仮面
「痛っぁ…」
さて、どうしよう。さっきから頬をつねっているが、どうやら夢ではなさそうだ。
しかし、本当に異世界なのか?どこか遠い国に連れてこられたとかなのか?いやいや、戦時中なので国を出ることは不可能に等しい。
「とりあえず、街目指してみるか…」
俺は城を目印に歩き始めた。
現状何も分かっていないのでまずは情報を集めないといけない。
ここは元の世界なのか、それとも異世界なのか。
今のところ、モンスターがいる様子がないし、変な地形もないから判断材料がない。
もし、外国だった場合英語は通じるかな…。英語しか喋れないけど…。
それにしても
「空気うまっ!」
何度も空気を肺に取り込む。
生まれたときから排気ガスだらけの世界で暮らしてきた俺にとって気持ちの良い深呼吸なんて初めての経験だ。
これなら気持ちよく目的地まで行けそうだ。
この、草を踏む感覚もいつぶりだろう。
小さい頃に家族で行った、あの芝生の公園はきっともう焼けて無くなっている。いや、あれ人工芝か。
まぁいい。さぁ、この調子でどんどん進むぞ!
・ ・ ・ ・ ・
3時間ほど歩いた。始めに比べれば近くなったが、まだ城は遠い。
そして、大自然の風景も変化がなくだんだんと飽きてきた。
しかも、さっきからゆるい登り坂を15分ほどに歩いている。大きすぎる自然も考えものだ。
一番最悪なのが、喉が渇いてきたことだ。ついでに言うと腹も減ってきた。
太陽が高い位置にあるので、もう昼になったようだ。
「ツムギ…。水とか…食料とかも…用意してくれれば良かったのに…」
猫背になり、手をだらしなくぶらぶらさせながら、一歩ずつ歩く。
喉が渇いた状態で動くのは思いのほか体力を使う。
どこかに湖でもないのか?こんな大自然にはあってもいいと思うのだが。
そんなことを考えていたらいつの間にか登り坂が終わっていた。
すると、先程までは見えなかった場所が見えるようになり、少し遠くに池を発見した。
「良かった、これで助かる!」
俺は走って池に向かった。
池に到着すると、俺はすぐさま手で水をすくい上げ、飲んだ。池などの水は雑菌が湧いているかもしれないがそんなことは気にしていられない。
疲れた体に水が染み渡る。こんなに美味しい水は初めてだ。
それにしても池の水は驚くほど澄んでいて一切の濁りがない。池に周りの木から葉が落ちたのだがまるで空中に浮いているように見える。
「さて、もう一杯…」
キュルルルルルル………
もう一度池に手を伸ばしたときなにか変な音がした。
何かの鳴き声のように聞こえる。
異世界にいるなら魔物が出てもおかしくない。
俺は素早く身構えた。
音が聞こえてきた方には背の高い草が茂っている。
恐る恐る近づいてみると、ガサガサッと草が動き、中から黒いものが飛び出してきた。
「うわっ!」
驚いて仰け反ったが、黒いものは俺の腹にぶつかってきた。
俺はその衝撃で後ろに倒れてしまった。
腹の上に乗っているものを見ると、そこにはヘドロのようなドロドロしたものがあった。
そして一番せり上がっている部分には白い欠片のようなものがいくつか付いている。
急いで押しのけようと思い、腕を持ち上げようとするが固定されたように動かない。
黒いものが両腕に絡みついてガッチリとホールドされている。
「くそっ!離れろ!」
バタバタと暴れるが、全く振りほどける気配がない。
しかも、思いの外力が強く気を抜くと腕をへし折られそうだ。
なんだよ、俺はこんなのところで死ぬのか?ゲームだとまだチュートリアルだぞ。ルナが言っていた能力ってのはいつになったら使えるんだよ!
くそ!嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!
その時、タッタッタッという足音がした。
「えーい!」
と、女性の声が聞えた。
な、なんだ?
次の瞬間太めの棒が目の前をよぎった。
その棒は黒いものに直撃し、吹き飛ばした。
そして、黒いものはそのまま池に突っ込むと、紫色の光の粒のようになり、何事もなかったかのように消えた。(同様に俺の服に付いていた残りも消えた)
誰かが助けてくれたのか?
