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X・x・R(ゼノ・クロス・リアリティ)  作者: 描々云々
【第1章】【Sensation】入隊試験
24/25

実技試験:第三項 その3 『超希少危険モンスター』

 全世界で絶大な人気を博すVRMMORPG、【Another・Vistaアナザー・ヴィスタ】。

 総プレイヤー人口は、驚異の3億人を超える。

 その中で0.001%、全世界で約3000人ほどしか到達することのできない、いわば究極の領域。


 ランク:【黒曜石(オブシディアン)


 その最上位のランクにして日本10位、アジア圏ではトップ100に入る実力。

 さらには前人未到の魔界裂境(まかいれっきょう)完全攻略を達成した俺の義妹:不知火愛凰(しらぬいあお)


 今目の前に立ちはだかるのは、対戦相手によってその知人へと変化する愛凰の仮面を被ったモンスターだ。

 偽物であるのは当然分かっているのだが、我が義妹ながらいざ対峙してみれば凄まじいプレッシャーに辟易(へきえき)してしまう。

 フリージアも愛凰の事は耳にしたことくらいはあるらしく、その戦闘はできるだけ避けたいと思っているはずだ。

 良く知り慣れた実姉の剣技の方が対策もできるし、第一ここでアダマスに勝つ事こそフリージアが次の一歩を踏み出すキッカケとなる。


 よって、一歩前に出るのはフリージア。

 それと同時に眼前のモンスターの姿がグニャりとひしゃげ、銀の鎧を纏ったアダマス・D(ダイヤモンド)・マスターソードへと形を変えた。


 自慢の我が姉を前にして、フリージアは考える。

 未だその姿を拝めば自身の身体は小刻みに震え、脈打つ鼓動も不思議と早くなる。

「すぅー、はあー。すぅー、はあー」

 深呼吸はまったく意味をなさず、酸素が肺に入っている感覚はない。

 しかしこれらは、単なる『恐怖』からなる()()のものでは無い。さっきまでとは明らかに違う、(たぎ)るような高揚。

 武者震いというやつだ。


 生まれた時から貴族という名の縦社会、序列・格差を嫌という程見せられ、その身に沁みついてしまった。

 自分達より富も名声もない者達は見下し、自分達より位の高い者達には媚びへつらう。どんな事があろうと上に逆らう事は一切認められず、その掟を破りまるでトーテムポールのような勢力図を乱すような事があれば、即座にはじき出され消される。

 それは家庭内でも例外ではなく、長男であり次期後継ぎであるオプティック・O(オブシディアン)・マスターソードを始め、後に生まれた者が先に生まれた者より強いことなど絶対にあってはならない。

 故に禁じられ、抑制され、諦めた。

 しかしそれでも、特訓も、修練も、研鑽も一日として欠かしたことはない。

 だってそうだろう。剣の道を選び進み磨き極めると決意した者ならば、強くなりたいと思うのは当たり前。

 ギリギリの中で自分の限界に挑み勝てば嬉しいし、負ければ悔しい。

 そんな苦楽のある凸凹(でこぼこ)の道を乗り越えた先に、最高の頂きが待っているのだ。何一つない平坦で、最初から敷かれたレールっを一定の速度で進むしかない人生などハッキリ言ってくそ喰らいだ。

 フリージアは、もう迷わない。不知火勇鳳(はやたか)という男が気づかせ示してくれた。


「私は………、強くなりたいっ!!!」 


 自分の人生(みち)は、自分で決める。


 (つるぎ)を抜き、正眼するフリージア。

 刹那、両者同時に前方へと駆け出し金と銀、二つの斬撃が交じり合った。

 その威力はほぼ互角。しかしそれは、フリージアにとっては吉報(きっぽう)といえる。

 おそらく、目の前の敵を屠ること以外何の感情も抱いていないであろうモンスターとは反面、やはり姉との対峙という事で少し動きが硬いように見えるフリージア。それは逆に、慣れてくれば十分に戦えるということだ。


