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X・x・R(ゼノ・クロス・リアリティ)  作者: 描々云々
【第1章】【Sensation】入隊試験
18/25

実技試験:第一項 その4 『癒しと勇気の泉』

 《レイジルグ》を倒しパンを配達した俺達は、現在第三チェックポイントを目指して進行中だ。

 そんな道すがら、ダーちゃんをぬいぐるみのように抱き抱えながら俯いて歩く少女阿知波(あちは)は、先程から目に見えて元気がない。

 まあ目の前であんな怪物が暴れ、人が殺されたのだから無理もない。

 平和な田舎で育ってきた少女には、十分トラウマに成り得る光景だっただろう。

 到底走る気力のない阿知波にペースを合わせ、俺達はゆっくり歩を進めていく。


「……すいません、足引っ張ってしまって」


「全然大丈夫だよ」


 ここで、「焦らずゆっくり行こう」の一つでも言える甲斐性が俺にあればよかったのだが、あいにく他人を気遣ってやれるほどの心の余裕は現在持ち合わせていない。

 その制限時間も刻一刻と迫る中で、時折こんなスピードで本当に大丈夫なのかと心配になるが、焦りは正常な判断を鈍らせるため禁物だと自分に言い聞かせるので精一杯だ。

 幸いにも、俺らのチームには例え今顔面にスズメバチが止まっても、目の前にいきなり隕石が降ってきても微動だにしないであろう冷静さを持っている械動(かいどう)がいる。

 コイツを見てると、気休め程度だがこちらまで落ち落ち着くような気がする。


 そうしてチーム全体が沈んだ気持ちのまま進むこと1時間半、ようやく俺達は、折り返し地点である第3のチェックポイントに辿り着いた。

 5時間で5つとなれば、最終目的地である《アクスピオ・カステッルム》の時間も考慮して、最低でも一つのチェックポイントに使える時間は約50分ほどでなければならない。

 現在の合計所要時間は、およそ3時間と少し。

 最初のアドバンテージは完全になくなり、なんなら少し遅れているとも言える。


 こうしている間にも、時間は無慈悲に一秒一秒と時を刻み、しかし走り続ける事はできない身体の疲労。

 そんな『心と身体』、両方のストレスにサンドウィッチされながらも前に進まなくてはいけないのがこの『体力』を求められる実技試験だ。


 そんな尋常ではない疲労感に苛まれながら、第三のチェックポイントを確認するとそこは……、

 都会風で近未来チックの建物が屹立し立ち並ぶ街中で、明らかにミスマッチな『和』を感じさせる外装。

 屋根の煙突から立ち昇る湯気に一瞬、『カポンッ』というとても耳触りの良い音と、一面青い富士山が映ったような気がした。


「銭湯……、か」


 第3チェックポイントは、銭湯だった。

 どうやらミッションの方は入浴らしく、湯船に入るだけでスタンプが貰えるらしい。

 折り返し地点なだけに、もうすでにフルマラソン顔負けの50キロほどは走っているため、身体の方は大分ガタが来ている。入らなければ先に進めないとなれば喜んで入らせていただくのだが、銭湯に(つか)かって身体を癒すだけでスタンプゲットなんて上手い話が果たして本当にあるのだろうか。

 『入って来たおっさん達の体を、全員隈なく洗い流す』なんてミッションが発生してもおかしくない状況だ。

 まさか、【Sensation(センセーション)】側の配慮か。疲れ切った俺達受験者側からしたら、なんとも望外(ぼうがい)なはなしだ。

 阿知波の方もおそらく、心も身体も大分Low(ロー)になっているだろうから、此処は一旦何もかも忘れてご褒美タイムとして安らぐとしよう。


 中へ入ると俺と械動、阿知波がそれぞれ左右に別れて脱衣所へと向かう。その直前、せっかくのご褒美休憩だというのに変わらず浮かない表情で女湯の暖簾(のれん)を潜ろうとした阿知波に一言、


