萩名里美2
大人数を収容するための箱を維持し続ける費用も馬鹿にならないということで、説明会の類はオンラインで済ませる企業が多いのが昨今の就職活動情勢だ。まあ、その方が申し込む側としても助かるし、願ったり叶ったりではあるけれど。
しかし――俺はいま、オンラインであることを猛烈に恨んでいる。
『コーナーエッジツーリストの経営目標としましては、国内ならば行けないところはない、というものがありまして』
今回俺が説明を受けている『コーナーエッジツーリスト』とは旅行代理店である。大手が扱わないような僻地や離島に対して、むしろ重点的にフォローしているのが特徴のようだ。
ぶっちゃけ、そのへんのことはどうでもいい。こちらとしては飯のタネとして入社できるところに就職するだけなのだから。大手だろうと中小だろうと。
なので――俺が気になっているのは、説明しているこの女性の方だ。最初、何かのバグでAVが流れ始めたのかと思ったぞ。しかし、今年度まで含む最新データが掲載されたスライドショーが始まったことで――紛れもなく、これが正規の説明会であると認めざるを得なくなった。
正規の説明会で――全裸の女性が堂々とプレゼンしているのだと。
てか、こういうのって普通は映したとしても表情を見せるためのバストアップくらいのもんだろ。さらに、スライドショーが始まればサウンドオンリーとなるのが常だ。集会の趣旨を考えれば、ここまで執拗に説明する人間を映す必要はない。しかも、わざわざ引きで――大きなスクリーンの前に直立させることで全身を。
長い髪に大きな胸――名札のストラップがその谷間にスッと流れているところが全力でエロい。それに、お腹から下の毛までしっかりと見せてくれてるし。時々画面の方を確認するテイで後ろを向いて、お尻もぽいんとこっちに見せてくれるところもサービス精神旺盛だ。彼女には恥じらったり照れたりする様子がまったくない。まるで、自分が服を着ていないことに気づいていないかのように。
ああ、スクリーンに投影するために部屋を暗くしているのがもどかしい。が、その反面、細部に対する想像力が掻き立てられてエロティシズムが引き立てられているともいえる。これが本当にAVだったら、乳首や股間をズームにしたり――それどころか、揉んだり入れたり、男優陣による羞恥プレイが繰り広げられたことだろう。そういうのが一切ないあたり、ガチの説明会なのだと実感させられる。
そういうリアリティもあり――すげぇ――すげぇな、コレは――チクショウ、コレを現地で観られていたら――いや、ここでいう“コレ”ってのは説明会ではなく、彼女の裸体の方を指すことになるのだろうけれど。否が応でも。説明会って名目だったとしても、いよいよ話なんて頭に入るはずがない。
反面、リモートで良かった、と思える要素もある。現地にいたら、こんなふうに下半身をモロ出しにしながら話を聞くことなどできなかっただろうからな。なので、その恩恵を最大限に享受すべく――はぁ、はぁ……この状況の異常っぷりに、こちらも脳がバグっちまってるみたいだ。ヌいてもヌいても収まることなく――ウッ、これで三回目……さすがにもう出るもんねーぞ。なのに、一向に萎えてくれず――説明会に参加する際に『配信の録画を禁ずる』『説明会で知り得た情報の漏洩を禁ずる』という署名に同意させられたが――もちろん、途中からしっかり録画させてもらっている。バレたり流出させたら結構ヤバイが、これでしばらくオカズに困ることはないだろう。こんな巨乳美人が説明会プレイとか……こんなの……こんなの……ッ!
……クッ、ついには四回連続……! このままじゃ説明会が終わる前に干からびちまう……ッ!
――と理性を失ったサルのように快楽を貪っていたが――
『説明は以上となりますが、質問のある方はコメントにてお願いします』
や……やっと終わってくれた……。が、彼女が服を着るわけではない。むしろ、スライドを映す必要がなくなったことで部屋が明るくなり――お、おお……暗がりでの裸体もミステリアスで良かったけど、こうして蛍光灯に照らされると――真っ白な肌をほんのりと染める乳輪が可愛らしい。くぅ、乳首も立ってんだろうなぁ……カメラ! もっと寄せてくれよ! はぁ、固定で置いてるだけとか、こういうところで手を抜きやがって……!
