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X・x・R(ゼノ・クロス・リアリティ)  作者: 描々云々
【第1章】【Sensation】入隊試験
23/25

実技試験:第三項 その2 『黄金(ゴールド)』

「ん、んあぁ~」


 ふと目を覚ました俺は、一拍置いてバッと起き上がり目まぐるしく辺りの状況を確認する。

 一帯は先程の(おもむき)があった石レンガ調の造りとは随分と違い、灯りがなく薄暗い煩雑(はんざつ)で整備もされていないような、まるで古びた洞窟のようだ。

 後ろ、という表現が正しいのかは分からないが、道という道は前方にしか存在しない。


「おはようございます」


 そこまで確認したところで近くに座っていた1人の人物から声が掛けられる、フリージアだ。しかしそこには、いくら探しても彼女1人の姿しか見受けられない。

 俺は、ここまで何があったのかを思い返す。


 狐疑怪虎(こぎかいと)に中ボスステージから落とされてすぐ、由意(ゆい)Begiwing(ビギーウィング)を召喚し俺は羽を広げ飛行した。しかし当然全員を抱えて飛べるほどの耐久性はなく、辛うじて一番近くにいたフリージアだけを抱えることしかできなかった。

 そのまま他のメンバーを助ける方法を模索しながら落下していく間に、ある程度降下したところで急に意識が途絶え気付けば此処に寝そべっていたという状況だ。


「他の皆は?」


「分かりません、私も目を覚ました時には此処に居て、近くには不知火(しらぬい)さんしかいませんでした」


 深刻な表情で答えるフリージア。

 なるほどつまり、俺達は他の仲間達と逸れてしまったという訳だ。これが俺達だけなのか、はたまた他のメンバーもそれぞれ逸れてしまったのか、どちらにせよ一刻も早く合流しなければならない。


「すいません」


 『これからどうするか』珍しく真剣に考えていると、フリージアがいきなりそんな事を言い出した。


「?」


「私が皆さんを守れなかった所為で、こんな事になってしまいました」


 どうやら、狐疑に嵌められ、皆とバラバラになってしまったのは自分の責任だと感じているらしい。

 性格の良い偽善者を演じつもりは一切無いが、悪いけどそれは全くのお門違いだ。


「フリージアさんの所為じゃありませんよ」


 元々この試験に参加する段階で自分の身は自分で守るのは当たり前のことだし、ここまでキャリーしてもらってしっかり守れよなんていうのは図々しいにも程がある。………それに、


「それを言うと、俺達の方が一回アイツらのやり口を味わったのにも関わらず、警戒を怠ってもう一回同じ(てつ)を踏まされた。俺達の責任です」


 俺がそう言うとフリージアは「いえ、そんな事は」と返し、俺の方も「いえいえ」と返す。いつかの永遠に終わらない押し問答がまた繰り広げられそうになったので、すぐさま話題を変える俺。


「ま、ここでこんな事しててもしょうがないんで、先を急ぎましょう」


 そうして、俺達は誘い込まれるように一本しかない道を進むことにした。


 *****


 中層領域ということもあり、モンスターの強さも一層強くなる。


「はあ、はあ。大丈夫ですか?」


 ムカデ型のモンスターを切り伏せたフリージアが、俺の方へと振り向く。戦闘面では明らかに彼女の方が負担が大きく疲れているはずなのに、仲間への心配も忘れないのは流石のところだ。


