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X・x・R(ゼノ・クロス・リアリティ)  作者: 描々云々
【第1章】【Sensation】入隊試験
13/25

筆記試験 その1

「…すげえぇ」


 心躍るようなその光景に、俺は思わず感嘆の声を漏らす。

 VR時代にダイブした時も言葉では言い表せないような感動を味わったのを今でも覚えているが、現実特有のこの臨場感というか空気感はやはり迫力が違う。

 不謹慎だと思いつつも、こういう面では混同(コンヒューズ)というのも悪くないなと思ってしまった。


 後ろにある始まりの街【インセプション】の入り口であるワープゲートのような入門、仮に正門とでも読んでおこうか。

 正門の前にはそこそこ広い正門広場があり、俺達の現在地である。

 此処から今回の試験会場【Sensation】第1等支部に行くには、【インセプション】の中心部に位置する《ダイヤモンド・広場》へと赴く必要がある。


 正門広場からは主に3本の道が伸び、正面から見て真ん中の道を『メイン・エクリプティック』。右が『サウス・ヒアデス』で、左が『ノース・プレアデス』という無駄にカッコ良い名称をしている。

 

 最初に示されたこの3本のルートは、まるでゲーム序盤に3匹のモンスターから1匹を選ぶような高揚感を得られ、各々通りとしての景観や雰囲気は自体はガラっと違う。

 俺的には、3本ある道の中で一番アンドロメダアーリーが、人通りが少なくネオン発光が(おぼろ)げに光っている薄暗い路地裏のような感じで好みなのだが、ダイヤモンド広場へと手っ取り早く通じる道は、中央のエクリプティックストリートだ。

 今回は、観光が目的ではないため諦める。


「んじゃ、行きますかね」


 2、3年前の懐かしい景色(実際には5年前)に浸るのも束の間、時刻も迫っているため俺達は注木に先導されるようにその後ろを付いていく。とその時…、


「お姉ちゃーん」


 何処からともなくそんな声がし、『お姉ちゃん』という単語に過剰に反応し歩を止める注木。

 辺りを見渡すと、こちらへちょこちょこと走ってくる見覚えのある幼女2人組。佐藤みるく・はちみつコンビだった。


「あれ、どうしたの?」


「試験に参加するって言ってたから、会えるかと思って」


 若い子は治癒力が強いのか、はたまた扈博(こはく)さんの腕がいいのか、たったの2週間足らずで傷を完治させたみるくとはちみつは、他の子供達とまた一緒に暮らすため新しい施設へと移っていった。

 どうやらその施設が此処から近いらしく、会いに来たらしい。


「あれからどう?」


「うん、新しい生活でまだまだ慣れない部分が沢山あるけど、あの恐怖の日々から抜け出せて、本当に毎日が楽しい。全部お姉ちゃんたちのおかげ、ありがとう!」


 近況を尋ねた注木に、はちみつがぺこりと、みるくが満面の笑みで返す。

 その笑顔を見れただけで、逃げずに立ち向かった価値があると俺は思った。


「そろそろ行かないと、遅刻するぞ」


 するといつも通り、感動の場面を空気の読めない機械によってぶち壊され、俺達はメイン・エクリプティックの中へと進んでいく。


 そこは、超大型のアーケード商店街。

 中は迫力のあるデジタルサイネージ、騒々しいBGM、大小さまざまな形のまさに近未来のお店が左右に列挙(れっきょ)し、とんでもない賑わいを見せていた。


「はぐれない様に、ちゃんと手繋いでね」

「「ハーイ」」


 この人の多さではいつ逸れてもおかしくない為、子供達は注木(そそのき)としっかり手を繋ぐ。と同時に、何故か俺の方を一瞥してきた。


(……なんだ?)


 まさか、俺が迷子になるとでも思ってるのか?


