一. 真夜中出勤とヴァンパイア
読み方は「スカッリーとハビエルのじゅうこのふぁいる」です。
……十です。十あるうちの一つです。
「今日も収穫なしね」
「お、そうだな」
「はぁ、めんどくさいけど明日も聞き込みから始めましょう」
別に何もないことが珍しいわけでもない。逆に俺達が忙しく働いていることが異常みたいなもんだ。
「気楽なもんだねぇ」
「?」
ふと周囲を見渡すと駅でごったがえす人間たち。世界が暗いとき明かりを灯し、世界がそうあれと生み出した生物を都合のいい動植物に作り変え、自分たちが永遠の支配者であること疑わずにいる彼ら。
「別にみんな楽して生きているわけではないでしょ?」
もう少し俯瞰してみると物乞いや目付きの鋭い者もいる。
「そういうわけじゃない。散々な死に方をすることを考えてないことを気楽といったんだ」
明日、死ぬかもしれない。こんな考えを持っているやつはごまんといるだろう。だが、そんなやつは死に方を考えていない。家族に見送られて逝く、交通事故で、もしかしたら殺人事件?溺れて事故死、上からものが落ちて死ぬ、、、甘い。このような死に方はいっちゃ悪いがありふれているし、人としての尊厳も保たれる。
俺たちは違う。仕事で命を落とすだけならまだしも、命を落とすことすら許されない場合があるのだ。
「そうだけど……そういったことを考えている人もいると思うわよ?」
「へ、他にもあるぜ。人間が明日滅びることをオカルトと思っているとこだ」
この世界にはいくらかおかしな点がある。摩訶不思議な生物、魔法、呪いのアイテム、、、もうちょっとマシな世界を創れなかったのかなぁ、神様よぉ。……そういえば、ある聖職者は「人間がプログラムを造るときですらバグが存在するのに、神が世界という複雑なものを創ったらバグが存在しないというはずがない。自分たちができないことを神に向けて言うなんて……おぉ、その資格はない」っていってたな。はっ、人間ができないことをするのが神なんだからやってみせろよ。
「……今に始まったことじゃないでしょ。疲れてるのよ、ハビエル。もう休んだら?」
「そうだな」
疲れているから思考が悪い方へといってしまう。よく言われることだ。
「あぁ、もう宿探して寝よう」
最近悪いこと続きなんだ。せめて夢ぐらい、いい夢見させてくれよ。
*
PiPiPiPi
はぁ、嫌になっちゃうね。目覚ましかけ間違えちゃった、テヘペロって感じでもないし。こんな日に限って、真夜中出勤かよおおおぉぉぉ。
「はい、こちらハビエルです」
「ハビエルくん。休暇中の君たちに悪いが、仕事だ。ヴァンパイアが君のいる町に逃げてきたらしい。ヴァンパイア・ハンターがハントしていたところから抜け出したようだ。仕事内容は『ヴァンパイアの足止め兼回復の阻害』だ。……先の戦闘で弱ってるが、対ヴァンパイア装備のない君には難しいと予想される。スカッリーと協力して嫌がらせに専念しろ。決して倒そうとするんじゃないぞ」
「わかりました」
「ヴァンパイアは素早く回復するため人口密集地に突っ込んでくるはずだ。そこで待ち伏せろ。23:00には到着するぞ。ちなみにこの機械は3秒後に焼き切れる。では検討を祈る」
だるっっっっっっっっっっっっっ。……はぁ、スカッリーと合流するか。
ジュー
その前に十字架と、聖水を持ってくるか。あと、ホテルの机の引き出しにある聖書とか持っていってもバレんでしょ。
ジュー
よし、準備オーケー。あと忘れもんないかな。……あっ忘れてた!