「俺の方は大丈夫です。フリージアさんこそ、少し休憩した方が良いんじゃないですか?」


「大丈夫です。みんなが心配ですので、早く先を行きましょう」


 息遣いはやや荒く明らかに無理をしているのは分かるが、果たして本当に大丈夫なのだろうか。

 それからも俺達は休むことなくモンスター達を薙ぎ倒しながら道を進んでいき、やがて一つの扉の前に辿り着く。


「これは…」


 さっきの事を鑑みれば、デカイ扉の向こう側というのはやはり良い印象が無い。しかし、この先を進むしかないのは確かだ。

 今回の扉は鍵やギミックなどはなく、手で押して開くタイプ。

 ゆっくりと開け慎重に中を確認すると、そこは天井が見えないほど高くおまけに縦にも長いおそらく長方形の部屋のようなところ。


「行きましょう」


 一定間隔に柱が連なり、壁には不思議な紋様と宝石のようなものが幾つか埋め込まれている。今までの洞窟とは明らかに雰囲気が違うようだ。

 警戒を怠らず俺達はそのまま前に進んでいくと、やがて部屋の出口と見られる扉が姿を現した。

 このまま何も起こらないでくれという願いも虚しく、その扉の前にはまるで出口を死守するように甲冑を被った1体の騎士が立っている。


「……ふう」


 その距離は、およそ20メートル程か。コチラから見えているという事は、おそらくあちらからも視認できているだろう。だが、依然として騎士が動き出す気配はない。

 十中八九戦闘は避けられない為、相手が動かないならどう初撃を攻めてやるかを考えていると、


「遠距離からはどうでしょう?」


 フリージアも同じことを考えていたのか、そんな提案をして来た。


「なるほど」


 相手がこちら側を認識する前に、一気に潰すという事か。

 フリージアの剣に光が収束していき、俺もそれに続いて手を前に翳すと掌に火の玉を錬成する。


「行きますよ」


「はい」


 「せーの!」で同時に金の斬撃、火の玉が放出され無防備の騎士に直撃した。

 辺りに土煙が上がる中、一拍置いて物凄いスピードでモク中から飛び出して来る騎士。


「なっ!!?」


 目にも止まらぬ刺突に、辛うじて反応したのはフリージア。

 強力な刺突を剣で薙ぎ払うと、そのまま何度か鋭い斬撃が絡み合う。やがて大きく弾け合い、お互い距離を取る。

 俺達2人の攻撃を諸に食らった筈の騎士は全くの無傷でピンピンしており、対してフリージアの方は前の戦闘も相まってかなり疲弊している様子だ。


「はあああぁーーーっっ!!!」


 今度は、フリージアが大きく踏み込み騎士へと肉薄。瞬く間に凄まじい剣技の攻防が繰り広げられる。俺も援護に加わりたいところだが、正直このレベルの戦闘に入り込める自信が全くない。

 両者の位置を視認した次の瞬間には、もう2人とも別の位置に移動していて、俺が適当な援護をすればかえってフリージアの邪魔をし兼ねない。


 しかし、俺もこの狂ったリアルゲームの世界をクリアしようと目指した攻略者(レイダー)の端くれ。どうにか一矢報いてやろうと気を窺っていた俺は、戦闘の速さに眼が慣れてきたことにより、ある違和感に気が付いた。

 今目の前で行われている、激しい攻防を織り成すハイレベルな戦闘はしかし、徐々にだが明らかにフリージアが押され始めている。

 たしかに此処に来るまでの連戦で摩耗していたフリージアだが、彼女がここまで苦戦する姿は初めて見る。……それに俺の勘違いかもしれないが、彼女の剣には眼前の騎士と相対するのに何か迷いがあるように見えた。

 そして、奇しくもその迷いと疲れによるフリージアのスピードダウンが戦闘のレベルを一つ俺の領域まで下げ、そこに入り込む隙が生まれる。

 俺なんか眼中になかった騎士の死角から勢いよく飛び出し、フリージアには当たらない最善の角度からパチンッと指を鳴らす。

 弾けた火花の閃光による目くらまし、焼火消明(イグナイトバニッシュ)だ。

 この兜を被った騎士に効くかどうかは賭けだったが、どうやら目は付いていたらしく僅かだがよろめきを見せた。


「今だっ!」


 その一瞬を見逃さない、フリージアの一閃。

 容赦なく首元目掛けて放たれた一撃を、しかし騎士の方も直前で回避。切っ先が兜だけを捉え、()けた兜からその素顔が明らかとなる。


「う………そ………!」


 すると騎士の顔を見たフリージアは突如表情を一変させ、搾り出すような声で呟いた。その顔にはかなりの動揺と、そして疑問が満ちている。


「ダイヤ……お姉さま?」


 限りなく透明に近いクリアな髪はとても短く、美形という言葉がとても似合う端整な顔立ち。今し方フリージアが『お姉さま』と言わなければ美男子だと間違えるほどボーイッシュで、その綺麗な顔から放つ凍てつくような鋭い視線が印象的だ。

