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X・x・R(ゼノ・クロス・リアリティ)  作者: 描々云々
【序章】混同(コンヒューズ)
5/25

美味しい牛乳はいかがですか?

 一も二もなく俺は手渡された哺乳瓶を手に取り、チュパチュパとまるで銭湯の風呂上がりかのような勢いで牛乳をがぶ飲みした。


「プハーァッ」


 と快哉(かいさい)に飲み干した俺。とそこで、


「実際ニハ、辛サヲ感ジル「TRPV1」トイウセンサーガ反応スル食前ナドニ、牛乳ニ含マレル『カゼイン』トイウ成分ヲ摂取スル事ニヨッテ、ソノ辛サヲブロック出来ルト言ワレテイル」


 親切に牛乳を渡してくれた謎の幼女に、そんな機械交じりのうんちくを垂れ茶々を入れるのが、もはや身も心も無機質な機械男:械動攻機(かいどうこうき)だ。

 要するに、辛さを感じてしまった後ではもう何を摂取しても後の祭り。お前の行為はすでに手遅れだよという風に、このデリカシーというか優しさというか、大事な何かが欠如している機械は婉曲(えんきょく)に言っている。

 それを聞き「そんなぁ」とあからさまに悲しい顔をする幼女。


「別に、辛さ云々の話じゃねえ。早く流し込みたかったのと、舌を上書きしたかったからベストなタイミングだったよ。……ありがとう」


 すぐさま俺は、命の恩人へのフォローと感謝をする。

 そして改めて幼女を見ると、その年の頃5、6歳であろう女の子は、まるで新鮮な牛乳の擬人化のように白くっ透き通った長い髪・肌をしており、身に纏っているワンピースもストラップサンダルもすべてが一寸の(けが)れもない白。

 一瞬、《牛乳の精霊》かと思った。


「お嬢ちゃん、お名前は?」


「みるくの名前は《佐藤みるく》!みんなに、美味しい牛乳を飲んでほしくて配ってるの。お姉ちゃんと、ロボットさんも美味しい牛乳はいかがですか?」


 注木(そそのき)がそう尋ねると、まさかの名前すらも〈みるく〉。これこそ牛乳を愛し、牛乳に愛された幼女だ。


「お姉ちゃん!?お姉ちゃんも頂くっ!」


「オレハ、喉ハ乾カナイノデ大丈夫ダ。機械ダカラナ」


 元気よく手を挙げた注木と、それはもはやお決まりとなった常套句(じょうとうく)『機械ダカラナ』で断る械動。


「えぇ…、ロボットさんは低脂肪の方が良かった?」


 そんなアンドロイドにみるくは泣きそうな顔をし、上目遣いと甘い声で問いた。


「イヤ、ソウイウ事デハ無イ」


 【V・Vバーチャル・ヴィジョン】が誇る優秀なAIは、アバター作成時の心理テストでその人間の性格・趣味嗜好(しゅみしこう)等々を正確に読み取り反映することができる。

 おそらく現実でのこの男か女かも分からない機械人間は、冷静沈着で何事にも動じず手先なども器用なのだろうが、その感情は希薄で人の心情が全く読めない無神経且つ無慈悲な為人(ひととなり)をしている。と、この出会って数時間で分かった。


 シュンッと項垂れる幼女を見てると人でなしの俺ですら思うところがあり、注木と揃って「ちょっとくらい飲んでやれよ」という目線を冷徹な機械に向かって送る。

 さすがのアンドロイドもその視線に耐えかね、


「ナラ、頂コウ。低脂肪ノ方ヲ」


 ついには重い腰を上げ、見事にその変な拘りをへし折ってやった。

 械動がそう口にするやいなや、みるくは子供特有のまるでアシュラように一瞬で表情が変化し満面の笑みとなる。

 そして一つ、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そのまま流れるように目の前の(くう)を操作する指使いは、何となく見覚えがある。俺達にはその目の前にある『何か』が一切伺えない状態だがほぼ間違いなくそれは、全【V・V】プレイヤーが例外なく有しているであろう《ステータスウィンドウ》だ。

