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エピローグ

「百瀬川さん、あのさ……」

「千子ちゃん、また名字で呼んでる!」


互いの気持ちを伝え合ってから約一月経った頃。私達は、高校二年生に上がる前の春期休暇を送っていた。


「ごっ、ごめん……なんか、まだ慣れなくて……」

「ちゃんと名前で呼び直して!」


少しムッとした様子で、百瀬川さん……じゃなくて。


「姫苺ちゃん……」


が言った。


「うん! 何?」


嬉しそうな表情で、私に顔を近づけてくる百瀬……姫苺ちゃん。

くっ……可愛い!!


「こっ、ここの問題が分からなくて……」


至近距離に戸惑いつつも、私は彼女にそう訊ねた。

今、私は。姫苺ちゃんの家にて、春休みの宿題と格闘していたのだ。


「ああ……ここはね……」


心臓が早鐘を打つ中、ふと。姫苺ちゃんの唇に、先程食べたお菓子の欠片がついているのを発見する。


「あっ、姫苺ちゃん」


口、チョコついてるよ……と、そう言うつもりだった。

なのに、私に呼ばれて振り返った姫苺ちゃんの不思議そうな表情を見たら。彼女の唇に、私は思わず自分のそれを重ねていた。


――あっ、この味……。


微かに触れてしまった舌先は、私に懐かしい味わいを伝達する。

自分で作ってみても再現出来ず、三田村さんの手作りお菓子でも再び味わうことの叶わなかったあの味――私のファーストキス、世界で一番のラズベリーとチョコレートの味は。ずっと、こんな所にあったのだ。

ようやく見つけた、恋焦がれてしまっていた味わいに。私は暫く、彼女の唇から離れることが出来なかった。

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