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17 才能開花

転入試験編も佳境ということで、本日は3話投稿いたします!

まずは1話目です。

 会場中の注目が俺に集まるのが分かる。

 ほとんどの奴らは、俺が何をしたのか分かっていないのだろう。

 実際のところは身体強化で高速移動し、軽く衝撃を与え気絶させただけだが、ご丁寧に説明する必要はない。

 敵がこのまま呆気にとられているのであれば、そのまま全員倒すだけだ。


「ッ、くるぞ! 結界を張れ!」

「……ふむ」


 しかし、想像していた以上にミカオーは優秀だったらしい。

 素早く味方に指示を出し、七人分の魔力を注いだ結界を張る。

 俺は剣で結界を切り裂くことはせず、あえてその直前で動きを止める。

 それを見て、どうやら俺が諦めたと思ったらしいミカオーは表情を崩す。



「ははっ、驚いたよ。何をやったのかは分からないけど、もう味方の一人が倒されるなんてね。けれどこの結界を破壊できない以上、君に勝ちの目はないよ」

「こっちは別に俺一人だってわけじゃないけどな」

「ああ、彼女のことかい? そちらについても問題ない。対策はしてあるさ」

「っ」



 どうやら結界は俺とミカオーたちの間だけではなく、俺とユナの間にも張られているようだ。

 ユナは驚いたように俺の方を見ている。

 これで協力して戦うことを防がれてしまった。


「多対一の状況を作り出すのが、魔術師の戦いの鉄則だ。悪く思わないでくれよ」


 ミカオーはこれで優位を築けたと考えているらしく、余裕な様子でそう告げる。



「しかし、問題は君たちを倒すためにどう戦力を分散させるかだね。どうやら君は少しばかり動けるようだから、包囲網を抜けられるようでは厄介だ。となるとこちらに戦力を割きたいが……」

「ミカオー、ミアレルトの方は俺一人で十分だ。また昔みたいに何もさせることなく倒してやるよ」

「そうかい? ならばそちらはヴェレに任せるよ。なるべく早く倒してこちらに合流してくれ。彼を相手にするのは少々面倒そうだ」

「了解!」



 そう叫びながら、ヴェレは結界を抜けてユナのもとに向かう。

 味方の移動は可能な構築のようだ。

 なんにせよ、これでユナの相手はヴェレ一人。

 俺の相手はミカオーたち六人になった。

 外野からは開始直後にこちらが使用した秘策は防がれ、後はただ蹂躙されるのを待つばかりのように見えるだろう。


 そんな状況の中、俺は相手に見えないように小さく微笑み、心の中でこう零した。


(――作戦通り)



 ◇◆◇



「ほ、本当にルークの言った通りになった」


 私――ユナ・ミアレルトはこの状況に対して驚愕せずにはいられなかった。

 作戦会議時にルークが言っていた通りに事が進んでいる。


 もともとルークは、炎黙の顎を無力化させるだけなら二秒もかからないと言っていた。

 Aランクパーティを相手にふざけたようなセリフだが、これまでのルークを見てきたらそれは本当のことだと信じることができた。


 しかし、だからこそルークが恐れていることがあった。

 一瞬で倒してしまったら、観客たちは何が起きたのか分からず、逆に自分たちの実力を証明することができないかもしれないこと。

 それに加え、ルークが一人で相手全員を倒してしまったら、私の活躍の場がなくなること。


 それは、ちょっと困る。

 私だって頑張りたい。いつまでもルークに頼っていてはだめだ。

 自分の力で合格を勝ち取らないといけない。



 そんな気持ちを伝えた後に、提案された作戦が以下のようなものだ。

 人数差がある相手は、必然的に多対一の状況を作り出そうとしてくるはず。

 あえてその策に乗り、お互いに別々で戦って実力を示す。

 そうすれば自分たちの力を見せることも、二人ともが認められることも可能になるはずだと。


 私はその提案に頷き、そのための準備をしてきた。

 思い出しただけで体が震えそうになる程の準備だったけど、一生懸命頑張ってきたんだ!


 一度ゆっくりと深呼吸をした後、私に向かってくるヴェレに視線を合わせる。

 ルークが開戦直後に大暴れしてくれたおかげで、こちらに割ける戦力は一人だけだとミカオーは判断したようだ。

 だけど決して油断はできない。

 彼は現在、単独でもAランクに限りなく近いBランクだとうわさに聞いたことがある。

 これまでの私では為す術もなくやられるしかなかったような相手。

 そんな相手を倒して、自分の実力を証明するんだ!



「がんばる!」


 気合を確かにするべく叫ぶと同時に、20メートル程前にヴェレがやってくる。



「残念だが、頑張ろうが何しようが無駄だぜ。お前じゃ俺には勝てねぇよ」

「……そんなこと、分からないよ」

「わかるさ。あっちの奴はちょっとは動けるみたいだが、お前はそうじゃないだろ。自分を守ることにしか魔力を使えず、ただただ攻撃を耐え忍ぶしかできない。そんで魔力が尽きたらギブアップだ」

「あの頃とはもう違うよ」

「だったら何が違うのか、教えてくれよ!」



 叫びながらヴェレの手から放たれたのは、巨大な炎の球体だ。


魔心ましん!」


 私は素早く魔心を張ることによってその攻撃を防ぐ。


「はは、防御力だけはいっちょ前ってか。けど、それがいつまでもつかな!」


 続けてどんどんと放たれる炎たち。

 これで私の魔力を削りきるつもりなのだろう。

 それらを魔心で防ぎながら、どうしても私は一つだけ彼に言っておきたいことがあった。


「ねえ、ちょっとだけいいかな」

「なんだ? 命乞いなら別に聞いてやるぞ」

「き、聞いてくれるんだ……って、そうじゃなくてね」


 ぎゅっと、魔心の形を変化させる。

 球体として体を包むのではなく、薄い膜のように纏う。

 そして――


「“格闘家”に対して、これはちょっと近すぎだよ」

「は? ――がはっ!」


 ヴェレは戸惑いに首を傾げる余裕すらなかった。

 強固な魔心に覆われた私の拳が、彼の腹にめりこんでいたからだ。


「えいっ!」


 その勢いのまま拳を振り切ると、ヴェレの体ははるか遠くに飛んでいく。

 だけど逃がさない。

 私は全力で地面を蹴り、追撃する。

 そんな私を見てヴェレは大きく目を見開く。


「ま、待て! こんなの想定してねぇよ!」

「とっておき、だからね!」


 彼が苦し紛れに放つ魔術を躱す必要すらない。

 魔心が自動的に弾いてくれる。

 だから私は、攻撃に専念できる!


「ふ、ふざけんな! 魔術師がこんな戦い方するなんて――」

「これで、おしまい!」

「ぐはっ」


 最後にこれまでで一番の力で、拳を振るった。

 油断していたヴェレを倒すにはそれで十分だったらしい。

 ヴェレはその場に崩れ去るようにして倒れていく。


「な、なにをすれば、こんなふうに……」


 ヴェレは最後の力を振り絞るように、そう尋ねてくる。

 私はこの三日間の恐ろしい日々を思い出しながらも、誇らしく告げた。


「ルーク流身体強化トレーニングは、本当に大変だったんだから!」

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― 新着の感想 ―
[一言] 一回でも異世界をすくった奴のトレーニングだもんな…。そりゃあ、完全防御の相手に近づいて魔法を打つのは定石に近いけど、格闘家相手ならむしろ悪手。 一対多の方がコンビネーションとかの問題がある…
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