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X・x・R(ゼノ・クロス・リアリティ)  作者: 描々云々
【第1章】【Sensation】入隊試験
21/25

実技試験:第二項 その2 『ピンク色の誘惑』

 俺と渡会辰(わたらいたつ)こと、おDちゃんの間には勝負が決した事を知らせる見えない壁が発生し、そこで強制的に戦闘終了。

 体力は自動的に満タンまで回復し、俺の目の前には『LOSE』、おそらくあちらには『MIN』の文字が表示されているだろう。

 最後の瞬間、俺は目を奪うフラッシュで完全に勝ったと思ったが、相手の全方位型の範囲攻撃によってあっけなく負けてしまった。


「最後のは中々良かったぞ、小僧」


 そう言って、ジジイはふかふか高級ベットの上に腰を下ろし(くつろ)ぐ。

 勝負で負けてしまったその時点から、もうこの部屋は俺の部屋ではない。

 これ以上ないくらいの悔しさを胸に抑えながら、先程までおDちゃんが使っていた部屋の鍵を渡され、惜しむように俺はVIPルームを出た。


 部屋を出て鍵の番号を確認すると、部屋番号は838。このVIPルームより良い部屋という事は、おそらくあり得ないだろう。

 戦闘の疲れもあるし、さっさと部屋まで行って休みたいのだが、そこでポッケに入っていたD(デジタル)D(ディメンション)D(デバイス)が微かに振動。

 面倒くさいなと思いつつ開くと、【Sensation(センセーション)】からの通知が来ていた。


『防衛側:敗北。 あなたは攻撃側へと移行します』


 ここからは、俺が他人の部屋へと突し勝負を申し込む側になる。


「ああぁ、いって~」


 『デュエルモード』で半分になった体力は勝負が終われば自動的に満タンまで回復すると言っても、今のこの世界では外的負傷は残ってしまう。俺は掌底(しょうてい)を食らった鳩尾(みぞおち)と、アッパーを食らった顎を擦りながら自室を目指した。

 そうして辿り着いた俺の部屋は、入り口の扉の材質からしてもう、先程の部屋より幾分かランクの落ちた部屋だという事が分かる。

 前がかなり凄かっただけにその豪華さの急降下具合には失望を隠せないが、まあ仕方がないかと鍵を差し込みドアノブを捻るが扉が開かない。


「……?」


 そしてそこには、『攻撃中』という店とかの入り口でよくみかける、『仕込み中』といったような表記が扉に表示されていた。

 どうやら攻撃側は一度部屋の外に出たならば、勝負が終わるまで自室に戻る事は出来ないらしい。さらには他の攻撃者達が間違わない様に、こういった表示がされている訳か。


「……はあぁ」


 一旦部屋で休んで沈んだ気持ちを落ち着かせたいところだったが、どうやらそれすらもさせてくれないらしい。

 仕方なく俺は自室の両サイドの部屋を見ると、その両の扉にはどちらとも『防衛中』という表示。しかし右の扉はその文字が赤く表示されているのに対し、左は蒼く表示されている。

