実技試験:第一項 その1 『始まりの星輪』
筆記試験が終わり順番に部屋から退出した受験者達は、そのまま20階の大部屋へと集められそこで待機させられる。
「どうだった?」
俺と合流した械動の第一声は当然、筆記試験の調子を伺うものだ。
「……マジで終わったわ」
よく学校なんかのテストで「マジ点数終ったわ~」とか言いつつ、ちゃっかり高得点を取っているウザい輩がいたりしたが、今の俺は正真正銘、本当の本当に終わった。
あれで合格ラインならば、おそらく試験を受けた全員が合格できるだろう。
「まあ、まだ実技がある」
すると沈んだ様子の俺に珍しく人の気持ちを汲んでか、そんな励ましの言葉を送ってくる械動。しかし申し訳ないが、そんなでキレイさっぱり心を切り替えられる程、俺のメンタルは頑強にできていない。
そもそも実技に自信がないから、この筆記に全てを賭けていたというのに。
まさか、オールの代償がここで来るとは………。もういやだ、死のうかな。
そんな具合にメンタルが死んだ状態で突っ伏す事10分、大部屋の最奥におよそ100人以上はいるであろう受験者の前に1人の男が現れた。
「皆さん、まずは第一の筆記試験お疲れさまでした。
早速ですが、続いて第二の『実技試験』へと移させていただきます」
ピシッとしたスーツを着込み、垂れ目に柔和な顔が印象的な初老のおじいさんだ。
「私はこの実技試験『第一項』の試験監督を担当させていただきます、カタブセと申します。
まずは皆さん誰でも構いません、好きな方と3人1組のチームを組んでください」
するとカタブセは、そんな体育教師みたいなことを言い出した。
3人1組か、誰とでも良いという事だから1人は械動で決定として、もう1人が難しいところだ。
このタイミングで組まされるという事はつまり、これから行動を共にし一緒に試験の合格を目指していく言わば一蓮托生の存在。人選は慎重にしていきたい。
皆が皆、互いに品定めするような目つきで牽制し合う最中、俺もその中に混じって目を光らせているとこの大衆の中でも一際目立つ、マスターソード王女を見つけた。
そして、彼女を見た誰もが次いで思う事が、フリージア・G・マスターソードと組めばもはやこの実技試験は楽勝。『大船に乗ったつもりで、キャリー間違いなし!』という事実だ。
おそらくこの場にいる全員が彼女と組みたいだろうし、隙あらば勧誘しようと皆一様にチラチラと様子見の視線を向けるが、広場で目撃した通り彼女にはすでに2人の仲間がおり組む人間はあらかじめ決まっている。
もしかしたらそれを見越しての、3人での参加なのかもしれない。
まあさすがに無理かと諦念の気持ちも交え彼女を見つめていると、偶然にもそこで目が合ってしまった。
先のトイレでの一件を覚えていてくれたのか、アッという表情の後こちらへと近づいて来る王女。
途端、周囲にざわめきが走る。
「もしや、アイツと組むのか?」という疑惑の視線がヒシヒシと集められ、かく言う俺もワンチャンあるのかと期待してしまう。
「先程は大変ご迷惑をおかけしました」
開口一番、やはりトイレの件で一礼を述べて来るマスターソード。別にあんなの大したことないのに、真面目な奴だ。
「こちらこそ、あちこち走らせてしまって申し訳ありません」
どれほどかは存じえないが、名だたる名家のお嬢様を所かまわず引っ張りまわしてしまったのだから、こちらの方こそ申し訳が立たない。
「いえいえ、とんでもございません!アナタがいなければ、今頃私は会場に行けず失格になっていたかもしれなかったのですから」
「いやいや、そんな大層なことはしてないので」
「いえいえ……」
と、ある種の押し問答のような形となりお互いに「いえいえ」「いやいや」と言い張る俺達。そんなやり取りを見かねて、マスターソードの仲間の1人が話に割って入ってきた。
「フリージア様、こちらの方は?」
「あ、紹介がまだでしたね。こちらの方は私が試験直前に困っていたところを助けていただいた……、失礼ですが、お名前を何と申しますか?」
そういえば、まだ名乗ってなかったな。
「不知火です」