「まあ、試験の事とか諸々一旦全部忘れてさ、ひとまずはしっかり身体温めてスッキリしようぜ」


 励ますようにそう言うと、阿知波は笑顔を見せ「はい」と簡素に答え女湯へと入っていった。

 ……まあ、ガチガチの愛想笑いではあったが。


 俺達の方も男湯の暖簾を潜ると、そこには脱衣所だけですでにそれなりの人がいた。どうやら、インセプション内でもかなり有名なバーチャル銭湯らしい。


 【A・V】時代にも温泉や銭湯なるものはあったらしいが、それはいくらフルダイブ型のVRゲームだとは言え食事をしてもあまり匂いや味が感じられないのと同じで、ただただ液体に(ひた)っているという感覚しか得られない。

 一応入れば《加護》や食事同様、何らかのバフが付与されるらしいが、なら加護や食事でいいだろうと、元々風呂に入るのが嫌いな俺はわざわざ脱衣モーション・洗浄モーションを得てまで入る価値はないなと眼中になかった。

 しかしそれは、単に()()()()が面倒くさいというだけで、入ってしまえば別に苦というわけではない。

 やはり風呂というのは、その身体全体に染み渡る熱と心地よさを感じてなんぼだ。


 タオルを腰に巻き、自動ドアを開いていざ浴場へと乗り込むとなんと、通常銭湯の浴場内と言えば白いタイルに同色か、あるいは暖色系のライトを想像するが、中は黒を基調としたタイル張りにライトは寒色よりの中性色系だ。

 湯気と相まって蜃気楼(しんきろう)のように浮かぶ富士山は、夕陽を浴びた紫檀(したん)色で浴場内を見晴らしている。


「すげえ、湯船が七色だぞ」


 興奮のあまり身体も洗わずして浴槽に飛び込みそうな俺を械動が制止し、汗がこびり付いた身体をしっかりと洗い流す。タオルを頭の上に乗せ、これで準備は万全。

 電気風呂や泡風呂、水風呂など様々な風呂があるが、ここはやはり湯が七色に発光した『ゲーミング風呂』だろう。

 その足からゆっくりと湯に浸かりつま先から温度を感じながら、全身を徐々に没入させていく。

 これ以上ないほどの至福を、俺はありありと味わうのだった。


 ーーー女湯ーーー


「はあぁぁ~」


 湯船へと浸かった由意(ゆい)は、その気持ちよさに全身がとろけそうになる。

 しかし、それは気持ちよさが故に零れ出た吐息ではなく、半ば溜め息も混じっていた。


「迷惑、掛けてるよね」


 頭も心も整理がつかないまま目まぐるしく状況が流れていき、それでも歩き続けなければならず身体はクタクタ。

 みるみると元気はなくなっていき、挙句チームメイトに心配をかけ気を遣わせる始末。

 どうにか気持ちを切り替えようにも、元々の引き摺りがちな性格が邪魔をして考えれば考える程気分が落ち込んでしまっていた。

 そしてそれは、何も疲労感からくるものだけに非ず。この形容しがたい複雑な気持ちの最もたる根源は、あの戦闘。

 人が何人も死んでしまったのはとても悲しい事だが、由意にとってはそれと同じくらい人間の手によってモンスター達の命が亡くなってしまったのが悲しくて、またやるせなく堪らなかった。


 山と田んぼに囲まれた超の付くほどの田舎の村で育った阿知波由意は、同年代の友達というのが周りにいなかった。

 幼少の頃からずっと1人で山で遊んでいるうちに、自然と山の動物達と話せるように馴化(じゅんか)してった由意は、気の許せる友達はと聞かれればそれは人間ではなく、迷うことなく犬や猫などの動物と答える。

 そんなコンビニはおろかスーパー、学校すらないド田舎に、最新式のVRダイブハードが来たのはまさに革命と言えた。

 今の暮らしに不満があるわけでもなく、ゲームなどにも興味のなかった由意は特に何を考える訳でもなく【A・V】をプレイし、その広く高く無限大の可能性を秘めた茫漠(ぼうばく)とした世界に衝撃を受けた。