 これはおそらく、攻撃側の挑戦者がいるのと、いないのを指す色の区別だろう。

 なんとなく、青い方が空いていると思った俺は、左の部屋の前へと向かいその扉を開いた。


 中へ入るとその部屋は、(おぼろ)げなピンクの証明にどこか(なま)かしい雰囲気を醸し出した空間。そして……、


「あれ、あなたはたしか…」


 中にいた人物が声を掛けて来た。

 そいつは何処かで見た事あるような、淡い金髪をサイドデールに括った少女。


不知火(しらぬい)様でしたっけ?」


 フリージアの仲間の一人。ランポ・ルーチェだった。

 防衛中のこの部屋に1人でいるという事は、この部屋の主はどうやら彼女のようだ。


「攻撃側の挑戦者、って事でいいんですよね?」


「まあ、そういう事になりますね」


 ルール上、攻撃側は一度入った部屋を変える事はできない。

 中に入って扉が閉まれば自動的に鍵が掛けられ、勝負が終わるまでは何をしても開くことはない。

 正直言って、最悪だ。フリージアの仲間(護衛)という事は、弱いなんてことはおそらくあり得ない。一対一の勝負となれば、今回も間違いなく俺が負けるだろう。

 防衛側が勝負内容を決める以上、俺に勝ち目はないかとそう考えていると、


「この部屋って、随分とピンク色じゃないですか?」


 ルーチェは突然、そんな事を言い出した。


「?、たしかに、部屋の灯りにしては少々心もとないですね」


 (きら)びやかで派手だった俺の前部屋であるVIPルームに比べて、この部屋の照明はなんとなくの妖艶(ようえん)さを醸し出す濃いピンク色。常夜灯より少し明るいくらいの光度しかなく、数メートル先でベットに腰かけるルーチェの顔が目を凝らさなければ見えない程だ。

 しかし、それが何だと言うのか。


「実はここの部屋は、所謂男女がそういう目的で使用される、()()()な部屋らしいですよ」


 俺は一瞬「は?」と眉を顰めのち、一拍置いて目を見開く。


「…!!?」


 『エッチ』といのはつまり、男女間で行われる『アレ』の事か。

 言われてみれば、そんな雰囲気が漂っているような気がしないでもない。……俺は実際にした事は無いが。


「そ、それが今のこの状況とどう関係が?」


 そう思った途端、俺は何故か異様に身体が緊張し目を泳がせながら尋ねた。


「ふふ、せっかくこんな部屋に招待されたのですから、それを活かした勝負内容にしたいですよね」


 言いながらルーチェは何の意味があってか、サイドに括っていたヘアゴムを解く。しなやかな淡い金髪が、一気に下へと流れる。

 次いで、徐に脚をこちらに向けるとスカートの中が見えるか見えないか絶妙な角度・高さ・位置でゆっくりとニーハイソックスを脱ぎ始めた。

 ゴクッと、溜まった唾を飲み込む俺。


(なんだ、この状況は!!?)


 高級ホテルだけあり、アクスピオ・カステッルムの部屋は大体が超強力な防音加工が施されている。VIPルームでも感じたが中の人間が身動きを取らなければ、部屋はとてつもない静寂(せいじゃく)に包まれる。

 そして今、部屋には肌と布がスルスル擦れる音だけが微かに響き、その白くてキレイな脚が露わになっていく。

 部屋の照明も相まってか、その光景には非常に『エロス』を感じる。


「………っ!」


 これ以上見ていたら何かマズいと感じ、顔を火照らせながら目を逸らす俺。

 そんな俺をよそに、ルーチェは不思議とさっき話していた時と変わらないはずが、こびり付くような声で放つ。


「決めました。勝負内容は、私と()()()()()事が出来たら、アナタの勝ちで良いですよ」


「………は!!!???」


 もはやこの部屋に入ってから何度目か、俺の驚愕の声。

 『エッチ』とは、もしかしなくてもそういう意味だろう。コイツ、正気か?

 それなら俺の方にデメリットなんて皆無……いやいや、それじゃまるで俺が誰でもヤリたい性欲に飢えてるケダモノみたいじゃないか。

 これは、試されているんだ。

 その詳細を要約すると、私は当然抵抗するけどそれを力でねじ伏せて屈服されたら俺の勝ちという事。

 何だか急にいつもより冴える頭で、脳を高速回転させてその勝負内容を理解する。がしかし…、


「当然、私は一切抵抗しません」


 ………ドユコト?

 それじゃあただ俺が彼女を押し倒して、そのまま一夜を共に過ごせれば終わりとなるだけだが。本当に意味が分からん。

 もしかしてドッキリか?そうでなければ、俺の理性を試す試験。はたまた夢という可能性もあり得る。そう思い頬を軽くつねるが、痛い。そもそもこんなんで夢かどうか判断できるなどとは、端から思ったことはない。

 ならばもしやコイツ、相当な淫乱〇ッチなのか。………いや、違う。

 あのベットの上で女王様気取りでふんぞり返る女の顔、こちらを見くびり見下すような、舐めたようなあの嘲笑は、どうせできるはずないと、お前にそんな度胸があるはずないという余裕の表情だ。


