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バットエンド

一話目なんで普段より長いですが最後まで読んでくださるとありがたいです!

 朝起きて一番にこう思った。


「これからどうしよう」


 俺、冬月暁夜ふゆつききょうやは、高校の合格発表の次の日に絶望していた。

 無論、落ちていたのだ。

 

 母にこのことを話すと 


「あらら~でも大丈夫だよ~、生きてる限りなんとかなるでしょ~」

 

 と言っていた。確かに母の言っていることにも少しは納得できた。極論を言っているように思えるかもしれないがそれは違う。

  なぜなら今は戦時中なのだ。といっても今は少し落ち着いており、敵国と冷戦状態のにらみ合いが続いている。なので一触即発の状況が続いている今では、生きることがまず大切と言われれば頷くことしかできない。

 しかし戦時中は家計が厳しくなっている。父の稼ぎが少ないわけじゃない、むしろ多い方だが会社がブラック企業で戦争の兵器の開発をやらされ、ほとんど家に帰ってこない。

 さらに母は持病のため家事を行うのがやっとだ。

 そんな両親にもう迷惑をかけないためにも、俺は勉強し、自立する必要があったのだ。

 なので猛勉強した。俺はとてもめんどくさがりな性格なので、勉強なども大嫌いだったのだが、死にかけのような様子で帰ってくる父や、食べ物が少なく痩せていく母の姿を黙って見ているだけなんてことは出来なかった。

 それでここまで努力してきたのに、それを全て無駄にしてしまった自分が歯がゆく、そして心底呆れた。ああ、俺は何をやってもうまくいかないな。

 

 そんなことを考えつつ俺は朝食を取るために部屋から出て階段を下りる。

 リビングに入ると机には母が作った朝食が並んでおり、椅子には珍しく帰ってきた父がいた。

「あら、きょうや。おはよう」 

「うん、おはよう母さん…」

 挨拶を返しながら俺は椅子に座った。しかし恥ずかしいのと申し訳ないので顔を合わせることはできなかった。

 朝食を食べ始めたあたりで父が口を開いた。


「おい、暁夜、そういや母さんから聞いたぞ。お前高校落ちたんだって?馬鹿だなー。今時中卒でどうするんだよ~」

「うるさいな、てか父さんも中卒だろ」

「血は争えないってやつだな☆」

「黙れ」

「まあ、そう怒るな。母さんにも言われただろうが今は生きることが重要だ。これからのことは後でも大丈夫だぞ」

「……」


 父の言っていることは正しかったが、心がそれを否定した。このままじゃ俺は何の役にも立たないクズだ。そんなんで大丈夫なわけがない

 俺は黙ってパンを口に突っ込んだ。

 

 するとテレビのニュースから聞いたことのある言葉が聞こえてきた。


『次のニュースです。株式会社Babelでは新たな兵器が完成間近だそうです。この兵器、詳細はほとんど明らかになっていませんが、今までと全く違った平気だそうでで開発部担当の槙島学斗まきしまがくとさんは…』


「なぁ、『Babel』ってが父さんが務めてる会社じゃないのか?」

 俺はパンを食いながら質問する。


「うん、そうだぞ」

「どんな兵器を作っているんだ?」

「いや、それは言えない。あと、言っても信じないと思うぞ。だが完成した暁には必ずこの戦争を終わらすだろう。社長はなぜあんな技術を知っているのだろうか…?開発部にいなかったらこのことも知ることはなかっただろうからある意味ラッキーだったかもな…。」

「ふー-ん」

「おい、自分から聞いたくせに反応薄くないか?」

「いや最後の方独り言になってたじゃん。しかも結局質問に答えてないじゃん」

「あー、確かに」


 もう一度テレビに視線を戻すと太陽光を反射しキラキラと輝いている天をも貫くようなとても高い建物が映っていた。

 父もテレビを見ていたらしく俺に話しかけてきた。


「おっ、会社が映ってるじゃん。『Babel』って名前の由来はここからきてるって知ってたか?」

「そりゃ知ってるさ。世界一高い建物だからだろ」

「まあ有名か。それじゃそろそろ行ってくるぞ。もう今日で完成するかもしれないからがんばってくるな」

 

