島門佑衣2
決して、佑衣のことを尻軽そうとか、ユルそうとか、そんなふうに見たことは一度もない。だが、強いていうなら……土下座すればヤらせてくれそう……みたいな。彼女の愛想の良さには、そんな可能性を感じさせてくれる。
そーいや、前に就活してたとき、どこぞの講師が『フォロワーシップ』なんて話をしてたっけ。『リーダーシップ』の対として、良き部下、良き後輩になりましょう、みたいな。ナニ都合いいこと言ってんだ、と一蹴したけれど、佑衣というのはそれが素でできるキャラなのかもしれない。
そんなわけで、サークルにいたときから俺もついついアプローチをかけずにはいられなかったのだが……さすがに浮気はNGだったらしい。けど、佑衣って断り上手というか。次はイケるんじゃ? と期待を持たせる断り方してくるんだよ。それで……気づけばハマってた、というか。
で、そんな佑衣が彼氏と別れたと聞いて、これはチャンス! ……なぁんて、自分にも彼女いるのに思ったりもしたわけだが――佑衣たちが別れた理由が物凄い。
『彼女がアイドルになったから』
しかも、それがただのアイドルではなく、ストリップ・アイドル・ユニット『TRK26』――『あえる! ヤれる!!』をキャッチフレーズにした風俗嬢集団の一員になったというのである。元カレのヤスモトは凹んでいた、というか……彼女がオクテだったんで、どうにかエロスを開花させようと手を回していたところ、回しすぎたとか何とかで。
俺も最初はビビったけど――そもそも俺、彼女持ちだし。だったら、むしろちょうどいいんじゃね? だって、もし佑衣と仲良くなれたら、芋づる式に大量のエロい女子とお知り合いになれるチャンスなんだから! つき合ってるわけじゃないなら邪魔する理由もないだろうし。
あ、ちゃんとアイドル推してることは俺のカノジョにも言ってるぞ。というか、こないだ一緒に劇場行ったし。意外とちゃんとしてた、というのがカノジョの感想だった。これをもってして、俺の推し活はカノジョ公認となった……と、俺は認識している。佑衣曰く『カノジョ持ちがストリップ・アイドルを推すなら、先ずはカノジョに許可を取れ』――許可取ってきたぞ! もう文句はないだろ! ということで、それを佑衣にもメッセで送って――何かと渋い顔はしても、ブロックとかしないのがアイツのいいところなんだよな。最低限の節度を守っている俺の良識によるところも大きいが。
そんなわけで、俺たちはこれから会う。ちゃんとした形で顔を合わせるのは佑衣がサークルを辞めて以来ではなかろうか。……実は、劇場で一度まな板ショーはシているが、結局何も喋ってないんだよ。だから、まっとうな会話は久々だ。
いや、まっとうな会話になるのか、一抹の疑問はあるけれど。佑衣はアイドルだけに、ブログも更新している。それによると……現在“とある”超過激企画に挑戦中で――もしガチだったらその俺もその恩恵に与れるわけで……!
そのために、わざわざ佑衣が来やすいであろう新歌舞伎町の喫茶店を選んだ。この街は何かと物騒だからできれば学校近くにしたかったのだが、その企画を理由に断られたら困るし。
ということで、俺は外の通りを見張るような目つきで待っていたが――どうやらウィンドウの前は通らず、反対側から入店してきたらしい。
「お待たせしました」
「うをっ!?」
マジかよ!? 佑衣のやつ……マジの全裸で……! すげぇ絵だぞ、コレ。喫茶店に入ってきた佑衣は――小さなショルダーバッグの紐を斜に通して――シートベルトのように胸の谷間に挟まれてるのが全力でエロイ。というか、その胸も乳首の先までボインボインだし。下だって毛までじっくり見れて――あー……尻も見てぇ……っ! けど、残念ながら俺が取っていた席がボックスだったため、佑衣はテーブルの向こう側にするりと座る。くぅ、何で天板ガラス張りじゃねんだよ! 下が見えねーじゃねーか! けど……おっぱいは堂々と丸見えで……!
「このような恰好で失礼します。今月は『全裸生活』という企画を実施中でして」
どうやら、持ち回りで一か月間服を着ずに生活する『全裸生活』という企画が、あの劇場にはあるらしい。今月は佑衣がそれに選ばれたとのことで――正直、面白半分に呼び出したところはある。ガチだったらそれに越したことはないし、着衣で来たら全裸生活はどうした、みたく話題になるかな、と。今回は前者である。これはまさに眼福だな。
しかし、佑衣のヤツ……さりげなく胸の前で腕を組む姿勢を崩さない。しっかり乳首はガードしてる感じだ。全裸なのに……!
それでも俺の視線は胸――を押さえる両腕に釘付けで。それは佑衣もしっかり感じ取ってるんだろうな。そんな不自然な空気の中、最近どーしてんの、とか、ステージすごかったな、とか、当たり障りない話題をつなげていくも、佑衣の方は『そうですか』『ありがとうございます』など他人行儀な返答ばかり。サークルに来てた頃は理想の後輩って感じだったのに。サークルを抜けたらこんな露骨に変わるのか?