 一種の個人情報とも言えるステータスウィンドウは、デフォルトの初期設定としては常に公開されている状態がデフォルトだ。

 しかし設定で第三者にも閲覧できなくなるように、非公開設定の変更も可能。よって、今俺達にはそのウィンドウを見ることはできない。

 まあ別に住所や電話番号などバレたらまずいもんが書いてあるわけでも無いし、男の場合は有名人くらいしか非公開する意味はあんまりないのだが、女に至っては少し違う。

 その個人情報は身長・体重からスリーサイズまで記載されるので、女子からしたら隠したいのは必至だし。何よりそこには自身のユーザーIDも載っているため、もし女子プレイヤーが見られようものなら出会い厨やら何やら面倒臭い男達からのフレンド申請やらチャットやらが鬼のように送られてくることだろう。さらにはこんなご時世であるし、何か他にもっと恐ろしい悪用方法があるかもしれない。特に子供には、非公開設定は必要なのだ。


 しかしまあ、こんな子供ですら【A・V】をプレイしているのだから、やはりその知名度と人気は計り知れない。とそんな感心に浸るのも束の間、それはさらなる驚きが俺達を襲う。

 ウィンドウ画面を操作し終えたみるくは何もない(くう)から2つの哺乳瓶を顕現させると、さらに淡い光を宿したその掌から純白の牛乳を放射?放乳?し始めた。


(おいおい嘘だろ)


 それはまるで炎や水、雷や土などの能力を扱うのと同じような感覚で幼女から繰り出される。

 まだ人畜無害、純粋無垢な幼女であるが為助かったが、これが年期の入ったおっさんであろうものならその絵面は完全にアウトだった。そして同時、俺は密かに思う。

 『何だ、この能力は?』と。

 能力の全貌までを見たわけでは無いので何とも言えないが、分かってる限りでは牛乳を生成するだけの能力。【A・V】にはこんな能力もあるのか。

 他人の、しかも子供のステータスや権能にあれこれ言うのはナンセンスかもしれないが、少なくとも俺からしたら、これは()()()()()の部類に入る。


 【A・V】の最大の長所と言え同時に短所とも言えるシステムは、やはりその唯一無二の|《・》A()A()()()()()()()()()()|》《・》()()()だ。

 AAの場合、愛凰のように現実世界の自分とは似て非なる外見、性別までをも変更可能。キャラメイクのディティールは無限に凝る事ができ、他の人とは絶対に被らない個性や特別性を見出す(途中で変更も可能)。

 そして最も重要視され、且つ問題が多いのが『権能(オーソリティ)』だ。

 心理テストのような質疑応答を答え、AIが自動で回答者が使いやすい・使いたいなどその人に合った権能を一つ与える。

 そちらも一見、アイデンティティやオリジナリティーがあり良いシステムに思えるが、AAと明らかに違う点が一点。一度与えられたら変更不可能、AIによるランダムでの一発勝負。というところだ

 一応リセマラ可能で、もう一度質問をやり直す事はできるが、毎回ランダムかつ一貫性のない質問なので、結果何か優れた能力を狙ってというのは難しい。

 そこで気に入らない権能を引いてしまう事は十分にあり、何回かリセマラしたが納得いかずプレイヤーが一気に萎えてしまい二度とプレイしなくなってしまうというのは少なくない。


 そのシステムについては、まさにどのゲームでもあるように賛否両論だ。

 所謂ハズレ能力を引いた際には公平性やモチベに関わる為、その仕様自体失くすべきだという一般層の意見に対し、それを差し引いてもやはり自分だけの能力は魅力的だし、運試しの一発勝負にそそられる。理論上どの能力も使い方次第で優劣は無いと運営が公言してるのだから、弱いのはお前らのプレイスキルが無いと煽るゲーマー層。

 そんな風に、おそらく一生終る事のないであろう贅論(ぜいろん)がネット上にて永遠と繰り広げられているのが2年前の光景だった。現在では少しは緩和されたのだろうか。

 とまあ少し話は逸れたが、要するにどちらかと言えば一般層に近い思想を持っている俺は、自分だけの特注の権能が『使えない能力』だった際には、直ちにログアウトしてそのソフト片手に『ゲームを売るならGAME‐OFF(ゲームオフ)』に猛ダッシュするのは必至。