起き上がり、後ろをみると、両手で木の太い枝を持っている人がいた。
少し小柄な体格で深々とフードを被っており、顔をは見えない。さらに全身もマントで包んでいる。一見不審者だ。
「はぁ、はぁ、大丈夫ですか?」
その多分女の子が話しかけてきた。走って駆けつけてきてくれたらしく、息が切れている。それに枝も小柄な体格からしたら見るからに重そうだ。
「あぁ、大丈夫。助けてくれてありがとう。」
「いえいえ、薬草を取りに来ていたら魔獣に襲われている様子だったので」
「魔獣?」
「え!魔獣を知らないんですか!?」
信じられないというかの如く驚かれた。
どうやら、ここの人たちからすると魔獣は普通に居て当然なものらしい。そして、今気づいたが言葉が通じる。ここが日本なのはあり得ないし、それならここは異世界でほぼ確定だな…。
「え、いや、俺の故郷では居なかったんだ…」
「そんなところがあるんですか!?…これは調査が必要かも…」
「調査?」
「いいえ!なんでもありません!」
女の子は慌てて手を振った。そんなに隠さないといけないことなのか?
すると、そのままその子は続けた
「服装から察するに旅人のようですけど、その間にも一度も魔獣と遭遇なかったと…?」
ここは嘘を通すしかないな…
「あ、あぁ多分そうだよ。運が良かったんだろう」
「うーんそんなことあり得るんだ……」
女の子はブツブツと、独り言を言っている。しかし、すぐにハッと思い付いたようにこちらを見て、話しかけてきた。
「すいません、名前をまだ聞いていませんでしたね。名前を教えてもらってもよろしいですか?」
「冬月暁夜だ。よろしく。ちなみに君は?」
「え!キョウヤさん、あなた姓を持ってるんですか!?」
「あるけど…?」
「とんだご無礼をお許しください!貴族の方とは知らず…!」
女の子は跪いて、頭を下げた。
「え!?いや!違う違う!貴族なんかじゃない!」
俺は慌てて否定した。この世界では名字を持っていないのが普通なようだ。
混乱を避けるためにもこれからは暁夜と名乗ろう…
「そうなんですか?本当に?ならいいですけど…。もし貴族相手にこんなふうに馴れ馴れしく喋ってたら不敬罪ですよね…」
「いや、助けてくれた人だったら貴族もそんなことしないでしょ…。ところでこっちも名前を聞いていいかな?」
するとなぜか、女の子は一瞬焦ったようにビクッと、した。
どこか不自然だ。
「うーん、あ〜…。エリカって言います。」
なんかはっきりしない言い方だった。
顔は見えないが目を逸らしているのがわかる。
何か名前を言いづらい事情でもあったのか?
「そいえばキョウヤさんはどこに向かってるんですか?メルギドラなら私も行くので馬車で送りますよ?どうやら歩きのようですし。」
エリカは俺が目指していた城塞都市を指さした。あの街はメルギドラと言うらしい。
エリカが慌てて、話題を変えたのはなんとなく気づいたがあまり詮索するのも良くないだろう。
「ありがとう。それじゃお言葉に甘えさせてもらうよ。」
そうして、俺は薬草の袋の積まれた荷台に乗せてもらった。
・ ・ ・ ・ ・
しばらく乗っているとさっきよりぐんと城が近づいてきた。
やはり乗り物は素晴らしい。
しかし、疲れなくても腹は減ったままだ。水は飲めたが食べ物はない。エリカは何か持ってるかな…。
エリカは御者台に座っている。
「あのー、エリカさん。」
「……あっ。エリカでいいですよ」
返事に少し間があった。
「…?。わかったじゃあ俺もキョウヤでいいよ。それに敬語じゃなくても」
「ありがとう。じゃあキョウヤくんって呼ぶね。そういえば話しがそれちゃったけどさっきは何を言おうとしてたの?」
「ごめん腹が減った。何か食べるものを持ってない?」
