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X・x・R(ゼノ・クロス・リアリティ)  作者: 描々云々
【第1章】【Sensation】入隊試験
19/25

実技試験:第一項 その5 『泡沫の狐火』

 風呂を出て待合室に行くともうすでに阿知波(あちは)が先に出ており、ダーちゃんと(たわむ)れながら俺達の事を待っていた。

 湯のリラクゼーションはやはり効果抜群だったのか、その様子は元気さを取り戻しているように見える。


「ごめん、待った?」


 声を掛けると、少女はちょこんッと立ち上がりその瞳を俺達に向ける。


「いえ、私も今上がったところです」


 そして腰を直角に曲げ、綺麗なお辞儀をした。


「あと、心配かけて申し訳ありませんでした!もう大丈夫です」


 正直言って、かなり驚いた。それはただ単に風呂に入った事で英気が養われ、気持ちを切り替えたというよりももっと他の、何か皮が一枚剥けたような感じだ。


「よし、こっからが正念場だ」


 俺も少し身体を休めた事で多少の余裕は生まれたのか、新たに気持ちを引き締め鼓舞(こぶ)するように言った。この調子ならこの先もきっと大丈夫だろうと、俺達は第四のチェックポイントを目指す。

 がその前に、やはり銭湯あがりには牛乳を飲むというのが通過儀礼だろう。俺達3人は横に並んで腰に手を当て、豪快にビンの牛乳を一気に飲み干す。


 しかしやはりその美味さとコクは、みるくの牛乳には遠く及ばなかった。


 *****


「こんな時になんですが、私達友達になりましょう!」


 第4チェックポイントまでの道中、阿知波がいきなりそんな事を言い出した。


「どうした?急に」


 ここまで約4、50キロ、およそ3時間ほど共にしてきてもうすでに仲間ではあるが、友達と言われればそうとは言えない。そこに何の違いがあるのかと、その真意を確かめるべく尋ねると、


「この先は多分、もっと過酷で厳しい試験になってくると思います。だとしたらこちらも、より一層の連携力やチームワークといった一体感が求められてきます。

 その為にはやはり、友情を醸成(じょうせい)させるのが一番良いと考えました」


 それは、本当に風呂場内で中身が入れ替わったのではと疑うくらいの、前の阿知波とは思えない強い主張。

 言っていることは理解できるし、別に友達になる事になんら不満はないのだが……。


「俺ハ生マレテコノ方、友達トイウ存在ガ出来タ事ガ無イノダガ、ドウヤッタラナレルモノナンダ?」


 そう。実技試験が始まってすぐの時にも少し話したが、()()にはもとより『友達』と呼べる存在がどのラインまでなのか分からない。

 中学の頃は多少いたとも言えなくもないが、そいつらは軒並み義妹である愛凰(あお)とお近づきになりたいが為近づいてきた奴ばかりで、心の友や親友かと言われればNOだ。高校は引き籠っていたから、言わずもがな。

 械動の方もおそらく、生まれてからこの方ずっとこんな調子なら、大体察しはつくだろう。

 結論、立派な成人の俺達も阿知波に偉そうなことは言えず、このチームにまとな対人関係を築いてきた者はいないという事だ。


(……どうしよ)


 このままではフリージアが言っていたように、この2人と一緒にお風呂に入り裸の付き合いをするしか方法はないと焦る由意。


「まあとりあえず、連絡先でも交換しとけばそれっぽいんじゃね。…Link(リンク)とかやってる?」


 それは、無料でメッセージのやり取りや音声通話、ビデオ通話ができるアプリケーション:『Link』。

 もはや使用していない人の方が少ないであろう、全世界でほとんどの人が愛用しているアプリだ。

 何だか安っぽいナンパのように尋ねると、俺を含めた3人は揃ってD(デジタル)D(ディメンション)D(デバイス)からアプリを起動し友達追加する。

 これで俺の端末には、家族と公式アカウント、あと注木以外の初の友達が増えた。ちなみに械動と今まで交換してこなかったのは、別段どちらも言い出さなかったし、あまりLinkというのを見る事が無く必要としていなかったからだ。断じて、言い出す勇気が無かったとかではない。