神聖なる閃撃(セイクリッドバスター)!」


 フリージアは横薙ぎに剣を払うと、そこから鋭く煌めく一撃。

 上空に飛んで回避したアダマスに対しフリージアも跳躍すると、寸暇の間も与えず追撃。


嵐満の星群スターダスト・シャワー


 星屑の如く細かい数多の刺突が、アマダスへと迫る。

 しかしそれすらも、空中でバランスを崩す事なく全て捌ききったマスタソード家第二皇女(仮)。

 そこからさらに両者の剣戟は激しさを増し、一瞬の気の緩みも許されぬ攻防が繰り広げられた。


「はあ、はあ…」


 それが数分続いたのち、先に疲れを見せ始めたのはフリージアだった。

 やはりゴールドとダイヤモンドには大きな壁が確かにそこに在り、あと一歩有効打に欠ける。フリージアは良くやっている方だが、その近いようで遠い距離がどうしても届かずにいた。

 加えて長期戦になればなるほど、その実力差が如実に露わになってくる。

 もうそれほどの時間は残されていない。


(…しかたない)


 だからこそ、

 俺は、ずっとアイツの動きを観察していた。


 家の事情やその他諸々の私情があるかもしれないが、こんな一歩間違えれば命を落とすような大事な局面において、フリージア一人に任せるほど俺も(すた)れてはいない。

 おかげで一つ、奴の隙になり得るかどうかは微妙なところだが、()を見つけた。

 それはまるでペンで字を書く時は左手、ご飯を食べる時は右手のように、奴は剣を持つ手を防御する時は左手、攻撃をする時は右手に持ち変える。

 おそらく両利きが故の自然な癖なのか、はたまた剣士にとってそれが一番強いとされる手法なのか、そんなことは俺は分からない。

 ただほんの少し、一瞬だけでいい。

 俺が奴の目の前で生きれる時間を稼げれば、それだけで良いんだ。


 続け様のフリージアの攻撃を左手の剣で避けきったアダマスは、次いで攻撃へと転じるべくその剣を右手に持ち替えようとしたその時、俺は勢い良く2人の間へと飛び出した。

 瞬間、アダマスは目の前に現れた俺を認識し右に持っていた剣を急いで左手に切り替える。………のではなく、その全身の形をグニャりと変え、不知火愛凰へと変身した。


 ………そう。それでいい。

 だから俺は攻撃することなく、2人の間に割って入ってすぐさま通り過ぎるように姿を消した。そしてスイッチするかのように、今度はフリージア。

 相手視点から見れば、俺を攻撃対象だと遷移したと思ったら、次の瞬間にはその相手がもうフリージアになっているという、目まぐるしい状態。

 再三、奴は姿を変身させアダマスへと戻すが、その今度は確実とも言える『隙』をフリージアは逃さなかった。

 変身に要する僅かな時間に加え、ギリ間に合ったとしてもその剣を手にしているのは右手。それを左手に移し防御するより早く、フリージアの真向(まっこう)斬りが炸裂。

 今回は切っ先ではなく諸に切り込み、モンスターは真っ二つに裂けそのまま霧散した。


「……っぷはぁーっっ」


 長らく止めていた息を吸い込み、緊張の糸が解けたようにフリージアはその場にへたり込んだ。


「ギリギリでしたね」


 正直、最後のは打ち合わせなし。咄嗟に思いついた俺の作戦に、フリージアがアドリブで合わせてくれたからなんとか成功した。


「あのままでは、やられるのも時間の問題だったので助かりました。ありがとうございます」


 実際は彼女の力あっての功績であったため、また「いえいえ…」と謙遜しかけてやめる。


「どういたしまして」


 フリージアが勇気を出し自分の中で絶対的存在だったアダマスに挑んだように、俺もこの試験の中で確実に成長している。

 もう自分は何の役にも立ってないと卑屈になり否定するのではなく、素直に感謝の意を込め俺は笑って答えた。


 *****


 その後、少し休んだ俺達はさっき奴が落としたドロップアイテムを回収し出口へと並び立つ。


「ちょっといいですか?」


 するとそこで、フリージアが何か言いたげに切り出した。


「この先は言わずもがな、この星蘭瓢堂(せいらんひょうどう)のラスボスが待ち構えています。先程のモンスターは少し特殊でしたが、かなり強敵でした。そしてこの先に居るボスは、おそらくそれ以上に強いと思います」