 父はいつの間にか朝食を食べ終わっており、さっさと行ってしまった。

 その後、俺も食べ終わり食器洗いをしていると、ガチャっとドアを開ける音と息切れした父の声が聞こえてきた。

 何事かと思いすぐに玄関へと向かう


「どうしたんだ?なにか忘れ物か?」

「はぁはぁ…いやそうじゃない伝えておかなくちゃいけないことがあった。今日出かけるのか?」

「そのつもりだけど…?」

「万が一、とても大きな変な音が聞こえた場合すぐに家に帰るんだぞ。あとあまり家から離れすぎるな」

「あ、ああ。わかった」


 父の表情があまりにも真剣でよく聞きもせずに承諾してしまった。


「おし、そんじゃ行ってくる」

「いってらしゃい…」


 俺は父の背中を呆然としながら見送った


 ・ ・ ・ ・ ・


「じゃあ母さん俺もそろそろ行くよ」

「はーい気をつけてね〜」

 

 今日から俺はバイトを探し始めることにした。

 15歳で働ける場所は法律的に問題があるので多くはない。しかし少し前まで戦争が起きていた場所ではまだ復興が進んでいないところが多く、その手伝いを15歳以下でも行い、小遣いを稼ぐということはよくあった。

 あとは犯罪に手を染める子供がほとんどだ。

 まぁ2ヶ月後には普通に働けるんだけど。

 支度してから家を出て、ゴミ捨て場から拾った自転車に跨り、颯爽と風をきる。道の脇には、地球温暖化で開花の早くなった桜が俺をあざ笑うように咲いていた。

 

 現場に到着したが、一歩遅かった。

 子供でも働ける場所は貴重で親を失った子供などがすでにたくさん来ており、既に人手は足りている様子だ。大人たちも皆生活が厳しいのでこれ以上手伝わせてくれないだろう。 

 他の場所も行ってみたが皆同じような状態だった。

 あぁ、もっと早く家を出ていれば良かった…。家にいてもやることもないし、もっといろいろな場所を探してみるか。

 それにしても親のいない子供を放置して、壊れた街の修理もせずに戦争を続けるこの国は腐りきってるな。

 

 その後もいろいろな場所を回っていたらすっかり夜になっていた。バイト先は見つからなかったけど…。

 落ち込みながら街灯の少ない道を進む。ここら辺はあまり都会ではないので車はさっきから一度も見かけなく、とても静かだ。周りに家があまりないので街灯の下以外はほぼ真っ暗だ。間隔が広いので正直めっちゃ怖い

 この夜の一本道は不思議な世界に迷い込んでしまい、何度も同じ道を通っているように錯覚させる。

 その時だった


 ビイイイイイイイイィィィィ!


 耳をつんざくような轟音が夜空に鳴り響いた。

 なにかの警告音のような、それか化け物の断末魔のような音だ。

 慌てて耳を塞ぐがそんなのじゃ防ぎきれない。

 くっ…うるさい…!

 父の言葉を思い出しハッとする。


 『とても大きな変な音が聞こえた場合すぐに家に帰るんだぞ』


 多分これのことだ。

 すっかり忘れていたのでかなり家から離れてしまった。急いで帰らないと!

 20秒ほど経って音が止まったので、急いでペダルをこぐ。

 しかしどこか腑に落ちない点がある。普通あんな大きな音が鳴ったら驚いて騒ぎになっていてもおかしくなのに、家から出てきて様子を見に来ている人などが一人もいない。何か嫌な予感がするな。


 しばらく道を進んでいると、ポツンと街頭の下に佇む影を見つけた。影の髪が長いことから女の子のようだ。

 更に近づいていくと、その女の子の姿がよく見えた

 物凄い美人だった。

 見た感じは自分と同じくらいの年齢で、真っ白で雪のような髪、精巧に作られた人形を思わせるような、白い肌。

 すごい美人な人もいるもんだな、などと思いながら横を通り過ぎると、


「キョウヤ」


 と、突如呼び止められた。

 驚いていったん自転車を止め、振り返ると、さっきの女の子がボロボロと涙をこぼしながらこちらを見ていた。しかし悲しみのような感情は感じられなく、少し笑っているのでうれし泣きをしているように見えた。