少しガッカリしながらも。
「んで、いまつき合ってる男とかいんの?」
「いいえ」
そんな会話になったので。
「だったら、俺とかどーよ」
「先輩にはカンナ先輩がいるでしょう?」
そんな感じの、サークルにいた頃のような会話が交わされたので、つい。
「なら……カンナと別れたら、つき合ってくれんのか?」
はい、と言われたらちょっと迷うけど。
「いいえ」
即答かよ。
「だって私……アイドルですから」
「けど、ヤりまくりじゃねーか」
そんなアイドルがいてたまるかよ。けれど、佑衣は悪びれることなく。
「はい。ストリップ・アイドルですから」
アイドルって下ネタとか男関係とか厳禁なもんじゃなかったっけ。ストリップ・アイドルから『ストリップ』の部分を取っちまったらまったくの別物だろ。
俺がいま、佑衣のことをどんな目で見ているかはわからない。が、佑衣が見ている目は明らかに冷めている。
「先輩、女のコのこと、セックスの相手としか思ってないんじゃないですか?」
「いや、そこまで極端でもないけどよ」
セックスは重要だ。けど、セックスさえできれば他は何もいらない、なんて考えてはいない。
けれど、佑衣はやはり冷めた瞳で。
「先輩の行いを見ていると――」
ここからどんな罵詈雑言が飛んでくるのかと構えていたが。
「……カンナ先輩に、今日のこと話せます?」
最大限の、気遣いでオブラートに包まれていた。けど、そういう心配は無用である。
「問題ねーって。あくまで喫茶店で話してるだけだからな」
酒さえ呑んでねぇんだから、責められる筋合いねーだろ。しかし、佑衣は納得しない。
「私がこの格好だったとしても?」
「フツーは言っても信じねーな」
俺だって未だに信じられねーよ。佑衣がこんな場所で素っ裸……というか、ここまで素っ裸で来たっぽいし、そんな佑衣に店内が動じてないことも。
むしろ、佑衣自身が一番緊張してるらしい。
「ともかく、先輩のことは脈なしだというのをご理解いただきたく」
「ちぇっ、冷てーなー。そんなら――」
他の女のコ紹介してくれよ――とつなごうとしてんのに、佑衣はそそくさと席を立ち始めやがった。おっ、カワイイ尻――とか見惚れてる場合じゃねぇ!
「ちょ……っ、おい、待てって……!」
佑衣を追って立ち上がったが――背後から肩を掴む手の力強さに、俺は足を止めて振り返る。そこにはスーツを着た男がいて――だが、そこらの会社員って雰囲気じゃない。決してこの街だから、というわけでもなく。そして、袖や襟から入れ墨がチラついているわけでもなく。筋骨隆々でもなく、顔つきがいかついわけでもなく――むしろ、スマイルを無料で売ってるサービス業みたいな穏やかさだ。
だからこそ、かもしれない――その手に込められている圧との違和感に、俺は思わず後ずさる。
「あ……貴方は……?」
ヤベェぞ……少々失念していたが、ここはアブねぇ繁華街・新歌舞伎町である。そんな渦中で全裸の女のコと……いや、まあ、イチャイチャしてたわけじゃねーけど。だが、目を付けられるのは当然だ。
俺に抵抗の意志がないことを察して男は手を放す。そして、名乗った。
「私は――」
アイドルをプロデュースしている者です――名刺はなかったが、信じるに値する熱い威圧感はあった。なので、俺も腹を括る。
「ちょうどいいところに。俺もアンタ……いや、貴方を探していたんだ」
佑衣は自分から全裸で来ておきながら、会話どころじゃなかったみてーだし。むしろ、これから信頼を築いていきたい相手はこちらである。ならば、喧嘩腰だったり上から目線だったりは良くない。かといって、謙って従っていても意味がない。改めて見れば、歳も結構若そうだ。だったら……イケるだろ。同じエロいオネーチャン好きとして……!
***
ちょいとお時間よろしいか、と尋ねてみれば、それ相応につき合ってもらえた。佑衣は予定よりかなり早く俺との対話を切り上げたらしい。
んで、このプロデューサーは話せばわかる相手で――とはいえ、もしここで佑衣と揉めるようなことがあったら、劇場を出禁になっていたようだ。アイドル本人がそのような処分を望んでいない、という温情によって首の皮一枚でつながっている状況だとプロデューサーは脅してくるが……それはいい。むしろ、これ以上つきまとっていると余計に拗れそうだし、推し変しちまうかなー。こっちだって、メンバー全員チェックしている。紫希ちゃんとか、エロくて良さそうだし。
そんなこんなで、俺たちはとんとんと話し合った。女のコと、エロスについて。この男、エロい話をめっちゃ真顔で熟考するのな。本人曰く、アイドルたちを輝かせるため、とのことだが……その方法がエロスばっかってどーなんよ。
だが逆に考えると、エロス大好きで、エロスで輝く女子を集めたってことなら……他に輝ける場所なんてなかなかないよなぁ。いや、あるけど、どうしても後ろ暗い裏道になっちまう。それで明るい未来を目指してるんだから大層な茨道だぜ。
とはいえ、エロい女子をいっぱい世に出してくれるのならこっちとしても大歓迎だ。っつーことで……今後とも仲良くやっていこーぜ!




