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第三章Ⅳ


「じゃあ、副委員長は。委員長に誘われたスイーツバイキングのついでに、アクアリウムに一緒に行く約束をしてたけど……」

「委員長が多分、張り切り過ぎて熱出してな。『代わりに行ってくれ~』って、私に連絡してきてん」

「委員長と銭谷さん、仲良いの?」

「いんや、中学が一緒なだけ。アイツ、中学の修学旅行もそんな感じで欠席しとったなぁ~。卒アルの修学旅行の集合写真、一人だけ丸枠になってたわ」


笑いながら言う銭谷さんだが、私はあまり笑う気にはなれなくて。


「委員長、ご愁傷様です……」


と、心から言った。


「てか、委員長が副委員長をねぇ~。ちょっと意外」

「そう? アイツ単純やから、長い事一緒に行動しとる女子にコロっと惚れたんじゃん?」

「恋愛ってそんなもん?」

「案外、ドラマや漫画とかと違って。現実では深い理由なんて無いもんやで。惚れた腫れたには」


そんなものなのか……と、思いながら。私は自身の右腕にしがみ付く百瀬川さんにチラリと視線を向けた。


「そんなくっ付いて、歩きにくくないん?」

「全然大丈夫」


銭谷さんの質問に、百瀬川さんがきっぱりと答える。


「合田ちゃんは?」

「あー、うん……百瀬川さんが歩調合せてくれてるから、平気……」


歩き難さはないんだけど、百瀬川さん近くて……しかも、公衆と皆の前で堂々と腕掴んできてるからちょっと恥ずかしいけど……。


「仲良しやな~、二人共」


朗らかに笑いながらそう言ってくれた銭谷さんの言葉に、私はホッと安堵して少し気持ちが楽になる。


「まあ、それよりも。合田ちゃん的には、あっちの二人の方が衝撃やったんちゃう?」


言いながら、銭谷さんは私達の前方にて。七斗と話す上原と、和八に絡まれて心底鬱陶しそうな表情をする高石さんを示唆した。


「つまり……高石さんの好きな人は――」


上原だったって、事だよね?


「えっ、千子ちゃん気が付いてなかったの?」


すると、百瀬川さんから驚きの声が上がる。

ん?


「当の本人達以外、バレバレよ」


続いて、副委員長が冷静な声音で告げた。

って、えっ……。


「百瀬川さんも副委員長も、気が付いてたの……」


私が尋ねると、二人は同時に頷いた。

マジか……。


「てか、多分。ウチのクラスで気が付いてない女子、合田ちゃんだけちゃう?」


銭谷さんにトドメを刺され、私は心を撃沈させる。

そっ、そうだったんだ……。


「でも、まだ付き合ってるわけじゃなくて。『友達と行く予定だったチケットを無駄にしたくないから、暇そうな上原を誘ってあげた』ってこじつけて無理矢理一緒に行くって、高石ちゃんも難儀な娘やな~」

「どうでも良い事はズケズケ言うのにね」

「おっ、百瀬川さん言うやん! さっすが、勝手にライバル認定されて突っかかられてただけあるわ~」


楽しそうに言う銭谷さんに。


「……それって、関係あるのかな?」


と、私は呟いた。

それから、私達は何となくそのまま八人でアクアリウム内を周る……とは言っても、順路の決まっている中を行くので。どうしても必然的に、団体行動みたいになってしまっているだけだった。


「千子、お前。随分と百瀬川に懐かれてんじゃん!」


七斗が揶揄うように私に言う。

咄嗟にどう返したら良いか分からず、私が少し黙ってしまっていると。


「懐くだなんて、大葉君じゃあるまいし。私と千子ちゃんは、昔からずっと仲が良いだけよ」


そう、百瀬川さんが言った。妙に威圧感のある様子で。


「そうだったか? 中学の時は、千子と一緒に居るの見た事ねーけど?」


すると、何故か七斗がムキになった口調で百瀬川さんに返す。

いや、何で?


「中学の時は、三年間クラスが一緒にならなかったから……」

「ああ、そうか。百瀬川は()()()()()。千子と同じクラスに三年間ずっと()()()()()()のか。俺は逆に、三年間ずっとコイツと一緒だったからな~。修学旅行も林間学校も一緒の班だったっけ」

「へぇ~、それは羨ましい~。けど、残念。今は私が千子ちゃんと同じクラスで、大葉君は別のクラスだからね~」


百瀬川さんと七斗が、私を間に挟んで。なんか良く分からないけど、険悪な雰囲気を醸し出す。

いや、ホントに何でだっっっ!!