「手でも繋いでおくか?」


 するとあろう事か、械動(かいどう)まで俺を見て言う。


「時間ねえんだろ、早くいくぞ」


 それらを全て無視し、俺は先頭に立って歩く。

 とは言ったものの……、想像以上の人の込み具合に、加えて目移りしてしまいそうな華々しい店達。

 さっきから子供達(主にみるく)が首を忙しなく左右に振り「おーっ」だの「うわーっ」だの興奮を隠しきれない様子だ。自分の意思とは関係なく、身体が勝手にそっちの方に向かっているのを注木に抑えられている。

 かく言う俺も、目的の時間が押し迫って無ければ進行方向を変えて寄り道してしまうかもしれない。

 ……まあさすがに、そんな事はしないが。



 およそ2キロほどの長すぎるアーケード街をやっと抜けると、そこは開けた円形の広場ダイヤモンド・広場へと景色が変わる。

 商店街もすごかったが、その周囲はさらに高い高層の建物達に囲まれていた。

 どれ程の高さかと上を見上げれば、屹立(きつりつ)するビルの隙間から照らす逆光が眩しい。

 そこも負けず劣らず、目を見張るような大迫力の広告や看板といったデジタルサイネージがあちこちに散りばめられており、言い表すならそう。遥か昔に電化製品の街と謳われた、『秋葉原』を彷彿とさせる。

 そしてその中で、一際目立つ建物が一つ。

 広場の最奥に毅然(きぜん)と立ち尽くし、全長816メートルの塔、

 通称バベルノタワー

 東京で言うところのスカイツリー、パリのエトワール凱旋門、イタリアのピサの斜塔のような風格を醸し出す、この街を象徴する巨大な塔だ。

 右も左も分からない【A・V】新規プレイヤーは初回ログイン時にとりあえず、空を見上げれば何処に居ても目に入るあの塔を目指して前を進めば大丈夫。と、当時のゲーム内では言われていた。


 そんなVR伝説の塔までもが現実世界に顕現し高揚を隠せない中、あちこち見て回りたい欲を何とか抑えて、俺たちが向かうのは広場の一角。

 もはや何階建てかも、材質が何でできているかも分からない頑強そうな高層タワー、【Sensation】第一等支部だ。


 早速出向いてやろうと歩き出したその時、ザワッとそこで広場全体の空気が変わるのを感じ、皆一様にその根源である人物を拝んだ。

 そこに立っていた3人……いや、主に1人は、端麗とした相好に腰あたりまで伸ばした綺麗な金色(こんじき)のストレートヘアを靡かせ、格好は豪奢(ごうしゃ)な金箔の鎧を着込んだ聖騎士然(せいきしぜん)とした女。

 この場の誰よりも明らかに異彩な雰囲気を纏っており、俺でも分かる。何らかの著名人であり、相当な(つわもの)だという事が。


 その女聖騎士は自身の身に一身に降り注ぐ大衆の視線など気にも留めず、2人の仲間を連れて俺達と同じ目的地【Sensation】第一等支部へと入っていく。

 「おいおいまさか…」と最高に嫌な予感を覚えながら注木の方を見ると、奴は至って飄々(ひょうひょう)とした態度で答えた。


「彼女は由緒正しいあの名門貴族、『マスターソード家』の第3王女:《フリージア・G(ゴールド)・マスターソード》。

 その可憐な容姿に、為人(ひととなり)は誠実で真摯。マスターソード家に代々引き継がれる剣捌きも文句なしと謳われるほどの、かなりの有名人。

 今回の入隊試験に受けるみたいな噂は聞いてたけど、まさか本当だったんだ」


 ……やっぱりか。

 入隊試験自体明確な合格定員数は決まってないため、あんな明らかに受かるのが決まった出来レースですみたいな奴が受験しても別に問題は無いのだが、コチラとしては何だか初心者の中に相当な経験者が乱入して来て所謂初鯖狩りをされている気分で少々居た堪れない。

 何故そんな現代の即戦力になろう人材が、今回このタイミングで試験に参加するのか。その疑問を投げかける前に、注木が機先(きせん)を制した。


「マスターソード家は剣の作法の次に、年功序列みたいな身分の上下に厳しいらしいからね。

 上には第1王子、第1王女、第2王子・王女がいるから、家の方針とかでその後じゃないと試験は受けさせてくれないんじゃないかなあ」


 なるほど。つまり、高い能力を保持していてすぐにでも最前線を張れるような即戦力であっても、家庭の事情というヤツですぐには戦わせてもらえないという事か。

 優れている血統の一族というのも、意外と大変なんだな。


 座学をしていて学んだことだが、混同して2年経った現在でも【Sensation】ライセンスを持っている通称『レイダー』は、全【A・V】人口の半分にも満たないらしい。