「私のことは、どうか由意(ゆい)って呼んでください。私も勇鳳(はやたか)さん、攻機(こうき)さんとお呼びします」


 あんまり下の名前で呼ぶのも呼ばれるのも好きじゃないんだが、親しみを深めるにはやはりそれが一番効果的かと渋々了承する。


「分カッタ。ヨロシク頼ム、由意」


「はい。よろしくお願いします、攻機さん」


 そして、こういう拙速(せっそく)に馴れ馴れしくなるのも違和感がありやはりあまり好きにはなれない。


「……よろしく」


 短くそう伝え、俺は先を急いだ。


 *****


 『友達』になった事でチーム意識が高くなったのか、そこから先はこれといったトラブルもなく、細かな連携や気遣いなど前よりも格段に上がったチームプレイでペースも格段に上がり、スムーズに第四・第五チェックポイントのミッションも達成して行った。

 残すは、最終目的地である《アクスピオ・カステッルム》のみ。

 5つのスタンプが押されている事とルートを再度確認し、俺達はその道のりを進もうとしたその時、………事件は起こった。


「おお、不知火(しらぬい)やないか。お前ら、もう5つ終わったんか?」


 それはいつしかの銭湯で会った、関西弁の男。たしか《怪虎(かいと)》と名乗っていたか。


「ああ」


 正直あまり関わりたくないのと急いでいたため手短に答え、歩を進めようとした俺達に怪虎は「そう()ぐなや」と通せんぼしてくる。


「ナンノ真似ダ?」


「いやな、風呂出たあとすぐ気付いてお前ら探してんけど、もう出発したあとで一足遅くて渡せへんかってん。

 ほんでコレ。俺と不知火のDDD、なんかの拍子に()()()()()()()()()()らしいわ」


 そう言って怪虎が差し出して来たのは、何時如何なる時も復讐心を忘れないようロック小さい頃の愛凰の写真が写っているロック画面。間違いなく俺のDDDだ。


 ………いや、そんな筈はない。


 俺はスタンプやマップを見る際逐一DDDのロックを解除するのに自分の顔認証を使っていたし、そのアカウントも間違いなく俺のだった。

 第一、3人でLinkを交換した時、俺の名前がしっかりと2人の端末に登録されたのをこの目で確認した。それを確認しようと隣にいる由意を見ると、その表情が驚愕に染まっているのを捉える。


「うそ、なんで?」


 由意が小さく呟きすかさずその画面を覗くと、そこに映っていた友達欄に俺の名前は一切存在せず、代わりにふざけたアイコンの横に記された『カイトだよんw』という文字。

 すぐさまDDDを操作しアカウント画面を開くとそこには、まごう事なき《狐疑怪虎(こぎかいと)》という名前が記されていた。

 俺達がその事実を確認し、「ほな、返してもらうで」と怪虎は促す。

 多少の違和感は否めなかったが、しかし渋々交換。……その直後、 怪虎は視線を画面のまま、追い打ちを掛けるようにとんでもない事を言い放った。


「そっちはしっかり集めてくれたんや、…けどすまんな。ワイらは不知火のパスワードが開けんくって、スタンプ集められんかったわ」


「………は?」


 ケタケタと細い目をさらに細く曲げ、なんの悪びれもなく口にする怪虎。

 「まさかそんな事…」大阪特有のジョークだろ確認すると、丁度銭湯から3つ、スタンプカードに空白の箇所が見受けられた。


(嘘………、だろ)


 瞬間、俺達に襲い掛かったのは圧倒的な絶望と、それに劣らない計り知れない程の疑問だった。

 俺、もといリーダーの端末でスタンプを5つ集めなければ、たとえアクスピオ・カステッルムに行ってもゴールとしてみなされない。

 たしかに俺のパスワードが開けられなかったのは仕方ないが、やりようは他にも何かしらあっただろう。

 こんなところで偶然会って、今まで一体何をしていたのか?いったい銭湯でどうやって端末が入れ替わったのか?そもそも何で俺達は、あのDDDを俺のだと勘違いしていたのだろうか。


