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X・x・R(ゼノ・クロス・リアリティ)  作者: 描々云々
【序章】混同(コンヒューズ)
10/25

不滅の一撃

 訪れた教会は高らかと舞い上がった土埃に、木っ端微塵に破壊されたベンチ。壁や床にはあちこちに衝撃痕(しょうげきこん)が広がり、とても神に祈りを捧げるような神聖な場所とは思えないほどボロボロだった。

 そんな中で手前には注木(そそのき)、奥の方には械動(かいどう)が倒れており、立っているのははちみつとプラック。これだけ見れば、どちらが勝者でどちらが敗者か、一目瞭然だ。


「………どうして?」


 まだ辛うじて意識のある注木は、「どうして戻って来たんだ」と言わんばかりにすり切れるような声で瞠目した。

 『どうして?』など、そんなの俺にも分からない。


 死ぬのは当然嫌だし、こうなった時の為に救援を呼べるよう一人先に逃げたはずが、気づけば足は咆哮がした方を向き、みるくに着いて行くように此処に出向いていた。自分でもどうかしてると思う。

 けど一つ言えるのは、今までの人生ずっと逃げてきてその選択が正解だったと、良かったと思った事はただの一度たりとも無い。

 一度生まれ変わったせいか、今回の俺は選ぶならせめて自分の人生に後悔がない方と、結局『逃げない』選択肢を俺はとったのだ。


「まだいたのね。しかも男」


 俺が現れたことなど別段意に介さず、気色の悪い舌舐めずりで見下ろす怪物(ハーピー)

 『油断』はしているが、果たしてその足元を掬える力が今の俺にあるかどうか。しかし、俺だって何も無策でこの場に訪れたわけではない。

 プラックを見てみれば、その半身は焼け焦げたように消失し醜い姿をさらに劣化させている。そして肝心の体力は、残り僅か5分の1程度。

 どうやら注木達も一方的にやられたというわけではないらしく、現状どちらの盤面も王手。詰み寸前だ。

 ならば、あと一手。たった一手の有効打でこちらの勝利も十分にあり得る局面。


「なに、これ?」


 するとそこで、俺を教会まで連れて来てくれたみるくが顔を出す。


(バカッ!出て来るなって言っただろ)


 みるくの姿を捉えた瞬間、プラックは全てを察したように呟く。


「ふーん、なるほど。あなたの差金ね、みるく」


 これが、高い知能からなる現状把握能力というやつか。


「いいわ、ワタシに逆らったらどうなるか、その身にたっぷりと教えてあげる。

 (ウィンド)は腐っていく(クラプション)


 冷たく低い声音を一層重くしプラックがそう告げると同時、教会内の周囲の空気が途端に騒がしくなった。

 それらは吸い込まれるようにプラックの身体に纏わりつくと、よ激しい渦となって旋回。

 しかし、なんだろうか。よく空気が悪い時に汚い・淀んでいるなどの表現を使うことがあるが、その風がまさにそれだ。

 不透明で微かに視認することのできる風は、カビが生えたような濃い緑か黒、はたまた黄土色のようにも薄い桃色のように濁って見え、加えてかなり臭い。

 さながら腐風(ふふう)だ。


「ワタシはね、混同(コンヒューズ)だったかしら?世界が急におかしくなったあの日から、この力で沢山の人間を襲い食らってきたわ。

 その度に、自分が強くなっていくのをヒシヒシと感じるの。やりたくもないガキの子守りのストレス発散で始めたゲーム(暇つぶし)だったけど、まさかこんな力を手に入れるなんて。神に仕えといて良かったと、これほどまでに思ったことは無かったわ」


 そしてさらに、まったく脅威では無い俺相手に勝利を確信したのか、いきなり自分語りを始めるプラック。


「今なら、黒曜石(オブシディアン)にも楽々なれる気がするわ!この力でワタシは世界の神に、今度は崇められる側になるのよ!」


 高らかに宣言し、その腐風をズンッと一回り大きく肥大化させる。


「予定変更~。ワタシ、メインは最初に頂く派なの。まずは貴方から潰すわ!」


 そして、その眼光と俺の目が合い、


(来る!)


