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X・x・R(ゼノ・クロス・リアリティ)  作者: 描々云々
【第1章】【Sensation】入隊試験
14/25

筆記試験 その2

 まず最初に行われるのは、筆記試験だ。


 机と椅子がズラーっと並んだ、いかにもな試験部屋に案内される俺達。

 受験番号が横並びの受験者は知人や友人の可能性が高いとされ、カンニングなどの不正を防ぐため一緒の部屋にはしないようにしているらしい。

 俺と械動はここで別々となり、単独での試験会場への乗り込みとなる。

 多少心細くはあるが、たかが筆記試験。今までやって来たことをやれば良いだけなのだから、なんら案ずることはない。………たぶん。


 4つある部屋の内、俺は一番奥の部屋を指定され25と書かれた自分の席に座ると、なんだか急激にトイレに行きくなった。


(開始までまだ少し時間あるし、…行っておくか)


 こういう時は少しでも会場の空気に慣れておきたいのだが、試験中の離席は当然できない為事前に行くことに越したことはない。

 尿意が気になって集中できないなんて、一番しょうもないからな。



 席を立ちトイレに行くその間も暗記した単語類を反芻(はんすう)し、ブツブツと呪文を唱えながら俺は用を足す。

 そうして半ば心ここに非ずの状態で帰ろうとしたその時、隣の女子トイレ前で一人の少女が挙動不審に辺りをキョロキョロしている見つけた。

 それは名門貴族と名高い『マスターソード家』の第3王女、《フリージア・G(ゴールド)・マスターソード》様だ。

 可憐な金髪と美しい容姿はさることながら、その恰好も広場で目撃した時と同じ暑苦しそうな鎧のままだ。


(まさかこのまま受けんのか?)


 これがAA(アナザーアバター)か、はたまた現実の姿かは定かではないが、こんな格好でペンを持ち机に真剣に向き合い筆記試験に臨む人間など、おそらく世界中探しても存在しないだろう。

 少し前に進んでは引き返し、また別方向に進んでは引き返しの右往左往しているマスターソードを横目に眺めつつ、俺は通路の端を通って通り過ぎようとしたその時、


「あの、すいません」


 と声が鳴った。

 その声の主は、間違いなくマスターソード。そして周りに誰も人がないのを見受けると、呼び掛けられたのはどうやら俺らしい。

 恐る恐る振り返ると、マスターソードは限りなく申し訳なさそうな顔をしてこう尋ねて来た。


「試験会場はどちらですか?」


 それを聞いた俺は最初、驚愕で唖然とする。

 試験会場は何処かなんて、行きに辿って来た道をなぞって引き返せば良いだけの話じゃないか。

 まったくこれだけから、ちやほや甘やかされて育ったお嬢様は一人でトイレに行く事もできないのかと、皮肉交じりに思う。そして、


「案内しますよ」


 まあ目的地が一緒なら仕方なく案内してやろうと、元来た道を戻ろうとした俺はそこで、さらなる驚愕に襲われる。


(………あれ、おかしいな)


 たしかにこっち方面から来たはずが、その道にはまったく身に覚えがない。

 そもそもが真っ白に覆われた廊下は目印など一切何もなく、何処も一緒のように見えてしまう。

 少し進み突き当りの角を曲がってみて、いやコッチではなかった気がすると戻ると、さらに逆方向に進んでまた戻る。……まったく道が思い出せない。


「もしかして私達、迷子ですか?」


 すると後ろに付いて来ていたマスターソードが俺の異変に気付き、現実を突き付けるように言い放つ。


(嘘だ。そんなはずは無い)


 今しがたお嬢様に何だかんだと(のたま)っておいて、まさか自分もそうだったなんて恥ずかしいにも程がある。

 俺は何とか冷静さを取り繕って手当たり次第に辺り一帯を歩いたが、、、

 ハッキリ言おう。此処は何処だ?


 ……認めるしかない。俺達はたかがトイレも一人で行けない、憐れな迷子だ。人に道を聞こうにも、本当に人っ子一人見当たらない為それも叶わない。

 「はあぁ…」と、俺は過去トップクラスにもなる失望感に(さいな)まれる。

 このままでは試験に間に合わないというのもそうだが、それよりも自分がこんなしょっぱいミスをしてしまった事に対してだ。

 あの時は単語類を復習するのに必死で道が曖昧だったというのもあるが、そもそもあの診療所内でもちょい迷子になった経験もあるし、俺ってもしかして超が付く程の『方向音痴』なのではと18(+2)年生きてきての新事実に悲しさを隠せない。