「不知火さんですか、良いお名前ですね。私のことはどうか、フリージアとお呼びください。
改めまして、私が困っていたところを助けていただいた不知火さんです」
そうご紹介に預かり、俺は居住まいを正す。
本当に、大したことはしてないのだが…。
「我が主が大変お世話になったようで、不知火様、誠にありがとうございます。
私はフリージア様の家臣を務めています、《ランポ・ルーチェ》と申します。そしてあちらが《スパーダ》です。以後、お見知りおきを」
フリージアに劣るが、淡い金のメッシュが入った髪をサイドに束ねたルーチェと、同じく薄い金髪のショートヘアの女スパーダ。
スパーダの方は後ろからコクりと一礼するだけで、少々不愛想気味だ。
しかしなんとこの2人、フリージアの仲間ではなく従者だったようだ。
さしずめ、お嬢様に万が一が事が会ったときの護衛のようなものだろう。
(…なるほど)
仲間ではなく従者なら、本当にワンチャン一緒にチームを組む望みがあるかもしれない。
その一縷の望みを賭けて「あのぉ……」と勇気を振り絞って出した声と重なって、
「もう、試験中は共に背中を預け合う『仲間』って言ったでしょう。一緒に実技試験頑張りましょうね!………ん、何か言い掛けましたか?」
「……いや、何でもないです」
まあ、そうだよなぁ。
分かってはいた。分かってはいたのだが、ほんの1マクロでも期待していた自分が恥ずかしい。
「そろそろ、お決まりになられましたか?」
さらにはそこで、追い打ちを掛けるようにカタブセからの催促が掛かる。
周りを見てみればもう大抵の人間がチームを組み終えており、選り好みしている場合ではないと、俺は仕方なくもう一人の相方に意見を求める。
「おい、どうする?」
「そうだな。やはりここは戦闘能力に長け頭の回転も早く、臨機応変の対応力もある。協調性を持った優秀な人材が欲しいところだ」
「だから、そのフリージアは今目の前で逃したんだって。もうあれこれ選んでる余裕はない」
俺だって本音を言えばフリージアのようなスーパー人材が理想的だが、もうすでにこちら側が条件を選定し選べる立場ではない。
理想が高すぎる人間が、結局何も得られないというのはよくある話だ。
もし3人組が作れなかったらその時点で試験失格か、あるいは仕方なく先生と組まされるという最高に恥ずかしい思いをする羽目になる。
それだけは絶対に避けたい。
俺は血眼になって再度周囲を隈なく見渡すと、大部屋の隅っこ。不安げな表情で辺りをキョロキョロしている少女を見つけた。
直感的に悟る。彼女もまだ、パーティーが決まっていないのだと。
近くに人もいない事から、人数もおそらく1人。俺はすぐさま械動を連れて彼女の元までダッシュする。
「あの、すいません。まだ組む人決まってないですか?」
訪れざまにそう尋ねると、少女はビクッと軽く肩を跳ねさせた後、徐に首を縦に振る。
「……はい」
やはり、内気で人見知り、内向的で受動的。自分から声を掛けるのが苦手なタイプだ。
それ故、こういった自分から率先していかなければならない能動的な場面では、どうしても遅れを取ってしまう。
俺も、生前は同じようなものだったからよく分かる。
真面目で温厚そうな顔立ちに、栗毛の三つ編み。身長は150センチもいかないほどの小柄で、おそらく中学生くらいの年頃だろうか。縫い目だらけの頭巾を深々と被り、黄土色と裏葉色の入り混じったようなロングワンピースを纏っている。極め付けは、その小さい身体と同じくらいのデカさがあるリュックサック。
まさに、絵に描いたような田舎娘だ。
俺が言うのもなんだが、正直戦力になるのかと言われれば「うーん」と首を傾げざるを得ない身なり。
しかし、背に腹は変えられない。
「俺達もまだ1人決まってないんですけど、良ければ一緒に組みませんか?」
いきなりこんな男2人に勧誘されたら怖いだろうなと思いつつ、時間もないため俺は単刀直入に切り出した。
「………はい」
少しの間を置いたのち、少女は小さな声で了承。次いで、
「よろしくお願いします!」
そう言って直角にお辞儀すると背負っていたリュックが開いており、そこから中身を盛大にぶち撒ける。
