邂逅編 1-8
「そういえば、遅かったけどなんかあったん?」
見つかったとはいえ、俺は自分が間違っていたのかもしれないという不安がまだある。すぐに事の顛末を聞きたかった。
「えっと、まず2Fの職員室まで下りて私のスマホが届けられていないか探したけどなくて、1Fの食堂まで行って、食堂のおばちゃんに聞いたら、今ちょうど預かっているから待ってて言われて。持ってきてくれた。」
彼女のうれしそうな様子を見て。俺の説が合っていてよかったと胸を撫で下ろした。あーまじで間違ってなくてよかった。今の一瞬でどっと疲れた・・・恥ずかしくて絶対言えないけど。
こうして、堀内理紗とのスマホ捜索劇は無事終わりを迎えた。
見つかったのだから、もうお役御免だろう。安心したのもつかの間、俺は机の上の荷物を片付け、帰宅する用意をした。
「見つかってよかったな。じゃあ俺は帰るわ。」
おそらく、今の俺はとてもすがすがしい表情を浮かべているだろう。ああ、今日は枕を高くして眠れそうだ。
俺はビスケットの空き箱をごみ箱に捨て終え、自分のカバンを手に取った。
「榎本くん、ちょっと待って。」
堀内が俺を呼び止める。俺は反射的に振り返る。
「えっと・・ほら、こうやって、手伝ってもらったし・・」
彼女の声が小さくなってなっていく。おそらくまだ要件があるのだろう。あるなら、内容をサクッと言ってくれ・・・。もったいぶられると逆に怖えよ・・・。
そう身震いしていると、意を決したのか堀内は少し深呼吸して口を開いた。
「もし、嫌じゃなかったら・・その、今日一緒に帰らない・・? ほら、私もお礼がしたいし・・。」
刹那、俺の思考は止まった。
え?あなた今なんて言った?俺の利き間違いじゃなければ、一緒に帰ろうって言ってなかったか?
想定外のことに人間というものは弱いものだ。俺は驚きのあまり、ただ茫然と立ち尽くすことしかできなかった。
一方堀内の方はというと、腕を後ろで組み、少しうつ向いている。教室に差し込む夕日のせいだろうか、彼女の顔が赤く染まっているように見える。
しばらくの間、静寂な時間が流れた。なんというか、気まずい。
この気まずさに耐えかねたのか
「どう・・かな?」
堀内は改めて聞いてきた。
俺はというと、頭の中のパニック状態から少し落ち着きをとりもどしてきていた。
お礼をしてくれるとのことだ、せっかくの人の懇意を無碍にする必要もわざわざないだろう。よし。ここは問題ないことをスマートに伝えよう。
「え、あー・・うん。いけるじょぶっ。」
おもいっきり噛んだ。
まるでこの世の終わりのような同意のである。どうやら、俺は自分の想像以上にコミュニケーション能力が残念な奴なようだ。おい!誰かスコップを持ってこい!あとでこの榎本ってやつのことを土に埋めてやるから。
などと現実逃避していると、
「うん! じゃあ、私も帰る用意するから、ちょっと待ってて!」
明るくそう言うと、彼女はいそいそと、外に出していた自分の荷物をカバンの中に詰め込み始めた。




