27 魔力測定
ティナの制裁がいつまで続くのかと思った瞬間、何者かの声が響く。
「待って、待ってそこの君!」
そう言って駆け寄ってきたのは、桃色の髪を肩甲骨まで伸ばした一人の少女だった。
少女はティナを止めようとしているようだ。
「君に迷惑をかけたことは謝るし、ちゃんとここにいる者たちにもペナルティは与えるから。だから少し落ち着いてくれないかな?」
「……そうですね。そろそろ頃合いでしょうか」
少女の懇願に応えるように、ティナは魔術を解除する。
男たちは足の感覚を失ったのか、次々と倒れていく。
それを見てティナが小さく頷いたのを俺は見逃さなかった。絶対Sだよこの子。
「ありがとう、止めてくれて」
「いいえ、構いません。罰さえきちんと与えて下さるなら。それで、貴女はいったい?」
「ああ、そう言えばまだ言ってなかったね。ボクはフルール。この冒険者ギルド、晴天の桜のギルドマスターだよ」
少女――フルールの言葉に俺は驚いた。
おそらくはティナもだろう。
まだ十代半ばほどに見える少女がそれほど重要な役職についてるとは思いもしなかった。
「よかったら、君たちの名前も教えてくれないかな?」
そんな俺たちの驚きに気付いていないのか、フルールは笑いながらそう尋ねてくる。
「ティナです」
「ルークです」
今は貴族であることを隠しているため、姓は告げないことにしておいた。
「ティナさんにルークさんだね。ここにくるのは初めてだと思うけど、新規登録ってことで大丈夫なのかな?」
「はい、それでお願いいたします」
「あはは、ティナさんは冒険者志望とは思えないほど丁寧だね。それはルークさんもか。まあそれはいいとして、さっそく登録に移ろう」
フルールは俺とティナを受付まで誘導する。
その間にも先ほど騒ぎを起こした男たちは、職員らしき者に建物の奥に連れて行かれていた。
フルールは受付に置いてあった透明な水晶玉を二つ手に取ると、俺とティナに差し出してくる。
俺たちが受け取ると、彼女はこくりと頷いた。
「登録時のランクを決める参考にするために、いくつか試験項目があるんだ。そのうち最初にするのが魔力測定で、これは魔力量を測ることができる水晶玉なんだ。さっそくだけど、魔力を全力で注いでみてくれないかな? 大丈夫だとは思うけど、基準値を超えていないと登録はできないから気を付けてね」
あっ、詰んだ。
俺はそう思った。
魔力を外部に放出できない俺では、どうあがいても記録が0になる未来しか見えない。
同じことを思ったのか、ティナが心配そうに俺を見る。
「じゃあ、まずはティナさんからお願い」
「……分かりました」
しかし上手く誤魔化す方法が思いつかなかったのか、促されるままティナが魔力を注ぎ始める。
水晶玉はどんどんと青色に染まっていき――次の瞬間、パリンと砕けた。
その衝撃的な光景に、フルールだけでなく他の職員や冒険者たちが騒ぎ出す。
「なっ、水晶玉が砕けるほどの魔力量だって!? そんなのレオノーラさん以来じゃないかい!?」
「レオノーラって、あのSランク冒険者のか!?」
「マジかよ、すげえの見ちまったぜ!」
興奮冷めやらぬといった様子で、フルールはティナの手を握る。
「魔力量だけでも、文句なしにAランクだ! 他の試験の結果次第ではSランクだってあり得るかもしれない! すごいよ、ティナさん!」
「ありがとうございます。ですが私よりお兄様の方がすごいですよ」
「お兄様!? 兄妹だったの!? いやそれよりも、ティナさんよりもすごいだなんて、いったいどうなるんだ! 次はルークさん、お願いします!」
おいティナ、なぜハードルを上げた。
俺が魔力を放出できないと知ってるだろう。
周りからの期待の視線がすごく痛いんだが……
はあ、仕方がない。
覚悟を決めた俺は水晶玉を握る。
そして――
軽く力を入れた。
瞬間、水晶玉は爆発した。
木っ端微塵だ。
ティナの時以上のざわめきが発生する。
「ええぇっ!? いま何をしたの!?」
「がんばりました」
「頑張った!? ティナさんとは比べ物にならない速度で壊れたんだけど! なんなら魔力が注がれていく過程を目視できなかったくらいだよ! どれだけの魔力量なのか想像もできない……」
ふむ、うまくいったみたいだ。
水晶玉を壊したことで認められたティナを見て、もしかしたらと思い実行してみたのだが。
魔力で破壊したと思ってもらえたらしい。
やっぱり筋力は最高だな。
そんなこんなで、第一関門を突破した。