  * * *


「なんやなんや! おもろい光景見れてラッキーやな~!」


合田達の様子を眺めながら、銭谷が笑っている隣にて。副委員長は無言で、合田達三人をスマホで撮影する。


「百瀬川さんがあんなに話してるの、初めて見た~」


和八が驚いた様子で言うと。


「この間の文化祭の頃は、結構喋ってたけどな。まあ、あそこまでじゃねーけど」


上原がそう返す。


「けど、百瀬川さんって。女子ともあんまり関わんねーから、合田に引っ付いてるのスゲー意外!」

「中学の頃は、千子と全然関わり合ってる感じ無かったけどな~。あっ、でも。あの二人、小学校の頃は良く一緒に居たわ!」

「へぇー、そうなのか?」


上原と和八が盛り上がる横で。高石は二人の会話を聞きながら、合田達へと静かに視線を向けているのだった。


  * * *


それから私達は順路に従い、芸術的なアクアリウムを満喫した。

百瀬川さんと二人で見るのも楽しかったが、大人数で少しふざけ合いながら盛り上がって見たり、写真を撮るのも正直とても楽しかったので。和八達と遭遇した時には、どう関わりを絶とうかと考えを巡らせたが。今となっては結果オーライである。


「おっ! お土産コーナーだ!」

「お菓子ある?」

「副委員長ちゃん……ホンマ、食いモンのことばっかりやな……」


和八を筆頭に、副委員長と銭谷さんが商品の沢山陳列されたエリアへと入っていく。


「高石」


すると、上原が高石さんに声を掛けているのが聞こえてくる。


「なんか買ってくか? 折角だから、記念に」


そう上原が高石さんに告げると、彼女の顔にほんのり赤みが差したのを目撃してしまう。


「えっ、べっ……別に、そんなの……」

「クリスマスだし、なんか買ってやるよ」


高石さんが困惑したまま、いつもの口調で返答をしようとしていると。上原が続けてそう言い、彼女は「へっ!?」と完全にペースを崩壊させられていた。


「おっ、奢りなら! 買って貰ってあげなくもないわよっっっ!!」

「お前、奢られる側の癖になんで偉そうなんだよ……」


呆れた口調ながらも、上原と高石さんは連れだってお土産の品定めに歩みを進め始める。


「千子ちゃん、何か見る?」

「千子、何か見るか?」


ほぼ同じくらいのタイミングで、百瀬川さんと七斗が私を振り返って訊ねた。


「うっ、うん……そうだね。家族のお土産でも……」


私が気まずげに言うと。


「私もパパと三田村さんにお土産買っていこうかと思ってて! 千子ちゃん、一緒に見ましょう!」

「兄貴達のお土産だったら、俺も選ぶの手伝うぜ」


そう言ってから、二人は何故か睨み合う。

だから何で!? 二人って、こんな仲悪かったっけ? まあ、七斗は昔。百瀬川さんに意地悪してたから、百瀬川さんに嫌われてても仕方ないだろうけど……七斗は何? 寧ろ、百瀬川さんのこと好きだったんじゃないのか!?


「じゃっ、じゃあ。百瀬川さん、両親のお土産見るの手伝って貰えるかな? 七斗はお兄ちゃん達のお願い」


必死に取り繕うように私が言うと、二人は再び互いに鋭い眼差しを放ちながらも。


「うん」

「分かった」


と、了承してくれた。

そうは言っても……両親の分も、兄達の分も。正直、お菓子とかで十分なんだよな~。そんな事を考えながら、陳列棚を見回していると。百瀬川さんの視線が、一つの場所を注視しているのが目に入った。


「何見てるの?」


何気なく私が声を掛けると、百瀬川さんは少し恥ずかし気に。


「こっ、これ……」


と、指し示した。

それは数珠型のブレスレットで、水中を思わせる透明なビーズと、白と赤のビーズが連なり。金色に輝く金魚のチャームが一つ、泳ぐように揺れている。


「あっ、あの……千子ちゃん!」


声を張り上げる百瀬川さんに、驚きながら「はっ、はい!」と返事をしてしまう私。


「良かったら……これ、お揃いで……その……一緒に、買わない?」


振り絞ったように告げられた言葉に、私は言い終わるまでしっかりと耳を傾けた。

アクアリウム展に誘ってくれた時もそうだったけど、こういう時の百瀬川さんには。小学校の頃を彷彿とさせる、可憐さとか弱さがまだ残っている。


「うん……記念に、お揃いで買おっか」


私がそう返すと、百瀬川さんは安心したように。そして、凄く嬉しそうに柔らかな笑みを咲かせた。

その笑顔を見て、私の胸にも幸せな気持ちが満ち始め。


(ホント、私……百瀬川さんに弱いな……)


と、少し自分に呆れてしまう。

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