 自身の分身とも言えるAAは、可愛らしいモフモフのケモミミと尻尾を生やし、まるで自分自身が動物になったのかと気分が高揚したのを覚えている。

 そしてその権能は、【A・V】の全生命体とコミュニケーションを可能とする《生物との対話(バイオダイアログ)》。

 そうなれば必然、内気で受動的。今まで人間の友達が一人もいなかった少女は、大人数が同時にオンラインでプレイし、インターネットを通じて複数人の他のユーザーと一緒にゲームを楽しむことができるMMOにおいても一緒にゲームをプレイする友人はできず、モンスターとの友好関係を築くことをやりがいとし日々【A・V】プレイするようになった。


 しばらく経って混同(コンヒューズ)が発動した時、由意がまず最初に心配したのは村と村の人々。そして、友達である動物たちだった。それらが無事だと分かると、次いで混同によってこの現実世界に現れるようになったモンスターの事を考え始める。

 人々はそれらを人間に害を成す怪物と恐れ殺すが、果たして本当にそうなのか。話し合い互いに分かり合えば、共存は可能ではないかと由意は思った。少なくとも、自分が【A・V】内で話してきたモンスター達は皆そうだったと。

 そして知る。モンスターと対話できる自身の権能が、この現実世界でも引き継いで使える事を。

 それならば、モンスターと言葉を交わせる自分が話し合うと、人と怪物の架け橋になってみせると彼女はこの【Sensation】試験に挑むことを決意した。

 そう。会話さえできれば、全て分かり合えると思っていたのだ。がしかし結果は、由意はレイジルグを酷く怒らせてしまった。

 初めて向けられた明確なる憤怒や殺意に由意は怯え、人とモンスターの争い止めることができず、お荷物とばかりにチームメイトに迷惑を掛けている。

 こんなんでは人とモンスターの共存はおろか、その権能を使うために必要な攻略者(レイダー)すら取得できるか危うい。


「やっぱり私には、できないのかな…」


「何がですか?」


「ひゃいっ!」


 ほぼ無意識の中独り言のように呟いた言葉に予期せぬ返答があり、由意はビックリしてその場で飛び跳ねた。

 声のした方を振り向けば、そこには薄暗い浴場内でも神々しいほどに輝く金髪をさげた《フリージア・G・マスターソード》がいた。

 貴族の王女様なんかとは無縁の存在だった由意は、緊張で身を縮こませる。


「ふふ、そんな肩に力を入れる必要はありません。せっかくのお風呂なんですから、もっとリラックスして羽を伸ばしましょう」


 穏やかな笑みを浮かべそう言って、フリージアは手を交差させ思いっきり背伸びをしてみせる。

 お偉いお姫様なんてどこかお堅いイメージがあったが、意外と気さくな人なんだなと由意は思う。


「それで、何に悩まれているのですか?」


「いえ、そんな大したことではありません」


 こんな高貴な方に相談など、恐れ多いと一歩身を引く由意。


「大したことない事でも、それが積もり積もってしまえば大きな塊になってしまいます。それに、そんな可愛らしいお顔が、大したことないような悩みで曇ってしまうのは私としては納得がいきません。

 差し出がましいかもしれませんが、少しはお力添えできるかもしれません。話してみては」


「……そんな」


 こんな誰もが振り向くような絶世の美人に『可愛い』だなんて、逆に皮肉とすら思えてしまう。

 しかしその声音には不思議と(すが)りたくなるような、……いや、頼りたくなるような包容力が秘められていた。


「どうしてもやりたい事があって、この混同(コンヒューズ)した世界で戦うって決めて今回の試験に参加したんですけど、結局何もできずに迷惑掛けてばかりだし、体力的にも結構厳しくて、もう辞めちゃおうかなって…」


