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X・x・R(ゼノ・クロス・リアリティ)  作者: 描々云々
【第1章】【Sensation】入隊試験
20/25

実技試験:第二項 その1『老龍』

 時計の針だけがチクタクと響く静謐(せいひつ)とした室内で、俺はその()()にいち早く気づきふと目覚めた瞬間、目の前には杖を高々に構えた()()()()()が立っていた。


「うおっ!」


 そのまま男が杖を真下、つまり俺が今まで寝ていたベットに突き立てるのと同時、間一髪それを回避する。


「はてはて、気づかれてしまったか。ワシもまだまだじゃな」


 初撃を回避された男、背は俺の半分にも満たない程折り曲げ髪の毛一本も残っていないジジイは、髭を撫でながら余裕そうに言う。

 俺は今何が起きているのかさっぱり頭が追い付かず、瞬間的に眠る前の状況を事細かに反芻(はんすう)した。


 *****


 実技試験:第一項を見事に最下位でゴールした俺達、そして受験者一同は、そのまま高級バーチャルホテル:《アクスピオ・カステッルム》で一夜を過ごすことを告げられ、入隊試験は2日間で行われる事をそこで初めて知った。


 アクスピオ・カステッルムとは、外観をサソリの針をモチーフに作られた、湾曲したシルエットが天高くまで聳え立つ建物だ。

 明日の予定は何も話されぬまま、流されるように1人1部屋。

 俺は10畳ほどの広さは優に超えるであろう、豪奢(ごうしゃ)意匠(いしょう)が満遍なく施された部屋に招待された。

 おそらく、数多くの客室が存在するアクスピオ・カステッルムの中でも一泊50万はくだらないだろうと言われるVIPルームだ。


「すげえな…」


 高級そうなベットやソファに、部屋の中央にはお洒落なテーブル。おやつ時という事もあり、上にはティースタンドとお高そうな茶葉がある。

 丁度試験の疲れもあり、小腹が空いていた俺はサンドウィッチを一口。


「うまっ!」


 やはり高級ホテルだけあり、その味は別品だった。

 続けざまに、もう一口。しかし、いつまでもVIP気分ではいられない。

 このアクスピオ・カステッルムという建物の構造上、針の先端、つまり階が高くなれば高くなるほど部屋数は少なくなっていき、同時に部屋の高級度も上がってくる。

 一室のみの最上階に位置する部屋が、最上位の超VIPルーム。

 この部屋はそこから2、3階下に位置する。当然階の部屋数も、4、5部屋しかない。

 となれば当然、第一項終了時に50前後はいた受験者達全員が、俺と同じようにVIPルームに招待されたという訳では無く、普通の部屋の人間もいるわけだ。

 なら、何故俺なのか。試験で優秀な成績を取っているどころか、最下位まであり得るこの俺が、他の成績上位陣を差し置いてこの部屋に招待された真意は、単に運なのか。それとも、今後の試験に何か関係してくるのか。そこだけが解せん。


 ふかふかのソファに身を埋めそんな事をひたすらに考えていると、100キロ走った身体の疲労も大分和らいだ頃、時刻はいつの間に17時を回っておりトントンッと夕食がやって来た。

 部屋への直接デリバリーなんて、そこへの配慮も流石抜かりない。


「試験受け続ければ、タダで此処に泊まり放題じゃん」


 そんなアホな事も考えつつペロりと夕食を平らげると、まるでドカ食いした後に気絶するかの如く、途端に睡魔が襲って来る。


「ああ~、もう動きたくねえ」


 夕食前に考えていたことなどすっかり忘れ、ベットへとタイブする俺。

 眠るには少しばかり速い時間にも思えるが、明日もどんなハードな試験が待ち受けているか分からない。早めに休んでたっぷり休息を取るのも十分ありだ。

 しかしそうなると、もう一つの問題。

 「今日一日中走りっぱなしで全身汗だくなんだから、風呂に入ってキレイにしなくちゃ」という俺の中の天使と、「一日くらい入らなくても大丈夫だろ!今日はもう疲れたし、思う存分寝よう」という悪魔が途端に鬩ぎ始める。