「ふふっ、それは大変だ。手前から二番目の袋の中にパンがあるからそれを食べていいよ」
袋を開けると丸いパンが3つほど入っていた。
取り出すとすぐさまパンにかじりついた。
「本当にありがとう…死ぬかと思った…」
「どういたしまして〜。そういえばキョウヤくん、何も荷物を持ってないけど、どうやって旅をしてきたの?」
「いや〜途中で盗まれちゃって…」
もちろん嘘だが
「それは災難だったね〜。あ、キョウヤくんの故郷ってなんて名前?」
「日本かな…。特に神奈川」
「ニホンのカナガワ?聞いたことない場所だね。」
「かなり遠いからな…」
まぁ、言ったところで誰も知らないし、害は無いだろう。
俺は荷台に寝そべった。
……俺がいなくなって、家族は心配してるだろうな。
母さんを手伝うことも出来なくなってしまった。親父には苦労かけるな。
帰ることはできるのかな…。
それにしてもエリカには感謝しないとな。
化け物から助けてもらって、目的地まで乗せてもらって、しかも飯までご馳走になってしまった。
なにか恩返ししないと…
・ ・ ・ ・ ・
「………ん。………ヤくん!……………ーい」
?なにか聞こえる…騒がしい…
「キョウヤくん!」
「うわっ!」
さっきより一段と大きな音がして俺は飛び起きた。
どうやら、横になって揺られているうちに寝てしまっていたようだ。
荷台の横にエリカが立っている
「ふふっ、昼寝しちゃうなんて随分疲れてたんだね」
「ずっと歩いてたからな…ってうお!!」
寝ぼけていたので一瞬気が付かなかったがエリカの後ろには30メートルは軽く超えているであろう高さの頑丈そうな石の壁があった。
奥には巨大な門がある。
正直思っていた何倍もデカい。俺は思わず言葉を失った。
「………。おーい?大丈夫?」
「いや、あまりの大きさに呆気にとられてた…」
「ふふふっ、多分、城を見たらもっと驚くよ」
「それは楽しみだ。で、こんなところに馬車を止めてどうするんだ?」
門までには少しある。俺を起こすためにわざわざ止まったわけでもないだろう。
「実は私あんまり、堂々と門を通れなくて…。私は積荷に紛れて隠れるから変わりに馬車を移動させてくれない?」
流石にこれは怪しすぎる。今までの言動でもどこか不自然なところはあったがそこまで気にしていなかった。
いい加減少しは事情を聞いたほうが良さそうだ。
あまりめんどくさいことにも巻き込まれたくないしな。
「いいけど、少しだけ教えてくれ。君は追われる身だったりする?あと、エリカは偽名だったりしないか?」
「あはは…流石にバレるよね…。あまり詳しくは言えないけどそんな感じ。名前も偽名で正解。あっでも悪いことをしたわけじゃないんだよ!ちょっと事情があって…」
「大丈夫。君が悪いことをするような人じゃないってことくらい俺でもわかるさ」
「ありがとう。ごめん迷惑かけて」
「いえいえ、こんなことでいいならお礼だと思ってくれればいい。でも、俺、馬操れないけど…」
「それは、大丈夫。この子達賢いから手綱握ってれば大体行きたいところに行ってくれるよ」
「賢すぎじゃね?」
本当の名前を聞いてみたかったが、エリカ…じゃなくて、この子の立場を知った以上、深入りするのは良くないと思ったので、我慢。今はエリカ(仮)と呼ぼう
とりあえず、御者台に座り、手綱を掴んでみた。
すると、馬は「さ、行きますか」と、いった感じで門に向かってトコトコと歩き出した。
いったい、どんな英才教育を?
門の前に着くと、警備兵たちに止められて荷物検査などを受けるものだと思っていたが、近くに立っていた警備兵は、俺の顔を一瞥すると、何もすることなく通してくれた。
いやこんなの警備してる意味無いだろ!