 その理由は、今のマスターソード家のような家庭の事情もあれば、まさにさまざまだ。

 そもそもが、一度踏み入れれば命の保証が効かない戦場。その大前提を踏まえて考えると、なかなか手が出しづらいのかもしれない。

 【Sensation】に入ればなにもモンスター討伐に絶対遵守というわけでもなく、他の本職と並行しての副業みたいな形も取れるらしいが、最低限目の前で起きている事件や人数の必要とする大規模な戦闘の徴収には参加しなければいけない。

 逆に【Sensation】でなければAAや権能を使う事は出来ないが、一般人として【Sensation】の保護対象とされる。そっちの方が多少命の保証はあるし、もしやむを得ない場合で能力を使用したとしても正当防衛のように容認されるケースもあるらしい。

 そういった点を踏まえれば、どっちを選ぶのが正解かは難しいところだ。

 中には酒やたばこのように何歳以上になったら【Sensation】入隊を認めるというところもあるし、そんなの絶対ダメと入ること自体を認めてくれない家庭も存在する。


 その中でもダントツで頭を悩ませるのが、女・子供・老人の類だ。

 一応、【Sensation】側の入隊への応募条件は年齢・性別・身分等は一切問わずたった1つ。【旧【A・V】プレイヤー】、つまり『AA所持者』とだけしか明記していないが、それはあくまで表向きだ。

 例えば子供が【A・V】をプレイしていた場合、それはみるくやはちみつのように幼くして権能を手に入れてしまう事になる。

 そうなった時子供(特に男児)なら、その力を使って街に蔓延るモンスター達を倒してヒーローになりたいと、試験への参加を希望することは少なくない。

 我が子を大切に思う一般的な両親ならば、普通そんな危険しかない戦場に子供をおいそれと送り込むことなど当然しないだろうが、ごく稀に、僅かだがまだ小学生にも満たない子供の入隊試験参加があるらしい。

 それはまるで、自分の利益のためだけを考えやりたくないと言っている息子・娘に子役をさせるような。当事者でない親からしたらそんな感覚なのかもしれない。

 そんな人の心を持たず、可哀想にも試験に参加させられた子供達のために、【Sensation】側も裏側から何歳以下・または以上の受験者にはその合格ラインを通常の数倍厳しく選定しているそうだ。



 そんな事を考えている内にマスターソードさん達は建物内へと入っていき、一拍置いて張り詰めていた空気は弛緩(しかん)。呆然とその様子を眺めていた俺達も、後を追うようにして第一等支部へと入っていく。

 建物内は立派な外装に負けず劣らず、高級且つ頑丈そうな一つの凹凸もないフラットな床や壁に、案内役のAIロボット、変な色と形の植物、目線の高さに合わせて宙を浮遊しているホログラムウィンドウなどなど。

 近未来のインテリアが羅列していた。


『【Sensation】へようこそ。本日はどのようなご用件ですか?』


「入隊試験の申請に来ました」


 械動より少し高いトーンで尋ねて来るAIに注木がそう答えると、AIは「ご案内します」と進行を180度変え俺達はそのまま中央の受付カウンターに案内された。

 案内中興奮気味なみるくとはちみつに周りをウロウロされていたが、ぶつからないように歩幅を調整しつつ全く意に介してなかった。さすがはロボットだ。


「入隊試験へのご参加ですね」


 受付で今度は人間の女性が現れ、扈博さんと注木が話を進めていく。参加人数やら身元証明等々、最後に注意事項を受けて俺と械動は申請書を書かされる。

 それを書き終わると、「少々お待ちください」と『25』と書かれた整理券を渡され受付嬢はカウンターの奥に消えていった。

 待っている間、俺は奇抜なデザインの自販機で飲み物を買い、これまた変な形だが不思議と座り心地の良いソファに座る。

 はしゃぐ注木・みるく・はちみつや大画面のウィンドウモニターから流れているニュースをぼーっと眺めていると、その内「お待たせしました、番号25・26番のお客様」と受付嬢が戻って来る。

 ちなみに俺が25で、械動が26番だ。

 25という数字は結構好きな数字で、気休め程度だが少し幸先(さいさき)が良い気がする。


「それではご案内します」


 受付嬢の元へ行くと俺達2人は建物内へ、注木達とはここでお別れとなる。


「「「頑張れ~!」」」


 そんな声援を受け、俺達は受付嬢の後を付いて行った。

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