第三章Ⅴ
「千子ちゃん、お金払うよ!」
「良いよ。ブレスレット代とチケット代が同じくらいだったから、それでプラマイゼロってことでさ」
「でも!」
お土産を買い終わった私達は、会場の外へと移動していた。
そして、百瀬川さんは私が二人分のブレスレット代を出したのに納得がいかないようで。執拗にお金を渡そうとしていたのだ。
自分もチケ代、頑として受け取らなかったのに……。
「もう……じゃあ、ブレスレット代受け取る代わりに。私の分のチケ代、受け取ってくれる?」
「それは……」
ほら……てか、なんでそんなに嫌なんだ?
「まあまあ、ええやん!」
すると、私と百瀬川さんの間に。銭谷さんが入って来る。
「そんなに揉めんでも、チケットは百瀬川さんからのクリスマスプレゼント。ブレスレットは、合田ちゃんからのクリスマスプレゼントってことにしておき!」
銭谷さんにそう言われ。
「私は、それでお願いしたいけど……」
と、百瀬川さんを見る。彼女は、先程買ったブレスレットを両手で大事に包み込むように抱き締めて。
「千子ちゃんからの……」
微かな声で呟いた。
その声と表情に、心臓が大きく跳ねる。
「うん……分かった。千子ちゃん」
ようやく了承してくれた百瀬川さんは、私の名を呼ぶと。
「ありがとう……」
頬に少し紅を差し込ませながら告げるのだった。
いや! きっと、外が寒いからだ!! きっと、そうだ!!
「ううん! わっ、私も! チケットありがとう! あと、誘ってくれて本当に嬉しかった!」
慌ててそう返し、自分の鼓動を誤魔化す。
「なあなあ! 皆この後どうする!?」
すると、和八の元気な声が響いてくる。
「良かったらさ! このまま、皆でご飯――」
「すまんな。私と副委員長ちゃんは、この後。スイーツバイキングやねん」
「今日のメインイベント」
和八の提案を遮って、銭谷さんと副委員長が言う。
「そっ、そっか……じゃっ、じゃあ。上原君達は――」
と、萎んだ様子で和八が上原を振り返るが。
「ああー!! あー!! 上原は、この後はダメだよな!」
七斗が和八の首を絞め、大袈裟な声を出して遮った。
ナイス、七斗!
「そっ、そうだね! あんまり和八と関わり持ちすぎるとバカが伝染るし、そろそろ別行動のが良いよ!」
私も便乗してそう言うと、くぐもった「千子……ひでぇー……」という和八の声が聞こえてきた。私は聞こえなかったことにした。
「いや、まあ。正直、この後の予定は特に決めてねーんだけど……」
戸惑った様子で言う上原に、今度は銭谷さんが。
「そんなら、途中まで私らと一緒に行こうや!」
と、明るい声で提案した。
「確か、私と副委員長ちゃんが行く店。他にも食べ物屋さん仰山あったで!」
「ええ。美味しそうなスイーツも、オシャレなレストランも選り取り見取りよ」
言いながら、銭谷さんと副委員長は。
「ちょっ、ちょっと!?」
「押すなよな!?」
一緒になって、上原と高石さんをグイグイと引っ張ったり押したりし始め。
「さあ、“膳”は急げや!」
「美味しい物達は、待っていてはくれないわ」
「ほなな! 合田ちゃん、百瀬川さん!」
「また学校かどこかで」
と、さっさと去って行くのであった。
いや、でも。二人ともナイスフォロー! こうでもしないと、上原と高石さん。この後、二人っきりでイブ過ごさなそうだしね……。
「さてと……俺達はどうする?」
七斗がふいに、そう訊ねる。
そういえば、この後の予定は私達も特に決めてなかったなぁ。
「百瀬川さん、どこか行きたい所ある?」
「あっ、えっと――」
「せっかくだからさ! このままダブルデートしようよー!」
再び和八の声が響く。
私と七斗の冷めた視線が、和八へと向けられた。
「ちょっ、ちょっと!? なんで、二人してそんな目で見るの!?」
「お前、そんなんだからモテねーんだよ」
「ヒドイっっっ!!」
「和八、ハウス」
「千子に至っては犬扱い!?」
和八を大人しくさせてから、私は再び百瀬川さんを振り返る。
「で、百瀬川さん。どこか行きたいところある?」
すると、百瀬川さんは「あの……」と少し口籠ってから。
「私……そろそろ、帰らないといけなくて……」
と、申し訳なさそうに告げた。
「夕飯は、今日。パパ達とする約束だから……」
「あ、そうなんだ」
まあ、お嬢様だし。門限とかもあるよね。
「なんだぁ~……百瀬川さんはこの後ダメなのか~……」
「まず、俺達とこの後も一緒に行動することすらオッケーしてねーけどな」
落ち込む和八に、七斗が冷静に告げる。
「なら、千子だけでも飯食ってこーよ! 今日は飲み明かしたい気分なんだ!」
「いや、私達未成年……」
「ドリンクバーを!」
「ドリンクバーかよ! 店に迷惑掛ける飲み方はやめとけよ?」
まあ、特に今日はこの後。何かしたいとかもないし、百瀬川さんが帰るなら。七斗達とご飯食べてっても――。
「ま――待って!」
そう考えていた刹那、百瀬川さんの声が。私を呼び止めた。
その声は、何故か。どこか必死で……。
「千子ちゃん、あの……」
少し泣きそうな危うさを感じてしまい。
「家に……この後、私の家に来ませんかっ!?」
きっと、このお誘いを。私は拒否など出来ないのだろう……と、少し他人事のように思うのであった。