 体育座りで俯きながらそう語ると、そこには自分の情けない顔が湯面に揺らいでいた。


「やりたい事、ですか…。私にもありました。けど、それをする事は許されなくて、諦めようとも思ったけどどうしても諦めがつく無くて、どっちつかずのままこんなところまで……」


「フリージアさんみたいに強くてカッコ良くて有名な人でも、できない事があるんですか?」


 言って数瞬、由意は自分の口を両手で覆った。王女様に対しいきなりファーストネームでさん付けなど、なんとも無礼な失言だったとすぐさま謝罪する。


「すいません…、『さん』だなんて」


「気にしないでください。むしろ、そっちの方が良いです。日本には古くから裸の付き合いをした人同士を、仲が深まり友と呼ぶ風習があるらしいです。もう私達は、友達でしょう?」


 『友達』。その単語を耳にした時、由意は自身の心臓が一際撥ねるを感じた。

 こんな自分が王女様と友達なんてと思う反面、初めての人間の友達に高揚が隠せない。

 耳はピクピクと、お湯に浸かった尻尾は左右に激しく揺れ飛沫(しぶき)が舞ってしまう。


「あらあら、カワイイ」


 そんな愛くるしいペットを見るような表情で微笑んだフリージアは、次いで由意の小さな身体を優しく抱き寄せた。

 きちんと筋肉は付いているが、それに加え女性特有のしなやかさや柔らかさも残した豊満なボディ。

 なんだか友達と言うよりかは、『お姉ちゃん』のような安心感に由意はそのままもたれ掛かる。


「今おいくつ?」


「14歳です」


「すごいですね。その歳でハッキリとした目的があるっていうのは、本当に素晴らしいことです。私が14歳の時なんて、お城が退屈過ぎて黙って抜け出したり、悪さしたり、ゲームしたりして遊んでばっかでした。

 だから、自信を持ってください。貴方は、すごい子です」


 風呂との相乗効果も相まってか、その言葉は由意の身体の奥深くの肺腑まで強く染み渡る。


「フリージア様ぁ~、ご談笑のところ恐れ入りますが、もうお身体の方はお洗いになられましたか?」


 するとそんな2人に、ヒョコっと浴槽の淵から申し訳なさそうに顔を覗かせる家臣が1人。ルーチェだ。


「こら、フリージア様は取り込み中だ。邪魔すんな」


 忠誠心にかこつけ(よこしま)な思惑が垣間見えるルーチェを、後ろからスパーダが掴んで引きずっていく。


「やだーっ。フリージア様の身体は私が洗うんだーっ!!」


 そんなやり取りをしながら遠ざかっていく2人を眺め、フリージアは言う。


「まったく、騒がしいでしょう。あの2人も私の大事な家臣であり、友達です」


 そしてゆっくりと立ち上がると、


「もう大丈夫そうですね、ではまた。この試験のゴールで」


 そう言って浴槽から出て、フリージアは2人の後を追っていった。

 フリージアの凛々しい背中を拝みながら、由意は思う。彼女は言った、『()()()で』と。つまり、もう途中リタイアはできない。

 湯面に浮かぶ自分の顔を掻き消すようにお湯を思いっきり顔面にかけると、


「よしっ!!!」


 もう彼女の顔に、さっきまでの陰りはなくなっていた。


 ーーー男湯ーーー


「お前さんもこの試験の受験者やろ?お疲れさん」


 電気風呂で全身の筋肉をマッサージしていた俺は、いきなり横からそんな関西弁で声を掛けられ目を開ける。

 細い眼付に、縦長の顔。爽やかなスパイシーショートの髪形で、体型はかなりのっぽな男だ。

 そいつはもう一つ空いていた俺の隣の窪みに腰を下ろすと、俺の返答を待たずして流暢(りゅうちょう)な関西弁で喋りを続ける。


「なんで分かったって思ったやろ?この銭湯は試験の折り返し地点っちゅう事で、ご褒美スポットとしてチェックポイントに入る事が多いねんて。

 んで、その顔のやつれ具合や歩き方などの疲労感で、大体誰が受験者かって分かんねん。今だと……、ざっと5、6組くらいのチームがこの場におるな。どや、すごいやろ?」


 何をペラペラと自慢気に語っているのだと呆れるが、しかしよくよく考えてみれば俺は今コイツに言われるまで他の受験者達もこの中にいるとは分からなかったし、考えもしなかった。