 当然、俺は荷物など試験の邪魔になりそうな物は持ってきておらず、試験が2日間に渡って行われる事も知らなかったので、着替えの服も当然持ってきてはいない。

 だがそんな時に役に立つのが、このAAモード時に自動装備される《ユニークコスチューム》だ。

 注木ならナース服、械動なら鉄装甲の機体のように、このユニークコスチュームはそのAA(アナザーアバター)roll(ロール)に合ったデザインで造られており、たとえ何日洗わずとも汚れたり、痛んだり、臭くなったりすることはない。

 それは例えるなら、ゲーム内のキャラが一生同じ服を着ているのと同義だ。

 故に、AAモードである今の俺は生身の肉体のみが汗などで汚れており、風呂で洗えば着替えは今着ているユニークコスチュームで事足りる。

 裏を返せば、風呂に入らなくても良いというわけだ。

 そんな具合にベットバフもありつつ、やや悪魔側が優勢なまま、俺の思考は朧気(おぼろげ)なっていく。


 それにしても、まさか試験が2日目に突入するとは。

 注木が【インセプション】に行く道中に言っていたように、【Sensation(センセーション)】入隊試験の試験内容は、毎回内容も場所も全部違えば、日数も当日にならないと分からない。

 1日で終わる試験もあれば、最長で1週間実施する試験もあるという話だ。

 しかし今回何故俺が自然と、勝手にこの試験が1日で終わると勘違いしていたかと言うと、それは注木の所為(せい)でもある。

 すでにレイダーであるあいつが一緒に【インセプション】に付いて来ると言い出したから、てっきり日帰りで帰るものだと思い込んでしまっていた。

 あいつの方は、今頃何をしているだろうか。

 まさか自分の用が済んだから先に帰って、試験が終わった俺達は自力での帰宅なんて鬼畜な事はしないだろうな。

 などと、いつの間にか風呂に入るか否か戦争も忘れそんな事を考えているうちに、眠気がピークに達した俺は、そのまま寝落ちしてしまったというわけだ。


 *****


 そして現在、

 何となくの危険を察知し目を覚ませば、モーニングコールには少々役不足な年季の入ったご老人。


「おいおい、ボケ過ぎじゃないっすか?此処はアンタの部屋じゃないっすよ」


 そんな軽口を吐きながら、俺は必死に考える。

 俺が部屋を間違えた?

 いや、夕食を届けに来たホテルのスタッフは確かに『不知火(しらぬい)様』と言っていたし、フロントで渡された鍵はおそらくその部屋にしか使えない。

 その鍵で開いて中に入れたのなら、間違いなくこの302号室が俺の部屋だ。

 ていうか、そもそも扉にはオートロックが掛かっていたはずだが、このジジイはどうやって侵入してきた?


「ほっほ。雑念が滲み溢れとるぞ、少年」


 全く分からない状況を必死に理解しようと思考を巡らせる俺を見て、老人は上から目線で薄ら笑う。

 どうにも部屋を間違えたとか、俺に怨みがあるという感じではない。


「ほっほっほ。呑気に寝ておって、ゆとり世代はこれだから困る。ほれ、自身のデジタル(D)ディメンション(D)デバイス(D)とやらを見てみろ」


 何かブツブツ言った後ジジイにそう促され、俺は警戒を怠ることなく自分のDDDを確認する。

 すると、通知画面にでかでかと映っていた、

 ーーー実技試験:第二項 開始ーーー

 の知らせ。

 

 ……油断していた。

 現在の時刻は20時少し過ぎ、まさか明日ではなく今日の時点からもう第二項が開始されるなんて、まったくの予想外だった。

 という事はつまり、コイツは第二項の試験の刺客というわけか。


「っていうかアンタ……、DDDおじいちゃんじゃんっ!」


 と、改めて相手の顔をマジマジと凝視した俺はそこで、男が第一項開始前の質問タイムでDDDについて説明してもらっていた、時代に着いて来れなかったおじいちゃんだと気づく。