急いでベッドから目覚まし型連絡機を持ち上げたが黒い跡が敷布団に残ってしまった。
……まぁ、バレへんやろ。ってあっつい⁉
手に持っていた目覚ましを落としてしまい、床についてしまった。
やってしまった。もう床に跡を残してしまっただろう。後で技術部に文句言うか。
もう、忙しいから放置でいいや。スマンな、宿のおっちゃん。チップから引いといてくれや。
急いで街の中心地へ向かうと人が見当たらない。不思議に思いながら地下鉄の方へ向かうと、スカッリーが入り口を塞いでいた。
「遅いわよ。もう私が市民の説明、誘導、他にも役に立ちそうなものを頂いたりしたわ」
「あ、あぁ。ありがとう」
「はぁ、貸し一つね」
「あいよ。で、罠の準備はどうだ?」
「まだ。今からやるわ。専用装備もないし間に合わせのものだけど……」
「まぁ、時間が稼げればいいし。無いよかいいだろ」
「まぁ、そうね」
「あ、相手はヴァンパイアだろ。ってことは……」
「あぁ。アレの準備もやっといたよ」
「そうか。じゃぁ、宿屋のおっちゃんもいるだろうし挨拶してくっか。最後かもしれないしな」
*
はぁ、はぁ、はぁ。ここまで逃げればひとまず大丈夫そうね。この街に来たことはないけどそこそこ人がいそうね。……シリウス。ここで力を蓄えてあっちに加勢するか、それとも多少回復したら逃げるか。どっちがいいかしら……ふふっ、あなたがいたら多分逃げろって言うでしょうね。カッコよくて素敵なあなた。そんなあなただから私達を逃がすために殿を引き受けてくれた、、、お腹にいる子のことも考えると逃げるのが無難。本当はわかってたはずなの。もうあなたと一緒に生活するなんて、あなたが隣りにいることはないんだって。これでお別れなのね。永遠の命なんだからこんなこと一生ないって思ってた。いつかみんなで旅行に行くんだって言ってくれたあなた。それももうかなわない
……いや、一つだけ方法がある。ここで私が覚醒したら、ヴァンパイアとしてもう一つ上の領域に立てたらワンチャンあるかも。試してみるだけならタダね。うまくいったらそれでいいし、うまくいかなかったら逃げればいい。でも、一つ懸念なのがあまり人が見当たらないってこと。臭いを嗅ぐと汗の要素が強い。つい先程急いで移動したっぽいから私の存在がバレてる?でも、それだったら私対策でにんにくの臭いを漂わせるはずだけど。……わからないわね。わかんないこと考えてもしょうがないし、不確定要素で私を混乱させること自体が目的なのかも。第一、ヴァンパイア・ハンターは一般市民の避難なんかさせずに存在を隠して、私が油断して回復している瞬間を狙ってアンブッシュしてくるし。まぁ、私は私の目的を達成しましょう。待ち伏せされているかもだけど臭いを追ってみましょうか。
あー。見えてきたわ。多分あれは地下鉄の入り口ね。なんでみんな地下に逃げたのかしら?まぁ、入り口で立っている警察官っぽい人に聞いてみればわかるか。
「私、周りの人が逃げているからここに来たんですけど何かあったんですか?」
「これは御婦人。いえね、なんでもホーリーウッドの映画でこの街を舞台にするらしくて、邪魔になるからこっちに来たんですよ。あと、住民にはエクストラとして出演してほしいらしくってご老人の方は他の住民がおぶさってみんなで出演するんですよ」
嘘ね。それだったら走って移動する理由もないし。重要なのはこの人が嘘をついているのか、それともその話を信じているのか。
「私が入り口に突っ立ってるのはみんなちゃんと来たかどうか調べるためですね。御婦人が最後っぽいですけど他に誰か残っていませんでしたか?」
ラッキー。ちょうどいいタイミングで来たわね。まぁ、この人の話を信用できればだけど
「いえ、もう誰もいませんでしたよ」
「それは良かった。そろそろ時間なんでね、みんなを急がせてたかいはあった」
「では、私はそろそろ……」
「いや、ちょっと待ってください。ここで待っていたら映画の撮影がちょっと見えますよ。そのためだけに私は地下鉄の入り口待ち係を立候補したんですから」
……この人は信じているだけっぽいわね。まぁ、急いでいたって話だし嘘じゃない可能性のほうが高そう
「すみません。夫が心配なので……」
嘘は言ってないわよ
「ああ、これは申し訳ない。あなたのような御婦人と話せて良かった。何もない別れもなんですし、あなたのような人を待たせてしまった詫びとして少しばかりのプレゼントを」
「ああ、なんでしょうか?」
もう、めんどくさいしプレゼント貰った後もうだうだするようだったら殺っちゃおう。
「こちらを」
ドンドン
「あなたのお好みに合いましたか?」
「そりゃあもう
最悪よ」
あぁ、油断した。こいつが仕掛けてくる可能性は考えていた。前から打たれても余裕で対処できたが、まさか
「後ろから撃ってくるなんてね。人として最低よ」
「人ではないやつに言われてもね」
後ろにいるのは臭い的に女だ。
「このプレゼント。返品できる?」
「残念ながらプレゼントに返品という機能はないんですよね。プー、油断して撃たれちゃうなんてカッコ悪」
「あら、わたし的にはさっきの話し方のほうが好きだったのだけど……」
「うわっ、俺はババアに好かれる趣味はないんでね」
あ、なんて言ったこのクソ野郎。ゴキブリの餌にしてやろうか、、、ん、気持ちを切り替えなくちゃ。今、問題なのは攻撃を受けたことじゃない。女の存在を感じなかったことだ。。私が弱っているから?いや違う。