 瞬間、凄まじい速さで放たれる腐風攻撃。そのスピードは辛うじて直撃間近のみ視認する事ができ、気づけば俺は遠い後方へと吹き飛ばされていた。


「ガ、ハッ…!」


 直前で取った防御はあまり意味をなさず、HPゲージを見ずとも分かる。この身体が、甚大なダメージを負った事が。


(なんだよ…これ)


 痛い……。苦しい……。

 息ができない。身体を動かすのがしんどい。弱っていたんじゃないのか?まだ全然ピンピンしているではないか。


(嗚呼、無理だ)


 そして、数秒前までの威勢はいったいどこえ消え去ったのか、相手の実力差を今この瞬間直接目の当たりにし、俺の心と体はいとも容易く委縮してしまう。


 ああ、やはり。俺に何かを成し遂げようなんて、土台無理な話だったんだ。

 所詮俺には何の才能もなく、何をやってもうまくいかない下等な人間。普通の一般的な人より数段劣った劣等種。

 またもや、俺はあの時同様身動き一つさせてもらえず、ただただ一方的に虐殺されるだけなのか………。


 気づけば、見るも無残に闘志を打ち砕かれ、放心する俺。

 こういう時、最後の奥の手である必殺奥義が頼みの綱なのだが、発動方法もまだマスターしていなければ、発動するのに必要なゲージも溜まってすらいない。

 そもそも今ここで蘇ったとして、いったい何ができるというのか。ただ無力で役立たずな人間が一人蘇るだけで、現状は1ミリも変わりはしない。

 それともまた、2年越しに蘇りでもするのか……。


「あら、もう終わり?呆気ないわね。んじゃ、いただきま〜す♡」


 死を間近にしてにそんなどうでもいい事が頭を駆け巡っていく俺に、目の前の怪物は容赦無く腰を強く捻ると腕を大きく振り被った。

 どうやら、食べやすいようにペシャンコにしてから平らげるようだ。

 もはや抵抗する気力もない俺に、その岩石のような拳から放たれる豪快なパンチ。

 その攻撃が確実に決まると思われた。しかしその時…、

 『ペチャッ』と

 そんな音が静かに教会内に鳴った。

 俺があっけなく潰された音ではない。もっと水々しい、それは液体が撥ねた時のような効果音。


「お兄さんから、離れろ!」


 次いで聞こえたのは、そんな叫び声だった。

 俺は瞬きも忘れ、その光景を凝視する。

 俺目掛けて一直線に唸ったパンチは僅か数センチ手前で制止し、その前腕部分には濃厚な白濁の液体が付着していた。

 それは、()()という液体だ。


 その声はかなり泳ぎ、身体も恐怖で震え上がっている。

 まだほんの6,7歳の子供が、こんな恐ろしい怪物に真っ向から楯突くなど、相当な勇気と覚悟、恐怖心が纏わりつくだろうに、それでも佐藤みるくは懸命に立ち向かい物申した。


「…みるくちゃん」


 その光景を見て、はちみつは疑問に思う。

 何故、危険分子である学園の侵入者たちを庇うのか。この人達がいたら、自分達の命も危うくなるというのに。


「あらあら、やっぱりアンタは危険だわ。優秀だから生かしておいてあげたけど、いいわ。先にお前から(ほふ)ってあげましょう」


 そうしてターゲットは、みるくへと切り替わる。

 迫り来る怪物に必死に牛乳を掛けるみるくだが、そんなものは水を掛けられているのと同じで、多少鬱陶しくはあるがダメージには至らない。

 やはりその恐怖は折り紙付きで、至近距離から睥睨(へいげい)されたみるくは「ひいぃ……」と堪らず腰を抜かし、お漏らしをしてしまう。

 教会の床には、白い液体が広がった。


「やめ……、ろ」


 そんな怪物に、俺は震える声で言った。

 全身はさきの攻撃で、動かすどころか立っているので精一杯。戦うなんて、とてもできる状態ではない。

 さながら、獅子を前にしたか弱いウサギ。

 そんな弱者の制止に当然プラックが耳を傾けるわけもなく、あっという間に射程圏内まで詰められてしまうみるく。その手が幼女に迫ろうとした刹那、


「やめてっ!」

 