 ……がしかし、今はそんな事で俯いている暇はない。

 現在の時刻が8時53分だから、試験開始まであと7分。

 それまでに何としても試験部屋に戻らなければならない。

 俺の隣では偶然にも現れた救世主かに思えた人物が、まさかの自分と同じ方向音痴だった事に不安をさらに色濃く映すマスターソード。

 そんなお嬢様に一言、




「とりあえず、ひたすら走って探しましょう」


 そんなクソみたいな提案で、俺とお嬢様はがむしゃらに走った。


 *****


 8時59分。


 試験開始を目前に控え、試験監督が前に立ち流れや注意事項を説明していく。

 大まかな説明が終わり、時刻と共に試験が開始されようとしたその直前。


 『ヴィンッ』と大仰に、入り口の自動ドアが開かれた。


 急いでる人間が手動のドアを開ける時、無意識のうちにドアを開く手も早くなり『バンッ』という音をあげる事が良くあるが、この自動ドアもセンサーで急いでいる人間を感知した場合素早くドアが開くようになっているらしい。まさに未来の扉だ。……と、今はそんな事どうでも良い。


「遅いですよ、何をやっていたんですか?」


 時間ギリギリ、ド派手な登場をかました俺達に試験監督が鋭い目つきで睨む。


「すいません、お手洗いに時間が掛かってしまって」


 当然、そんな俺達には部屋中の視線を一身に浴びせられ、さらにそのもう一人がかの有名なあのフリージア・G・マスターソードならば、その視線は一層濃くなる。


「きちんと5分前に席についておくのが鉄則です。早く自席に付きなさい」


 それは試験監督も然り、マスターソードを一瞥すると何か他に言いたい事をグッと堪えたような表情でそう言った。


「すいません」「申し訳ございません」


 もしやこれが、有名人によるお嬢様効果なのか。俺一人であれば間違いなく試験失格となっていただろう。

 感謝の意を込め彼女の方をチラリと見るとそこで偶然にも目が合い、まるで少々失敗してしまい先生に怒られた時のような、微妙に首を傾げ舌を出してこちらに微笑む。


(なんだソレ、……可愛すぎる)


 俺がどんな表情で返したか分からないが、そこで試験監督に促され俺達は()ぐようにそれぞれ自席へと向かった。

 席に着いたタイミングで丁度、試験開始を告げるチャイムが鳴り響く。


 ーーー筆記試験 開始ーーー


 一斉に紙を捲り上げる音と、ペンで字を綴っていく音が部屋中を支配していく。

 俺は実に高校受験以来の、この緊張感に包まれながら試験に挑む。


 まずは自分の氏名、《不知火勇鳳しらぬいはやたか》。これが一番重要だ。

 どんなに回答欄を埋めようと、どんなにその回答が当っていようと、氏名を書いていなければ0点となり全てが無駄になる。

 次いで問題へと目を通していくと、驚くほどに勉強していたとこドンピシャ。何とも拍子抜けに答えが全て分かってしまい、スラスラと回答欄を埋めていく。

 【Sensation】の成り立ちからその歴史やら何やら、自身のステータスまで。


 30分程の余裕を残して全ての解答欄を埋めてしまい、最後にケアレスミスなどがないかを再チェックしてから試験は終了。もはや100点の自信しかしかない。

 そのまま順番に部屋から退室していき、俺は械動と合流する。

 「どうだった?」と聞かれ、「まあまあかな」と本当はかなりある自信を隠すように言う。

 そんな会話をしている内にテストの採点が終わり、廊下に張り出されていく点数表。

 その一番上には、素晴らしき俺の名前がでかでかと記されていた。点数は()()()()だ。

 「これは10年に1人の秀才だ!」と【Sensation】のお偉いさんから呼び出され、実技試験を行わずの無条件での特例合格。

 「やったー!」と、ライセンスを天に翳しながら眺めているところで俺の視界は朧げになっていき、()()()()()()()()()()


 目覚ましとなったのは、()()()()()()()()()()()()()


 最初に感じたのは、見事に試験に合格して手に入れたライセンスを拝んでいたはずが、此処は何処だという現状把握。

 キョロキョロと辺りを見回しているとそこから段々と意識が覚醒していき、静謐(せいひつ)な空間。ペンの走る音。此処が紛れもない試験会場だと認識する。

 次いでバッと跳ね起き急いで自分の解答用紙を見てみると、それは最初の10項目ほどしか埋まっておらず、後はほとんど空白だった。

 刹那、全身の血の気がサーっと引いていくのを、俺はこれ以上ないほどに実感する。


 ………眠ってしまっていた。


 試験中に、しかも解答用紙をほとんど埋めずして。

 すぐさまペンを取り一項目でも多く書こうとした俺に、


「こらそこ、もう試験は終わったぞ。ペンを置きなさい!」


 試験監督の注意が飛び、泣く泣くペンを置く。


 ………終わった。


 この回答数では全問あっていたとしても、せいぜい10,20点が関の山。つまり、赤点はもはや回避できない。

 筆記試験は、完全に落ちたという事になる。


 すなわち、当初無理だと踏み完全に捨てていた、残された実技試験に全てを託すしかないという絶望的な状況に、俺は追い込まれたのだった。

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