 彼女とは知り合いなのか、『何故こんな所でこんな事をしているのか』フリージアは信じられないといった様子で尋ねた。

 しかし当の本人は無言を貫いたのち、いきなりグニャっと顔を歪ませると今度は俺の方に顔を向けその顔、身長など姿形をガラっと変え、俺の義妹(いもうと):|《・》()()()()()()()()()()()()|》《・》()()()()()()


「………ッッッ!!!?」


 一体何が起こっているのか理解できず立ち尽くす俺に、目の前の愛凰は容赦なく業火の炎を放出する。


「あぶないっ!」


 フリージアに押されなんとか回避した俺だが、未だ驚愕が拭えない。


「一回体制を立て直しましょう」


 フリージアの提案により、何がなんだか分からぬまま俺達は一旦柱の一角に身を隠す。

 幸い『奴』は一定の距離に侵入した敵しか攻撃しないらしく、その範囲外に出た者を追っては来ないようだ。


「あれは、お知合いですか?」


「俺の、義妹です」


 それを訊き、ハッと表情を曇らせるフリージア。そして少しためらったのち、ゆっくりと口を開く。


「しかし、あれはおそらく……」


「分かってます。あんなのはまやかしだ。俺の義妹は、もうとっくの昔に死んでいますから」


 すると今度は、絶句するフリージア。何を言っていいか分からないといった様子であたふたしているを見兼ねて、俺は話題を変える。


「気にしないでください。それより、最初にアイツの兜が外れた時、あのショートの透き通るような人、あの人の方はフリージアさんの知り合いのように見えましたが?」


 俺がそう尋ねると、彼女はより表情を暗くして答える。


「そうです。さっき姿はマスターソード家の次女にして第二王女、アダマス・D(ダイヤモンド)・マスターソード。

 私のお姉さんに当たる人です」


 そこまで確認し、俺はなるほどと頷く。

 先の戦いでフリージアの動きを鈍らせていた『迷い』の正体は、やはり俺の勘違いではなかったようだ。

 剣の技術に定評のあるマスターソード家ならば、その剣戟(けんげき)において姉妹、兄妹同士が戦うこともあるだろう。

 あれはおそらく、あの騎士が放つ剣術がよく知っている姉の型に酷似していることから生まれた迷いだったという事か。

 これらの情報から察するに、奴は対戦相手の知人に変化し戦うモンスター。その変化対象こそ不明だが、俺の方が義妹でフリージアの方が姉という事は親族であり女にしか化けられないのか、はたまた他の何か条件があるのか。

 まあしかし、今はそこが重要なわけではない。大事なのは、奴の倒し方……。


「正直、実際のお姉さまのように鋭く思い太刀筋です」


 よく偽物は本物には遠く及ばないとよく言い伝えられるが、今回に至ってはその習わしは通用しないようだ。

 パチモンがホンモン同じなんて事があるのかと頭を抱える俺に、「しかしそれは…」とフリージアは続ける。


「私の心が弱い所為でもあります。マスターソード家では代々、剣術の次に身分や立場の位に厳しく育てられます。

 そうして私達はオブシディアン兄様を始めとして、アレキサンドライトお姉様、ダイヤモンドお姉様、プラチナ兄様といます。お父様の教えは立場上、妹や弟が兄や姉より強いなんて事は絶対にあってはならないというもの。

 私に剣技をご教授してくださったのはダイヤお姉さまですが、その一度たりともダイヤお姉さまを負かした事はありません。それは実力の有無ではなく、そもそも妹が姉に()()()()()()()()()()()のです。