俺の顔が偶然、この街の豪商とそっくりだったなどということも絶対にないとは言い切れないが、第一そんな人は(言ったら悪いけど)このリアカーみたいな馬車には乗らない。
「おっ、入れたっぽいね」
門から離れて兵から見えなくなった頃を見計らい、荷物の中に埋もれていたエリカ(仮)が出てきた。
「とりあえず、馬車を止めるところがこのまま真っ直ぐ進むとあるからそこに向かって」
「了解。あと、質問なんだが、警備はいつもあんな感じなのか?犯罪者入り放題じゃないか」
「警備はいつもあんな感じだけど大丈夫。この街に犯罪者はいないから」
「は?」
「信じられないって顔だね。でも、事実だよ。キョウヤくんの故郷は魔獣がいなかったらしいから知らないかもだけど、ここはずっと何千年も魔獣に悩まされているんだ」
エリカ(仮)の喋るトーンが落ちる。確かに災害の歴史など語りたくもないだろう。しかし、エリカ(仮)は続けた。
「だから、魔獣の対策をしないといけないし、襲われたところの復興をしないといけない。他にもやらないといけないことが沢山あるんだ。そんなときに人間同士で争ってる暇なんか無いから犯罪者はいなくなるし、魔獣以外に気をつける必要がないから警備が緩くなるって感じかな」
確かに共通の敵がいれば人間は協力できるしな。
けれど同時に、共通の敵がいなく、自分の利益だけを求めた、世界を思い出す。
まぁもし共通の敵がいたとしてもあの世界では皆が協力したとはおもえないが。
「呉越同舟みたいなもんか」
「ゴエツドウシュー?」
エリカ(仮)は首を傾げた。
「故郷の言葉だ。気にするな。あと、魔獣に苦しめられてたって言ってたけど、まさか、俺が襲われてたあのヘドロみたいなやつだけじゃないよな?」
もちろんほかにも種類がいると思っているが、念のため聞いてみる。
もし、あのヘドロだけで苦しめられているならこの世界の人は弱すぎる。(俺も抵抗できていなかったが)
「うん、数えられないくらい種類がいるよ。弱いのから強いのまでピンキリだね。一応強さで種類分けされてるんだけど、1〜10の内、あれはレベル1だね。」
「数が大きいほど強いってことか?」
「うん」
まじかよ、俺はレベル1の敵に殺されかけたのか…。
先が思いやられるな…。
すると、俺が落ち込んでいるのに気づいたのかエリカ(仮)がフォローを入れてくれた。
「いや、でもあれはレベル1でも力だけはとても強いから、いきなり襲われたんだったら仕方ないよ!」
「じゃあなんでレベル1なんだ?」
「水をかければ死ぬからだね」
「そりゃレベル1だな…」
だから池に落ちると消滅したのか。
魔獣にもそれぞれ弱点があるのならそれを知ることがこの世界で生き残るための重要な要素になりそうだ。
ルナが言っていた能力とやらが使えるようになったら、魔獣たちとも戦うことになるだろう。
少しだが気分が高揚している自分がいた。
・ ・ ・ ・ ・
「よし!到着だね。ありがとう。」
エリカ(仮)の声で考え事から戻される。
俺が異世界で無双する妄想をしている間に、目的地に到着していた。
エリカ(仮)は荷台から降りると荷物をまとめ始めた
「私は薬草を職場まで持っていくけど、キョウヤくんはどうするの?」
「俺はまず仕事を探すよ。金が無いと何もできないからな。」
「そっかー。それじゃお別れだね。それじゃまたいつか。」
「そうだな。本当にここまでありがとう。今度会ったならその時までにお礼を出来るようにしておくよ。」
「あははっ。楽しみにしてるね」
俺はさっと、御者台から降りた。しかしその時
グギッッ!
御者台から降りるという経験をしたことがなかったので降りるときに、バランスを崩し、足を捻った。
「いってぇッ!」
「大丈夫!」
「いや、最後の最後でダサいな俺…」
「あはは……とりあえず足見せて?」
ズボンをめくりあげると、足首のあたりが赤くなって腫れている。
「あらら、やっちゃったね。でもこれくらいなら大丈夫」
「?。何が?」
そしてエリカ(仮)は俺の患部に手を添えた。
「何をするんだ?…ッ!」
すると、足からみるみるうちに痛みがなくなっていく。
いつの間にか足の腫れもいつも通りになっている。
一体何が起きたんだ!?