「ほんま悪いな。けど、これもまた運命や。もう一回第3戻ってやり直しや」


 そんな数々の違和感を巡らせている最中、変わらず不快な笑みを浮かべ用は済んだとばかりに、俺らの横を過ぎ去っていこうとする怪虎チーム。

 それが丁度交わる位置で、俺の右隣にいた攻機(こうき)が動いた。

 怪虎の顔面目掛けて放たれたそのカードキー形状のpassは、一直線に口腔(こうこう)へと挿入。


「おい、なんや今の!?何したんやワレェ?」


 騒ぐ怪虎を無視して、一拍置いて械動は小さく唸った。


「…ヤラレタナ」


 おそらく、〈informationpass〉で全情報を入手した攻機。俺は黙って続きを待った。


「コイツノ権能ハ、幻覚ダ。風呂デオ前ニ接触シテキタ時、モウスデニ作戦ハ始マッテイタ」


「どういう事だ?」


 それを聞いても、あまりピンと来ない。


「コイツガオ前ト接触シテイル間、モウ一人ノ仲間ガ能力デロッカーヲ開ケテオ前トアイツノDDDヲ交換。ソシテオ前ハコノ男ニ能力ヲカケラレ、アイツノDDDヲ自分ノと錯覚シテイタトイウ事ダ。俺ト由意ハ、オ前ヲ通シテ芋ヅル式ニ同ジ幻覚ヲカケラレタヨウダナ。

 ツマリコイツ等ハ、言イ訳ノシヨウモナイ計画犯。俺達ヲ(オトシ)メラレルベクシテ、罠ニ嵌メタトイウ訳ダ」


「お前…、そういう能力かいな」


 そこで初めて、怪虎は人を嘲るような嘲笑から、陰を濃くした冷笑(れいしょう)を浮かべる。


「ま、そういうこっちゃ。これは競走。上に上がるために他の奴を蹴落とすんは、戦略のうちっちゅうわけや。

 悪いけど、恨まんでくれよ。悪いのは、騙されたお前らの方なんやからな」


 いつぞやか、受験者は皆同じ(こころざし)を持つ仲間とかほざいてた奴が、まさか俺と全く同じ考えだったとは。

 しかしだからこそ、今コイツ等がした行為が自分達が合格するために一番利口的な選択だと納得してしまう。……だが、


「なんで俺達を狙った?」


 他にも受験者はいっぱいいる中で、どうして俺達だったのか。


「それはな……、()()()()()()()()やったからや」


 その言葉を聞き、俺達3人は唖然とする。そしてふと、俺はコイツとの風呂場でのやり取りを思い出した。


『ワイらも今第三チェックポイントでな』

 

 たしかコイツは、そう言っていた。

 何故分かっていた?それは、俺達と全く同じルート。俺達の後を付いて来ていたからだ。そしてだからこそ、風呂場でのあの余裕だったのかと、今になって分かっても後の祭りだ。


「ちなみにお前のロッカーの鍵も開錠出来たって事は当然、DDDのパスワードも解けれたで。それでルートが瓜二つっちゅうのを確定付けたんやからな」


 もはや隠す気もなくなったのか、ペラペラとその真相を語る(きつね)野郎。本当に、関西人はお喋りな奴が多い。


「ほな、ワイらはそろそろ行かせてもらうで。あと1、20分かそこらで、残りスタンプ3つ。制限時間内までに精々頑張りやー」


「「「ッッ!!」」」


 試験が始まってからすでに、もう4時間半程が経過している。

 スタンプを5つ所持していた状態なら、最終目的地であるアクスピオ・カステッルムまで充分間に合う時間だったはずが、今から第三チェックポイントまで戻って順にもう一度ミッションをやり直してでは、どうやっても不可能な時間だ。


(……終わった)


 全身から、力が抜けていくのを諸に感じた。立っているので精一杯だ。


「お前らの分はしっかり背負って、ワイらがこの試験クリアしたるから、今期は縁が無かったっちゅう事で諦めるんやな。ほなっ!」


 そんな俺達を眺めながら嬉々としてそう告げる怪虎は、まるで勝利の余韻に浸るかのように暢達(ちょうたつ)な足取りで、夕闇に消えていく。

 憤怒や怨嗟(えんさ)は、あまり感じなかった。ただただ肺腑(はいふ)を満たすのは、リーダーとしての自分の不甲斐なさとやるせなさ。


(どうする…、どうする…、どうする!?)