 あれが例え偽物のお姉さまだとしても、目の前にした途端今まで従って来た教えが頭を過ってしまい、思うように剣を振る事が出来なくなってしまうんです」


 小刻みに震える自身の身体を抑えながら、フリージアは苦悶の表情を浮かべて語った。

 たしか最初にフリージアを見かけた時、注木(そそのき)がマスターソード家という名家について同じような事を言っていた気がする。

 『妹や弟が兄や姉より強いなんて事は絶対にあってはならない』。それは以前、俺が独りでに拘っていた身勝手でくだらない思想とまったく同じだ。

 そんなどうしようもない兄のプライドによって勝手に愛凰に嫉妬し、関係は劣悪となり、(あまつさえ)えあんな惨事が起き最悪な形で別れを迎えてしまった。


 そんな教育の元育ったフリージアは、あの偽りの姉にすら教えの鎖が邪魔し勝てるビジョンが見えない。

 有名な貴族様も実は結構大変なんだなと、震えを必死に抑えるフリージアに何て声を掛けようか悩んでいたその時、まるでその恐怖を無理矢理取り除くかのように彼女は口を開いた。


「名家の貴族などと謳われ周りからは賞賛されていますが、実際はそんな大したものではありません。権威を保つために立場上の虚勢と見栄を取り繕って、自由に外で遊ぶ事すらできず全て鳥籠の中。あんな家、………生まれたくなんかなかった」


 どうしようもなく(つづ)られたボヤキは、フリージアが辛うじて押し潰されないための()けだったのかもしれないが、奇しくも俺の琴線に触れた。


(……なんだそれ?)


 恵まれた家系で優秀な血を受け継いで、俺にはどうやっても手に入れられない力を持っておいて、それは少々我儘(わがまま)が過ぎるのではないか。

 気付けば俺は気の利いた慰めの言葉や元気付けるような言葉を掛けるのを止め、


「…傲慢ですね」


 そんな皮肉めいた事を言っていた。


 『人間皆平等』と誰かは言うが、そんな事断じてないと俺は思う。

 好きな事を一生懸命努力したところで、好きでもないが才能がある奴に一生を持ってしても勝てないのはよくある話だ。

 生まれた時から適応能力が高く何でもそつなくこなす優秀な奴がいれば、逆に呑み込みが遅く理解するのに人一倍かかり何にも出来ない無能な奴もいる。

 人間は競走馬と同じで、『血筋』が大事なのだと俺は常々思う。

 優秀な血からは優秀な人材が生まれ、劣等な血からは劣等な人間が生まれる。

 だからこそ『カエルの子はカエル』という(ことわざ)があれば、稀に誕生する突然変異種を『トンビが鷹を生む』という諺で言い表すこともある。

 人間は生まれた時からある程度、血によって能力値の限界が決められているんだ。

 だからと言って別に親を悪く言うつもりは無いが、いくらやってもできない事を責められたり、努力してないだけの言い訳だと言われるのもまた納得できない。


「何がですか?」


 俺の言い草を予想通り皮肉として捉えたフリージアは、少し語気を強めて問いてきた。


「生まれ持っての環境や境遇で、不満が出るっていうのは分かります。けど俺から言わせて貰えば、優秀な血筋を受け継ぎある程度の力が担保され優遇されているにも関わらず、今の暮らしが嫌だと全てを家庭の所為にするのは、もっと劣悪な環境に生まれた人が可哀想だ」


 俺と愛凰は、知っての通り血が繋がっていない。

 愛凰の母親はとても綺麗で家事全般ができれば仕事もできるスーパーキャリアウーマン。加えてコミュニケーション力も高く、どこの誰とも友好な関係を築ける人だった。そんな人の娘もまた、遺伝子を完璧に受け継いだ上にさらに努力と健さんに磨きをかけた超美少女。

 一方俺の父親は、お世辞にも優秀…、剰え平凡とも言い難い人間だ。一生懸命だがよく絡まってしまいその頑張りが上手くいく方に転がることが少なく、詐欺や人間関係のトラブルに巻き込まれる事が多々あった。矜恃もなく、優しさだけが取り柄の男。そんな父親から生まれたのが俺だ。