 神妙な面持ちで語るフリージア。そこまで聞いて、なんとなく言いたい事は分かった気がするが、俺は黙ってその続きを待つ。


「先程はお見苦しい失言をしてしまいましたが、やはり私はマスタソード家に命を授かった人間としてその誇りを持って、このダンジョンのボスを倒し完全攻略で終わろうと考えてます。

 これは私の細やかな矜持ですが、わざわざ勇鳳さんが無理に付き合う必要はありません。

 先程倒したモンスターの素材も、かなりレアの部類に入る思います。これを持って今帰還すれば、かなりの評価を貰えるでしょう。………どうしますか?」


「………」


 それはどうやら、俺の予想していた提案とは少し違ったようだ。

 この先に待ち受けているラスボスは、今フリージアが言ったようにおそらくこのダンジョンでエンカウントしてきたどのモンスターよりも強い。

 フリージアやルーチェ、スパーダ達は自分達の身を守るので精一杯で、もし危険に陥っても俺達を助ける余裕はない。だから足手まといである俺を遠回しに帰らせようとオブラートに包んだ提案だと思ったが、違う。

 彼女の顔を見れば、そんな邪推(じゃすい)など失礼に値する。心の底から他人の命を心配し、(いたわ)り、相手の誇りを傷つけることなく危険な場所から遠ざけようとする気遣い。

 出来過ぎた人間性に涙が出そうになるが、しかし忘れてはいけない。


 そう。この試験は、アイテムを入手してそれを持ち帰るまではが1セット。

 どこぞの穴に落とされ、訳の分からないルートを進まされている俺は、もはや1人で引き返し襲い来るモンスターを対処しながら帰れる未来が見えない。

 ……それに、もし俺だけが今帰ったとしても、俺より遥かに戦闘面が不安な攻機(こうき)由意(ゆい)がまだ残ってる。アイツらはチームだ。ここで俺1人だけ安全地帯にノコノコ帰り、2人を置いていくわけにはいかななかった。

 結局、選択肢は一つ。


「此処まで来たら、俺達も最後まで闘いますよ」


 俺はフリージアと、前に進むことを選んだのだった。


 *****


 巨大な出口を片方ずつ2人で一斉に押し開くと、その先に広がる光景は星蘭瓢堂中ボス:《星狼グリヴァルツ》の時と同じような広大な広間だった。

 嫌な予感をプンプンに辺りを警戒していると、


「…来ます」


 フリージアが静かに囁いた。その途端、


「ああぁーーーーっっっ!!!フリージア様あぁぁぁーーーーーーーーーっっっっ!!!!」


 何処からともなく、女の声が響いた。


「ルーチェッ!」


 それは俺らから見て丁度左手、今し方潜ってきた門と同じような形状の扉がそちらにもあり、全力疾走走ってくる冒険者チックのカジュアルドレスに身を包み、淡い金髪をサイドに括ったランポルーチェと、


「勇鳳さん!」


「由意!」


 阿知波(あちは)由意の姿がそこにあった。

 無事だったことに胸を撫で下ろしつつ、俺は駆け寄って尋ねる。


「大丈夫だったか?」


「はい。ルーチェさんに色々助けてもらいました」


 「えぇ!?」と半信半疑で彼女の方を見ると、熱い再会のハグを済ませたルーチェは不思議そうに首を傾げている。


「ご無事で何よりです、フリージア様」


「うわっ、スパーダ!」


 するとさらに、今度は背後からフリージアのもう1人の家臣:スパーダと攻機が現れた。


「お前らも無事だったんだな」


「アア」


 結局、皆二人一組で無事此処まで辿り着けたようだ。


「どこかお怪我はないですか、フリージア様?もしくわ鳳勇さまに何か無礼な事をされたとか?」


 コチラの方にジト目を向けながら、フリージアへと尋ねるルーチェ。何もしてねぇよ!