 今度ははちみつがプラックの前に立ちはだかった。

 今までは子供達のため、家族の為にプラックの機嫌を損ねぬよう従順に言う事を聞いてきた2人。

 射恋に毒を盛ったのも、プラックの機嫌が損なわれ自分達に害が及ばぬようやっただけだ。大切な家族であり、ずっとこの学園で共に過ごしてきた掛け替えのない親友であるみるくに危害を加えるとなれば、その限りではない。

 内向的で、臆病なはちみつ。そんな彼女が今、勇気を振り絞り凶悪で醜悪なあの怪物(ハーピー)に初めて反抗した。


「何?アンタもワタシに歯向かうってわけ?さっきので傍に置いておいてあげようと思ったけど、やっぱり無し。ガキって本当に、馬鹿で嫌いだわ」


 やれやれとため息をつき、プラックはもはや子供相手に慈悲(じひ)寵愛(ちょうあい)もない。 

 攻撃性が皆無の権能を有する2人の子供が、心の腐りきった目の前の怪物に真っ向から勝負し勝てる確率など、1%もないのは火を見るよりも明らかだ。


(動け………動けっ!)


 俺は自身の四肢に目一杯言い聞かせ、目の前の怪物から子供達を護ろうとするが……遅い。

 逃げる暇も与えず、巨大な手でガッチリホールドされそのまま持ち上げられたのははちみつ。


「いやっ!」


「ガキの肉ってブヨブヨの皮みたいでマズいのよねえ。だから、このまま捻り潰してあげる」


 握った掌の圧が次第に増していき、はちみつの顔に渋面が滲む。


「離せっ、離せっ!」


 すかさずプラックの脛らへんを殴打するみるくの攻撃は、もはや蚊が血を吸う方が効果あるのではないかと思えるほど効かず、


「うっさい」

「うっ…!」


 その蹴り一つで簡単に壁際まで吹き飛ばれてしまった。これで邪魔者はいなくなり、ここからはプラックの独壇場。

 手始めにその小指に力を少し加えただけで、『ボキッ』と幼女の足はいとも容易く折れる。


「ギャアアアアアアァァァ------アァァッッッ!!!!!」


 はちみつの悲痛の絶叫に、鳴り響くのはハーピーという名に相応しい悪逆非道の表情をした怪物の高笑い。

 同時にはちみつの体力は、一気に8割ほど減少する。


「あらぁ〜、体力的に次で死んじゃうわね。どうしましょう。どうしましょう~」


 嬉々として、挑発的に声をあげるプラック。簡単には殺さず、あくまで苦しませてあの世へ送るらしい。……本当に骨の髄まで腐ってやがる。

 そんな心の底からこの状況を楽しむ怪物に、みるくは諦めることなく、身体を這いつくばらせながらすり潰れるような声音で懇願する。


「お願い、します……。なんでも言うことききますから、もう逆らったりしませんから、もうやめてください…」


 言いながら、幼女は(こうべ)を垂れ、土下座した。

 刹那、俺の肺腑は底知れない憤怒で満たされる。

 ハーピーにもそうだが、それ以上に自分自身の情けなさに対してだ。


(俺は、なにをやっている?)


 自分が無様に立ち尽くしている間に、あんな幼い子供が家族・親友を守るため必死に立ち向かい、土下座までしてあの恐ろしい怪物に抗っている。


 生まれた時から親の顔など分からず、存在するのかも分からない。

 それでも家族と呼べたのは、血は繋がってなくても本当のお母さんのように優しいシスター達と、たまにムカついたり喧嘩する時もあるけれど、賑やかで楽しい同じ境遇を持った兄妹達。

 そこからわずか7歳にして、悪魔による残酷な殺戮ショーを見せられ、家族も自由も全てを失った。

 日々恐怖に支配される中で、加えて十数人の子供達の一番のお姉ちゃん。

 甘えることもわがままを言う事はおろか縋る事も弱音を吐く事もできないまま、ただ子供達を守る事を考え、ハーピーの言う事をひたすらに従って来た。

 そのまだ幼すぎる歳にして、子供のままではいられなかった悲惨すぎる境遇。


 そんな幼女を前にして、自分は怖いからと、何もできないからと未だに言い訳だけを並べ逃げるなど言語道断!