「そんな風に呼ばれてるのか、ワシ…。いやはや、時代の流れというのは(いささ)かあっちゅうまでのぉ。付いて行けんのじゃ」


 トホホ…と、ツルツルの頭を撫で項垂れるDDDおじいちゃん。

 『DDDおじいちゃん』なんて名は俺が今咄嗟に命名した名前であり、俺しか読んでないのだが、そんな事今はどうでも良い。


「で、アンタが人の部屋に勝手に入ってきて寝込みを襲った理由は、この第二項の試験に関係があんのか?」


「なんじゃ、試験内容を全部見とらんのか?まったく近頃の若いもんは、活字を毛嫌いして目を通そうともせん。いいじゃろう、丁寧に教えてやる。

 この実技試験:第二項は、攻守一回ずつの個人戦。

 受験者は最初に攻撃側、防衛側にランダムに分けられ、攻撃側に指定された者は受験者が宿泊する部屋から一室、攻め込む部屋を決める。自分の部屋を守る防衛側は、その挑戦に拒否権はない。対戦形式は自由。一対一の勝負で勝った方がその部屋の一日の宿泊券と、その部屋のランクに応じた評価ポイントが貰えるという仕組みじゃ」


 流暢(りゅうちょう)に説明を終えたおD(ディー)ちゃん(DDDおじいちゃん略称)は髭を手櫛で撫でながら部屋中を見渡し、


「良い部屋じゃのうぉ。これはかなりの評価が貰えるぜえぇ」


 ニヤリと、当たりくじを引いた事に笑みが零した。


(なるほどそういう事か)


 どの部屋に選ばれるかは、完全ランダム。

 だから俺みたいな劣等生が、こんな超高待遇の部屋に泊まれたらしい。

 だがこれは、幸か不幸か。負ければ多大な評価とこの部屋を相手に明け渡す事になるが、それは裏を返せば俺がこの老人に勝てば、それら全てが俺のモノになる。

 一泊50万はくだらない、高級VIPルームの評価ポイント。

 下手したら、今までのマイナスを全て取り戻せるかもしれない。


「勝負方法は、俺が決められるのか…」


 ルールでは、防衛側は攻撃側の挑戦を受けなければいけない代わりに、その勝負方法を決められる。


(現代知識のクイズ勝負にするか、それとも老人相手に武力行使か)


 このおDちゃんに安全かつ圧倒的に完封できる勝負方法を俺が考えていると、


「ていうか、なら最初の一撃は何だったんだよ!?」


 俺は最初の杖での攻撃を思い出し、思わず叫んだ。


「ん?あんなの目覚ましビンタみたいなもんじゃろ」


「どう考えてもオーバーパワーだったろうが!」


 暴行未遂だと抗議する俺に対し、ジジイは「うるさいのお、細かいことは良いじゃろお」と舐めた態度を取る。

 憤った俺は結局、『権能ありAAでの格闘戦』に勝負方法を決定した。

 そうだ。俺は老人・子供・女だろうと、歯向かう者は容赦なく拳で鎮める男。このムカつく老害も、拳で分からせてやる事にした。


「了解じゃ」


 と、待ってましたとばかりにジジイはニッと笑う。


「ならば、これを使うとしよう」


 そして、指パッチンを一つ。現れたシステムウィンドウから、その中にある『決闘(デュエル)モード』を選択する。

 名前の通り対人戦闘を目的として作られたこのモードは、【A・V】では敗北しHPがゼロになってもリスポーン不要や、細かな戦闘ルールの設定ができる為、主に公式大会や大事な賭け事などの戦いにおいて多く用いられていた。