「もしかして君は魔法が使えるのか?」
俺はエリカ(仮)に尋ねる。
エリカは、少し悩むと、
「まあ、そんなところかな。」
といった。
この世界にもやはり魔法はあったか!ということは俺も魔法を使えるようになるのかもしれない(ルナからもらった能力で)
「また、借りが一つできちゃったな。ありがとう。それじゃ今度こそ、さよなら」
「うん、さよなら」
そう言って笑った彼女の顔には、少し、苦痛の色が滲んでいた。
少し心配しつつも、エリカ(仮)に手を振り、俺はその場を去った。
さて、これからどうしたものか。仕事を仲介してくれる場所があればいいんだけど…
俺はぶらぶらと街を歩きながら模索する。
街は中世ヨーロッパのような町並みだ。異世界転生系の王道的な町並みが続いている。
しばらく歩いていると、工事現場を見つけた。家を建てているようだ。それもかなり大きい。
もし、人手が足りていなかったらここで働けば金が稼げる。これはチャンスだ。
「すみませーん」
俺は現場を指揮していた人に話しかけた。
力仕事をしているだけあってガタイがとてもよく、一瞬話しかけるのを躊躇った。
「ん?なんだい兄ちゃん。道でも迷ったか?」
高圧的に話してくるかと思いきや、フランクな感じで少し安心した。
「いえ、仕事を探しているんです。なにか手伝えることはありませんか?」
「そうだな…。資材を運ぶ人員がすこし足りなかったんだ。それならどうだ?」
「はい!やらせてください!」
「給料は日払いでいいか?」
「はい!」
何という幸運だ!こんなにすぐ仕事をできるなんて。工事現場なら元の世界で何度も経験している。力仕事もどんと来いだ。
・ ・ ・ ・ ・
一時間半ほど働いたところで、一旦休憩となった。
レンガをただひたすら運ぶ作業は楽しくなかったが、今は仕事があることに感謝しよう。
とにかく今は生きないといけない。そのためには飯代を稼がないと。
元の世界に戻ることとか、そんなことは後回しだ。
俺がもらった水を飲もうとしたその時、
「あ、あぶなーい!」
という、大声がいま建てている家の上の階の方から聞えた。
何事かと思い、上を見ると壁の部分が崩れだしていた。
そして運悪く、リーダー(俺が声をかけた人)が下にいる。本人は自分の真上とは気づいていないようだ。
助けないと、そう思う前に体が動いていた。
しかし距離が遠い。ここままじゃ間に合わない!
くっそ!間に合え間に合え間に合え、間に合えぇぇぇ!
一瞬、世界がゆっくりになった気がした。
俺はそのままリーダーを、突き飛ばす。
ガラガラガラガラガッシャーン!
後ろでものすごい音がした。
ギリギリ俺も躱すことができようだ。
危なかった…。
すぐに倒れているリーダーに声をかける。
「大丈夫ですか!?」
俺は手を差し伸べた。リーダーは落ちてきたレンガを見て呆気にとられてた
「あぁ、兄ちゃんありがとな。助けてくれなかったら今ごろ、死んで……………え」
リーダーが俺の手を取ろうとして俺の顔を見た瞬間、話が止まった。
顔には怯えの表情が浮かんでいる。
え、俺、そんな怖い顔でもしてたのか?
「スゲえなお前さん!めちゃくちゃ速かったぞ!」
後ろからさっきまで一緒にレンガを運んでいた、長身の男に話しかけられた。
「ありがとうございます」
返事をしようと後ろを振り向くと、
「ぅぅぅぅううわぁぁぁぁああぁ!!!!!」
男は汚い叫び声を上げると腰が抜けたように尻もちをついた。
そして俺を指さしてこう叫んだ。
「ま、ま、ま、魔族だ!魔族がいるぞ!誰か!笛を鳴らせええ!」
複数の箇所からピーーーー!っと甲高い音が聞こえる。
え、俺を魔族と言っているのか!?なんで!?全く訳がわからない!
「魔族!?なんのことですか!」
長身の男に近づこうとすると、
「いやぁぁだァァァ!!来るな来るな来るなぁぁ!」
そしてそのまま半狂乱になり、俺から逃げ出した。
周りを見ると通行人や工事現場にいた人は俺から一目散に逃げ出している。中には俺と目があった瞬間、腰を抜かして倒れてしまう人もいる。
わからないわからない。一体俺が何をしたっていうんだよ!
戸惑っていると、兵隊たちが走ってきた。
そして兵隊たちは抜刀して、俺に剣先を向けるとこう怒鳴った。
「キサマが魔族の者だな!」
さっきの笛は兵隊を呼ぶものだったのか!
「違います!なにかの誤解です!」
「嘘をつけ!顔を見れば一目瞭然だ!」
顔!?何を言っているんだ!!??
「我らの日常を脅かす悪魔め!今成敗する!」
声からとても強い怒りの感情が伝わってくる
「……ッ!クソっ!」
俺は走って逃げ出した。
なんでだよ!俺何もしてないだろ!なんでこんな目に合わなくちゃいけないだよ!
魔族?なんだよそれは!魔獣だけじゃないのか!?
俺はひたすらに走った。
そして一旦兵隊をまくことができた。
裏路地で息を整えていると、横に窓があった。
『顔を見れば一目瞭然だ!』
先程言われたことを思い出す。
そして俺は恐る恐る窓に映る顔を見た。
「は………?なんだよ…これ…」
窓に映った俺の顔は、不思議な模様の入った仮面を被っていた。
俺を殺した化け物についていた仮面に似ている仮面だった。