 今こそ、『絶対的信念』を持って目の前の怪物に、このクソッタレなリアルゲームに一矢報いる時だろう。


「うーん、そうねぇ」


 みるくのこれ以上ないほど誠意の籠った懇願を受けプラックははちみつを握る手を緩めると、一拍置いてガアァッッッと喉を震わせその口から土砂物を吐き捨てた。

 教会の床にビシャッとぶち撒けられる、水たまり大のゲロ。

 さらにそれを指差し、プラックはみるくに言い放つ。


「なら最後のチャンスよ。このゲロを全身に塗りたくって、仰向けになって降参のポーズでこう言いなさい。『私達はプラック様の犬です。もう一生逆らいません。なのでどうか、寛大なるご慈悲で此度の不始末な行いをお許しください』ってね」


 …おおよそ、この場に居る誰もがシスターの皮を被った怪物を見て思う。


 やはりコイツは、身も心も完全に腐ったどうしようもない『屑』だと。


 しかしみるくは、その土砂物を一心に見つめ一歩前に出る。はちみつ・子供たちの助ける為にはもうそれしかないと、プラックの条件を呑むつもりだ。……しかし、


「お前がそんなこと、する必要はない」


 鋭い目つきでプラックを睥睨(へいげい)しながら、俺が言った。

 未だ、俺の中に染み付いて拭えない恐怖心はある。しかし、その外道極まりない所業たるや、どこかの魔人を彷彿されるほど酷く苛立ちを催す。


 凄まじい怒気というのは時に、恐怖をも軽く凌駕し非力な身体にパワーをくれる。

 このハーピー()への怒りが爆発していた俺は、つべこべ考えることをやめただ自分の感情に従い、あの時と似た何とも言えないこの憤怒を解消するためにプラックの前に正対した。


「もう、いいんです」


 すると俺の背後で、みるくは小さく言う。


「みるく達は、そういう運命だったんです。もう自由はいりません。未来もいりません。これ以上犠牲が出る前に、どうか逃げてください」

 

 みるくから見たその背中は、到底逞しくも大きくもなく頼りないかもしれないが、どうか今だけは、俺を信じて身を委ねて欲しい。


「……そうじゃないだろ?お前が俺達を此処に攫って来たのも、閉じ込められてた子供達を見せた理由も。さっき言おうとしてた言葉の続きを、言ってみろよ。

 大丈夫。子供達もはちみつも、お前も、……俺が絶対に守ってやる!」


 これも、生まれ変わった事での『変化』ってやつなのか。

 こんなにも自信満々に何かをすると宣言したのは、おそらく18年(+2)の人生の中で初めてだろう。

 その言葉にみるくは大きな目をさらに見開き瞠目(どうもく)し、歩くのやめその場にへたり込んだ。

 そして、それはまるで年相応の子供らしくひたすらに滂沱(ぼうだ)すると、魂の叫びをあげる。


「だずげてええぇーーーーーーーっっっっっっっ!!!」

 

 ずっと先頭で、怪物から子供達を庇護(ひご)していた7歳の幼女。いつプラックの気まぐれで、殺されるかも分からない。自分のミス一つで子供達が危険晒されるそのプレッシャーや恐怖はおそらく俺達の想像を遥かに上回るもので、よくここまで幼き最年長2人で耐え凌いできたと賞賛に値するものだ。

 『守ってやる』。その言葉は、みるくがずっと言って欲しかった、待ち望んでいた言葉だったのだろう。


 こんな姿を見せられたら、無様に負けることなんて絶対に許されない。


「俺に、できるのか?」


 それは、誰かに対しての問い掛けではない。……強いて言うなら、自分自身にだ。

 返答はない。

 何もできず、無力に、無意味に終わるかもしれない。

 しかし、『できるかできないか』そんな50:50(フィフティフィフティ)の答えを、行動する前から堂々巡りで一生考えていては、人は前になど絶対に進めない。

 今この場であの怪物を倒せる人間は、倒さなければいけない人間は不知火勇鳳。俺ただ一人しかいないのだから。


 やるしかない!