 しかし、こと混同(コンヒューズ)した今の世界では、何もそれだけではない。

 HP0=死というこの現実世界では、今のような軽い戦闘でも簡単に死んでしまう可能性がある。そうならないように、俺達はあらかじめ体力設定で体力の半分を選択。

 先に体力の半分をきった方が、敗北というルールの上戦闘を行う。


 おDちゃん、本名:《渡会辰(わたらいたつ)》から決闘申請が送られ、俺は承諾をタップ。


『決闘成立。両者、一定間隔を空けてスタンバイしてください』


 すると何処からか、機械音声でのアナウンス。

 俺達はベットを挟んで、それぞれ準備OKボタンを押す。


『スタンバイを確認。勝利条件:相手の体力を半分にする。

 戦闘開始まで3、2…』


 流れるようにカウントダウンが始まり、俺が構えると合わせて渡会ことおDちゃん喋り出す。


「一応、試験側の勝利条件も足しとくぞい。相手のHPを半分、もしくは戦闘不能にするか、相手にギブアップと言わせたら勝ちじゃ。それじゃあ……」


『1』


「DIVE・IN」『LADY・FIGHT!!』


 瞬間、おDちゃんのDIVE・INと合図が重なり、眩しいライトエフェクトを受けながら戦闘開始。

 さながら正義のヒーローの変身シーンを待つ悪役の気分だが、悪いが俺は何でその隙に攻撃しないんだとマジレスで夢をぶち壊す側の人間なため、ご丁寧に待ってやる気はない。


「ジジイのくせに、カッコつけてんじゃねえっ!」


 高級ベットに容赦無く一歩を踏み込み、そのまま勢いよく無防備な老人に肉薄する。

 がしかし、俺の〈炎の拳(バーニングナックル)〉が届くよりも一瞬早くおDちゃんの変身が完了。

 俺の渾身のパンチを、その掌で軽く制止させる。

 そうして現れたのは、先程まで眼前にいたヨボヨボの老人ではなく。毛ひとつ無かった頭にはふわりと棚引く金髪、立派なツノ。まるで仙人のような、龍人と呼ぶべき男だった。


龍道拳(りゅうどうけん)波衝(はしょう)!」


「グォッ?!!」


 攻撃を受け止めたおDちゃんはそのままもう片方の手で掌底(しょうてい)を放ち、俺は壁に勢いよく打ち付けられる。


「ゲホッ、エホッ!」


 さらにはそれが鳩尾(みぞおち)にクリーンヒットし、かなりの大ダメージ。会心と呼ぶべき一撃だ。


「この程度でもうダウンか?なってないのう小僧」


 ダウンする程ではないが、立つのに少し時間が掛かる。

 老人相手の肉弾戦であれば楽勝だと思っていたが、もしかしてこのジジイかなり強いのか。


「まだ、まだ」


 やっとの思いで立ち上がり、今度は慎重に間合いを取りながら様子を窺う俺。


「そうじゃそうじゃ、もっとワシを楽しませてくれ」


 そう言うとおDちゃんは、元々低い背をさらに屈め、技モーション体制へと移行。


「っくそ!」


 すかさず俺もモーションで返し、


炎の翼(フェザーブレイズ)!」


 遠距離技の炎で燃え盛った翼を、おDちゃんに向かって飛ばす。

 しかしそれを華麗に躱すと、あっという間に俺の頭上まで肉薄するおDちゃん。


陥突(かんとつ)


 地面を抉らんとする凄まじい薙ぎ払いを、俺は間一髪で回避。しかし、ノックバックして飛んだ先に更なる追い打ち。


昇天(しょうてん)」 


 龍が天に翔けるが如く放たれたアッパーは、俺の顎にクリティカルヒット。

 顎から脳天へと鈍痛が駆け巡り、天井へと吹き飛ばされる俺。


「っつうぅ~」


 軽い脳震盪(のうしんとう)に頭を抱え、俺はジジイを睥睨(へいげい)する。

 

(強い!)