 相手はどうやら俺のことをしっているらしいが俺はこの人を知らない。

 

「どうかしまし………」


 女の子に声をかけようとしたその時だった。それが目に映ったのは。


 それは女の子の後ろにいた。

 異形、まさに化け物。

 化け物がさっき俺が通ってきた道の街灯の下に照らされていた。

 軽く2メートルは超えている巨体。見た目はなんの動物とも表せないような形をしている。強いて言えば丸いというくらいだ。石でできているような灰色のゴツゴツしている体からは何本も触手が生えており、その先には刃のようなものがついている。そしてその触手が体を持ち上げていて、他の使っていない触手はだらしなく周りにブラブラと垂らしている。全身に毒の血管のような濃い紫色の模様が張り巡らされており、極めつけには体の正面に大きな白い仮面のようなものがついていた。

 化け物がこちらに向かって来る

 俺は自転車から落ちた。怖い怖い怖い怖い怖い。すぐに逃げ出したいが足が動かない。先程の女の子も同じく化け物のほうを見ていた。

  は、早く逃げないと逃さないと。まずは足止めだ。今はうまく自転車に乗れる自信がない。

 震える足に力を入れ、立ち上がり、こわばる腕を無理矢理動かし、自転車を化け物に力いっぱい投げつけた。幸い投げるのはうまくいき、自転車は真っ直ぐ化け物に飛んでいく。軽いタイプの自転車で本当に良かった。

 だが化け物が少し触手を動かしたように見えた瞬間、自転車は細切れになり儚く地面に転がった。もう、こうなったら走ろう。よくわからないがあの人は何故か突っ立ってるしいい囮になってくれるはずだ。そう俺が逃げるまでのいい囮に…


「ああ、くそ!!」


 俺は女の子の前に立ちふさがる。   


「早く逃げろ!!」


 そう強く女の子に言うと手を大の字に広げしっかりと化け物を見据える。

 あぁ、人助けなんて別に好きじゃないのに、俺が命を捨てる必要なんてないのに、なんでこんなことをしてるんだ。親に恩返しだってしてない。恋人だってできたこともない。まだやったことないこととか、やってみたいことも沢山ある。なのになぜ…。


「ありがとう。また会おうね、キョウヤ」


 えっ。俺は振り返ろうとしたがそれは出来なかった。なぜならもう化け物の触手が俺を貫き、持ち上げていたからだ。体から内臓が抜け落ちていき、下の方からビチャビチャっと音がする。息をしようにも血が喉から溢れ出てきて空気が吸えない。苦しくて叫び声をあげようにも出てくるのは血。

「ヴゥェェェェ、オエッオエッ」

 体内のものがなくなり体が軽くなるのがわかる。辛い辛い辛い痛い痛いぃぃぃぃぃ。

 そして持ち上げられていたはずなのに視界が下に落ちる。首が切り落とされたのだ。その後振り落とされた俺の体が目の前に落ちてくる。

 意識が薄れてい…く……

 もっと早く帰ればよかった…

 

 そして俺、冬月暁夜は死んだ。





気がつくと俺は玉座の階段の前に正座してた。

「ここは…?」

とあたりを見回す。どうやらどこかの部屋にいるらしい

 部屋は黒が多く使われており、紫色の炎のシャンデリアが上に吊るされている。床には細かい模様の入った赤と金の絨毯が引いてあった。壁の近くに立っている鎧は男心をくすぐられるようなとても美しくかっこいい逸品だった。きらびやかというよりは厳かな雰囲気が漂っていてまるで魔王の部屋のようだ。いや、まてよ。


「あれ、俺死んだはずじゃ…?」

「そうじゃ、おぬしはすでに死んでおる」


上から声をかけられた。びっくりして少しバランスを崩してしまったがすぐに立て直し玉座の方を見る。

 そこには180センチを超えているくらい背の高い女の人がいた。顔には目の部分を隠すような黒い仮面をつけている。なので目の部分はよくわからないが口元を見ただけでもとても美人なことがよくわかった。そして黒の中に少し金色の装飾が入っている大人の色気が醸し出されるようなドレスを着ている。しかもその身長に完璧な比率と言っていいスタイルだった。


