表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/30

最終章Ⅰ

クリスマスからあっという間に時は経ち。私は慌ただしく年末を迎え、新年をコタツでごろごろと過ごしている内に。冬休みは終わりを迎え、新学期が始まってしまった。


“千子ちゃんが、好き”


その間、私はずっと。毎日、毎時間。百瀬川さんの事を考えていた。百瀬川さんが言った、あの言葉のことを……。

けれど、今だに。どうしたら良いのか……という答えを見つけられずにいたのだ。

それは新学期が始まってからもずっと変わらず、百瀬川さんの顔を見ると。あの時、勝手に聞いてしまった言葉が脳裏に過り。上手く話せなくなってしまっていた。

折角、クリスマス両日を一緒に過ごして。また、仲良くなれたと思ったのに……。


「――あっいーだちゃーん!」


憂鬱な気持ちで、全く頭に入っていなかった午前の授業を終えた私に。銭谷さんが陽気に声を掛けてくる。


「銭谷さん? どうしたの?」

「あんなあんな! 今日、天気良いし。一緒に屋上でお弁当、食べへん?」


それは、初めての予想外のお誘いであった。

けれどまあ、断る理由も特に無いか……と思い。私は普段、一緒に昼食を食べる友人に断ってから。銭谷さんと屋上へ上がる。


「合田ちゃん、百瀬川さんと何かあった?」


そして、屋上でお弁当を広げた瞬間に訊ねられた質問に。


「へっ!?」


私は思わず、変な声を出してしまった。


「なっ、何でっ!?」


慌ててそう返すと、銭谷さんは紙パックのジュースをちゅーっと吸ってから。


「ん~、まぁ。普通に、二人の様子が休み明けからぎこちないな~って。見てて分かるから?」


と、何てことない表情で言う。


「いや……別に、何かあったってワケでは――」

「百瀬川さんに告られたん?」


言葉を濁しながら、誤魔化すように飲み始めたお茶を。私は盛大に噴き出した。


「なっ、な……なっ!?」


もう思考と語彙力が追い付かず、ただただ驚愕の表情を銭谷さんへ向けると。


「まあ、こういうのは。第三者が口出すことやないから、何も言わないでおこう~って思っとったんやけど。百瀬川さんの合田ちゃんへの態度、あからさま過ぎてバレバレやもん~」


そう、苦笑しながら告げた。


「……銭谷さん、気が付いてたんだ」

「私以外にも、何人か気づいてると思うよ」

「うっ……」

「アッハッハッハ! まあまあ、合田ちゃんの気持ちやないんやし!」


いや、それでもなんか恥ずかしいって……。


「不躾だし、デリカシー無いな~って。自分でも思うけどさ……良かったら、私で良ければやけど。話し聞くで?」


銭谷さんは、普段携えている笑みを少し引っ込めて。


「合田ちゃん、最近。悩んでるんでしょ?」


と、優しい言葉を送ってくれた。

彼女はただ、私を心配して声を掛けてくれたのだ。銭谷さんとは、まだ。仲良くなってそんなに日が経っていないのに、最近ずっと上の空だった私の事を気に掛けてくれた……そう気が付いたら、私の胸に。じんわりと嬉しい気持ちが広がっていく。

文化祭の時もそうであったが、銭谷さんはマイペースな風を装いながらも周囲を凄く良く見ているなぁ。相変わらず、関西弁と標準語が混ざっているのが凄く気になるが。


「……本当に、何かあったってワケじゃ無いんだ。だから、告白もされてはなくって」


ただ、私が勝手に盗み聞きしてしまった事に。勝手に一人で悩んでるだけで……。


「百瀬川さんの気持ちは、私も気が付いてて……それで、自分の中で。どうしたら良いのか……とか、色々考えてるんだけど……」


銭谷さんには申し訳ないと思いつつ、百瀬川さんが私の居ない所で「好き」と言っていた事実は伏せて。私はそう吐露した。


「成程なぁ~……でも、告られてないなら。今すぐ答えを出さんでも良いんじゃない?」

「まあ、そうだけど……でも、気持ちの覚悟が欲しいっていうか……」

「けど、答えは出てへんのやろ? 合田ちゃんの中で」

「うっ……」


まあ、そうだけど……。


「けど……百瀬川さんの気持ちは多分、真剣だと思うから……私も、真剣に向き合って応えたいっていうか……」


否応、どちらにしろ。百瀬川さんの想いをないがしろにするような答えを、彼女に向けたくなど無いのだ。


「合田ちゃん。もう、充分真剣に向き合ってると思うで」


すると、銭谷さんは。何気ない様子でそう告げた。

私は驚きながら、無言で彼女の顔を見上げる。


「そんな難しそうな顔で、毎日毎日悩んでるんでしょ?」

「まぁ……そう、だけど……」


でも……。


「でも……ずっと悩んでる癖に、全然。答えが出せなくて……」

「別に、“答えが出ない”って答えを出したってええんちゃう?」


銭谷さんは、再び私のことを驚かせた。


「えっ……でも……」

「別に、白黒はっきりさせるだけが答えやないやん! 世の中には、グレーもあるし。白にも黒にも、仰山ぎょうさん種類があるんやで!」


いや、確かにそうかもだけど……。


「けど、それじゃあ……百瀬川さんに悪いし……」

「合田ちゃん」


いつもよりはっきりと、銭谷さんは私の名を呼んだ。


「合田ちゃん、さっきからずーっと。百瀬川さんの事ばっか気にしてるけど、合田ちゃんの気持ちはどうなの?」


えっ……私の、気持ち?


「一番大事なのは、自分の気持ちだよ。“百瀬川さんの為にどうしたいか”じゃなくて。合田ちゃんが、百瀬川さんとどうなりたい?」


私が、百瀬川さんと……。


「合田ちゃんはさ、他人に気を遣い過ぎなんだよ。文化祭の時も、女子達に気ィ遣って一人だけ執事の衣装引き受けちゃうし」

「えっ、いや。別に、アレは……私、メイド服似合わないから全然良かったし……てか、それ。銭谷さんには言われたくないし!」


成功を収めた文化祭で、一人泥を被ったのは誰だったと?


「私は、こう見えて好き勝手しとるで? 自分のやりたい事は我慢しないし」


そっ、そうなんだ……。


「合田ちゃんも、もっと我儘になってええんちゃう? 欲しいものとか、やりたい事とか。他人の事なんて気にせんで、自分がやりたいことやって――」


それから、銭谷さんは満面の笑顔を私へと向けて。


「後で、いっぱい恥ずかしがって後悔したらええやん! 私で良かったら、愚痴も懺悔も付き合うからさ!」


そう、明るく言ってくれたのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