この見た目に加えてドジっ子ならいよいよだなと落ちた荷物を拾おうとした瞬間、俺は伸ばした手を止め、反射的にそこから無言で10歩ほど後ずさる。というか、ほぼステップバックの速さだ。
虫は好きか?と聞かれたら、まあ一般的程度にはと俺は答えるだろう。
カブトムシやクワガタを見ればテンションは上がるし、蝶々やトンボ、バッタ・カマキリ・蟻などは特段近づいてこられても過剰に反応したりはせず、触ろうと思えば余裕で触れる。
蜂やゴキブリ、ムカデともなると当然嫌だし、まあ蝉あたりがボーダーラインだろう。
今、少女のバックから飛び出してきたのはダンゴムシ。
普通なら別にそこまで逃げ腰を取る事は無いだろうと思うが、重要なのはそのデカさだ。
それは全長30センチはあるであろう、巨大なダンゴムシ。否、三葉虫にも、フナムシにも、はたまたダイオウグソクムシにも見える、何の種族に分類されるかもよく分からない生物だ。
「あ、この子は私の友達のダーちゃんです。ほら、挨拶して」
「ピシューッ!」
そう言われると『ダーちゃん』は、聞いたこともないような泣き声で挨拶してきた。一応、お辞儀はしておく。
それにしてもダーちゃんなら、やはりダンゴムシか。いや、ダイオウグソクムシかの二択に迫られた。ていうか、
「…友達」
「はい。私、昔から動物達に好かれる性質みたいで、この子は元々【A・V】のモンスターなんですけど、すごく可愛くないですか!?
混同してからすぐにテイムしちゃいました。私の大切な親友です!」
そう言うと少女は、自分の3分の1の大きさはあるであろうダーちゃんをガッと持ち上げその身に抱き寄せた。たしかに心なしか、ダーちゃんも嬉しそうに感じる。
『ピュルル』と、先程の挨拶より幾分か甘い声を出している。気がする。
「ちなみに、言葉とか分かるの?」
「なんとなくですが」
すげえ。動物の言葉が分かるという噂のアニマルコミュニケーターもとい、モンスターコミュニケーターというやつか。
俺は械動の方を見ると、奴は相も変わらずの無表情で感情が読み取りにくい。彼女についてどんな印象を持っているのかさっぱりだ。
「あっ、申し遅れました。私、阿知波由意と申します」
謎の沈黙が訪れるとそこで、阿知波は思い出したかのようにそう名乗る。
「俺は不知火鳳勇。んで、こっちが」
「械動攻機だ。よろしく」
やや気になる所はあるが、もうつべこべ言っている時間はない。この3人で何としてでも、実技試験を突破するんだ。
俺らの軽い自己紹介が終わりチームが結成したそのタイミングで、見計らっていたかのようなカタブセの次なる案内。
いよいよ、本題である実技試験のルールが開示される。
「それでは、ここからは実技試験の主なルールを説明させていただきます。
この実技試験は全部で3つの項に分かれておりまして、此処は実技試験:第一項になります。
ルールは至ってシンプル。今からチームの代表1人の《Digital・Dimension・Device》にインセプション内の5つの指定されたチェックポイントをランダムに送ります。
そのチェックポイントでそれぞれ通った事を証明するスタンプを押してもらい、最終的に目指してもらう目的地は向かって南東に位置する針の城:《アクスピオ・カステッルム》です」
なるほど。要はマラソンのようにいくつかの中継地点を通過して、ゴールを目指せというのがこの試験の内容だ。続けて、カタブセは説明する。
「5つのチェックポイントはチームによってそれぞれ異なりますので、その総距離も違ってきます。ざっと100キロです。
そして、制限時間は5時間。間に合わなければ、即失格と思ってください」
瞬間、周囲にどよめきが走った。
サラッと言ってくれるが、その距離はざっとフルマラソンの約2倍以上。ウルトラマラソンだ。
否、周囲が驚愕したのはおそらくそこではない。100キロという距離にもたしかに驚いたが、これはこの弱肉強食とも言える混同した世界で、より生き抜く力のある選りすぐりのレイダーを選定するための試験。このくらいの試練は予想内だったが、問題はその時間だ。
