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第二章Ⅵ

そんなこんなで、私は百瀬川さんと。メイド喫茶の宣伝の為、校内を回ることとなった……。


(百瀬川さんと二人か……申し訳ないが、少し気が重い……)


文化祭準備の時は、同じ調理班であったとはいえ。二人っきりという機会はなく、突然訪れた出来事に私の心は焦り乱れていた。


(どうしよう……何か話した方が良い? でも、何を……あ、この前の――)


“今の貴女とじゃ……恋人に、なれないの?”


(いや……いやいやいやいやっ!! あの時のことを聞く勇気なんて、私には無いっ!!)


「――わぁー! 見て見て!!」


心の中で一人葛藤していると、女の子の声が聞こえてくる。

目を向けると中学生っぽい女子二人組の姿があり、どうやら高校見学に来ていたようであった。


「メッチャ可愛いメイドさんと、メッチャカッコイイ執事さんだ!」

「えっ? あっ、ホントだ! え~、なんかお似合い~! 素敵!」


わっ、私達のことか!?

そっ、そんな!! 百瀬川さんは絶世の可愛さだけど、私なんて――。


「良かったら、一年一組でメイド喫茶やっているので遊びに来て下さい」


一人気恥ずかしさで悶々としていると、百瀬川さんが柔らかな笑みを携えて。女子中学生二人組にチラシを渡しながら声を掛けていた。

百瀬川さんの意外な行動力に驚きつつ、私は自身の責務を思い出し。


「ぜっ、是非来てくれると嬉しいです!」


と、百瀬川さんに続いて何とか二人に言う。


「あっ、はっ、はいっ!」

「あっ、あの! お写真撮っても良いですか!?」


緊張した様子で言う――きっと百瀬川さんが美し過ぎるせいであろう――女子中学生二人。


「あぁ……ごめんね、写真は。お店に来てくれた人とだけ、ってなってって……」


宣伝に出発する時に、銭谷さんに。


“良い? きっと、沢山の人から写真をお願いされるだろうけど。チェキも売りの一つ! 『お店に来てくれた人限定です』って断りや!”


と、標準語と関西弁が適当に混ざった謎言語で釘を刺されてしまっていたのだ。


「そうなんですね!」

「なら、絶対行きます!」


申し訳ない気持ちで断りを入れるが、二人はとても良い子達だったようで。力強くそう言って、チラシを貰ってくれた。


「ありがとう!」

「お待ちしておりますね、お嬢様方」


私がお礼を述べたあとに、百瀬川さんがニッコリと笑みを象りながら言う。

その破壊力は絶大で、女子中学生二人だけでなく。それを目撃した通行人の殆どの人達が、頬を赤く染めながら視線を百瀬川さんに釘付けにしたのだ。

ついでに私も心臓にミサイルをくらったような衝撃を受ける。


「はっ、はひっ!」

「ぜっ、絶対に絶対に行きましゅ!」


あっ、二人共噛んだ。


赤ら顔で去って行く二人に、私と百瀬川さんが手を振って見送っていると。


「あっ、あの……」


おずおずと声を掛けられ、そちらへと振り向いた。


「チラシ、貰っても良いですか!?」

「あっ、あの! 私も行きます! お二人のお店!」

「お写真を取るには、何時くらいに行けば良いでしょうか!?」

「こっちにもチラシ下さい!!」

「あっ、俺にも!!」


大量の群衆が、我先にと私と百瀬川さんにチラシを求めてきており。その光景は、正直かなり恐ろしいものであった。

って、イカンイカン! ビビってる場合じゃない! 百瀬川さんが揉みくちゃにされて、あわや触られたりなんてしないように私がしっかり守らなければ――。


「ご主人様、お嬢様」


私がそう決意を固めた刹那、百瀬川さんが私の前へと一歩出て。


「落ち着いて下さい。チラシは沢山ありますので、順番に。お渡し致しますよ」


優しい口調と微笑みで、そう告げるのであった。

私達に群がっていた人々は、少し冷静さを取り戻したのか。「はい!」と百瀬川さんの言葉に返事をして、その場で自主的に列を作り。落ち着いた様子でチラシを受け取っていく……が。


「絶対、遊びに行きますね!」

「お店行ったら、是非お写真撮らせて下さい!」

「メイドさんすっごく素敵です! お店、楽しみにしています!」


と、皆チラシを受け取ると。口々に一言百瀬川さんに言ってから、彼女と握手をして去って行った。


「……アイドルの握手会?」


その光景に思わず、私はそう言葉を溢してしまう。

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