「ふーん、あっそ。なら良いんじゃない?コイツが死ぬだけだから」


 対するプラックは従わないのなら茶番は終わりだと、親指をはちみつの頭部まで持っていく。

 そのまま手全体に力を加え全身をすり潰そうとしたしかしその時、プラックは自分の()()()()()()()()()に気が付いた。

 それは徐々に指から掌・腕へと伝っていき、はちみつの拘束が解かれる。


「ッッッ!?」


「ほんっとうに、タフなんだから」


 自分の体に何が起きているのか分からず驚愕するプラックに、声を掛けたのは俺でもみるくでもない。プラックの後方で倒れていた注木だった。


「その痺れは、最初に刺したシリングスタビライザーの麻痺薬。やっと全身に回ってきたみたいだね。まったく、こんな麻痺耐性があるんなら毒とか眠りにすればよかったわ」


 最初に喰らった、蚊ほどのダメージもなかったあの連続注射攻撃。かなりの量の麻酔薬が投与されていたにも関わらず、プラックの耐性が強かった為今になってようやくその効果が反映されたというわけだ。

 しかしおそらく、プラック(コイツ)に長時間の麻痺効果は望めない。

 仕留めるなら、今この瞬間が絶好の好機だ。


「あなた程度じゃ、ワタシを倒すまでの攻撃は与えられないわよ」


 全身が痺れ動けなくなって尚、その人を見下した態度は健在だ。……しかし、


(それで良い)


 自身の力を過信した故の油断は、強者が弱者に敗北する最もの敗因だ。すなわち、大番狂わせが起こりやすい状態と言える。


 俺は静かに深呼吸を一つし、左半身を前に中腰の構えを取る。その刹那、周囲の雰囲気が一変したのを俺は肌で感じ取った。

 初級技である〈炎の拳(バーニングナックル)〉でさえ習得できなかった俺が、目の前の格上相手に勝つにはもうこれしかない。

 発生エフェクトと名称に一目惚れし、【|Another・Vistaアナザー・ヴィスタ】で何千何万と撃って来た俺の一番のお気に入りにして、最も得意とする上級技。その発動モーションはもはや見なくとも、この身体に沁みついている。

 自然と気分が高揚し、それとシンクロするように握った拳に仄かな熱を感じた。

 前に出した左足を半円を描くように後ろへと持っていき、同時に手を複雑に交差させていき一つの火種を生み出す。

 さらにモーションを重ねていく内に次第にその熱は威力を増し、爛々(らんらん)と煌めき教会を隈なく照らす盛大な(ほのお)へと形を変える。


「何、それ?」


 眼に見えて格段に変化した俺にさすがのプラックも焦りを露わにし、未だ硬直状態の全身に目一杯の力を込める。しかし、以前身体は麻痺しており動くことはできない。

 すると、背中に生やした翼が豪快に羽を広げ教会上空へ高々と舞い上がった。

 どうやら羽は身体とはまた別の神経を通っているらしく、麻酔薬の効果を受けていないらしい。


「いいわ、ワタシも最も強力な技で応えてあげる」


 空中で迎え撃つように構えたプラックは、その身を包み込むようにして周囲に腐風を轟かせる。

 そして次の瞬間、それらを全て吸い込むと、


「みすぼらしく、醜く、汚く、腐りなさい!必殺奥義(ザ・アルカナ):《腐敗の暴風(ロットストーム)》!」


 プラックの怒号に起因し、腐風(ふうう)による吐息(ブレス)が凄絶に唸った。と同時、俺は勢いよく駆け出す。

 敵は、遥か上空。だが、空を自由に飛べるのはお前だけじゃねえぞと、俺の背中が(うず)く。

 ずっと沈黙を貫いていた朱き翼がそこで、左右に大きく開いた。

 七色の紋様に彩られた、優美なる鳳凰の翼。ひと扇ぎすれば、それは凄まじい推進力で天を舞う。

 迫り来る嵐の猛攻をおざなりな羽使いで辛うじて躱していき、とうとう直前までハーピーに肉薄する。


「「「行っけーーーーッッッ!!!」」」


 刹那、少女達の快哉な叫びが、俺の鼓膜を揺らす。

 ∞の字を象った炎を拳に纏い、爛と真紅の閃光が走った。


不滅の一撃(イモータルドライヴ)!」


 木霊した声に呼応するように迸った閃光に腕をなぞらせ、俺は渾身の一撃を醜き怪物の右半身に思いっきり叩き込んだ。

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