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第四章Ⅲ

「クソ……また、最下位かよ」

「兄貴は毎年、意地の悪いブービートラップ仕掛けるのに気を取られ過ぎなんだよ」

「ああー……一位はまたみつる兄か……」

「フフッ、今年は七斗。去年の雪辱を貴様に晴らせただけで、私は満足だ!」

「へーへー、そうですか。そりゃあ、良かったですね~」

「千子ちゃん、すっごくカッコ良かったよ」


それから、数ゲーム遊んだ後。メインイベントである、クリスマスプレゼントを巡った壮絶なレースバトルを展開し。一位を十兄ちゃん、二位を私。三位を七斗、四位にはじめ兄ちゃんという順位で決着と相成った。


「つーか、俺と十は毎年順位変わんな過ぎだろー……」

「それは一兄ちゃんが成長してないだけだって」

「てか、もう今年。俺は兄貴と買うプレゼント交代した。さすがに、毎年同じような物になってきてたからな」

「去年の一兄ちゃんの五百円プレゼント、変な音の鳴る玩具だったしね」

「他の人への嫌がらせで選んだプレゼント。結局一兄、自分で貰ってたもんな」

「あ~!! 去年の話はすんじゃねえ!! ……ったく、今年は絶対勝てると思ったんだけどな~」


項垂れる一兄ちゃんを皆でスルーし、私達は自分達が勝ち取ったプレゼントを開封し始める。


「十兄ちゃん、一位のプレゼントなんだった?」

「兄貴の好きなブランドのTシャツ」

「十兄ちゃんの喜ぶ物買えよ……」

「私欲にまみれてんな……」

「クソ、俺が貰う予定だったのに……」

「そういう所がダメなんだって……」


そして、ついでにモテないんだって……と、いう台詞は。胸の中で呟く。


「一兄ちゃんは? 十兄ちゃんセレクトプレゼント何だった?」


私に訊ねられて、一兄ちゃんはゴソゴソと自分の貰ったプレゼントを開封。


「おっ! ドリンクボトル!」


包装から現れたのは、深い青色のドリンクボトルであった。


「丁度欲しいと思ってたんだよ!」

「だと思ってコレにしたんだよ。まあ、五百円だからあんまり良いのじゃないけど」

「いやいや! 全然充分だわ!」


流石は十兄ちゃん、ちゃんと一兄ちゃんが喜びそうなプレゼントを選んでたんだ。

てか、十兄ちゃん……一兄ちゃんが今年も最下位になる確信あったんだな……。


「千子ちゃん何だった?」


兄達の様子を何となく眺めていると、百瀬川さんからそう尋ねられる。


「あっ、何だろう? まあ、七斗のチョイスだからあんま期待出来ないけど……」

「オイ、聞こえてんぞ」


私の千二百円ちゃんは……と。


「ぬぉぉぉおおおお!! コレは……」


現れたのは、私の好きな女性アイドルシンガーの新譜。


「七斗様ぁぁぁああああ!!」

「……現金だな、お前」


呆れた様子で七斗が言う。


「ったく……そのCD、俺が勝ち取ろうと思ってたのによう」

「仕方ないな~、貸してやるよ!」

「偉そうだな、オイ」


などと笑い合ってふざけ合っていると。


「千子ちゃん」


百瀬川さんから名前を呼ばれる。


「ん? どうしたの、百瀬川さん?」

「千子ちゃん、その娘のこと好きなの?」


どこか冷淡な様子で訊ねられ、私は内心戸惑いつつも。


「きょっ、曲がね! なんかこう、熱いものを感じるというか……この娘も、キャピキャピ系っていうよりも。根性系アイドルって感じで、可愛くて好き! って感じより、何か純粋に応援したくなるっていうか……」


そう弁明をした。

いや、何で私、そんな言い訳染みたこと言ってんだ!?


「ふーん……そうなんだ」


そして、何で百瀬川さんはちょっと不機嫌になってるんだ!?


「さ~てと、千子は俺に何寄越してくれたんだ?」


私が百瀬川さんの冷たい眼差しに冷や汗を掻いている横で、七斗はマイペースにプレゼントの包装を開け始めた。


「おっ、靴下だ」

「いや、まあ……無難なところをいきました」


どの男共に当たっても大丈夫なように……あと、自分に当たっても大丈夫なように。地味な色合いの三足セット、クリスマス年末セール価格。


「千子にしては悪くねーじゃん」

「どういう意味だ、オイ」

「はぁ? お前の去年のプレゼント――」

「ああー!! やめろやめろぉぉぉぉぉ!!」


黒歴史を紐解くんじゃない!!


