ルークさんとティナさんの実力はもう疑うべくもないからね。溜まっていたAランクの依頼も片付いたし、今は手持ち無沙汰でしょ? だからよかったらなんだけど」
「うーん、俺はいいけど。ティナはどう思う?」
「お兄様と一緒ならば、私はどこでも構いませんわ」
「そうか、分かった。フルール、今の通りだ。同行しても構わない」
「本当に!? ありがとう二人とも!」
フルールはそう言って、嬉しそうに跳びはねる。
ちなみに彼女の頼みもあって、俺はここでは言葉を崩すようになっていた。
ティナは相変わらず敬語だが。
俺とティナが申し出を受け入れたことで、改めてフルールは詳細を伝えてくる。
「今回、晴天の桜に所属する二組のCランクパーティに合同でBランククエストを受けてもらおうと思っているんだ。ルークさんとティナさんには彼らをサポートしてあげてほしい」
「CランクパーティがBランククエストを受けるなんてあるのか?」
「もちろん普段はないけど、今回は特別。実は近々その2パーティをBランクに昇格させようと考えてるんだけど、その前に実戦経験を積んできてほしくてね」
「なるほど」
事情を把握したタイミングで、カランカランとギルドの扉が開く。
「あっ、噂をすればさっそく一組目が来たみたいだね。お~い、こっちだよ、カイルくんたち~!」
「……カイル?」
聞き覚えのある名前だなと思いながら振り返ると、金髪の少年に黄緑色のセミロングが特徴的な少女など、見知った顔が幾つも並んでいた。
向こうも同じことを思ったようで、大きく目を見開いている。
そこにいたのは、先日【虎狼の巣窟】でキマイラに襲われているところを助けたのをきっかけに知り合ったCランクパーティ――【蒼き守護者達】の四人だった。
そうか、こいつらが所属していたギルドはここだったのか。
「ルークさん!? どうしてここに!?」
「……びっくり」
「久しぶりだな、みんな」
驚きつつも、俺はカイルやフィオたちと再会の言葉を交わす。
そしてこの展開に驚いているのは俺たちだけではなく、
「あれ? みんな既に知り合いなの?」
「お兄様、この方たちは?」
フルールやティナも俺たちの関係を不思議に思いそう尋ねてきた。
……ふむ。
あの時はまだ第二学院所属だったため俺のことを隠すようお願いしていたが、今さら気にすることはないか。
「実は――」
そう思った俺は、二人にもあの日の出来事について説明するのだった。