 正直言って、時代に取り残された脆弱(ぜいじゃく)な老人だからと舐めていた。


「ほれほれ、まだまだじゃ」


「チッ!」


 加えて、まだ余裕が見られ手加減されているのは一目瞭然。

 変なポーズで構え、手をクイクイと誘ってい来る様は挑発だと分かっていても、こんな間の抜けたジジイにやられれば腹が立って仕方がない。


「上等だクソジジイ。残り少ない余生、ここで終わらせてやるよっ!」


 その挑発にまんまと乗っかった俺は、考えもなしに突っ込み案の定大人に立ち向かう子供のように容易くいなされてしまう。

 その動きは俺でも分かる程隙が無く洗礼されており、年相応の経験値が見て取れた。

 そうして、もはやティルトし雑になった攻撃が当たるはずもなく、一方的にシバかれ続けた俺の体力が半分ちょっと手前に差し掛かった時、


「ふーむ……、やめじゃ」


 ジジイは徐に、そんな事を言い出した。


「あぁ?」


 まだ勝負は終わってないと顰蹙(ひんしゅく)する俺に、ジジイは続けて言う。


「このままじゃお主の負けは確定じゃろ。だから、一つチャンスをやろう」


「チャンス?」


「そうじゃ。お前の体力が半分になる前に、ワシに一撃でも与えられたらお主の勝ちで良いぞ」


 そんな舐め腐ったハンデに「ふざけんな」と怒号を飛ばしそうになるが、俺は直前で制止する。

 俺の攻撃を一発も食らっていないジジイの体力は現在フルMAX。誰がどう見ても、ここから俺が驚異的な猛攻で逆転勝利するなど不可能に思える。俺自身ですらそう思っている。

 なら、この好機を見逃すべからず。


「よし分かった。一撃でも攻撃がヒットして1ミリでも体力が減れば、俺の勝ちで良いんだな?」


「ああ、それで構わんぞ」


 随分と、舐めてくれたものだ。

 実際俺の体力もあと一回分の攻撃で半分をきるため、実質一発勝負の戦い。

 今までは少なからず諦めやどうやって勝つんだよという絶望があったから投げやりな戦い方になってしまったが、勝機が見えたとなれば話は別。

 これ以上ないほどの集中で、俺は相手の隙を窺う。

 しかし、ジジイの方はいくら待っても動こうとはしない。あくまで、俺の動きを見るつもりだ。

 ならばと俺は、前後左右、上下にステップを踏む。相手の射程範囲スレスレ、攻撃があたるかあたらないかの適切な距離を保つ。

 一対一の戦闘において、重要とされる『間合い』だ。

 時折深く腰を落とし、緩急を付けて攻撃を差そうとするフェイク。それを繰り返しているうち、何度目かの俺が前方へと身を寄せた刹那、ジジイが動いた。


(来た!)


 まるで引っ張られているかのように、素早い平行移動で俺へと迫るジジイは、


「波衝」


 先程と同じ気を飛ばす掌底を放つ。


「それはさっき見たぜ」


 それを横っ飛びで回避する俺。……しかし、


廻旋(かいせん)


 ジジイの方も、波衝は吊りのフェイク。回避直後の無防備になった俺に、掌底を放った手をそのまま回転され裏拳を叩き込む。

 空を切る音が聞こえてくる程の、凄絶な威力を持った裏拳。

 

 これは、もう避けられない………終わった。


 と、今までの俺なら諦めていただろう。

 しかし、もうそんな弱っちい自分とはおさらばした。


「ふん、……がっ!」


 すでに前の回避で不安定だった態勢を、俺は気合で無理やり上半身だけを逸らせて、まるでマ〇リックスのように追撃の廻旋をも回避。


焼火消明(イグナイトバニッシュ)!」


 さらに上半身を地面と平行のまま、俺は自身の目の前ではなく、相手に振りぬくように鳴らした指パッチンで、指と指の摩擦によって発生した火花がVIPルーム内に燦々(さんさん)と閃光を炸裂させた。

 眼が焼ききれんばかりの光を直で浴びたおDちゃんは《眩暈状態》となり、視界が一時的に見えなくなる。


「ぐのぉっ!!?………やってくれたな、小僧」


 目を瞑りながら、すぐさま後退するおDちゃん。しかし、この好機を俺は逃さない。

 これ程の強者ならば、その効果時間もそう長くは続かない。態勢を立て直し最速で背後に回り込むと、俺は最も早く発動でき最も火力が出せる得意技:〈不滅の一撃(イモータルドライヴ)〉を構えた。

 が、寸毫(すんごう)の間。〈不滅の一撃〉を放つ直前、渡会辰が全身から充溢(じゅういつ)させた、凄まじい程の覇気。

 そして、唱える。


「龍道拳奥義・逆鱗(げきりん)


 刹那、おDちゃんの全身から圧倒的エネルギーを宿した龍気が、間欠泉のように迸発(ほうはつ)

 気づけば俺はVIPルームのふかふかのベットに横たわり、体力は半分になってしまっていた。

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