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宮條桃2

 それはある種の自業自得というべきか。

『まだ(もも)に固執してんの?』

 合コンやりたいから女子の方を集めてくんねーか、とヤスミ(彼氏持ち)に打診してみたところ、この返信である。

 いや、前回は悪かったって。確かに、また桃ちゃんが来てくれることに期待していたのは否めねぇ。けど……そんなに態度良くなかったか? 俺。テンションが上がりきらなかった自覚はあるから反省こそしてるけれど。あと、乳ばっか見てたと言われると……これは厭らしい気持ちからじゃねぇ。そこにいない桃ちゃんのことを思い出すと、ついおっぱいに目がイッてしまうってだけで。

 宮條(みやじょう)(もも)――飲み屋で入店を止められそうなちんまりとした身長だが、それを補って余るオトナの巨乳――バストはまさかの三桁、一〇七センチ――! おかげで未成年と疑われることはないようだ。

 これまで数えきれないほどの女子と出会ってきた俺だが、あの乳はさすがに初めてにして唯一である。一発でその場のメンズたちの男心を鷲掴みにしてしまったのは言うまでもない。

 ……って、それじゃ全員おっぱい星人みたいなので補足しておくが、桃ちゃんの魅力は胸だけじゃねぇ。先ずは、とにかく気が利く。しかも聞き上手であり、話題に詰まってもいい感じにつなげてくれる。率直に言えば――パーフェクトってことだ。有象無象の中にそんな逸品がうっかり混入したら、他の女子だって認めざるを得ないだろ。てか、認めろよ。いや、認めるわけにはいかんか。合コンに参加している以上は。

 ということで、その合コンは悪い意味で盛り上がり――そんな状況じゃ、桃ちゃんもさすがに男のひとりを選ぶわけにもいかず、他の女子もドッチラケ。その夜は大失敗に終わった。

 そんな轍を踏むわけにもいかない、と次の合コンに桃ちゃんは招集されず――改めて考えてみれば、あんな空気読みの桃ちゃんが二度と参加するはずがねぇ。なのに何故か――次こそ桃ちゃんをゲットしてみせる――! そんな野望に燃えて参加したもんだから、その場にあのおっぱいがなかったことで一気に冷や水をかけられ――そのテンションを回復させることはできなかった、っつーわけだ。

 そして、今回に至る。いや、普通に新年度っつーことで新しい出会いがねーかなー、ってことだったんだが。桃ちゃんのことを忘れたわけでは――諦めきれたわけではない。が、ひとりの女子に固執するほど一途でもない。てか、そんな男が合コンに行くわけねーだろ。

 なので、ヤスミの指摘ははなはだ心外である。だがここで『いや、桃ちゃんいなくてもいいし』と返信できないのが俺の弱いところか。もし呼べるようなら呼んでほしい気持ちは偽れない。が、固執してると思われてると合コンの開催自体危うくなる。

 そんなわけで、既読したまま保留すること丸一日。ヤスミの方から追撃が飛んできた。

『何なら、桃呼んであげてもいいけど?』

 サンキュー! ――のスタンプを即行で。これは、完全に相手が折れるの待ってたって感じである。……こういう下心丸出しなところがダメなのかも、俺。

 ともあれ、ヤスミの言によれば、桃ちゃんは合コンの参加に前向きであるとのこと。ただし、条件があって。

『男子10人以上集められたら、だってさ』

 おうよ! そんなの死ぬ気で集めるに決まっておろうが! 前に桃ちゃん合コンに参加したサキダとユキシマは絶対来るとして、ひとりあたりノルマふたりずつ――幹事たる俺は三人呼ぶべきか。

 よっしゃ、燃えてきたぜ! 何人ライバルがいようとも、今度こそ桃ちゃんをゲットしてみせるぜ!