「そんな事はありませんよ、鳳勇さんはとっても良い人ですから。とても助けられました。まったく、ルーチェは心配性ですね」


 さすがフリージアは、しっかりとしたフォローで返してくれた。

 ホント、人の事を何だと思っているのか。


「あっ、でも……。お説教をされてしまいました。

 私、お父様にもあまり怒られたことが無いので、とても新鮮でしたし、凄く身に沁みました」


 それを口にした瞬間、場が凍るのを確かに感じた俺。


(たしかに、気に食わないと怒りはしたが。今それを言うのはマズイですよ、お嬢様〜)


 本人に悪気は無いどころか、アレのおかげで姉にも立ち向かえたのだから感謝しているのかもしれないが、何も知らない従者たちからすれば主人である皇女を叱りつけるなど大罪にも等しい。


 ルーチェとスパーダにあからさまな殺意を向けられ、どう弁明しようかと必死に考えていると、それは突然。役者が揃うのを待っていたかのように、広間の照明が同時に消灯した。


「きゃっ!?」


「な、なにも見えません」


 急な光の消失に、ややパニックになる俺達。

 程なくして、壁に等間隔で設置されていた蝋燭が順番に火を灯し、いかにもな雰囲気を醸し出す。


「お出まし、か」


 蝋燭が全部点灯し再度周囲を見渡せるようになると、広間の最奥には先程まで存在しなかった体長5メートル弱の巨大モンスターが居た。


 屈強な体躯と手に携えるは仰々しいハルバード。その顔は獰猛なる牛の面を持ち、おまけに腕が全部で6本と顔が3つ。

 まるで、ミノタウロスと阿修羅像を足して2で割ったようなヤツだ。


「あれがこのダンジョンのボス、《星牛羅刹(せいぎゅうらせつ)・アスラテリオス》

 今の話はアイツを倒した後、あとでゆっくり聞きますね。はやたかさま」


 話を紛らわすことは叶わず、このダンジョン攻略後俺の死が確定。


「かつて星の名を意味する『アステリオス』と名付けられたミノタウロスは、成長してくにつれ次第に凶暴さが増していき、手に負えないと判断したミーノース王は迷宮を造させそこにコイツを閉じ込めた。

 その神話をモチーフに作られたのが、この星蘭瓢堂だって言われてる。

 ちなみに納得のいく理由でなかった場合、八つ裂きは覚悟しておくんだな」

 

 ルーチェとスパーダの解説・死の宣告を尻目に、アスラテリオスは俺達6人の眼前を仁王立ちで構える。

 スパーダの今の説明は、システムウィンドウ内にあるモンスター図鑑に記載されている情報であり、モンスターの背景や効果相性・弱点など様々な事が載っている。

 コイツの『アスラテリオス』という名前の由来は、今言っていた星を意味するアステリオスと阿修羅の変換系であるアスラの複合系。見た目通りだな。


「ゴオオオオオォォォォォーーーーッッ!!!!」


 俺たちのそんな会話に、アスラテリオスは待ちくたびれたかのように咆哮。

 グリヴァルツの時もかなり凄まじかったが、それよりもさらに濃い覇気で、自身の存在を主張する。

 これが星蘭瓢堂ラスボスの実力かと、怖気付いてしまいそうになるが、ビビってる暇はない。

 俺達も臨戦態勢で構え、このダンジョン、この入隊試験最後のバトルが幕を開けようとした。

 ……その刹那、俺達の正面。つまりアスラテリオスの背後から、此処に入って何度目か、蝋燭だけの光度しかなかった広間に、まるで太陽のように眩く照らす光が突如として出現。


 その中、後光を浴びながら顕現する人型のナニカ。


「うそ、………だろ」


 宙に浮かびゆっくりと姿を見せたソイツは、俺でも一度くらいは耳にした事のある、光の素粒子の集合体で結成された人型モンスター。

 通常、モンスターはその個体が全マップ(全世界)に何体も存在し、一回倒せば数時間、あるいわ数分でまたリポップするシステムだが。今目の前に現れたコイツは、万万千千(ばんばんせんせん)いる【A・V】のモンスターの中でたった12体しか存在せず、その個体数も1体しか確認されていない〈危険度:SSS〉の超希少危険(ユニーク)モンスター。


 名を、《素粒光神集型体(ゴッドエレメント)》。


 そんなヤツが今この瞬間、このタイミングで現れたのだった。

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