「千子ちゃん、去年は何を送ったの?」

「百瀬川さんは知らなくて良い代物だよ!!」

「えっ、何それ? 余計に気になる」

「そっ、そんな過ぎ去ったことよりも!」


はい! と、私は慌てて話しを逸らそうと。百瀬川さんに、クリスマスデザインのイラストが描かれたラッピング袋を渡す。


「百瀬川さんの、クリスマスプレゼント!」


ずいっと渡すと、百瀬川さんは戸惑いつつも受け取ってくれて。大事そうに、開封し始める。


「! これ……」


私が百瀬川さんに送ったのは、べっ甲のような質感の艶めく白い大きめなバンスクリップであった。全体的にはシンプルなデザインの物なのだが、さりげなくピンクのストーンが嵌め込まれていて可愛らしい印象を与えている。

本当は、画材道具とかにしようかと思ったのだが。昨晩、事前にネットで色々と調べてみても素人の私には何を送ったら良いのか全く見当が付かず。無難にちょっとしたアクセにしようかな……と、百瀬川さんと合流する前に駅地下にあるショップへと足を運んだのだ。

その時に、私がグラウンドから見かける美術室での百瀬川さんは。いつも、さらりと流している長い黒髪を、しっかりヘアゴムで一つに纏め。真剣な眼差しでキャンバスに向き合っている姿を思い出したのだ。


(なので、これなら実用的かな……と)


それに、このバンスクリップは。百瀬川さんに良く似合うのではないか……と、いう。私の勝手な趣向と自己満のような感情も混ざっていた。


「わっ、私ばっかり……貰って、悪いよ……!」

「きっ、気にしないで! 私が勝手にやってることだから!」


百瀬川さんは、私から行動を起こしたことには遠慮してばっかりだな……そんな気を遣って、恐縮しないで欲しい……私は、ただ――。


「もし……迷惑じゃなかったら。貰ってくれると、嬉しい……です」


百瀬川さんに、喜んで欲しいだけだから……。

そう言うと、百瀬川さんは一瞬驚いた表情をしてから。


「ありがとう、千子ちゃん……なんか、嬉しくて。幸せ過ぎて、怖いくらい」


と、ハニカミながら告げてくれた。

そうして、何とかプレゼント交換を終えた私達は。私が作ったケーキと、百瀬川さんが持ってきてくれたケーキを切り分けて堪能し始める。


「千子ちゃんのケーキ美味しい~!」

「あっ、ありがとう……百瀬川さんのケーキも美味しい! これ、三田村さんの?」

「うん。昨日、千子ちゃんのお家に持って行って、って。作ってくれたの」


三田村さんが作ってくれたのは、バニラがほのかに香るケーキスポンジに。さっぱりとした甘さの生クリームが塗られ、苺やチョコレートでサンタの顔が描かれており。美味しいだけではなく、デザインもとても凝った可愛いホールケーキであった。

なので、切り分ける前に沢山写真を撮りまくったし。入刀には相当の覚悟を包丁に乗せた。


「その三田村さんって方にも、お礼言っといて貰えるかな?」

「いや~! こんな可愛い子が来てくれた上に、こんな美味しいケーキが食べれるなんて。今年のクリスマスは感謝しかないな!」


優しく百瀬川さんに声を掛ける十兄ちゃんと、調子の良いことを言う一兄ちゃん。

やっぱ、当分は一兄ちゃんに彼女出来なさそうだな……と、勝手に思う。


「私からも、三田村さんにお礼お願いします」

「うん。きっと喜ぶよ。千子ちゃんのはチョコレートケーキ?」

「ああ、うん……ザッハトルテ風チョコレートケーキ」


今年私が作ったクリスマスケーキは、本格的なザッハトルテじゃなくて。かなり簡易的なレシピの代物である。


「すっごく美味しい! だから、中にアプリコットジャム入ってるんだね!」

「うん、そう! 良く分かったね!」

「お前、毎年なんだかんだ凝ったケーキ作るよな?」


七斗がケーキを口に運ぶ傍ら。


「去年は何だっけ? 木みたいなヤツ」


と、言い。


「ああ、多分それ。ブッシュドノエルじゃないかな? 大葉君」


私が答える前に、百瀬川さんが正解を回答。


「折角、千子ちゃんが作ってくれたケーキを食べたっていうのに。名前も憶えられないなんて、失礼だと思うけど?」

「小難しい名前は憶えらんねーんだよ」


再び、二人の視線が鋭くぶつかり合う。

そっ、そろそろ少しは仲良くなっても良いのではないだろうか……と、いう願いを口にする勇気は私には無く。疑問を浮かべて二人の雰囲気に萎縮しながら、私は三田村さんお手製のケーキを口へと運ぶのであった。

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