第八章
少し広い場所に移動し、[輪]を描くように丸くなった俺達。
未だに意識がハッキリしていない楓は、哲人と雷愛の肩を借りて、辛うじて立っているような状態。
しかし、いつ倒れてもおかしくない為、そのまま二人が隣に立つことになった。
そして問題だったアスラの隣には、本人たっての希望により馬風楽君が並んだ。
そしてその反対側には俺が並ぶ。
結果、俺から時計回りに[アスラ、馬風楽君、雷愛、楓、哲人、足立さん、フタツさん、ノノン]というフォーメーションの円陣を組む事となった。
「じゃあ始めよう。」
俺の言葉を合図に、両手を広げる一同。
それぞれが両隣から差し出される二つの手を、確かめるように握り合う。
全員の手が繋がれた時、忌まわしくも願っていた、あの音が再びこの世界に響き渡る。
キーンコーンカーンコーン
ザーザーザー……
『[心身連繫の具現化]。即ち[サークル]……領域上での形成を確認。』
『おめでとうございます‼︎コングラッチュレイショーンズ‼︎』
パチパチパチパチパチパチパチパチ
「「「「うおおおおおおおおおおおおおお‼︎!!」」」」
喜びのあまり、足立さん、哲人、馬風楽君と共に雄叫びをあげてしまう俺。
フタツさんとノノンも声を上げて喜んでいた。
雷愛は抜け殻と化している楓に、潤んだ目で状況を伝えており、アスラは不服そうに腕を組んで大人しくしていた。
『いやー、本当に素晴らしい‼︎なんと只今の[ワ]を持ちまして……皆様は見事!三つ全ての[ワ]を作り上げることに成功した事となりましたハイもう一回拍手‼︎』
パチパチパチパチパチパチパチパチ
興奮した様子で、オーバーハイテンショントークを続けるアナウンスにイラつく俺達。
そんな全員の気持ちを代弁するかのように、例の如く叫びかかるのは「ヤンキーズ」。
「うるせぇよ‼︎腹立つからごちゃごちゃ抜かすな‼︎」
「約束だろ‼︎とっととアーシ達を元の世界に返しやがれ‼︎」
怒れる二人に、アナウンスは答える。
『元論お約束は守ります!ちゃーんと[このまま]お返し致ますよぉぉぉおおお‼︎』
アナウンスの言葉で、元の世界に帰れる確信を得た俺達は、再び声を上げて喜んだ。
「よっしゃぁぁぁあああ‼︎」
「やったねカイセイ!」
「いぇーい!ヘイ馬風楽君!グータッチ!」
「えっ!あ、はい!」
各々が喜びを分かち合う。
そんな束の間の幸せを一瞬にして切り裂いたのは、この後アナウンスが放った、衝撃の一言だった。
『まぁ、全員では無いんですけどね♪』
………………は?
聞き間違いだと思った。
今まで通り変わらないハイテンションのまま、明るい声色で発せられたその言葉に、一同耳を疑わざるをえなかった。
「おい……今、なんて言った?」
声がする空の方にゆっくりと視線を上げながら、恐る恐る聞き返す哲人。
するとアナウンスは、何事もなかったかのように、いつものテンションで言葉を返してきた。
『はい![ここにいる皆様全員を、このままお帰しいたします——という訳にはいきません!]と申し上げました‼︎』
一瞬にして、喜びを忘れ凍りつく一同。
しかし、そんな俺達のことなど構うものかと、話を続けるアナウンス。
『この世界を望んで来ていただく事も、お知り合いの方をお連れでも、時間を巻き戻す行為も、空間転移のスキル使用も、森を焼け野原に変える事も……大抵の事は、この世界では問題ございません!』
アナウンスはここまで話して一転。
急に低いテンションと、シリアスな声で話しを始めた。
『しかし、いくら此処が異世界だからと言って、[何をしてもいい][やりたい放題]と言うわけにはいきません。この世界の秩序を守るのも、我々の使命なのです……[ルールを破った方]には[相応のペナルティ]を受けていただきます。』
「ペナルティ……だと……」
震える声がする方へ視線を送ると、青い顔でアナウンスの声がする空を見上げるアスラの姿があった。
とても演技とは思えないそのアスラの表情からは、この件については何も知らないという事が伺えた。
俺はアナウンスに尋ねる。
「[ルール]なんて聞いた覚えはないぞ。それに、俺達の何がルール違反だったって言うんだ?」
『それでは[違反内容]と合わせて、[ペナルティ対象者]を申し上げます——
[違反内容]——本世界滞在中に、過去に訪れた本世界についての内容を、他の滞在者に口外する行為。——』
「それって……まさか⁉︎——」
そう言って俺が振り向くと、俺の視線は、既に振り返っていた彼等の視線と同じ場所へたどり着く。
『皆様お察しのようですね……では申し上げます。
[ペナルティ対象者]——神明明日良様。』
予想外の展開に絶望し、立ち尽くすアスラ。
「アスラ君……」
皆の視線を集める彼の名前を口にした馬風楽君もまた、絶望の表情を浮かべていた。
しかし、絶望はこれで終わらない。
『続けさせていただきます。
[違反内容]——死者の蘇生行為。』
「……………………え?」
『[ペナルティ対象者]——飯塚界世様。』
…………………………………………
『以上の二名には、本世界のルール違反ペナルティとして——
[元の世界のものを含む、全記憶消去]が科されます。』
時間が止まったかのように、世界に沈黙が流れた。