01 異世界を救った勇者の帰還
新作です。
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遥かな旅路の末、ようやくたどり着いた魔王城。
そこで最後の戦いが終わりを告げようとしていた。
魔王の苛烈な攻撃をかいくぐり振るった剣が、魔王の胸元に突き刺さる。
「……ふっ、我もここまでか」
自らの死期を悟った魔王はそう呟くと、静かに目を閉じていった。
「倒した……のか?」
「やったのね、ルーク!」
「人類の勝利だ!」
後方で、これまで支援に徹してくれていた仲間たちが嬉しそうに叫ぶ。
だけど俺――ルーク・アートアルドが彼らと共に喜びを分かち合うことはできなかった。
「体が、薄れていく……?」
異世界から勇者として召喚された俺は、魔王を倒すためだけに戦ってきた。
魔王を倒し自らの役目を全うした今、もうこの世界に残る理由はない。
契約に従い、帰還魔法が発動するのだ。
「そんな、戻っちまうのかよルーク!」
「仕方ないよ、ルークはルークの世界に帰るんだよ」
「お前のこと、絶対に忘れないからな!」
俺が異世界に呼び出された当初、全く強くもなかった俺を支え、今日まで共に戦ってくれた仲間たちの言葉に心が満たされる。
オルド、リース、ガイアスの三人に振り返り、手に持つ剣を掲げる。
「俺も、お前たちと過ごしたこの日々を絶対に忘れたりなんかしない。皆、ありがとう!」
それが最後の言葉だった。
俺の体は完全に消え、意識も暗闇の中に落ちる。
ああ、幸せな日々だった――
◇◆◇
「はっ、あいかわらずクズルークは無能だな! この程度で気絶するだなんて!」
懐かしい声が、俺の意識を呼び戻す。
周りを見渡すと、制服を着た学生が多くいるのが見えた。
「えっと、これはいったい、どういう状況だ……?」
混乱する俺を見て、目の前にいる男は笑う。
「はっ、ようやく目覚めたのか。ほら、まだ攻撃は続くぞ! 無様に泣き叫べよ!」
「――ああ、そういうことか」
その言葉を聞いてようやく思い出した。
ここは俺が生まれ育った世界、ルアース。
魔術師としての才能がそのまま地位の高さに繋がる世界だ。
そして俺が今いるのが、王立魔術第二学院。
貴族の中で才能がある者が第一学院に通う中、才能に劣る者が集められたのが、ここ第二学院だ。
そこで溜まったうっぷんを晴らしたいからだろう。
学院の中で最も魔術師としての才能がない俺は、周りから無能として蔑まれる対象だった。
「嫌がらせなんかも、よくされたしな」
この状況もまた、そのうちの一つ。
目の前にいる男――ヌーイは俺に対して、日々腹いせに魔術を放ってきていた。
そんなことが続いたある日のこと。
突如として俺は異世界に勇者として召喚され、魔王討伐の日々を送ってきたわけだが――どういうわけか、召喚当時に帰還したようだ。
なぜだかは分からない。
「まあ、その辺りはまた後で考えるとして」
ひとまず、今何をするべきかについて考えよう。
とりあえず分かるのは、今の俺がヌーイ程度に負けるわけがないということ。
異世界で俺は、自分に剣の才能があると知った。
その才能はきっとこの世界でも通用するはず。
まずはこの場を借りて、それを証明するとしよう。
「よっと」
立ち上がり、自分の体の状態を確かめる。
怪我だらけだ。仕方ない。
体内の魔力の循環を活性化させ、自然治癒力を高め怪我を治す。
よし、もう問題なく動けるな。
「ははっ、起き上がったのか、いいぞ、褒めてやる。そこまで俺に痛めつけられたいみたいだな、クズルーク」
「悪いが、少し静かにしてくれ」
「……は? いま何て言った? お前が俺に黙れって言ったのか?」
「ああ、これ以上は聞くに堪えないからな」
「ッ! ふざけやがって! ぶっ殺してやる!」
これまではただ攻撃の的になるだけだった俺の反抗的な言葉に苛立ったのか、顔を真っ赤にして声を張り上げている。
俺の変わり様に驚いたのはヌーイだけではなかったらしく、周囲の者たちも騒いでいた。
「おい、あのクズルークが逆らったぞ」
「この学院で一番才能がないくせにな。初級魔術すら使えない分際で生意気な」
「それどころか魔力を外に放出することすらできないんだろ? 話にならねぇよ」
周りの言葉を聞き、ヌーイは笑みを浮かべる。
「ははっ、こいつらの言う通りだ。俺に逆らったことを後悔しやがれ! ファイアショット!」
そう叫びながら、ヌーイが放ってきたのは巨大な炎の塊――中級魔術【ファイアショット】だった。
中級魔術を扱えるだけで、この第二学院では優秀なのは間違いない。
だが――――
「無駄だ」
その程度、俺には通じない。
右手に魔力を集め、小さく振るう。
それだけで炎の塊は弾かれ、空高く飛んでいった。
「ふむ、思ったより軽いな」
「なっ! 嘘だろ!?」
「次はこっちの番だ」
この程度の敵に剣はいらない。
俺は魔力を体内で循環させ身体強化を行うと、地面を強く蹴る。
一瞬でヌーイの背後に回ったが、それを視認できたものは一人もいないみたいだ。
「どこにいきやがった!?」
「後ろだ」
「なにっ――ごほっ!」
振り向くヌーイの顎に軽く掌底を放つ。
それだけでヌーイは脳震盪を起こし、目を回して地面に崩れ落ちた。
これで俺の勝ちだ。
「冗談だろ、ヌーイが負けた?」
「てか、クズルークは何をしたんだよ、何も見えなかったぞ」
「何か卑怯な手を使ったんだろ!? そうに違いない!」
俺が勝ったことが信じられないんだろう。
周囲のざわめきは一層強くなっていた。
それを聞き流しながら、俺は思考に沈む。
さて、この後はどうするべきだろうか。
この場の事態の収拾についてではなく、力を得た俺がこの世界でどう生きていくかだ。
異世界では俺は勇者として、何をおいてもまず魔王を倒すために行動してきた。
けど、この世界では違う。
今の俺には何の使命もなく、好きなことを好きなようにしても問題ない。
「そうだな、まずは」
今の俺の力が、この世界でどれだけ通用するのかを確かめたい。
第一学院、冒険者、魔術騎士、多くの実力者と戦ってみよう。
その後のことは、その時考えればいい。
「さあ、始めるとするか!」
こうして、俺の新しい人生が始まったのだった。
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