       ***


 俺は自分で思っていた以上に桃ちゃんに固執していたようだ。冷静に考えてみれば、男を十人も集めろって言ってる時点どう考えてもおかしい。

 ともかく、場所は新歌舞伎町のとある居酒屋――古風かつ和風な雰囲気で、桃ちゃんがそこを指定するのは意外な感じがする。

 俺やユキシマは三十分以上前に到着。その他の連中も続々と。

 掘り炬燵のお座敷席だが、長机の両側に男五人&五人。お誕生日席は当然のように空けてある。主役を待つ間、とにかく俺とサキダとユキシマは、如何に桃ちゃんがカワイイかをとんとんと語り続けていた。

 すると、約束の時間の十分前頃――

「わっ、もうみんな集まってたの?」

 女のコの声ひとつで、俺たちは会話を止めて一斉に振り向く。そして、全員息を呑む。

「もー……みんなヤる気すぎー♪」

 男たちからの視線を軽やかにいなすが……いやいやいやいや、一番ヤる気なのは明らかに桃ちゃんだろ!? だって桃ちゃん……いや、信じてもらえるかはわからんけど……全裸なんだよ! 誇張なしに! 巨乳が襟からこぼれそうとかそういう次元じゃなく、こぼすための襟すらないわけで。す……すげぇ……これが百センチに見合った乳輪か……初めてみるけど、すげぇ迫力……!

 どうやら靴は履いているようで、ごそごそとお座敷の前で裸足になると――一番手前にいた俺は黙って見上げることしかできない。すげぇ……屋根みてぇ。桃ちゃんの背が低いから、少し腰を上げたらおっぱいに追突しちまいそうだ。てか、追突させてぇ。だって、裸で来てんだぜ? そ、そのくらいのアクシデントは許容範囲だろ。

 などと甘いことを考えている俺に――桃ちゃんは自らたゆんと膝を屈めて――無防備に――アクシデントなんて緩いもんじゃない。この巨乳が俺の顔面をぶち抜いて――追突、と呼ぶにはあまりに柔らかく――あ、あ、あ……こんなの昇天しちまう……っ!

 何も見えない至福の中で、桃ちゃんが俺の耳元にそっと囁く。

「女子が全裸なのに、メンズがパンツ穿いてるの?」

 その声に、ドキリとしたわけではない。緊張が走ることもない。ただ、夢心地で――ふわふわした胸の中で、ふわふわした気持ちで――まだ一滴の酒も呑んでねぇのに、まるで泥酔しているかのように――俺は自分のズボンに手をかけていた――


       ***


 まー……いきなりズボンを下し始めた俺に、引く男はその場に誰もいなかった。むしろ、全員が俺に続いて当然のように下ろしてゆき――全裸の巨乳美少女と下半裸の男十人――その後どうなったか、改めて話す必要もないだろう。

 ひとり、またひとりと脱落していき――最後のひとりになったところで、俺の上で桃ちゃんがこっそり話してくれた。

「あたしねー、アイドルデビューしちゃってさー」

 アイドルがこんなことをしていていいのか、というと、いいらしい。何故なら、アイドルはアイドルでもストリップ・アイドル――『あえる! ヤれる!!』をモットーにしたアイドルグループ『TRK26』のメンバーとなったらしい。

 ここ、新歌舞伎町に劇場を構えるTRKでは、月替わりで『全裸生活』という企画を立ち上げているようだ。しかも、ただ全裸で過ごすだけでなく、できるだけ日常的に――驚いたことに、学校にも全裸で通っているらしい。女子校だから大丈夫、と桃ちゃんは言うが、そういう問題でもないと思う。

 ともかく、そういうわけで、桃ちゃんは特定の相手をカレシにすることはできない。が、セフレならOKということで、今日はその相手を見繕いに来たという。

「サッくん、結構タフだし……連絡先交換しない?」

 よ、よっしゃーーー! ついに桃ちゃんの連絡先を……!

 ……ああ、いや、わかってる。本音はともかく、合コンってのは彼氏彼女との出会いを求める場だ。アレだけ、今度こそ……なんて熱弁しておきながら、セフレでいいのかよ、とか思われんのも当然だわな。

 けど……桃ちゃんはともかく、俺は桃ちゃんのことをセフレだなんて思ってねぇよ。桃ちゃんはなぁ……アイドルなんだよ。思えば、前の合コンで会ったときから、ずっと男たちのアイドルだった。むしろ、そう考えた方が腑に落ちる。

 だから、もうゲットしようとかそんなことは思わない。むしろ推させてくれ。アイドルとしての宮條桃ちゃんを。

 つまりは――誰だって、推しと連絡先を交換してもらったら嬉しいに決まってるだろ? そういうことだ。


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