26 冒険者ギルド
翌日、俺は第一学院のある北区ではなく、中央広場に来ていた。
この噴水の前で待ち合わせがしたいとティナが言っていたからだ。
今日は身分を隠してギルドに行くことになるため、制服ではなく動きやすい服装にしてある。
俺が腰元に備えている剣が見慣れないのか、道行く人々が不思議そうな表情でこちらを見ていた。
そんな中、突然ざわりと周囲が賑わいだす。
「お待たせいたしました、お兄様!」
そう言ってこちらに駆けてくるのはティナだ。
動きやすさと落ち着きを兼ね備えた装いをしていて、とても似合っていた。
そんなティナに周りも目を奪われているようだ。
ティナは俺のすぐ前にくると、その場でくるりと回る。
「どうですか、お兄様? とっておきの勝負服です!」
「? そんなに戦いやすい服なのか? そうは見えないけど」
「む、違います! そうではなくてですね――」
「まあそれはそれとして、よく似合ってるよ」
「――お兄様!」
ティナは嬉しそうに抱きついてくる。
しっかりと褒めたのが良かったみたいだ。
けど、周りの視線が少し痛い。
呪詛みたいなのを呟いてる奴もいるし。
早くここから移動したほうがいいだろう。
「じゃあ行くか、ティナ」
「はい!」
俺たちはそのまま、南区にある冒険者ギルドに移動した。
冒険者ギルドに辿り着いた俺たちは、さっそく重々しい扉を開けて中に入る。
真っ先に視界に飛び込んできたのは大量の冒険者だった。
中は受付と酒場に分かれているようで、そのどちらにも人が溢れている。
来たのは初めてだから、この喧噪ぶりには驚かされた。
第一学院や第二学院では、王立ギルドから遣わされた職員が受付を行い、さらに依頼を受ける者も貴族しかいないため落ち着きがある。
しかし冒険者ギルドの場合は運営も依頼を受ける者も基本的には平民だ。
だからこそこんな雑多な感じになるんだろう。
楽しげな雰囲気があるのは喜ばしいが、その分礼儀がなっていない者もいるようだった。
「おい見ろよ、あの青髪の女。そうとうな上玉だぞ」
「あまり見ない顔だな。新人か?」
「分かんねぇけど、とりあえず……」
ティナに興味を持ったらしい男たちが、ぞろぞろと近づいてくる。
目的は分からないが、いつでも対応できるように構えておく。
集まった男のうちの一人が、ティナに声をかける。
「なあ嬢ちゃん、ここは初めてか? 俺たちが色々と教えてやってもいいぞ」
「必要ありません。どいてくださいませ」
「まあまあそう言うなって。冒険者は持ちつ持たれつなんだからよ。そうだ、何だったらうちのパーティに入るか? 嬢ちゃんみたいな美人なら、弱くても歓迎だよ、がはは!」
「……お断りしますわ。私はこの人と一緒に依頼を受けますので」
そろそろ不快に感じ始めたころ。
ティナは誘いを断るために俺を引き合いに出す。
男は俺を見て笑った。
「はは、そんな弱そうな男より、俺たちの方がよっぽど役に立つぞ」
「――黙りなさい」
その言葉が、男たちにとって悲劇の始まりだった。
急激に周囲は底冷えし、ティナの足元から氷が出現する。
その氷は周りの男たち全員の膝までを凍らせ、身動きできない状態にした。
「なっ、何をした!?」
「足が凍って動けねぇぞ!」
「無詠唱か!? ありえねぇ!」
驚愕に声を荒げる男たちに向け、ティナは言葉通り、凍えるような声で告げる。
「私だけならばともかく、お兄様を馬鹿にした貴方たちには制裁が必要です。この場で膝を地につけて謝罪するか、それとも全身まで氷漬けになるかを選びなさい」
「なっ、わ、悪かった! 謝るから」
「おや、膝を地につけろと言ったはずですが?」
「膝凍ってるぅうううう!」
そんな叫び声が、ギルドいっぱいに広がるのだった。