とか何とか、もはや質問そっちのけで彼女の胸とか股間とかばかりに集中していてちょっと気づくのが遅れたけれど……この手の説明会で、ここまで何も質問出ないことってあるか? まぁ、すぐさま質問するようなヤる気マンなら、こんなエロスパフォーマンスを見せつけられて辞退しないはずがない。とっくに途中退室してるんだろう。
誰も訊かないのなら、俺が……俺が……ッ! つい、チャット欄に――『何故全裸なのでしょうか』――絶対に誰もが気になってるはず――だが、あまりに訊きづらすぎること――それを、俺が――!
だが――どうやら女性の方もその質問を待ち望んでいたらしい。むしろ、瞳をキラキラと輝かせている。
『実はわたくしは……コーナーエッジツーリストの社員ではないのです』
よくよく見れば、首から下げているカードに顔写真らしき像はない。が、こんなことができるのだから、関係者ではあるのだろう。多分、アレはゲストカードのようなものなのだと思われる。
『わたくしの本当の仕事は――』
アイドル――それも、ストリップ・アイドルの――萩名里美――彼女はそう名乗った。何故そんな風俗嬢が企業説明会に……? というのは、どうやらここの社長の妹だかららしい。
いまでこそ風俗嬢をしているが、かつてはわりと大きな企業で管理職を務めていたようだ。その手腕には社長たる兄も一目置いており、事業を手伝うよう常々打診されていたとのこと。
そんな中、『一ヶ月間全裸生活』――ストリップ劇場の企画で、里美さんは三月いっぱい服を着てはならないらしい。そのタイミングで打診を受けるあたり、里美さんも意地が悪いし、それでも受け入れてしまうあたり、社長はさぞシスコンなのだろう。
『現在、我らTRK劇場では全国ツアーを計画しておりまして』
ストリッパーの全国ツアーなんだから……まー、そーいうことなんだろーな。けど、日本の風俗街って何十年も前に全部取り潰しにあって、復活したのが東京新歌舞伎町だけだと思っていたが。デリヘルみたく個人間の情事です、と取り繕える業態ならともかく、堂々とイベントを開きます、というのは無理があるだろう。
だからこそ。
『コーナーエッジツーリストとは事業協力していただく前提で話が進んでおりまして』
まー……結構なシスコンだろうし、妹から頼まれたら嫌とは言えないだろうなー。つまりは、そのエロエロツアー部門への配属を前提とした募集がコレ、ということだ。なお、その他の部署への採用はとっくに終了しているとのこと。だよなー。てか、どっちかとゆーと、採用自体は秋頃に済んでいたのに、この里美さんがエロエロツアーの企画を持ち込んで、そのための人材を集め始めた、ってことじゃなかろうか。
『ということで、採用条件としましては、女性の裸体を前にしても動じることなく業務を進められる方、となります』
そのために全裸で説明会を行った――と言いたげだが、こじつけだろうな。その審査のためにわざわざこんな形で魅せつける必要もない。まあ、観せてもらった方は眼福ではあるのだが。
俺の質問を皮切りに、ぼちぼちコメントは続き始めた。その部署に配属されたらもう異動はないのか、とか、そもそも法的に実現可能なのか、とか。けれど――俺にはもう、考えるだけの気力はない。何しろ、もう……ゥッ……七回目……。さすがに痛くなってきた。なのに……ダメだ……まだ……右手が止まらねぇ……ッ。この時点で、俺はもう里美さんの言っていた採用条件から外れてしまうのだろう。
けど、何だかおかしい。普通にAVとかは観るけれど、こんなにたぎったことなどあっただろうか。これはおそらく――限定されたこのシチュエーションに魅入られてしまったに違いない。録画を流せば、里美さんの全裸説明会の様子は何度でも観られる。けれど、時間が経ってしまえばただの企画モノ――本物の企業説明会の中で里美さんと相対することはできない。だからこそ、この時間の中でできる限りの幸福感を享受したい――そんな想いを込めて、俺は――
『なお、入社希望の方は二次面接として、来週来社していただくことになりますが――』
来週! ……ってことは、まだ全裸生活中にだな。そして、来社……ッ! 里美さんと会えるのか……!? 全裸の里美さんと……!
ぶっちゃけ、俺はもうこの会社に就職するつもりはない。さっき自覚した『条件を満たしていない』ということを差し引いても――俺は、里美さんのツアーを客として――いや、ファンとして楽しみたい。運営する側になっちまったら、アイドルとしての里美さんを推せないからな。
そんな本音は棚に上げて――
まあ、この説明会は釣りで、来週行ってみたらオッサンとのタイマンという可能性だって十分にある。だとしても、わずかな希望があるのなら行かずにはいられない。それが――ファンとしての心意気なんだろうな。




