エピローグ
『ライン!』
俺のスマホは、最近よく鳴るようになった。
それは引きこもり厨二病JCの、暇連絡に付き合わされているからだろうか?
はたまた合法ショタの、奇抜なアーティストへの片想い恋愛相談を受けているからだろうか?
それとも連絡好きの超絶美人、俺にはもったいない程の彼女が出来てしまったからだろうか?
合わさって、しつこく近況報告を求めて来る、彼女の幼馴染共のせいだろうか?
答えはそう……今挙げた全部だ。
特記する後日談。
一つ目はあの後の楓の事である。
後で雷愛から聞いた話によると、元の世界に戻ってすぐ病院に運ばれ、数日後には目を覚まし、雷愛とはすぐに和解したらしい。
後日俺を含め、みんなにも謝罪の連絡を入れた楓は、『次に会う時、今度は自分に土下座させて欲しい。』と言ってきた。
勿論断ったが、本当にやりそうでちょっと怖い。
そして二つ目はアスラの件である。
ダメ元で[神明明日良]の名前を検索してみたところ、驚くべき事が判明した。
なんとアスラの実家は、とても伝統のあるお寺で、彼はその跡取りになる予定だったというのだ。
更に、お寺のホームページにあったアスラの写真は坊主だったので、恐らくあのアフロはズラだったという事も判明した。
きっとあの時アスラが言った、『[神]も[仏]も信じちゃいない』という言葉は、家の事と何か関係があったのだろう。
更にネットで情報を集めたところ、あの出来事から数週間後に発売された週刊誌に、『東京都内、某有名寺院の跡取り、サングラス姿で倒れているところを民間人に発見され病院へ搬送される。』と言う小さな記事が出ていた事を知った。
そう。
アスラはあの後、ちゃんとこちらの世界に帰ってきていたのだ。
きっと[何事もなく]と言うわけではないのだろうが、最後には俺達を庇って犠牲になってくれたアスラが、ちゃんと元の世界に帰って来ていてくれたという事実だけで、俺は嬉しさのあまり涙が止まらなかった。
そして俺はすぐに、この事をみんなに伝えた。
そして話し合いの結果、『そのお寺に行ってみよう。』と言うことになり、今日はこれから、皆で久しぶりの再会をする事になっているのだ。
あの日から、ノノンとは頻繁に、哲人と足立さんとも割とよく会っている。
しかし両親のブランドを立て直すことにした馬風楽君や、各地を転々としているフタツさん。少し離れたところに住んでいる楓と雷愛とは、あれから一度も会えていなかった。
だから久々の全員集合を前に、俺の心は躍っており、楽しみで頭がいっぱいだったのだ。
そんな浮かれている俺が今何をしているかというと、学校の教室で、一時間後に始まる卒業式の入場待ちをしているのだ。
三つ目の後日談として俺の事を話そう。
あの出来事の後、悔しさのあまり[俺をDQN呼ばわりした奴]を探し始め、遂に先日犯人を突き止めた。
休み時間に寝ていた俺の寝言を聞いてそう勘違いし、その事を話のネタにしていたらしい。
一体俺は、どんな寝言を言っていたと言うのだろう?
でもまぁそんな話は後述するとして……もう一つ。
卒業後の進路だが、俺はもらっていた[株式会社フェニックス・ドリーム]の内定を蹴って、大学に進学する事を決意した。
恥ずかしながら[やりたい事]なんて無かったので、『もう少しちゃんと考える為の時間稼ぎ。』というのが正直な理由だ。
我ながらなんとも放漫で、とても褒められるような理由ではないのだが、このまま明らかなブラック企業に行くよりも、『もう少し自分を大切にしてあげよう。』と思えるようになっただけ、俺にしては一歩前進なのだ。
まぁ現実問題、残念ながらこんな時期から目指して行ける大学も無いので、一浪は確定している。
だからこの一年は、バイトでもしながら学費を貯めつつ、例の[やりたい事]を探す時間にも当てたいと考えている。
キーンコーンカーンコーン
ザーザーザー……
『えー。卒業生の皆さん。もう少ししたら下級生がお花を付けに来ます。自分の教室に戻って——』
未だにこのチャイムの音にはビクッとしてしまう自分がいる。
だがこれも、[記憶が消されなかったから]こその感覚なのだと思うと、毎度毎度、少し複雑な気分になるのだ。
先程のアナウンスを聞いてか、ゾロゾロと生徒が教室に戻ってくる。
その中には、実はこの世界に戻ってからずっと話しかけるタイミングを伺っていた[彼]もいた。
俺は席を立ち、[彼]の元まで歩いて行き声をかける。
「ちょっといいかな?」
「ん?えっと……飯塚君だよね?どうしたの?」
急に話しかけられた[彼]は、一瞬動揺したものの、直ぐに持ち前の整った顔で俺に微笑んで見せた。
「君が物知りだって聞いたからさ!実は知りたい事があって……聞いてもいいかな?」
「もちろんだよ!僕で答えられることなら!」
そう言って、今までほとんど接点の無かった俺の話を、快く受け入れてくれた[彼]に……
俺は[アレ]を投下する。
「[時効と異世界の関係性]についてと、[ご来世]って言葉が存在するのか……あと[勇者面]ってどんな顔かについてかと——」
「ちょ!ちょっと待って飯塚くん!……何の話をしてるのか僕、全然理解出来ないんだけど……?」
「……まぁでも、君に一番聞きたいのは……」
俺はニヤッと笑い、顎を上げ、眉を漢字の[八]みたいにしてこう言った。
「[DQNの定義]についてかな…………[俺の寝言]どんなんだった?」
『犯人はお前だ!』って気分だった。
「あー……えーっと……す、すいませんでした‼︎」
ダラダラと冷や汗をかきながら俺に頭を下げる[白鳥君]の姿を見て、『将来は探偵にでもなろうかな?』なんて浅はかに考える俺。
[将来の事]繋がりで、この後すぐの未来に起こる[みんなとの再会]のことを思い出し、楽しみさで再び頭がいっぱいになる。
一瞬白鳥君に視線を戻した俺だったが、やっぱり[未来]が待ち切れなくなり、教室を飛び出す。
廊下に出てすぐ担任教師とすれ違い、後ろから大声で呼び止められたが無視した。
昇降口の階段を全部飛ばしで飛び降り、校舎から脱出した俺を、あの時に似た太陽が照らしてくれた。
俺はグループラインにメッセージを送信する。
[卒業式バックレる! もう時間は巻き戻せないけど、早送りなら出来る!笑]
『ライン!』
すぐに返信が来た。
[我と楓は既に、セントラル・ドラゴンで向かっておるぞ!]
[やるじゃんイカセw 俺も抜けるわw……んでセントラルドラゴンって何?]
[アーシはもう駐輪場にいる ドラゴンはアーシも気になった]
[いないと思ったら駐輪場なのね!すぐ行くからそこにいて! あと私には伝わったわよ!堕天使の末裔……]
[ウチと馬風楽君、お寺の近くでお茶してるから合流して~ アイツをドラゴンにに例えるとは……なかなかやるじゃないか雷愛氏!]
[ゆっくりでいいですから、気をつけて来て下さいね。 因みに自分は、マット・ハンド・ドラゴンに乗って来ました。笑]
そしてそんな会話に、最後に入って来たのは楓だった。
[カイセイ 君ももう立派なDQNだね]
「ブッ!」
スマホ片手に一人で吹き出した俺は、上がった口角をそのまま、スマホをポケットにしまった。
そして、[愛しきDQN達]と再び会う為、俺はまたフルパワーで地面を蹴りつけるのだった。