15 転入試験準備
「さあ、とうとう本番だな」
「そうだね、ルーク」
学園長室での会話から三日後。
俺たちは転入試験を受けるべく第一闘技場に向かっていた。
通常ならば試験は訓練場で行われるが、今回に限ってはこちらで行うと通知があったのだ。
その理由はすぐに分かることになる。
「……ねえ、ルーク。人、多くない?」
「そうだな」
第一闘技場の周囲には、何故か大量の学生がいた。
純白の制服も黒色の制服も入り混じっている。
試験後のこの期間は自分の領地に戻るのが慣習のはずだが、それを覆すぐらいの注目を浴びていたのだろうか。
さすがにこれは想定外だ。
俺はともかくユナが心配だ。
「大丈夫か、ユナ?」
「だ、だだだ、大丈夫だよ! わわわ、私に任せてね!」
全然大丈夫そうではなかった。
とはいえ、なんだかんだ言ってユナに度胸があることはもう分かっている。
一度戦いが始まれば問題なく動けるだろう。
そんなことを考えていると、こちらに近づいている複数人の影に気付く。
合計で八人。その中心にいる赤髪の男は、俺たちに微笑みかける。
「初めまして、今回貴方達の相手を務めさせていただくパーティ【炎黙の顎】のリーダー、ミカオー・フレンジェと申します。本日はよろしくお願いします」
「は、はい。ユナ・ミアレルトです。よろしくお願いいたします」
「ルーク・アートアルドです。よろしくお願いいたします」
挨拶を終えるも、ミカオーは視線を俺たちから外さない。
というよりはむしろ、俺からか。
「君がルークくんだね。弟から話は聞いているよ」
「弟?」
「ああ、ヌーイのことだよ」
ここでようやく思い出した。
フレンジェというのは確かヌーイの姓だ。
アイツから何か話を聞いているのだろうか?
「ヌーイは君たちの試験結果が不正だと強く主張していてね。弟の頼みを受けてこうして相手を名乗り出たんだ。八対二なんて卑怯な形になってしまってすまない。僕たちは全員そろってようやくAランクとして認められる程度の実力だからね」
気のせいだろうか。
ミカオーの微笑みの質が変わる。
「だけど、安心してくれていい。仮に君たちがBランク程度の実力があることさえわかれば、結果に関わらず第一学園には推薦させてもらうからね。もっとも、それができればの話だけど」
「…………」
これは言外に告げられているんだろう。
俺たちにはAランクの実力などなく、それどころかBランクにすら達していない。
それをこれから証明してやると。
おもしろい。
「では、こちらからも一つだけ」
「なんだい?」
「これは私たちの実力を示す意図も含まれた試験です。例え圧勝できたとしてもAランクだと認められなければ意味はないことを、そちらもご理解いただければと」
「ッ……言うね、君」
むしろそっちがAランクにふさわしい戦いをしろよ、という意味合いの言葉に、ミカオーは表情をこわばらせていた。
そんなミカオーの後ろから、新しく茶髪の男が前に出てくる。
「よお、ミアレルト、久しぶりだな」
「っ、あ、貴方は……」
「まさかお前が転入試験を受けると聞いた時は驚いたぜ。どんな卑怯な手を使ったのかは知らねえが安心しな。今回も俺が倒してやるからよ」
「…………」
「何にも言い返してこねぇのかよ。まあいいや、行こうぜミカオー。こんな奴ら、すぐに倒せるって」
「……ああ、そうだね。それじゃまた後で」
去っていく八人の背中を見届けた後、ユナに問う。
「ユナ、あいつはいったい?」
「えっとね、学園に入学するとき、実力を図るための模擬戦があったでしょ? その時にボロ負けした相手なんだ。だから少し苦手意識があって……」
「そういうことか」
それはまた勝たなければならない理由が増えたな。
俺とユナは控室に向かい、試験開始に向けて準備を進めていった。