 必死に思考を巡らせようにも、もうどうやっても逆転の一手が不可能だという事は、頭の片隅で理解している。


「………ごめん」


 そうして暫くして口を突いて出たのは、そんな情けない言葉だった。

 リーダーとして、もっと自覚を持って俺がしっかりしていれば。DDDをもっと慎重に管理していれば。アイツの能力に気付いていれば。……そもそも、俺がリーダーでなければ。と、今更のタラレバと後悔が星の数ほど浮かんでくる。


「マダ、終ワッテハイナイ」


 そんな中声を上げたのは、無感情で無機質。淡々と音声を鳴らした機械男:械動攻機だった。


「?」


 さすがのコイツでも、この現状をどうにかするのは無理だ。今更気休めの言葉なんか掛けてもしょうがないだろうと、半ば睨みをきかせながらその真意を窺うと。


「シカシコレハ、各々ガソレゾレノ権能ヲ最大限発揮シナケレバ、到底成シ得ナイ芸当ダ。成功確率モ、カナリ低イ」


 そんな馬鹿な事と思うがしかし、俺は思い出す。この数週間、コイツと共に行動し特訓をしてきて、こんな場面で嘘や冗談、ましてやまったく根拠のない話をするような奴ではない事を。


「聞かせろ」


 その作戦は簡単に言うと、当初から視野に入れていた三手に別れてのスタンプを獲得していく戦法。

 当時はどんなミッションが来るか分からず、そもそも俺の端末でしかスタンプを押せないという事で結局ボツとなったが、


「アトハドウヤッテスタンプヲ押スカ、ニツイテダガ」


 俺がそれを口にする前に、攻機は自身のDDDを取り出して言う。


「スタンプカードノプログラム自体ハ簡単ナモノダ。俺ト由意ノ端末ニ書キ写シ一時的ニスタンプヲ貰イ、後ハ合流シタ際ニスタンプヲオ前ノ端末ニ移セバ、ソレデOKダ。

 本当ハスタンプノデザインヲ模写デキレバ、ワザワザチェックポイントマデ戻ル必要ハ無カッタノダガ、流石ニソコマデハデキナイ」


 そして何の問題もないとばかりに、自分と由意のDDDにスタンプカードを複製した。

 何だかよく分からないが、とりあえず不正ラインギリギリな事をして一応は何とかはなるらしい。

 であれば、ルートもミッションも一回達成済みで把握している今の状態なら、1人1チェックポイントで十分行ける。


 此処から一番近い第五チェックポイントのミッション『料理対決』は、距離が一番短い上に料理がこの中で最も得意な由意が担当し、第四チェックポイントのミッション『クイズ大会優勝』は、答えを知っている司会進行にpassをぶち込み不正カンニングをする械動が担当。

 そして第三チェックポイントを、俺が担当する事になった。

 本当は械動に頼みたいところだが、俺ではクイズ大会で優勝するのに時間が掛かってしまうし、料理何かやった事ないため、消去法で俺が行くことになった。


 第三チェックポイントのミッションは『お風呂で休憩』という実質何もしなくて良いのと同義の簡単なミッションだが、やはり最大の問題となってくるのはその()()だ。

 例え3つに手分けして効率良くスタンプを集めたとしても、残り30分かそこらでここから4、50キロ離れている第三チェックポイントからゴールへ行くのは、何度も言うように絶対に不可能。しかし……、


「これを使ってください」


 それはレベル1の何もできなかった頃の、自分の背中に生えている翼もろくに操れない貧弱な不知火勇鳳(しらぬいはやたか)であったらの話だ。

 由意が差し出してきたのは、手のひらサイズのカプセル。


「私の従獣(じゅうじゅう)Begiwing(ビギーウィング)です。まだあんまり懐いてくれなくて、言う事を聞いてくれない時もあるんですが、傍に置いておくだけなら問題はないと思います」


 阿知波がカプセルを地面に放り投げると、カプセルは真っ二つに割れそこからポ〇モンのようにモンスターが召喚させた。

 青と白の爽やかそうな毛並みが特徴的な、鷹のような鳥獣。

 追獣(ついじゅう)効果覧には、追従者の飛行能力アップが存在した。


(これなら!)