「貴方は?そしてここはどこですか?」


 俺は恐る恐る聞いた。


「我は…ふむ、なんと名乗ったら良いのか…。名前は特にない。もともと我はただの概念でしかなかったのでな。今の我は前の契約の際にこの体を貰ったに過ぎん。しかし名前がないと不便か…。よし、この体の女が使っていた名前を少し改良しよう。確か如月硝子きさらぎしょうこと名乗っていたの。じゃから…うーーーん」


 5分ほど経ったがブツブツ言っていて思いつく気配がない。いや、名前に限定して聞いたわけじゃないんだけど。でもめっちゃ悩んでるし。そんじゃ俺もちょっと考えようかな。名前のセンスはそんなにないんだけど。


「じゃあ如月の月のところを取って「ルナ」とかどうです?」

お節介だったかな?少し様子を伺っていると


「おお!ルナか!いい名前じゃな。妙に懐かしい気分になるのぅ。ルナ…ルナか!これからはルナ様と呼べ。よく考えた。褒めて使わそう」

 

 めちゃくちゃ上から目線だがめっちゃ気に入ってくれた様子だ。実は俺センスある…?


「2つ目の問に答えよう。ここは夢のようなものじゃ。おぬしの頭の中に無理矢理入り込んでいる。我らは自分の気に入った相手に力を与えることができるのでな」

「え、夢ってことは俺死んでないんですか?」

「うむ、厳密に言うと死んでおらん。その後すぐに蘇生されたからな。しかしおぬしの体は治るまでにとても時間かかるのじゃ。適応せんといけんからな。だから今は仮死状態がずっと続いておる」

 

 状況がうまく読めない。俺はまだ死んでいない?力を与える?てかこの人は何者?さっき適応しないといけないと言っていたが何にだ?あと妙に上から目線だがとりあえずは一旦話を合わせておくか。


「すいません、ルナさん」

「ルナ様じゃ」

「あ、すいませんルナ様。俺は助かるのでしょうか?適応ってなににです?あと力を与えるってどゆことですか?」

「質問が多いの…面倒じゃ」

「すいません…」


いや、全く状況つかめてないんだから仕方ない。


「まあよい。助かるかどうかは今のところはわからん。運次第といったところじゃ。理由はとあるものを使ってお主は今一命を取り留めておいているわけじゃがそれが劇薬でな、それに適応しないと助からないと言うわけじゃ」

「あー、だから適応って言ったんですか」

「そのとおりじゃ」

「ちなみにその劇薬ってのはなんなんですか?」

「すまないがそれは言えん。というか聞いたら危険になるのはお主じゃ」

「は、はぁ」


 なんとも気の抜けた返事をしてしまった。あと知ったら危険になる劇薬ってどういうことだ?先程の態度からいって余程聞いてほしくないことなのだろう。やぶ蛇は避けるべきだ。


「あと、力を与えるってなんです?異能くれるんですか?」

「そうじゃ、異能の力を我は与えることができる」


 いや、まじで異能くれるのかよ


「さらにもし我の力を得るならばお主の復活は確実となる」

 

 ルナは俺を誘うように言った


「え、じゃあ今すぐその力をください!」

 

 もしすぐに生き返ることができるなら早く帰らないといけない。きっと母さんたちも心配しているはずだ。それにもし手に入れた力が役立つものだったら、生活も楽になるかもしれない。


「まて、まだ説明が終わっとらん。せっかちなやつじゃ。けれどその力を得るには代償を貰う。無償の奇跡などないということじゃ」

「…なにが必要なんですか?」


 少し警戒しながら俺は質問した。


「ハッハッハ、そんなに警戒するでない。我の能力は強大な力故、大きな代償を貰う。そして試練を与えよう。全ての道を模索し、仲間とともに運命に抗うのじゃ。お主から貰う代償は…………………



 目が覚めた。ハッと飛び起き周りを確認する。どうやら洞窟の中のようだ。

 なぜ洞窟のいるんだ?俺は町にいたはずだから近くに洞窟なんてないんだけど。俺を蘇生してくれた人がここまで運び込んだのか?何のために?

