プロローグ
暴力は嫌いだ。痛いから。
『暴力は何も産まない』なんて言うが、それはたぶん嘘だ。
なぜなら、[負の要素生産工場]と言わんばかりに[良くないもの]を産み出す様を、俺はこの目で何度も見てきたから。
先に述べた通り、『痛い』という個人の感情はもちろんのこと、人と人との関係性にまで[良くないもの]を産む。
それが[暴力]だ。
特に[学校]なんていう小さな社会の中では、[暴力]は非常に権力を持ちやすく、カーストの上位に立ちやすい理由の一つでもある。
だけど『アイツは荒っぽいから……』なんて『暴力的な奴に気を遣って生きなければならない。』なんてことは絶対におかしいと思うし、あってはならない事だと俺は思う。
しかしそれでも、『痛いことも戦うことも嫌いな人々は、そういう奴等に気を遣ってしまう。』というのが今日の現実なのである。
そしてそれがまた暴力を舞い上がらせ、[平和]とはいえない、こんな現状を引き起こしているに違いない。
そして何より……俺は喧嘩が弱い。
中学時代には[同級生と殴り合いの喧嘩]なんて青春の一ページみたいなこともあったが、言葉ほど美しい思い出ではない。
お互い力の加減がわからない、筋肉を持て余した男子中学生。なのにどうしてか、俺の放った渾身の拳は、相手の左手首に微かなダメージを与えるに留まり、相手の膝は俺の鳩尾を正確に捉えていた。
不思議と鳩尾の痛みよりも、急に下手になった呼吸のせいで、悲しくもないのに止まらない涙が濡らした[廊下の床のボヤけた景色]が、今も深く脳裏に刻まれている。
何度だって言おう。俺は喧嘩も暴力も嫌いだ。
もっといえば、スポーツも勉強も嫌いだ。
人間に上下をつける全てが憎い。
これは皮肉な俺の性格故なのかもしれないが、誰にだって少しは共感してもらえることだと思う。
ゲームだってスポーツの試合だって、勝てなきゃ面白くないものだ。
たとえ勝ったとしても、『相手は今、こんな悲しい気持ちになっているのかなぁ……』なんて考えたら、心の底から喜べたもんじゃない。
[誰かを蹴落とさなきゃ喜べない人間]になんて俺はなりたくなかったし、そう言う人間を好きにはなれなかった。
だから誰に[皮肉な奴]と言われようとも、こんな性格の自分を、俺は割と嫌いじゃなかったのだ。
そこそこ相手の事も思いやれてると思うし、中学の喧嘩以来、暴力も振るっていない。友達とは仲良くやっているし、彼女がいた事だってある。
誰に迷惑をかけて生きているわけでもない。
それに俺は、[将来やりたい事]なんて大層なものは持ち合わせていなかったから、残り少ない高校生活を終えたら、社会に出て働くつもりなのだ。
税金も納めるし、親にも迷惑はかけない。最低限の生活で、貯金を増やす日々。
いつか同僚の紹介とかで知り合った女性と結婚して、家を買って、子供が出来て……
そんな人並みに幸せな日々を送るはずだったんだ。
そうだ。そのはずだったのに——
俺は今、見知らぬ森にいる。
草木の生い茂る[緑]に囲まれながら、それとはどうやっても似合わない、[金][銀][赤][青][ピンク]そして[緑]——
色とりどりに染められた……
[派手な髪色の奴等]に囲まれて——