 その時点でクソゲー認定を下し、プレイするのを放棄してしまう。


 しかしこれもまた、先程の械動同様に、高性能AIが適切に仕事をした結果なのだと言える。

 小さな子供がその為人(ひととなり)を判別されたのなら、あまりの無害さに権能《牛乳生成》になってしまうのもまあ頷ける。

 加えてこの年頃の子供達のゲームに対するモチベーションやプレイングは、もはや一般的なゲーマー達には到底理解できない次元にあり、ストーリーや目標などはフル無視で自分達の好きな様にストレスなくプレイできればそれでいい。

 おそらくこの牛乳が大好きな幼女はスローライフ型を好み、牧場や酪農スキルがなくとも一発で牛乳が生成、あるいは乳製品全般の特化型AAになった。

 どんなに変な見た目、弱い能力であっても自分がそれを気に入り、楽しくゲームがプレイできていたのであればそれに越したことはないだろう。


 まあ逆に、今目の前にいる幼女が実はキャラメイクによるもので、子供を装った屈強なオッサンという可能性もあるし、牛乳生成は実は技巧(スキル)でもっとヤバい権能を隠し持っている可能性も否定できない。


「いただきまーす!」「アリガトウ」


 出来上がった牛乳を注木と械動が受け取ると、俺はその機械がどうやって液体を飲むのか気になり横目で見つめる。

 すると械動は腕からチューブのようなものを取り出し、哺乳瓶へ取り付けるとそのまま牛乳を吸引し始めた。


「それで飲んでるの?」


 さすがのみるくも気になったのか、不思議なモノを見るような視線で尋ねる。


「ソウダナ。私ハ口ガ無イカラ、コレヲ通シテ体内ニ投与シテルンダ」


 やっぱそんな感じかと二人の会話を眺めつつ、夏の清々しい青空に充てられていた俺はまさに超久しぶりとなる運動と昼飯を食べた事により、急激な睡魔が襲って来た。

 

(ちょっとくらい寝ても怒られないだろ)


 初回からそんな肩肘張ってかっ飛ばしても後でバテるのがオチだし、人間には睡眠が必要不可欠だ。昼食・昼寝までが『昼休み』と言える。

 そんな免罪符を自分に言い聞かせながら、「どっから来たの?」とみるくとの会話に花を咲かせている注木達をよそに、俺は心地よい風に吹かれながら風呂敷の上で贅沢に寝転ぶ。

 すると、まるで気絶するかの如く一瞬で意識が遠のいていくのを感じながら、深い眠りに着くのだった。


 *****


「……イ、…オイ、『フェニックス』。起キロ」


 そんな今日何度目か、デジャブとも思える機械交じりの目覚ましで、俺の意識は覚醒していく。

 何だかすごく気持ちが悪い。


「ゲホッ、ウォエッ、此処、何処?___てか寒っ!」


 空き地で特訓をし昼休憩中にそのまま寝入ったところまでは覚えているが、それからの記憶がまったくない。肩を縮こませ、両腕を擦りながら俺は械動に尋ねる。


「ドウヤラ、()()()()()シテオクタメノ、バカデカイ冷凍庫ノヨウダナ」


 そう淡々と械動が告げ辺りを見ると、そこは一面が銀箔に包まれ所々に冷気が立ち昇り、加えて季節は暑さが滲み滴る真夏の筈が体感真冬の北海道くらい寒い。


「なんだ、これ?」


 加えてそこには、()()()()()()()()()がいくつも吊るされていた。


「おい、俺らは公園でロリと喋ってた筈だぞ。何でこんな所にいんだ?」


 もの凄く嫌な予感をヒシヒシと感じながら、全くもって不明な経緯(いきさつ)に思わず苦言を挺する俺。


「ソレニツイテハ、此処ヲ脱出シテカラ話ソウ」


 そう言って、械動が視線を向けるのは右斜め下。ぐったりと壁に寄り掛かる、注木へと向けられた。

 それは出会ってから絶やすことなく元気溌剌(はつらつ)だったナース少女が、初めて見せるかなり衰弱した姿。

 一瞬躊躇われたが、「思春期を発動してる場合じゃない!」と触れた身体はとても冷たい。


(……そうか)