 


 首を触っても傷跡のようなものはない。化け物に貫かれた腹は服の部分だけ破れていて、体は何もなかったかのように元通りになっていた


 それにしてもさっきは変な夢を見たな。本当に異能が貰えたらよかったんだけど。

 まあそんなことがあり得るわけがない。今まで起きた変なことも夢に決まってる。


「やっと起きた」

「あてっ」


 後ろからチョップされた。誰だよいきなり。てか痛いってことは夢じゃないじゃん…

 振り向くとそこには白い布で顔を隠した女の子がいた。白を基調とした着物のような服を着ている。髪は長く艶のある黒髪だ。多分年齢は同じくらい。


「なにするんだよ」

「起きたか確認したの」

「君は誰?俺を助けてくれたのは君?」

「私はツムギ。着替えはそこ。この後洞窟を出たら大きな都市が見えるからそこに向かって。後は任せる」

「え、噓でしょ。教えてくれ!ここはどこだ?なんで洞窟にいるんだ?俺を助けたのは誰なんだ?その都市に一緒に来てはくれないのか?」


 疑問は次々と出てくる、一体なにが起きているんだ?


「残念だけど、私は今、あなたと関わるべきじゃない。それとこれをつけて」


 ツムギは淡々とした口調で話しながら、ネックレスを取り出した。

 俺は思わず言葉を失った。

 首にかける部分はただの紐でできているようだが、とても美しい宝石のような物がついていた。

 雫型で全く混じりけのない、炎やマグマのような赤色をしており、金の装飾が施されている。

 見蕩れているとツムギが俺の顔の前にずいっとネックレスを突き付けてきた。


「早くして」

「あ、ごめん。でも本当にこれ貰っていいのか?高かったんじゃ…」

「いいから」

「でも…」


 するといい加減しびれを切らしたのか、さっと俺の首にネックレスをかけてきた。


「あ、ちょ…っ…………と…………………」


 意識が薄くなっていく…視界が暗くなって…、何を…された…


 

 

どうやら夢を見ているようだ。

 世界の終わりのような赤い空が見える。あたりには黒い煙が立ち込めている。

 大地には死体が散乱しており、そこを1人の男が歩いている。ほかに生きている人はいないようだ。

 絶望を体現したような世界だ。

 よく見ると俺はその男を知っていた。

 見間違えるわけもない。歩いている男は俺自身だった。




 意識が戻った。いったい何だったんだろう。

 すでにツムギはいなくなってしまったようだ。

 ネックレスは怖いが肌身離さずといっていたから一応外さないでおくか。


「とりあえず着替えろって言ってたっけ」


 服に穴が開いたまま町中を歩くのは流石にまずい。

 俺は先ほどツムギが言っていた服に着替えた。

 しかし何故か服は昔の時代の外国の農家のような格好だった。

 これじゃ、帰るまでに変な目で見られるじゃないか…

 しかし用意してもらったものに文句は言えない。


 そして洞窟を出るために歩く。

 幸いなことに分かれ道などはないようだ。

 まず都市に行く必要があるそうだから、そこでここはどこか聞く必要がありそうだ。

 俺が住んでいたところはまあまあ都会だから近くに洞窟なんてない。

 つまりかなり離れた場所にいる可能性が高いな。

 財布はあるので電車には乗れるだろうが、家まで帰るのに足りるだろうか。


 遂に太陽の光が見えてきた。

 早く外に行きたくて走って出口から飛び出る。


「は????」


 目の前には人の手が全く加えられていないような大自然が広がっていた。あたり一面が芝生だ。奥には森まで見える。

 こんな景色もう日本中どこを探してもないはずだ。


 ツムギは都市が見えるといっていたので、俺はビルの立っている街を想像していたがそうではなかった。

 遠くに見えるのはそびえたつ大きな壁、そしてその壁の内側からはみ出て見えるほど大きな西洋風の城

 そう、城塞都市だ。


 これらことをまとめると考えられる可能性は1つ


「俺、異世界転生したのか?」

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