今調べたところ、世界記録でもギリ6時間を回る時間。5時間など、もはや人間の域を超えている。
「以上で説明は終わりです。何か質問はございますか?」
皆その思いがけない総距離と時間に唖然とする中、カタブセは足早に以上で説明は終わりだと質問コーナーに入っていく。
少し経って、誰かが先陣を切って切り出した。
「……AAは、使用可能ですか?」
良い質問だ。と、誰もが思っただろう。
100キロという想像を絶する距離を一般的に走るとなれば、やはり平均して11時間程は掛かるらしい。
さっきも言った通りもはや普通の人間には絶対に不可能な制限時間でも、しかしAAであるならばその権能などを駆使すれば一縷の望みが出てくる。
「無論です。ここは実技試験の場なのですから、むしろDIVE・INしてのAAと権能の使用を推奨します」
最初こそ、その骨董無形な時間に緊張が張り詰めた受験者一同だったが、それを聞き空気は多少緩和される。まあ、辛く厳しいのには変わらないが。
しかし、安堵する受験者達にカタブセは「ですが…」と続けて、
「これは試験ですので、当然レースであり競走です。制限時間に間に合えば受かるという保証は一切なく、当然早ければ早い方が評価は良好です。
端から制限時間にさえ間に合えばいい、などという甘い考えは捨てた方がよろしいかと。
ちなみに参考までに過去試験の最高レコードが、1時間前後だったかと」
それを聞き、またしても辺りがザワついた。
約100キロの距離を、たったの1時間で…。そんな事が本当に可能なのか?
「乗り物の使用は良いんですか?」
おおよそ乗り物を駆使しても不可能に思えるが、今の事実を聞けばそんな質問をしたくなるのも分かる。
「これは体力を計る試験ですので、自分の身体を使わない乗り物の使用は不正です」
当然、そんな答えが返ってくる。
となるとやはり、答えはAAか。
その受験者が光のような速さを誇る権能の持ち主だったか、もしくは100キロを1時間足らずで到達することのできる隠しルート・裏技が存在するのか。
なんにせよ、制限時間にのみ縛られず、早くゴールする方法も考えなくてはならない。ただただ何も考えず走っていれば良いという試験ではないようだ。
周りもザワザワと考察を巡らせ微かな喧騒に満ち、質問コーナーも終わりかに思えたその時、徐に1人の老人が手を挙げた。
「DDDって、なんぞえや?」
その瞬間、シンっと静まり返る周囲。
「そうか……」とそこで、俺を含めたその場にいる全員が悟る。
これが時代に取り残されるという事なのかと。
もう十何年も前の話、ガラパゴス携帯(通称:ガラケー)から必死な思いをしてその機能やら何やらを覚えたスマートフォンという便利な機器も10年、20年経ってしまえばまた新たな便利機器が生まれ、その都度画期的な操作や仕組みを1から理解し習得しなければいけない。
DDDとはまさに、2030年頃に発売されスマホに変わって世界の覇権を握る次世代の携帯端末だ。
直径9センチ程のコンパクトにくっ付いた2つのフレームを広げることで、そこからホログラムウィンドウが展開される。その形態は若干、ステータスウィンドウにも似ている。
腕時計から巨大モニターまでその形・大きさは変幻自在で、ホログラム画面なため落としたとしても割れず、耐水もバッチシで耐久性も文句なし。
平面的にしか展開できなかったスマホとは違い、三次元で立体的に操作できるように進化を遂げた、近未来のデジタルデバイスだ。
ちなみに【A・V】にダイブする際に用いるダイブハードより、グラフィックや処理性能などは幾分か劣るが、一応DDDでも【A・V】のプレイは可能。
今質問したおじいちゃんはまさに、ガラケーからスマホに乗り換えるのにも一苦労だったのに、さらにDDDと進化に付いていけなかった人間の1人だろう。
しかし、この試験に参加しているという事は【A・V】プレイヤーではある。孫の影響だろうか。
カタブセの解説と仲間からのレクチャーを受け、おじいちゃんは何とか大まかな画面の見方・最低限の操作方法は覚えたようだ。