 よくよく考えてみれば、人間を保冷しておくための保管庫が『()()()()()()くらい』の寒さで済むはずが無い。

 おそらく俺がそう感じたのは、このAAの特性によるもの。フェニックスと謳われるだけあり、この体内には常時熱や炎が蓄積されてる。

 そのため基礎体温は通常の人間のより大分高く、それ故他の人の倍は喉が渇いたりする。

 械動の方も空き地に行く前言っていた『寒さを感じない』という体質が功を奏し、別段弱ってい風には見えない。

 俺と械動の場合はこの冷凍庫の中でも平常でいられるが、こんな薄着且つ寒さに耐性があるわけでもないナースというAAである注木射恋(いこい)は違った。


 完全に凍結し手遅れになった状態が、今吊るされている人間達。

 アレらを10と表すなら、今の注木の状態はおそらく3か4。意識はないが、息はしている。身体は冷え切ってはいるものの、凍ってるところは見当たらない。どうやらまだこの冷凍庫に入れられてから、そんな時間は経っていないようだ。

 たしかに一刻も早く此処から出して温めてやりたいが、四角形の室内をぐるりと見渡しても凹凸一つないフラットな冷凍庫の壁に出口のようなものは見当たらない。

 するとそこで、械動は壁の一部の前で足を止めた。


「先程オ前ガ目覚メル前ニ少シ調ベテイタンダガ、此処ダケ質量ガ違ウ。オソラク此処ガ出入口ダ」


 一見の他の壁と変わらないが、機械仕掛けの能力で分かるのか械動はキッパリ告げた。

 だがしかしこういった冷凍庫などは通常、中から扉が開かないようになっているのが一般的。出口が分かったところで、それをこちらから開けられる手段はない。

 ならば俺達は完全に此処に閉じ込められ詰みかと思われたが、械動は扉の前から動かずその壁にそっと手を翳す。


「今回ハ、相手ガ悪カッタナ」


 すると一拍置いて、ピーンという音と共に重厚な冷凍庫の扉が自動でゆっくりと横にスライドさせていく。


「『ナース』を連レテ来テクレ」


 呆気に囚われていた俺は言われた通り、弱っている注木をおぶっていとも容易く解錠された扉を潜る。

 外に出るとそこは、何とも恐ろしい引き籠りニートの部屋よりも陰鬱(いんうつ)で、禍々(まがまが)しく冷たい二畳ほどの空間。


「うわっ、空気悪!___てか、どうやって開けたんだ?」


「簡単ナ話ダ。アノ扉ハ暗証ロック式ダッタカラ内側カラハックシテ無理矢理抉ジ開ケタ」


 と、本人はさも当然のように言っているが、果たしてそんな簡単な事なのだろうか。俺にはイマイチ分からない。

 これが、殺戮アンドロイドとして失敗作のレッテルを貼られた、サポート型アンドロイドの真価というやつか。

 主にサポートを専売特許としているこの械動攻機(こうき)は、こういったメインアタッカーが嫌いそうな、所謂地味な作業を得意とするらしい。

 たしかに、殺戮マシーンとしては少々不良品ではあるが、これはこれで別のベクトルでかなり有能と言えた。

 と俺がそんな事を思っていると、械動は「ソレト」と続け様に口を開く。


「此処ハ、トアル教会ノ地下ダ」


「きょうかい?」


 械動は断言するようにそう言った。


「アア。正確ニハ、()()()ト合併シタ教会ダ。佐藤ミルクトイウ幼女ニ、我々ガ飲マサレタアノ牛乳。アレニハ睡眠薬ガ仕込マレテイテ、ソレヲ飲ンダ我々ハマンマト嵌メラレ此処へ運ビ込マレタトイウワケダ」


