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第四章Ⅱ

「それでは、チキンも食べ終わったところで! 合田家恒例、レースゲーム大会を開催するぞー!!」


壮絶なチキン争奪戦を終え、満腹になった私達の次の催しは。毎年、四人で対戦プレイをしているテレビゲームであった。


「レースゲーム?」


先程まで展開されていた、仁義無きチキン戦争に目を丸くしていた百瀬川さんが不思議そうに私に訊ねる。

ちなみに、百瀬川さんは私や兄達と七斗よりも小食であったため。争いには殆ど参加せずに、前もって配膳されたチキンやポテトで充分だったようだ。というか寧ろ、油とカロリーの化け物を食べ過ぎたようで少し苦しそうであった。


「合田家クリパの恒例行事でね、レースゲームをして順位を決めて。貰えるクリスマスプレゼントのランクを決めるんだ」


私、兄達、七斗が千円ずつ出し合って。合計四千円から、大体「千五百円」「千二百円」「八百円」「五百円」の値段のプレゼントを用意し。一位から順に、高価なプレゼントを貰えるというゲームを私達は毎年行っている。


「各値段のプレゼントは、前回の金額の物を貰った人が。次の年のプレゼントを選ぶようにしてるんだ」


昨年度、私は三位。なので、今年は八百円のプレゼントを選出、購入した。

そして千五百円のプレゼントを用意したのは、センス抜群のみつる兄ちゃん。これは、負けられない戦いなのだ!


「まっ、待って! 千子ちゃん!」


静かに闘志を燃やしていると、百瀬川さんが慌てた様子で声を掛ける。


「わっ、私……プレゼント、用意してなくって……それに、テレビゲーム……やった事、なくて……」


申し訳なさそうに告げる百瀬川さんに、私は「何だ、そんなことか」と思いながら。


「百瀬川さんの景品は、私が百瀬川さんを迎えに行った時に買っといたから」


と、言った。

昨日突然誘ったのは私なので、それくらいの配慮はちゃんと考えている。


「まあ、慌てて買っちゃったから。全然大した物じゃ無いんだけど……」

「そっ、そんな悪いよ!! 私、昨日も千子ちゃんからブレスレットプレゼントして貰ったのに……」

「あっ、アレはアレだよ!!」

「でも……」


お互いに、気を遣い過ぎて困惑し合っていると。


「百瀬川さん、気にしなくて良いよ。百瀬川さんからは、ケーキを差し入れして貰ったんだし」

「そうそう! 百瀬川さんの持ってきてくれたケーキを、千子が半分食えば丁度清算出来るっしょ!」


十兄ちゃんとはじめ兄ちゃんが言った。


「おい、本当に食うぞ。良いのか?」


私は調子の良い事を言う一兄ちゃんに、強めの口調で言い返す。


「おお! 食えるもんなら食ってみろ!」

「いや、一兄。コイツはマジで食うぞ」


一兄ちゃんの言葉に、今度は七斗が冷静に告げる。


「良いって別に。百瀬川さんのケーキもゼッテー食うけど、ウチには千子の作ったケーキもあるからな!」

「えっ、千子ちゃんの手作りケーキ!?」


一兄ちゃんの台詞に、百瀬川さんが突然反応を示す。


「ああ。ケーキは毎年、千子が作ってくれてんだ!」

「あっ、でも。こっちは父さんと母さんの分も残しとかないとね」

「今年も仕事なんスよね?」

「うん。夜には帰ってくるけどね」


そういえば、両親のこと。百瀬川さんにちゃんと伝えてなかったな。


「あっ、ウチの両親も毎年殆どイヴもクリスマスも仕事でね。夜二人が帰って来てから夕食の時に、また改めてクリスマスパーティーしてるんだ!」

「そうだったんだ……」


まあ、私のところは。兄貴達も居て、七斗も居るから寂しいとは全然無縁の……それどころか、うるさくて仕方の無いクリスマスが毎年訪れているのだが。


「とにかく! 百瀬川さんは、何も気にしないで楽しんで!」


折角来て貰ったんだから、楽しかった。来て良かった……って、思って欲しいもん!


「千子ちゃん……」


ありがとう……百瀬川さんは、そっとそう告げて。私へと柔らかく微笑んだ。

くっ……不意打ちで来られると、心臓の鼓動が狂ってしまう……。


「あっ、ゲームだけど。最初は私が操作方法教えるから安心して」


それから、私達はまず。肩慣らしに、勝負無しでのレースゲームを始めるのであった。


「あっ、百瀬川さん。アクセルのボタンはそれで……」

「あっ! カーブする時はね……」

「あぁ! そのコースの時は……」

「あああああ!! コース外れてる!! 戻って戻って!! あっ、戻り方は……」


と、まあ。ゲーム初心者……しかもゲーム機自体に初めて触る百瀬川さんの操作指南は、思ったよりもずっと困難を極めたが。


「えっ? えっ!? どっ、どこ!? Rボタン? うっ、上? えっ、待って!! えっ……えーっ!!!?」


初めて触るコントローラーに、悪戦苦闘する百瀬川さんの姿は。とっても無邪気で、どこか楽しそうで……それだけで、何かもう。私まで、楽しく満ち足りた気持ちとなってしまうのであった。

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