 ふっ、舐められたものだ。


「別に恥ずかしくも無いから先に明言しておくが、たしかに俺は童貞だ。女なんて、義妹と義母くらいしか関わった事がないから、男女の関係とかも正直よく分からない。

 俺がビビッて手を出さないと踏んでこの勝負にしたんだろうが、読みを間違えたな。俺には、何に変えても成さねばならない目的がある。その為なら何だってやるぜ。悪いがこの勝負、貰った!」


 一歩前に踏み込み、俺は胸を張ってそう宣言する。


「ふーん、イイですよ。では存分に、どうぞ」


 対してルーチェも、その身体をベットに預け乗り気だ。

 途端、先程と同様俺達の間にはUIが発生し、勝負開始のカウントダウンが始まる。

 その勝利条件は、『ランポ・ルーチェとエッチする』。改めて、訳の分からん勝負。

 しかしそうだ、これは別に無理矢理の行為ではない。両者合意の上なら、なんの問題もない。これで俺は晴れて童貞卒業。ポイントを獲得して、試験にも合格。全て俺の思いのままだ。

 たかだか数メートルを、たっぷり数十秒かけてルーチェの前に立つ。


 ベットに身を委ね、少し火照った表情で俺の事を見て来る美少女。スラッと引き締まった身体に、申し分ないほどの美胸(びきょう)。容姿もかなり良いと言え、こんな子に誘われればおそらく100人中100人付いて行くだろう美形の顔立ち。

 俺へのデメリットなんて微塵もない。ない、はずが……。


(何だ、この気持ち?)


 今の心境を例えるなら、理性と本能、良心と悪心、罪悪感と背徳感がまるでDNAの螺旋ように渦巻きながら交錯し鬩ぎ合っている。

 正解はどれなのか。道徳とは、人道とは何なのか。そんな悟りのようなことまで考えてしまう。相手も同意してるんだから遠慮なんかいらないはずが、どうしてか素直に行為に及ぶことができないと、俺の心中はグチャグチャだった。

 そうして無限に思考を繰り返したのち、俺の頭は突然ショートしたかのようにプチンと切れ、「ええい、考えても仕方がない!」と、ベットに膝をたて手を彼女の肩口付近に置いて覆い被さった。……その時、


「あ、ちょっと待ってください。お風呂に入らなきゃ」


 ルーチェは俺の身体からスルりと抜け、そんな事を言い出した。

 「ハッ!」と、そこで俺も気付く。今日の100キロマラソンで、俺も大分汗をかいた。先程は面倒くさいという理由で風呂に入らなかったが、もし生身でくっ付くとなれば身体を洗わないなんて失礼だ。


「不知火さんの方は、もうお済で?」


「いえ、まだです」


「そうですか。なら私から先でも?」


「…はい」


 頭が半ばおかしくなっていたとはいえ、大事な礼儀を失念していたことに反省しながら俺は頷く。


 そそくさとルーチェが部屋から姿を消し、1人部屋に残される俺。その間、これでもかというくらいに考える。


(やばい、どうしよう…)