「おいおいちょっと待て、情報量が多すぎる」


 淡々と説明されるが、到底理解できない事が多すぎて俺は顔を(しか)める。


「あの牛乳に睡眠薬?あのみるくって子供が俺達に盛ったって事か?連れてこられた?何の為に?それに何で此処が教会だって知ってるんだ?」


 いきなりの意味の分からなすぎる状況に、俺は質問の嵐。それを受け、械動はコチラをジッと見つめたまま固まってしまう。

 おい、その人間は頭の回転と理解力が低いなみたいな視線はやめろ。

 賢さGなんて、大体こんなもんだろ。


「仕方ガナイ、一ツズツ説明シテヤロウ」


 ご丁寧にそんな前置きから、械動は順に説明していく。


「マズ睡眠薬ニ関シテダガ、オレハ機械ナノデナ。人間ガ効クヨウナ一般的ナ薬ハ基本通ジナイ。オ前トナースガ眠ッタノヲ確認シテ、俺モ狸寝入リデアノ幼女ノ動向ヲ伺ッタトコロ、コノ教会兼孤児院ニ運ビ込マレタノヲタシカニ確認シタ」


 ここでも発動する『機械だからな』の常套句。つまり、あの突然の睡魔は運動による疲れや心地良い日光によってではなく、睡眠薬によるものだったということになる。

 なんだ。じゃあ特訓中に寝てしまったとしても、それは退屈な授業中の居眠りと同じで不可抗力というやつだ。


「オレガ寝タフリマデシテ此処ニ連レテコラレタ理由ハ、今オ前ガ口ニシタヨウニアノ少女ガ我々に薬ヲ盛ッタ訳ヲ知ル為ダ。身体ニ摂取シタ瞬間、アレガ普通ノ牛乳デナイ事ハ分カッテイタカララナ」


 それを聞き、俺は「は?」と眉を顰める。


「じゃあ教えてくれても良かったけどな」


「アソコデ知ラセテモ良カッタンダガ、少シ気ニナル事ガアッテナ。最近、アノ近辺デ人攫イガ頻繁ニ発生シテイルトイウ噂ガアッタ。

 ワザワザ無害ナ子供ヲ装イ近ヅキ牛乳ニ睡眠薬ヲ盛ルノハ怪シイト踏ンデ、ワザト拐ワレヨウト思ッタ」


 なるほど。まんまと騙されたフリをして無警戒で拐われ、内側からその実態を暴こうって魂胆か。

 何事にも無気力で無関心かと思っていたが、こういう事件沙汰には結構積極的なんだなコイツ。


「そしたらビンゴ!ヤバそうな施設の、ヤバそうな地下に閉じ込めらってわけか…」


 しかし俺の方はそう呟きながら、勘弁してくれと頭を抱える。

 こちとらまだ技の一個すら習得できていないのに、事件に巻き込まれるだなんてまっぴら御免だ。……その相手がたとえ子供だったとしてもだ。


「マア、マダ確定デハナイガ。何ニセヨ、地上ニ上ガラナケレバ何モ始マラレナイ」


 今し方出て来た人間冷凍庫の向かって正面、何もないどんよりとした矮小な空間には一枚のドアだけが設けられていた。構造自体は冷凍庫の扉と似ているが、違うのは両開きというところと横に付けられた↑へ行く事を示すボタン。おそらく、地上に上がるためのエレベーターだろう。

 俺と械動は揃ってそのドアに視線を向ける。まあ、こんな気味の悪いところ一刻も早く抜け出したいのは同感だ。

 適度に調節した仄かな灯で冷え切った注木を俺が温めていると、そこでまたもや隣でコソコソとやり始めるサポートアンドロイド。

 本当にこういう細々とした作業が得意なんだなと見ていればそれは、エレベーターのドアをこじ開ける作業だった。


「え、何やってんの?まだ(エレベーター)来てないよ?」


「ン、(ケージ)ノ事カ?。アンナモノヲ使エバ音デバレル危険性ガアル、自力デ昇ッテイクゾ」


 と、そんな信じられない事を言い出す。


「?、俺達は此処で留守番ってこと?」


「背中ノ翼ガアルダロ」


「こんなのただの飾りだ。さっき空き地で何回も試したけど、飛べないどころか開きもしない」


「__ナラ、自力デ登ッテイクシカナイナ」


(……おいおい、嘘だろ)


 それから当然のように駄々を()ねる俺を、械動が説得するまでおよそ30分。限りなく無駄な時間を浪費し、やっとエレベーター内部を昇り始める俺達だった…。

推敲したら700字くらい増えちゃった。

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