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第三章Ⅰ

文化祭が終わり、数日が経った頃。

私の学校生活は、以前のものへと戻り。文化祭の準備の為に少なくなっていた部活の時間も、元の通りになってた。

校庭のグランドにて、私の所属する女子ソフトボール部は練習に勤しむ中。季節は大分冬へと近づき、寒さが強くなってきたことなど気にする暇もない程に体力と技術向上に励む。


ふと、校舎へと私は視線を動かす。

とある教室へ意識を向けると、百瀬川さんの姿を視界に捉えた。

そこは彼女が所属する美術部の部室である美術室で、窓から覗く姿は。真剣な面持ちで、イーゼルに立て掛けたキャンバスへと向けられている。

その表情は、私に告白染みた言葉を告げた時と同じものであった。


――私は、百瀬川さんのことをどう思っている? 彼女と、どうなりたい……?


そう、自身に毎日問い掛ける。

けれども、一向に答えが出る様子は無かった。

文化祭で、私達の距離は一気に縮まり。そして、翌日からはまた。元の関係へと戻っていた。

百瀬川さんから私に声を掛けてくれることもなく、私自身。どういう顔で話せば良いのか分からなくて、どこかやんわりと彼女のことを避けていたのだ。

……もしかしたら、そんな私の態度を察して。百瀬川さんは、私に声を掛けられないのかもしれない。


「千子~! 何、余所見してんの~?」

「あっ、ごめん!!」


キャッチボールをしていた部活仲間に声を掛けられ、私は慌ててボールを彼女へと投げるのであった。


  * * *


「――千子ちゃん、ちょっと良い?」


それは、突然の出来事だった。

ずっと、お互いに視線を合わせることすらも躊躇っていた百瀬川さんに。そう呼び止められたのだ。


「どっ、どうしたの?」


戸惑う気持ちを抑えつつ、私は彼女にそう返す。


「あっ、あのね! ……その、明日って、暇!?」


普段、冷静沈着で寡黙な彼女の言動とは思えない。少し震え交じりの声で、百瀬川さんは私に尋ねる。

その姿に胸を高鳴らせつつ、私は明日の予定を頭の中だけで確認した。

本日は十二月の二十三日。今、私は終業式が終わり。部活へと向かう為、下駄箱へとやって来た。明日と明後日は、家族サービス優先の顧問と彼氏持ちの先輩方の意向で休み……明後日は、家族と七斗とクリパをする予定だが。明日の予定は特に無し……。


「暇だね……」


残念な事に。花の女子高生という肩書を持ちながらも、一緒にロマンティックな聖夜を過ごす素敵な男子との予定などは全く無かった。


「! じゃっ、じゃあ――」


私の回答に、百瀬川さんは嬉しそうに顔を綻ばせ。自身のスマホを取り出した。


「これ! 一緒に行かない!?」


それから、私にある画面を見せる。


「アクアリウム展?」

「うん!」


嬉しそうに頷く百瀬川さんに、心臓を跳ねさせながら。


「って、何?」


と、純粋な疑問を訊ねてしまう。


「あっ、あのね! 最近流行ってる水槽の展示会で、金魚とかの生き物が入っている水槽が可愛い形だったり、綺麗なイルミネーションで照らされてたりしてるの。で、今。期間限定で近くで開催してて……」


百瀬川さんは上目遣いで――私の方が背が高いから、必然的にそうなるだけ。そうなるだけっっっ!!――私に。


「一緒に……行かない?」


と、反則的な魅力を放ちながら言うのであった。

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