「……ヴァンパイア・ハンター以外の組織の犬か」
「ほーん、よくわかったね。ヴァンパイアに加点!」
臭いを消すスプレーがあるにはあるが、アレ自体にも臭いがある。ヴァンパイアの嗅覚はごまかせない。そのため、聖水を微量に混ぜたりすることでヴァンパイアにバレないようにするという技術がある。ただ、これは技術が必要で金もかかるため、ヴァンパイア・ハンターが持つようなものじゃない。だから、消去法でこいつらのバックにはでかい組織がいるってことだ。
「人間。まさかヴァンパイアの視覚から逃れるとは思ってもみなかったぞ」
「あ。まだバレてないっぽい。じゃあ、もう一回やりますね」
「そうね」
くそ。喋るかと思って話題を振ったが逆効果だったか。どうやって姿を消したのか検討もつかないが対策はできる。
「ハハハ、いいぞ。やってみせろ」
女の臭いと気配が消える。きっと姿も消えたのだろう。
「チェックメイトよ」
瞬間。いきなり何もない空間から女の姿が見えたと思うと銀のフォークを突き刺してきた、と同時に男も発泡した音が聞こえた。これは詰みだ。血を未だ流していて弱っているこの身では避けることもできない。ヴァンパイアの弱点をついた銀の製品で傷をつけられたら滅びちゃう。奇を狙って敢えて肉弾戦。男も女に合わせて発砲したところから熟練の技術を感じる。だが、、、
「ただ、血の上を歩いたのは不用心じゃない?」
突如、血から腕のようなものが出てくると女を殴り飛ばし、男の方にも私を守るように腕を配置した。銃弾は粘性の強めた血で創った壁で受け止めた。
女が近寄ってきているのは血の感触でわかってた。遠くから銃でちまちま撃ってくるようならめんどくさかったが、ヴァンパイアは弱点以外では致命傷にならないから無視して市民を殺す案もあった。しかし、近寄ってきてくれたのだ。これなら接近戦対策で流していた血が利用できる。
弱っている身で血を流し続けることは正直辛いが必要経費と割り切った。
「技術はあるのにヴァンパイアに戦い慣れてないわね。ってことは所属組織は魔法学院?って見た目でもないし、まぁ適当な国の可能性もあるしね。透明なのも魔法ってわけではなさそうね」
「はっ、バレちまったらしょうがない。俺は魔法使いだぜ」
「んなわけないでしょ」
「案外、嘘じゃないかもよ」
女が銃を撃ってきたが出しっぱなしの血の腕で防いだ。
「どうだか」
腕を自分の近くに呼び寄せて液体に戻す。例え遠くから撃ってきてもこれで防御できる。こちらの勝利条件は地下鉄への侵入、そして市民による回復。あちらはそれの妨害ってところかな。専門家じゃなさそうだし本職がくるまで持ちこたえるのが仕事っぽい。だが、血で防御できてしまえばこっちのもん。相手の銃は意味をなさず、移動の障壁にもならない。突っ込んできたらさっきの二の舞いだ。
「さて、新しいトリックでもないとこれで終わりなのだけど……」
「うーん、やばいな。どうする、スカッリー」
「……はぁ、使うわよ」
そういうと女は十字架をポケットから取り出した。
「ハッ、十字架が効くほどやわじゃないんだけど」
「聖水もあるぜ。聖書もなぁ」
「フフ、でも残念ね。小瓶一個分の聖水じゃ、私の展開している血を止められないわよ?」
「……」
「じゃあ、私。先に行ってるから」
はぁ、無駄な時間を使った。地下に行って力を蓄えなくちゃ。間に合うかなぁ。間に合わないだろうなぁ。でも、新たな力を手に入れられるかもしれないって考えるとワクワクするわ!
*
「行ったな」
「そうね」
「よし、逃げるか。ヴァンパイアと心中なんて嫌だしな」
「一応書いておいた『テレポート』の陣。使うことになるなんてね」
「頼まれた仕事で消耗するのも馬鹿みたいだし。別にいいだろ」
地下鉄の方から何かを壊すような音が聞こえる。
「バリケード。もって10分ってとこか。防音と内外からの侵入の阻害。どっちも兼ねるなんて俺頭いい」
「はぁ、早く行くよ。巻き込まれたらたまんない」
「あいよ」
ふと頭をよぎることが……
「じゃぁな、宿屋のおっちゃん。まぁ、あんたの床だけじゃなくて、みんなそうなるから許してちょ」
*
「昨夜の23:45頃、強い地震が発生しました。この地震による津波の影響はありません」「御覧ください!この街、いや元街を。これは明らかに地震の影響ではありません!」「えぇ。その地震なのですが震源を調べてみるとおかしいんですよ。地表近くで起こってる。これはですねぇ、断層やプレートによる地震ではありえませんね。私の持論でいきますとぉ」「やべぇ、ちょうやべぇ。これ知ってる?この写真なんだけど地面が丸くえぐれてるだろ。これ、元街なんだって。まじちょべりばー」「パナスギー」「あぁ、ネットで今騒がれているあの画像ですか。あれは確実に嘘ですよ。だって街がなくなるなんてありえないじゃないですか」「たぶん、隕石ですね。専門家の私が言うのだから間違いない」「たぶん宇宙人の攻撃だよ」「皆さん、核シェルターを買いましょう。もし、隕石やら核ミサイルやらで街がなくなっても核シェルターなら大丈夫!なんと今なら缶詰も付いてきます!」「政府から公式発表が出ました。破壊された街の映像はあるテレビ局が視聴率を稼ごうとしたデマだったとのことです。また、地震の発生場所なのですが、測定器の故障のため不明とのことです」「あぁ。あれね。アレはやっぱり宇宙人の攻撃だったんだよ。政府がその事実を隠そうとしたんだよ」
ナガスギィ!