 俺は背中の羽を広げ、そのままひと扇ぎする。すると、足は地面から離れ重力を失ったかのように浮遊する。


「飛べるっ!」


 一時的だが、飛行能力が使えるようになった。

 これでややこしい信号、人々、複雑な道路を通らずして、上空から直線で一気に目的地の銭湯まで行ける。

 あとは、時間の問題だ。できるだけ全速力で飛んでは行くが、正直間に合うかは神のみぞ知るところ。


「まだ信頼度が低いので、急に追従効果が切れるかもしれません。気を付けてください」


 すると補足とばかりに、そんな恐ろしい事を言う由意。

 フルスピードで飛んでいる最中に、そんな事をされたらかなり危険だ。飛べずともゆっくり降下する事が出来る俺は、気を引き締めて頷く。


 これで全員が準備万端。あとは各々がスタンプを獲得するだけだ。

 俺達3人の顔にもう絶望の色は存在せず、揃って向き合うと、


「次は……」

「ゴールで会いましょう!」

「了解シタ」


 堅く頷き、それぞれ同時に別々の3方向へと駆けて行った。


 _____


 信号、人だかり、複雑な道など制約だらけの陸から解き放たれた上空は、まさに自由で広大な大空だ。


「飛ぶって、こんな感じなんだなぁ」


 行き交うのは、同じく羽で空を飛ぶ鳥たちとさらに上を漂う雲だけ。俺はその鳥達とぶつからないようにすれ違いながら緩やかに飛行し、まずはその空の空気とやらに徐々に身体を慣らしていく。

 急がなければいけない状況というのは分かっているが、この景色や雰囲気に感銘を受けずにはいられなかった。

 すると、


「うおっ!」


 突然視界が影に覆われたと思ったら、そのさらに上空。

 まるで大雲海(だいうんかい)のような佇まいで身体に白き雲を纏った巨大な白竜が、この茫漠(ぼうばく)な空を優雅に渡っていた。

 これが試験中のしかも追い込まれた状態、……もっと言ってしまえば、混同(コンヒューズ)し混乱した世界でなかったのなら、どれほど感動していたかもはや形容しがたい。


「っと、そろそろ」


 しかし今は、大事な大事な試験中だ。

 ビギーウィングも今のところは言う事を聞いており、空の空気にもそろそろ慣れて来た。


「かっ飛ばすか」


 俺はギアを一段階上げるべく、第三チェックポイントを目指して、広大なインセプションの上空を滑空していった。


 *****


 太陽さえもその平穏さに怠け、一時の休憩をしたくなるおやつ時、現在時刻は15時少し前。

 試験開始から、およそ4時間58分。


「あなた達が、最後のチームです」


 ゴール前で待っていたカタブセの声に振り向き、怪虎はその光景に細い目を最大限見開いて瞠目していた。


(ありえへん……)


 不知火チームがたった今、3人揃って《アクスピオ・カステッルム》の門を潜りゴールしたのだ。


「いやあ、一時はどうなる事かと思ったけど。ホント、間に合ってマジで良かったなぁ」


「これで一安心ですね」


 なんとか時間内にゴールした事で、安堵と喜びを交え話す勇鳳と由意。


「残念ですが、それは違いますね?」


 そんな2人に、突然背後からカタブセの声が鳴った。


「うおっ!……な、何が残念なんですか?」


 少し身を引きながら勇鳳がそう答えると、カタブセは自身の腕時計に一度視線を落とし一瞥したのち、徐に喋り出す。


「たった今、第一項実技試験が終了いたしました。現時点でゴールできなかったチームはこれにて失格となります。そして、最後にゴールしたチームはあなた達です。言いましたよね、これはレースであり競走だと。制限時間内にゴールしたとしても、そこで安心してはいけません。

 事実上、あなた達がこの試験の最下位。試験の評価は最も低いという事になります」


 ………そう。最終局面でのトラブルで、すっかりゴールする事だけを考えていた勇鳳達だったが、この試験は何もゴールだけではなくより高順位を狙わなければいけないレース。

 筆記試験に続いて、大事な実技試験の初っ端も見事に最下位。

 勇鳳は今度こそ、耐え切れず膝から地面に崩れ落ちた。


「おわっだああぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーあぁっっっ!!!!!!」


 もう本当に後がなくなってしまい、人目も気にせず無様に慟哭(どうこく)するしかなかった。


 _____


 そんな光景を背に遠ざかりながら、しかしこの試験の全てを監視していたカタブセは思う。

 勇鳳達が怪虎の罠に()められ、そこから第三チェックポイントまで戻され3つのスタンプを集めてゴールするまで、それに要した時間は約25分。

 結果論ではあるが、もし最後の追い上げのようなスピードで最初から試験に挑めていたのなら、それはおそらくレコードを更新する時間になっていたかもしれない。……と。


「ま、可能性の話ですね」


 そう静かに呟いて、カタブセ人知れず次の実技試験:第二項の準備へと向かうのだった。

最近水曜日に更新できなくて、本当にすません。ごめんさない。お許しください。


頑張りまs……



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