その後、およそ30組くらいの内のチームリーダーが前に出て、順番にチェックポイントのデータを貰いに行く。
チームによって通過するポイントが違うとなれば、そこには必ず『アタリ』と『ハズレ』が生まれてくるだろう。
そこら辺は完全なる運要素だとアタリを引くよう神に祈りを捧げていると、そのうち俺達の番がやってくる。と同時、俺達3人は揃って互いを見つめ合って固まった。
…そういえば、まだリーダーを決めてなかった。
若干一番年下で前に出るのが苦手そうな阿知波は、まあなしとして。となると俺か、械動か。
ハッキリ言って、俺という人間はリーダーなんて器でなければガラでもないので即決で降りたいのは山々なのだが、械動も械動でまたリーダー気質というわけではなさそうだ。
悩んだ末、、、
「じゃんけんポンッ!」
俺がチョキ、械動がグーを出し、俺がリーダーに決まった。
カタブセの元でデータを受け取り、チラリと画面を覗くと、ぱっと見でこのルートがアタリかハズレかは判断できない。
ほどなくして全員にデータの転送が完了し、場はまたしても何といえない沈黙に支配される。
そんな中、口を開いたのはカタブセだった。
「これから皆さまは試験上ではありますが、この混同した世界へとその身を投じます。
その際、これだけは肝に銘じていてください。此処は、自由奔放、広大無辺。そして弱肉強食な【Another・Vista】の世界でもあるという事を。
それでは………、第20期【sensation】実技試験:第一項、開幕です!」
両手を広げカタブセが高らかに宣言した刹那、部屋を囲っていた窓ガラスが突如として鋭い音をたてて全て割れ、俺達全員が謎の風圧によりキレイな円を象る様に窓の外へと吹き飛ばされた。
ーーー実技試験:第一項 開始ーーー
高層ビルの20階、高さ約70メートルの上空から一斉に落とされる受験者達。普通の人間なら驚愕と動転、パニックに陥ってし最悪気絶するケースもあるが、彼らは違う。
もう試験は始まっているのだと、全員が全員。一心に思いを込めて叫んだ。
「「「DIVE・IN!!!」」」
その瞬間、70メートル上空よりおよそ100人分のDIVE・INによるライトエフェクトが燦々と煌めき、一つの光の輪っかを作り出した。
【インセプション】の街では毎回、実技試験が開始されるタイミングで受験者達のDIVE・IN時のライトエフェクトが円形に輝きだす事から、『始まりの星輪』として実技試験開始の合図とされている。
「おっ、今回も始まったか」「毎度よくやるねえ」「さて、今期はどんな奴がいるかな」
始まりの光輪を拝んだ街の者達は皆一様に、応援や期待の眼差しで輪を拝む。
「わ、アレ私の時もやったな。懐かしい」
街中で絶賛ショッピング中だった射恋達の元にも、その光景は届いていた。
「……お兄ちゃんたち、大丈夫かな?」「……」
輪っかを見上げながら、心配を隠せないみるくとはちみつ。
「まあ、ああ見えてやる時はやる連中だから、きっと大丈夫だよ!」
そんな細やかな賞賛を送り、射恋達は鼻唄交じりにショッピングへ戻るのだった。
*****
ガラスの破片が散りばめられ誰もいなくなった大部屋で1人、カタブセは突っ立っていた。
「ほっほっほ、今回もお疲れさん」
そんな男に、後ろから声が掛かる。
「お疲れ様です。國分副総長」
副総長とは、総隊長の次に偉いとされる役職であり、
すなわち、対A/V攻略部隊【Sensation】の現ナンバー2だ。
「どうじゃった?可愛い子いた?」
「そんな事より、もうあの演出やめませんか?毎回修復するのと、後片付けが大変なんですよ」
肩を落とし項垂れるカタブセ。
「えー、だっていざ試験開始しますっつって建物入り口まで降りて「じゃあ開始!」ってのもなんかダサいし~、安全性も保障されてるんだから問題ないでしょ」
そんなカタブセの肩にポンポンと手を置きそう言うと、國分は笑顔で去って行った。
どうやら向こう10年は、この演出を変える気はなさそうだ。
「はあぁ……」
密かに溜息を突き、こめかみ辺りを抑えるカタブセであった。