 それは何故かと言われれば、主にこの全身に深くこびり付いた疲労感と、それを一刻も早く癒したいという焦り。

 折り返し地点に多いという事は、コイツもそれなりに道のりを辿って来たはずが、その心身に疲労と焦燥はあまり感じられず飄々として映る。さらには他人の細かい部分まで観察する余裕があるとは。確かにすごい。


「じゃあ、あの人は?」


 しかし、俺の時はまぐれだったかもしれない。俺は左隣にいる関西人のもっと奥、浴槽の一番端にいる体をよく絞った屈強な男を指差し、当ててみろと訴える。


「あんなもんは一眼見ればわかるやろ、受験者や。これからまたあの過酷な道を行かなきゃ行けないのかっちゅう絶望のオーラがヒシヒシと溢れ出とる。

 けったいなこっちゃで、まったく。こんな目的地かつ身体の休める天国(チェックポイント)があるってだけで、ワイらは勝ち組やのに。ないチームだっておんねんで」


 とペチャクチャ口が塞がらない関西人を尻目に、まあ憶測でなら何とでも言えるけどなと奥の男を見てると、その内2人の男が集まって来て「おい、そろそろ…」「……ああ」「あと一つだ」なんて会話をしてるのが聞こえた。どうやら、コイツの目は本物らしい。


「で、それを俺に教えて何が目的だ?」


「そんな勘ぐんなや。ワイらは互いに競い合うライバルみたいな風になっとるけど、実際のところは一緒にこの難関な試験のクリアを目指す同志やろ。

 ワイらも今第3のチェックポイントでな、これから共に戦うことになるであろう未来の仲間とのコミュニケーションを図っとるだけや」


 「ふーん」と、俺は淡泊に答える。

 お喋りな関西人と違いこちらは人見知りなためあまり話す気はないのと、正直変な関西弁も相まって言動一つ一つが怪しくて堪らない。

 だが、ここで他のチームの現状が知れたのはたしかにラッキーだ。

 街中では普通にAA市民がそこらに彷徨いているため、どれが受験者なんてのは確認のしようがない。

 コイツが自慢していた事が本当で、もし今この場にそこそこのチームがいるなら、それは嬉しくもあれば悲しきかな。最初のアドバンテージはほぼなくなっているとみて間違いないが、逆に今この場に居るのが平均的なペース。俺達は出遅れていないという裏付けにもなる。

 隣のコイツは、他のチームは皆仲間だと戯言(ざれごと)(のたま)っているが、カタブセも言っていたようにこれは歴としたレースであり競争。少なくともこの試験上では、俺達以外の全ての受験者は蹴落とすべき敵だ。

 さっきの男達はもう次が最後のチェックポイントなどという会話をしていたし、俺達もここで一足でも先に移動してリードを確保しておきたい。

 そう思い(おもむろ)に立ち上がった俺に、またしても関西弁の声が掛かる。


「もう行くんか?」


「ああ。アンタは随分と余裕そうだな」


「まあ、焦ってもしゃーないからな。自分のペースでゆっくり行くで」


 「ふーん」と再度、淡白な受け答えで返し湯船からあがる俺。何だかコイツは何を考えてるか分からない節が見受けられ、あまり深く話そうという気にはなれなかった。

 そんな俺に最後に一つ、


「ワイは怪虎かいとや。よろしゅう。おたくは?」


 怪虎と名乗った男は自己紹介を求めて来た。


「…不知火(しらぬい)


 そして俺は振り替えることなく、背中でそう名乗るのだった。

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