 『無抵抗な私とエッチ』という勝負内容であり他に条件はないのだから、もはや貰ったも同然な至極簡単な勝負のはずだ。

 それが仮に下手くそでも、早く果ててしまおうとも、体力が無かったとしても関係ない。そもそもたたないとなれば話は別だが。

 9割がた勝ち確な勝負なはずなのに、嫌な予感がしてならない。

 攻機(こうき)に電話を掛けようとも思ったが、アイツも現在戦闘中かもしれないのでやめる。

 その後も幾重に無意味な思考を繰り返し、生きた心地のしないまま2、30分が過ぎた頃、ルーチェが風呂から上がってくる。


「はあ、気持ちよかった~」


 バスローブ姿のルーチェを一瞥し、俺は二度見で瞠目する。

 上半身にはクッキリとした谷間を露わにし、下半身からはスレスレくらいに()かれた布からは艶めかしい脚を曝け出していた。

 その魅力は、さながら風呂に入る前の数倍に及ぶ。


「次、どうぞ」


 見入っていた俺にそんな言葉が掛けられ、慌てて風呂場へと逃げ込んだ。


「ふうぅ」


 脱衣所で壁に寄りかかりながら、ため息を一つ。

 立場的有利なのは間違いなくこちらなはずなのに、何故だが押されているようでならない。

 どうにかこの戦況をひっくり返したいと考えるが、やるべき事は決まっている。

 そうだ、エッチだ。

 それさえできれば、全てが丸く収まる。

 そうと決まればまだ湯気が立ち昇り、良い匂いが漂うピンク色の風呂に入って、俺は入念に身体を洗浄し決戦に備えた。

 銭湯やら温泉ならまだ別だが、家の風呂なんか5分、10分で済ませていた俺もたっぷり20分ほどお湯に浸かり、鏡の前で身体のコンディションチェック。


「うし」


 そして意を決し部屋に入ると………、


「…へぁっ?」


「スゥーッ、スゥーッ」


 とベットに横たわったルーチェが、静かな寝息をたてて眠っていた。

 まったく予想していなかった事態に、俺はその場で固まってしまう。

 いやもしかしたら、勝負を無効にするための狸寝入りかもしれないと回り込むが、そこには何とも心地よさそうに眠る寝顔があった。


「…うそだろ」


 こういう場合はどうなるのか。俺の不戦勝か、それとも不戦敗か?

 無理矢理起こそうにも、気持ちよく寝ていた時に起こされそういう気分になどなれるはずもない。


(コイツ、最初からこの算段だったんじゃねえだろうな)


 勝負が成立した以上、このまま何も起こらず時が過ぎればいずれ俺の負けが確定してしまう。

 どうにかコイツの機嫌を損なわず、かつもう一度あの雰囲気に持っていかなくてはと模索する最中、しかし心のどこかで『()()()()』という安心感に胸を撫で下ろす俺がいた。

 

「…んだよ」


 一気に拍子抜けしてしまった俺は、そのままベットの横の小さいソファに腰を下ろし起こすか否か、起こすとしたらどうやって起こそうかを考えながら、いつの間にか意識が遠のいていくのだった。


 *****


「……て、おきてください、不知火様」


 そんな声で目を覚ますと、目の前にルーチェがいた。


「うおっ!」


「もう朝の7時になります」


 そう言って時計を見せて来る。


「…ホントだ」


「すいません、私昨日は疲れてたみたいで寝てしまって。エッチされたのか審議は定かではないので、自己申告制で良いですよ」


「………」


 両者共に一糸乱れてないところから、俺が寝ているルーチェを襲っていないのは明らかだが、それでも俺が一言『した』と言えばこの勝負は勝ちにしてくれるらしい。

 本当に最初から最後まで、何を考えているか分からない奴だ。


「襲ってないよ、俺の負けだ」


「へえ~」


 するとルーチェは、ニヤリと薄ら笑いを浮かべた。


「何だよ?」


「正直に言うんですね。昨日は『何に変えても成さねばならない目的がある』みたいな事言ってたのに」


「うるせえな」


 たしかにそんなこっ恥ずかしい事を言った気がするが、それで嘘を付いて偽りの勝ちを手に入れるのはなんだか違うような気がした。

 結局この勝負になった時点で、俺の負けは確定していたようなもんか。

 そんな俺にルーチェは耳元に顔を近づけると、


「でもそういう紳士的なの、嫌いじゃないですよ」


 そう(ささや)いてきた。

 ギョッとし、数メートル飛び退()く俺。


「では私は、フリージア様と朝食を頂かなければいけないので。これで失礼させていただきます」


 人を試すような不敵な笑みは変わらず軽くウインクをし、部屋を出ていく少女。この部屋に入ってから出るまで、実に俺は何回彼女に心を揺さぶられたのやら。


 陽が射し込み昨晩より大分見えやすくなった部屋をバックに、何故昨日寝てしまったのだと少なからず後悔を残しながら、俺も部屋を後にしたのだった。

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