 ハッキリ言って、これはこの優秀なお嬢様に対しての、単なる嫉妬からくる八つ当たりだ。

 こういう奴らは大抵、頑張って俺達が積み上げてきたものをいとも容易く簡単に超えてくる。全くもって気に食わない。

 ………と同時に、だからこそか、何故その才能・力・可能性があるのにも関わらず、やろうと思えば簡単にできる筈なのに、そんな事を吐き捨てて逃げ腰なんだと、やろうとしないんだとムカつく。

 やりたくてもできない奴だっているんだぞと、腸が煮えくり返りそうだ。

 どうやっても出来ない奴が出来ないと言うのが『言い訳』なら、本当はやればできるのに出来ないという奴はただの『嫌味』だ。

 できるのにアレやコレやと理由をこじ付けてやらない方が、それこそ立派な言い訳ではないか。


「そんな事言われたって、私は望んであの家に生まれたわけじゃない。代われるなら代わってあげたいです。でもそれができないから、困ってるんじゃないですか。結局みんな、無い物ねだりの中で生きていくしかない」


「そうです。誰も彼もが、望んだものを一瞬で手に入れられるわけじゃない。だからどんなに無能で何もできない奴だったとしても、それを自力で手に入れられるよう努力するしかない。

 けどアンタは…、アンタはその望みを掴める程の力をもう持ってるはずだ。本気を出せばできるはずなのに、何故やろうとしない?」


「無理ですよ。私はゴールドですよっ!ダイヤモンドやアレキサンドライトにはどうやったってなれない!……なっちゃいけないんです」


 フリージアは出会ってから初めて見せる荒ぶった表情と声音で、力一杯吠えた。

 ……嗚呼、これだ。本当に腹が立つ。


「自分がゴールドと名付けられ、まるでランクシステムのようにゴールドの立ち振る舞いでいるよう躾けられたから、もはや上を目指し強くなる事を諦め、自分を押し殺して不満を噛みしめながら生きている。

 立場上の虚勢と見栄?一番それに縛られてんのはアンタじゃねえか」


「なっ……!」


 俺のそこまでかと言わんばかりの物言いに、さすがのフリージア も言い返そうとするが、それをさらに制して俺は言い放つ。


「じゃあ、アンタのその美しい髪は?金箔の鎧は?閃光迸る(つるぎ)は?常に醸し出す煌びやかなオーラは?

 ゴールドの強さでなければならないって部分を取り除たとしても、アンタがフリージア・G・マスターソードだとたらしめる要素がこんなにもある!」


 生まれ持って付けられた名前で、自分の人生の生き方を決められるなんてまっぴらだ。


「………っ!」


 俺は至近距離から、彼女の目を真っ直ぐ見つめて言ってやった。


「ゴールドだからアンタなんじゃない。アンタだからこそ、黄金(ゴールド)なんだっ!」


「………」


 フリージアは、それ以上何も言わなかった。

 俺の目を真っ正面から見返すその目尻には、大粒の涙が溜まっている。しかしそれを毅然と拭うと、静かに立ち上がった。その顔にもう迷いはない。


「正直、お姉さまと本気で戦ったことがないので、どこまでやれるかは分かりません」


 ランクシステムの指標で考えば、【A・V】プレイヤーの中でかなり人口が多いゴールド帯と上位5%しか辿り着けないと言われるダイヤ帯では、明確に一段高い壁が存在する。

 しかし、こと短期戦の一回勝負となれば、その実力差でも勝利は充分にあり得る。


「さっきの戦闘を見ていても、そんなに力の差は無いように思えます。俺に言われても何の気休めにもならないかもですけど、本気出したら余裕ですよ」


 推定アイアン、良くてもブロンズレベルの男の言葉などなんの当てにもならないだろうが、フリージアはそんな奴にも優しくニコッと微笑み、やはりゴールドという名に相応しい太陽のような燦々(さんさん)とした笑顔で返す。


「いえ、ありがとうございます。絶対に勝ってみせます!」


 そうして俺達は再度、騎士ではなく不知火愛凰の姿で仁王立ちする門番の前に正対した。

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